脂肪 脂肪の概要

脂肪

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/09/18 01:54 UTC 版)

脂質は、炭水化物たんぱく質と共に「三大栄養素」と総称され、多くの生物の栄養素である。この三大栄養素の比率をそれぞれの頭文字をとってPFCバランスという時、英語圏に倣って脂肪(Fat)を用いている。食品中の脂肪と言う時、脂質やその詳細である脂肪酸を指すであろう。常温液体の油脂はを指し、一方で脂肪と呼ぶとき固体のこともある。食品中の脂肪と言う時には、脂質を指し個体と液体の両方を含みうる。自らの体を指して脂肪と言う時、脂肪酸グリセリンエステルの中性脂肪であることが一般的である。

脂質は、単位重量あたりの熱量が9kcal/gと他の三大栄養素の2倍以上あり、生体は食物から摂取した脂肪をエネルギーの貯蔵法としても利用している。脂質のうち多価不飽和脂肪酸に分類されるω-6脂肪酸リノール酸ω-3脂肪酸αリノレン酸必須脂肪酸である。

食事調査は、牛や豚、牛乳など動物性食品に多い飽和脂肪酸の摂取が心疾患など病気との関連を見出しており、脂肪の細かい区別を周知させることは難しいと考えた栄養学者たちが、「脂肪は良くない」という単純なメッセージを作ったが、実際には一価不飽和脂肪酸多価不飽和脂肪酸の摂取量が多くてもそうしたリスクを下げる傾向がみられている[1]。こうした科学的検証の蓄積により2015年のアメリカの食生活指針は脂肪を30%に控えるという指針を撤廃した[2]

発見

20世紀初頭までに、タンパク質と炭水化物は必要な食品成分だと知られていたが、脂肪酸は炭水化物から合成できるので優れたエネルギー源ではあるが、必要不可欠ではないと考えられていた[3]。20世紀初頭の技術では食物から脂肪を完全に抽出できず、脂肪を除去してラットに与える実験では、実際には脂肪が残留していた[3]。1912年にトマス・バー・オズボーン英語版ラファイエット・メンデル英語版はそうした技術によってラットでの脂肪は不要だと確認し、1920年代までに必要不可欠ではないので必要最小限は非常に少なくすべきとの見解を示し、同時代の研究者は多くはこの見解に従った[3]。オズボーンは全米科学アカデミーのメンバーで食物タンパク質で国際的に著名なアメリカの生化学者であり、メンデルはアメリカ栄養研究所の初代所長など、両者は国際的にも権威的に他にも数々の地位を占めていたためである[3]

1929年には、ミネソタ大学のジョージ・オズワルド・バー(George Oswald Burr)が ω-6系の多価不飽和脂肪酸であるリノール酸のラットでの欠乏症を確認し、必須栄養素だと報告された[3]。この見解は栄養研究所の見解と対立したので疑義されたが、数年を経て追試が行われ受け入れられていった[3]。また1931年にジョージ・オズワルド・バーは、ω-3系のαリノレン酸がラットで合成されなかったことを報告し、これも必須脂肪酸だと結論した[3]。しかし、欠乏症実験にてリノール酸と競合する結果が確認されるため、長い間αリノレン酸でも確実だとみなされなかった[3]

1960年までにはカルフォルニア大学ロサンゼルス校のジム・ミードが、リノール酸がアラキドン酸に変換されることを確認した[3]。1964年にはカロリンスカ研究所で、アラキドン酸がプロスタグランジンに変換されたことが確認された[3]

1960年代のアメリカでの食事調査は、飽和脂肪酸の摂取が血中コレステロールの濃度を上昇させ、植物油と魚油が低下させることを明らかにし、その後の食事指導は総脂肪量を減らすのではなく、飽和脂肪酸の代わりに不飽和脂肪酸を摂取することが重要だとし、不飽和脂肪酸の摂取量が増加した結果1970-1980年代にはアメリカ人の虚血性心疾患の発生率を低下させた[1]

だが、脂肪の細かい区別を周知させることは難しいのではと考えた栄養学者たちは、脂肪がよくないという単純なメッセージを生み出した[1]。アメリカ農務省の意図とは、アメリカにて低脂肪食にすることで必然的に飽和脂肪酸の摂取量を減らすということであった[1]

1976年には、Cuthbertonが粉ミルクの必要成分としてリノール酸のみが必須だと主張したが、Crawfordは異議を唱え、1978年には世界保健機関(WHO)と国際連合食糧農業機関(FAO)が、脂肪に関する専門部会でαリノレン酸の必須性を確定した[4]。1982年に、ラルフ・ホルマンが、αリノレン酸の摂取が増加すると、血中のDHAが増加することを確認しヒトでαリノレン酸が必須だと裏付けた[3]

1994年の世界保健機関による、「人間栄養学における脂肪と油」(Fats and oils in human nutrition)では、トランス脂肪酸による飽和脂肪酸に似た影響が報告された[5]。2003年にはトランス脂肪酸を1%未満にすべきとした[6]

