シフト勤務 2交代制の問題

シフト勤務

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/20 22:35 UTC 版)

2交代制の問題

人員の不足または人件費(割増賃金)を少しでも抑えようとする(増員できない)あまり、2交代制(拘束時間が12時間以上の勤務)のみになり、3交代を取り入れない場合もままある。24時間態勢で稼働する工場警備業ビルメンテナンス業などにて交代勤務を取り入れて勤務する場合、現場によっては3交代ではなく2交代のシフトしか取り入れず、実働時間と休憩時間を合わせた拘束時間が12時間になる場合もあるため、極めて不規則な生活となり、体調を崩しやすくなる。

例1:「9:00~21:00」「21:00~9:00」のように、実働時間と休憩時間を合わせた拘束時間が12時間もある(実働時間は10時間〜10時間30分程度)。
「自宅から勤務先までの通勤時間」および「終業〜帰宅するまでの所要時間」も加算すれば、実質の拘束時間はもっと長くなり、「終業〜次の勤務までの空き時間」が12時間を下回るため、帰宅後すぐ睡眠を取らないと次の勤務に耐えられなくなる。
例2:18:00~翌朝09:00。通勤時間も含めると、自宅にいる時間が数時間。残業等が発生するとさらにその時間は短くなる。

産業による特徴

24時間切れ目なく業務が続く業種

民間企業による場合

製鉄所高炉、石油化学コンビナートや製紙メーカーの大型梳紙機など、停止や再稼動に非常に手間と時間がかかる大型機械を使う製造業では正月も問わず24時間の連続運転を行っている。これらの業種では一般に1日を8時間ごとに分けた『三交代勤務』[注 3] を採用している。また、自動制御の信頼性の向上やフェイルセーフ対策により労働密度を下げて『2交代勤務』や『宿直勤務』に変更し省人化を行う動きもある。
24時間営業を行う外食産業コンビニエンスストアなどでは、勤務時間は個人の状況に応じて細かく設定している。また、コンビニで販売する弁当や惣菜を製造する食品工場や外食産業のセントラルキッチンでも、連動して24時間操業が行われるため、交代勤務を行っている。
ホテルでは宿泊者に対するサービスや安全の確保を行うため、深夜でも多くの職種で切れ目なく勤務が必要になる。ビジネスホテルによっては、受付など一部の業務を深夜時間帯から朝まで閉鎖する(いわゆる門限)ところもある。
救急指定病院や入院患者のいる病院では、看護部門は日勤・準夜勤・深夜勤の3交代制、医師薬剤部・検査部門は宿直勤務が多い。

公務員による場合

警察官消防吏員消防士)・自衛官(特にレーダーサイトの監視や警衛勤務、スクランブルの待機要員)・刑務官看守)のような公安職も、不測の事件・事故・災害にも迅速に対応しなければならないため、24時間切れ目のないよう待機ないし監視する任務に当たっている。
また、航空交通管制部や一部の空港においても24時間切れ目なく航空交通管制業務が行われている。

船舶

遠洋航海するクルーズ客船商船軍艦などは出港から寄港まで限られた乗員による24時間勤務となるため、様々な勤務体系が考案されてきた。遠洋航海では寄港地で船員が交替することで負担を減らすという手法もある。
軍艦では乗員を半分に分けて担当を決めた「半舷」という交代勤務を取り、寄港地での休暇も「半舷上陸」が主体である。
商船では、出入港時は総員配置、その他の場合は大型商船の場合は、0 - 4時・4 - 8時・8 - 12時・12 - 16時・16時 - 20時・20時 - 0時の4時間勤務2回当直を行う(例:0 - 4時直の後は、12 - 16時直)。
海底石油を掘削する海洋リグでは、途中で作業を止められないため次の交替まで同じメンバーで作業することから、乗員を4組に分けて常時2組が乗船して12時間交替で作業、残りの2組は下船して休養する「4方2交替制」が標準的である[21]
潜水艦は3交替制が基本である[22]。必ず当直が起きていることから、小型艦ではベッドが乗員より少ないことがある。

早朝から深夜まで業務が継続する業種

鉄道バスタクシーなどの交通機関のように、早朝から深夜まで継続して動き続けている業種では、早出・遅出など勤務時間を細かく設定して切れ目のないサービスを提供する。またバス・タクシーなどで運行の管理に携わる者は、安全対策や入庫・出庫処理のため、24時間切れ目のない宿直勤務となっていることが多い。

また、郵便宅配便などの通信・物流機関も同様で、郵便収集は早朝に始まり、配達は夜間にまで及ぶ。特に中継機関は深夜も絶え間なく、郵便物あるいは小荷物が区分けされて、それぞれ配送されている。一般に中継輸送は道路混雑を回避出来る深夜~早朝に行われることが多い。

