情報格差
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インターネット普及期の日本における情報格差
日本においては、1990年代中期以降にインターネットなどのコンピュータネットワーク(情報技術)が普及を見せてきた[9]。日本におけるインターネットの普及は特に2000年より基本戦略として取り入れられ[10]、続いて2001年に後述するe-Japan戦略[11]など日本国内でさらなる情報技術の普及を掲げた計画を政府主導のもとに行われ整備されていったが、普及と同時に企業や事業所内のオートメーション化が進み、そのためにパソコンなどの情報機器の操作に習熟していないことや、情報機器そのものを持っていないことは、社会的に大きな不利として働くようになった。
1995年までは、日本も米国などと遜色ない水準にあったが、その後の「失われた10年」の間に差が広がったとみられる[12][13]。2020年のコロナショックにより日本のデジタル化の遅れが指摘され、アンケート調査でも遅れを認識する回答が多い[14]。
フィーチャーフォンによる情報格差の拡大
日本における携帯電話は、その保有率は世界的に見ても有数な国でもあった。日本では1979年に本格的に自動車電話サービスがスタートし、1985年に個人が所持して移動しながら電話することができる初の携帯電話「ショルダーホン」が登場した。その後、新たに携帯電話事業を行う企業が参入したことや、1994年に「携帯電話機の売り切り制」が導入されたことによって初期費用、回線利用に必要な料金が大幅に値下げされたことが行われ、さらには家電メーカーなど携帯電話の製造・供給に名乗りを上げたことなどによって、市場の競争はさらに加速され、これらの結果、携帯電話が広く一般に普及する下地が作られた。よって、携帯電話の普及は1990年代中期より急激な加速を見せた。
日本の携帯電話に特色性がみえてくるのが1999年1月にNTTドコモが開始したサービス「iモード」である。「携帯電話でインターネットに接続できるサービス」として日本国内ではビジネスモデルとして浸透し、同年4月にはDDIセルラーグループ・IDO(現:KDDI・沖縄セルラー電話連合、au)がサービス「EZweb」・「EZaccess」を開始(のちEZwebに統一)。12月にはJ-フォン(現:ソフトバンクモバイル)がサービス「J-スカイ」(現:Yahoo!ケータイ)を開始し、これらが寄与して日本のインターネット普及に大きな拍車をかけた。しかし、これらのサービスは開始当時は世界最先端の技術でありながらも、日本特有の商慣行や独自の機能から海外との携帯電話に対する価値観にズレが生じ始め、いわゆる「ガラパゴス化」を招く原因となった[15][16]。
日本の携帯電話に生じたガラパゴス化は、情報格差においても様々な弊害を与えていると言える。2009年に総務省が発表した統計によると、インターネット普及率は68.9%で18位。ブロードバンド普及率は22.1%で32位。パソコンの普及台数も人口1000人辺り542台で12位。そして肝心の携帯電話も83.9%で76位であった[12][注 1][17]。
特に当時の若年層において、フィーチャーフォンで満足してパソコンを持つ必要性を欠いた人々が生まれ、情報の下流社会が形成されてしまった[18]。2010年代以降には従来型のフィーチャーフォンより多機能でパソコンの性能を持ったスマートフォン(スマホ)が普及しはじめたことで、情報格差の縮小が見られるが、青少年によるバカッター騒動や、パソコンなど一定の習熟度が必要な端末を扱えない若年層が増えつつあることが問題となっている。
また、内閣府の調査ではパソコンについて単身世帯・家族同居を含み2007年の調査で78%の普及率が見られるが[9]、総務省の統計によるとパソコンの所有率は30代をピークに40代、50代の社会人世代は業務でも使用するためにインターネットを使えるようになっているが、60代以上となるシニア世代から極端に普及率が低下しているのが見受けられる。また、2000年代後半において、30代と比較して20代のパソコン普及率が低い状況にあり、これらの若年層がパソコンやインターネットの操作に習熟していない者が多いことも指摘されている[18][19]。