脂肪酸の比率よりも、飽和脂肪酸の摂取量の方が重要という科学的な検証によって、2015年のアメリカの食生活指針は、以前に示した脂肪を30%に控えるという指針を撤廃した[2]

生体での利用

脂肪のカロリーは9kcal/gであり、炭水化物タンパク質の4kcal/gよりも単位重量あたりの熱量が大きく、哺乳類をはじめとして動物の栄養の摂取や貯蔵方法として多く利用されている。

食物から摂取したり、体内で炭水化物から合成された脂肪は肝臓脂肪組織に貯蔵される。脂肪からエネルギーを得るときには、モノグリセリド(かつてはグリセリンとされていた)と脂肪酸に加水分解してから、脂肪酸をβ酸化代謝によりさらにアセチルCoAに分解する。

安静時や強度の低い運動時には脂肪の方がよりも多く使われている。血糖グリコーゲンは利用しやすいが貯蔵量は多くはないので安静時などではあまり多くは使われず、強度の高い運動時などに糖が優先的に使われるようになる[7]




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  1. ^ a b c d e f g h W. C. ウィレット、M. J. スタンファー 「ヘルシーな食事の新しい常識」『エイジング研究の最前線 心とからだの健康』 日経サイエンス編集部、日経サイエンス〈別冊日経サイエンス 147〉、2004年11月11日、116-125頁。ISBN 978-4-532-51147-0 Willett, Walter C.; Stampfer, Meir J. (2006). sp “Rebuilding the Food Pyramid”. Scientific American 16 (4): 12–21. doi:10.1038/scientificamerican1206-12sp. https://www.scientificamerican.com/article/rebuilding-the-food-pyramid/ sp. 
  2. ^ a b Dariush Mozaffarian, David S. Ludwig (2015年7月9日). “Why Is the Federal Government Afraid of Fat?”. The New York Times. https://www.nytimes.com/2015/07/09/opinion/why-is-the-federal-government-afraid-of-fat.html 2017年8月15日閲覧。 
  3. ^ a b c d e f g h i j k Knauf PA, Proverbio F, Hoffman JF (1974). “Chemical characterization and pronase susceptibility of the Na:K pump-associated phosphoprotein of human red blood cells”. J. Gen. Physiol. 63 (3): 305–23. doi:10.1194/jlr.R055095. PMC 2203555. PMID 4274059. http://www.jlr.org/content/56/1/11.full. 
  4. ^ Stark AH, Crawford MA, Reifen R (2008). “Update on alpha-linolenic acid”. Nutr. Rev. 66 (6): 326–32. doi:10.1111/j.1753-4887.2008.00040.x. PMID 18522621. 
  5. ^ World Health Organization, Food and Agriculture Organization of the United Nations, "Fats and oils in human nutrition", 1994.
  6. ^ a b Report of a Joint WHO/FAO Expert Consultation Diet, Nutrition and the Prevention of Chronic Diseases, 2003
  7. ^ 八田秀雄、新たな乳酸の見方 学術の動向 Vol.11 (2006) No.10 P.47-50, doi:10.5363/tits.11.10_47
  8. ^ World Health Organization, Food and Agriculture Organization of the United Nations, "Fats and oils in human nutrition", 1994.
  9. ^ 第6次改定日本人の栄養所要量について (厚生労働省)
  10. ^ a b Skerrett PJ, Willett WC (2010). “Essentials of healthy eating: a guide”. J Midwifery Womens Health 55 (6): 492–501. doi:10.1016/j.jmwh.2010.06.019. PMC 3471136. PMID 20974411. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3471136/. 
  11. ^ 注記がないものは次を参照:Feinberg School > Nutrition > Nutrition Fact Sheet: Lipids”. Northwestern University. 2011年7月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年8月22日閲覧。
  12. ^ a b c d e Anderson. “Fatty acid composition of fats and oils”. UCCS. 2017年4月8日閲覧。
  13. ^ NDL/FNIC Food Composition Database Home Page”. Nal.usda.gov. 2013年5月21日閲覧。
  14. ^ USDA → Basic Report: 04042, Oil, peanut, salad or cooking Retrieved on January 16, 2015
  15. ^ nutritiondata.com → Oil, vegetable safflower, oleic Retrieved on April 10, 2017
  16. ^ nutritiondata.com → Oil, vegetable safflower, linoleic Retrieved on April 10, 2017
  17. ^ nutritiondata.com → Oil, vegetable, sunflower Retrieved on September 27, 2010
  18. ^ USDA Basic Report Cream, fluid, heavy whipping
  19. ^ nutritiondata.com Egg, yolk, raw, fresh Retrieved on August 24, 2009
  20. ^ 09038, Avocados, raw, California”. National Nutrient Database for Standard Reference, Release 26. United States Department of Agriculture, Agricultural Research Service. 2014年8月14日閲覧。







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