待機を伴う業務

消防署警察署交番)、警備業の施設警備部門(警備請負先施設の防災センター)や機械警備部門では、いつ発生するかもしれない火事・事故・事件に備えて、当番者が深夜も含めた24時間待機(および執務)の体制をとっている。

自動制御やフェイルセーフ対策が充実した無人運転が可能な工場でも、深夜稼動時間帯に、万一の事故があった時の連絡要員の確保的な意味合いで、宿直者を待機させる場合が多い。

年中無休で継続する業務

ゲームセンターパチンコ店ショッピングモールなどの娯楽やサービス業全般では、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)や各地の条例により、24時間営業が禁止されている場合もある。一方で、「年中無休」の営業までは禁止していないため、祝日年末年始も休まず、毎日決まった時間に営業する店舗もある(例 : 10時〜19時のコアタイムは毎日開店しているなど)。

業務時間が断続的な場合

たとえば、毎日読む新聞には朝刊と夕刊があるが、これは12時間ごとに執筆・編集され、印刷・配送される。印刷業務では、朝刊は21時から3時、夕刊では10時から15時の間に仕事が集中している。これは一人の人間が毎日できる仕事ではないため種々の交代勤務体制が取られている。もっとも、本社や支局など取材部門では、事件取材に対応する必要がない限り、深夜から早朝までは宿直員は仮眠をとる場合が多い。

大規模な設備投資を要する製造業

製造業では、商品の大量生産で投資を早期に回収する目的から、交代勤務により工場、設備を長時間稼働させることが多い。例えば自動車の組み立てラインでは、早番6:00〜15:00、遅番15:00〜24:00のような連続2交代勤務が一般的である。連続2交代制の利点として、深夜勤務手当を節約できること、需要の変動を残業で吸収できることがあげられる。あくまでも経済性を目的とした交代勤務であるため、生産量に応じた勤務体制の変更がしばしば行われる。

水道・ガス・電力会社

  • 指令部門 : 4直2交代制、5直3交代制などが行われている。
  • 補修部門 : 宿直体制が多い。

コンピュータの運用業務

コンピュータメインフレームISPWebサーバなど)による大規模なシステム運用業務では、業務時間外のバッチ処理やシステムの監視・保守・トラブル対応などで、交代勤務を行うことがある。

放送局

NHK放送センター東京都渋谷区)では、毎日6人の放送局アナウンサー(局アナ)が、民放では、毎日1人ないし2人の局アナが男女関係なくそれぞれ交替で局に泊まり込み、夜間において重大な事件・事故・災害などの発生時に、報道特別番組をいち早く放送できるようにしている。NHKは「映像散歩」が放送されている時間帯に、報道特別番組の演習を毎晩行っている。これは、緊急事態発生時に全局員が対応できるようにするためである。

また、昨今ではほとんどの民間放送局は24時間放送[注 4]を実施しているため、宿直はアナウンサーのみならず制作技術・工事報道各部門の一般社員も深夜の番組送出や放送機器の保守点検・工事や緊急事態に備えるため、毎日数人が交替で局に泊まり込んでいる。さらに万一停電に陥っても放送が出し続けられるよう、ほとんどの局が自家発電装置や非常用バッテリー・送信機(送信所と本社演奏所との回線断絶対策)を備えている。特に、ラジオ災害の発生時における情報源として最も重要な役割を果たすので、万一停電に陥っても確実に放送ができるようにされている。

なお、地方局の場合は、少人数のため宿直勤務制度を実施せず、代わりに早番・遅番交替制で対応している局が多い。

局アナが行う宿直の仕事は通常「夜間から翌朝にかけて放送されるラジオテレビの定時ニュースを伝えること」である。宿直制度を実施している局にはたいてい仮眠室があり、局アナの場合は「夜間の最終定時ニュース終了から翌朝一番の定時ニュース開始まで」の数時間、仮眠をとることができる。

ただし、この間に大事件・大事故・大災害がひとたび発生すれば宿直のスタッフは徹夜で慌ただしく対応することになる。さらに、それらの規模によっては日勤や非番・休暇中のスタッフにも非常招集がかかる場合が多い。

小売業

百貨店は一般に午前10時~午後7時頃までの営業、スーパーマーケットショッピングモールは午前10時~午後9時頃、店舗により午前0時頃まで営業している社もあることから早番・遅番・通し、3種類の勤務体制となる。コンビニエンスストアやファミリーレストランをはじめとする24時間営業の店舗は夜勤・深夜勤の勤務体制がある。さらにアルバイトパートタイマーなど非正規雇用による従業員が多い店舗では一人あたりの就労時間が短くなることが多いため、早番・遅番の勤務が午前勤・午後勤・夕勤とさらに細かく設定されていることも多い。