2010年代に入りスマートフォン及び第三世代携帯電話、第四世代携帯電話が急速に普及すると、従来のフィーチャーフォンはレガシーな物と見なされ[20]、両者で受けられるサービスに質的な差異が見られるようになった。また2010年代後半から年代末に掛けてフィーチャーフォンでのサービス提供を終了するサイトやサービスなどが相次いでいる[21][22]。もっともスマートフォン自体や、3Gや4Gのサービス提供は事業者により地域格差問題が顕在化する以前に日本全国遍く展開されたため[23][24][25]、地域的情報格差の側面は少ない。むしろユーザー側の機器操作習熟の問題により高齢者を中心に移行を渋る状況になっている[26]。また費用相場も格安スマホ、MVNOなどの普及により導入の資金面での格差はある程度埋められていった[27]。
2020年代前半時点でも日本のスマホ利用者数は比較的に少なく、中でも公務員のフィーチャーフォン率が高い[28]。
通信格差
固定回線の格差
ダイアルアップ接続が利用されていた時代では、アクセスポイントのワンナンバー化により、当時頼みの綱であった準定額サービス・テレホーダイが利用できないプロバイダが増えつつあることが懸念されていた。
2000年頃から地方へブロードバンドが普及するにつれ、「ブロードバンドを利用できる地区」と、「(ADSLすら)利用できない地区」との情報アクセスへの格差が発生した。FTTHや無線系サービス(WiMAXなど)より、高速なブロードバンドサービスが提供されるようになったが、サービスが「利用できる地区」と「利用できない地区」との情報アクセスへの格差はさらに拡大していた。
離島や僻地などは人口が少ないことで、本土や市街部と同額の料金では採算が合わないという事情があり、国内の全市町村に遍くブロードバンドのサービスを提供するのは困難である。法的にもインターネット接続サービスは日本全国への提供が義務づけられていないため、サービスを受けられない(ユニバーサルサービスの対象に、ブロードバンドの提供が含まれていない)。2000年代中には、ほとんどの市・町でADSLが提供されるよう拡大されたが、過疎地域や離島は遅れた(64kbps以下の低速・定額制のインターネット接続サービスに関しては、ほとんどの村に普及したが、それでも100%には達成できていなかった)。
過疎地において共聴組合にて管理しているテレビ・アンテナの中には、複数の組合員がCATVに移行した場合、テレビ・アンテナの保守管理がコスト高になり運営が不可能となる。そのため区域全体でCATVの導入に消極的になり、あわせてインターネットの整備が遅れることもあった。
代表的な事例として、2003年にあった石川県の報告で情報通信ネットワーク(有線通信・無線通信)などの通信に関連する「情報資源」で地域による格差が発生していることが述べられている[29]。福井県、富山県と合わせた北陸3県で見てもDSLではそこまで極端な比率に差がないものの、ケーブルテレビによるインターネット加入率になると北陸3県の中で最も低い加入率となっていた。また、光ファイバーに対応した地区が2002年6月の時点では、県庁所在地たる金沢市1市のみに留まった。また、2003年3月になっても一切のブロードバンドサービスが提供されていない自治体が吉野谷村、鳥越村、富来町、能登島町など13自治体に上った[29]。
大都市内の空白地帯
都市内においても空白地帯があり、既に地域としては進出済みであるが、諸事情によりサービスを受けられないケースがあった。大都市周辺の郊外の住宅地に多いが、定額制のナローバンドによる常時接続(フレッツ・ISDN)だけなら使用できるケースも多かった。
- 集合住宅で、FTTHやCATVなど、配線方法によっては、壁に回線を通すための穴を開けるなど大がかりな壁面工事が必要なインフラは、賃貸住宅であれば大家、分譲マンションであれば管理組合の許可を得る必要があるが、インターネットに対して関心が低いなど何らかの理由により敬遠するような大家、管理組合や住人が居る場合には、しばしば工事を許可されないケースがある。