脚注


注釈

  1. ^ 改正前に「女子の健康及び福祉に有害でない業務」として女性の深夜業務が認められていた例として、航空機の客室乗務員(昭和27年9月20日基発675号)、女子寄宿舎の女子管理人(昭和27年9月20日基発675号)、映画の撮影の業務(昭和61年3月20日基発151号)、放送番組の制作の業務(昭和61年3月20日基発151号)等。
  2. ^ 昭和63年3月14日基発第150号・婦発第47号でこの用語を使用。
  3. ^ 一般に「三交代」といえば、24時間勤務で当直 - 明け - 休みを繰り返す体系。
  4. ^ 青森新潟山梨徳島高知佐賀鹿児島の各県では全民放テレビ局で(送信所大規模修繕工事による休止を除いて)通年実施。一方で福島長野富山長崎宮崎の各県では2022年9月現在全民放テレビ局未実施。

出典

  1. ^ a b Ker, Katharine; Edwards, Philip James; Felix, Lambert M.; Blackhall, Karen; Roberts, Ian (2010). “Caffeine for the prevention of injuries and errors in shift workers”. The Cochrane Database of Systematic Reviews (5): CD008508. doi:10.1002/14651858.CD008508. ISSN 1469-493X. PMC 4160007. PMID 20464765. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4160007/. 
  2. ^ Yong, Gan (2014). “Shift work and diabetes mellitus: a meta-analysis of observational studies”. Occupational and Environmental Medicine 72 (Online First): 72–78. doi:10.1136/oemed-2014-102150. http://oem.bmj.com/content/early/2014/06/12/oemed-2014-102150.abstract 2014年8月11日閲覧。. 
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  4. ^ a b Megdal, S. P.; Kroenke, C. H.; Laden, F.; Pukkala, E.; Schernhammer, E. S. (2005). “Night work and breast cancer risk: A systematic review and meta-analysis”. European Journal of Cancer 41 (13): 2023–2032. doi:10.1016/j.ejca.2005.05.010. PMID 16084719. 
  5. ^ Shift Work - IARC Monographs、2010年、国際がん研究機関(IARC)、2016年7月18日閲覧
  6. ^ IARC Press release No. 180 Archived 2008-04-11 at the Wayback Machine.
  7. ^ WNPR, Connecticut Public Radio. “The health of night shift workers”. Connecticut Public Radio, WNPR. 2007年11月30日閲覧。
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  9. ^ Beck, E.; Sieber, W. J.; Trejo, R. (2005). “Management of cluster headache”. American Family Physician 71 (4): 717–724. PMID 15742909. 
  10. ^ Vyas MV; Garg AX; Iansavichus AV; Costella J; Donner A; Laugsand LE; Janszky I; Mrkobrada M et al. (July 2012). “Shift work and vascular events: systematic review and meta-analysis”. British Medical Journal (Clinical Research Edition) 345: e4800. doi:10.1136/bmj.e4800. PMC 3406223. PMID 22835925. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3406223/. 
  11. ^ Fido A; Ghali A (2008). “Detrimental effects of variable work shifts on quality of sleep, general health and work performance”. Med Princ Pract 17 (6): 453–7. doi:10.1159/000151566. http://www.websciences.org/cftemplate/NAPS/archives/indiv.cfm?ID=20083138. 
  12. ^ Erren, Thomas C.; Herbst, Christine; Koch, Melissa S; Fritschi, Lin; Foster, Russell G; Driscoll, Tim R; Costa, Giovanni; Sallinen, Mikael et al. (2013). “Person-directed non-pharmacological interventions for preventing and treating sleepiness and sleep disturbances caused by shift work”. The Cochrane Library. doi:10.1002/14651858.CD010641. 
  13. ^ Navara KJ, Nelson RJ (2007) The dark side of light at night: physiological, epidemiological, and ecological consequences. J. Pineal Res. 2007; 43:215–224
  14. ^ シフト制勤務、脳機能の低下と関連か AFPBB News 2014-11-4
  15. ^ Adan A, Archer SN, Hidlago MP, Di Milia L, Natale V, Randler C (2012) Circadian typology: A comprehensive review.  Chronobiol Int, 29(9), 1153-1175.  doi:10.3109/07420528.2012.719971
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  18. ^ a b c Directive 2003/88/EC of the European Parliament and of the Council of 4 November 2003 concerning certain aspects of the organisation of working time.
  19. ^ www.acas.org.uk Four crew ‘continental’ continuous shift systems
  20. ^ www.acas.org.uk 12-hour continuous shift systems
  21. ^ よくあるご質問 | JDC 日本海洋掘削株式会社”. www.jdc.co.jp. 2023年2月26日閲覧。
  22. ^ (解説)自衛官の仕事(海自編)”. www.clearing.mod.go.jp. 2023年2月26日閲覧。


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