- 一事例として、神奈川県営住宅では、2003年までインターネット回線に関する一切の工事を許可していなかった。理由として、神奈川県住宅営繕事務所は「同住宅は低所得者向けであるため、生活に最低限必要な物以外の「贅沢品」の使用は認められない」[注 2]とするもので、インターネット回線も一種の「贅沢品」とみなしていた。翌2004年からは「模様替え(増築)」などの名目で許可はされたものの、「建物本体に一切の改造を加えず、現在使用している電話管路などをそのまま利用する」[注 2]など、他にも厳しい制約を設け、また、手続きにも時間を要し、早くても申請から1か月超、場合によっては数か月もの時間を要するなどの制約があった。
- その一方で、VDSLを利用する形となるが、既に全棟でFTTHを利用可能な県営住宅も存在する。 また、住宅の戸数が少ないために事業者の営業上の理由で不可な場合や、電柱より高い部屋には光ファイバーを直接引き込めないなど施工方法上の理由で不可な場合などもある。ただしエアコン設置時に壁に配管用の穴を開けている場合、ADSLでタイプ2と呼ばれるADSL専用回線をその穴の隙間を使って回線を引き込むことができる。
- ブロードバンドが一般化する前に建造された建築物においては、光ファイバーなど新しいインフラに対する配慮が行われていないことが多く、配線や配管のスペースに余裕がなかったり、特に急カーブさせることが難しい光ファイバーを通すことは困難であった。後述の、電話線に準じる可塑性(折り・荷重不可)を持つ、プラスチック製クラッドの光ファイバーケーブルの開発・普及により、集合住宅の各室個別に直配線が可能になるなど、この問題は大幅に緩和された。
- CATV対応マンションであっても、配線されている同軸ケーブルに関して、流合雑音の問題や、あるいは有線放送などを重畳などしているため、CATVのインターネットサービス(CATVのデジタル放送サービスも含む)の通信速度が出ず、または利用不可なことがある。
- 電線類地中化で道路に電柱がなくなると、地下管路を経由して、ケーブルを建物に引き込むことになるが、その割高な工事費や、通信会社が道路管理者に支払う必要がある管路使用料がネックとなり、光ファイバーや同軸ケーブルなどの敷設を拒む通信会社(ケーブルテレビ局)が存在している[30][31]。
- また、ADSLなどの加入・解約手続きを行ったにもかかわらず、それに関する手続きや作業を長期間履行されず放置されている者も存在し、さらに長期間待たされた上に断られたり、特に解約時においては「回線握り」と呼ばれ、ADSL業者を変更する際に問題とされた。
自治体等による対策
情報格差の問題については、不動産業界においても取扱物件のブロードバンド利用の可否が物件の価値、契約の成否を少なからず左右しかねない時代になっており、取扱物件に発生し得る情報格差に対しても敏感になっていた。とりわけ、20代〜30代以下の若年層をメインターゲットとした分譲住宅、学生向け賃貸物件などでは、ブロードバンドでもとりわけFTTH導入の可否が販売成約率や入居率を少なからず左右し、販売価格や家賃などにまで影響を及ぼすケースも見られた。
これらに対し、総務省もただ手をこまねいていたわけではなく、先述の過疎型による町・村・離島への問題対策として、同省を主導とした「u-Japan政策」において「次世代ブロードバンド戦略2010」を発表し、以下を目標として掲げた。
- 2008年度までに「ブロードバンド・ゼロ市町村」(全域においてADSL・FTTH・CATVいずれのブロードバンド回線も利用できない市町村)を解消すること
- 2010年度までに「ブロードバンド・ゼロ地域」(いずれの種類のブロードバンド回線も利用できない地域)を解消し、
- 超高速ブロードバンド(FTTHなど)の世帯単位でのカバー率を90%以上とすること
これを受けて2010年までに「ブロードバンド・ゼロ地域解消事業」を策定実施し、東日本大震災の影響を受けつつも2016年度末の時点で、固定系超高速ブロードバンドの世帯カバー率は99.0%、移動系超高速ブロードバンドの世帯カバー率は99.8%まで達成していると報告している[32]。
自治体やNPOの関心が高い地域では、さまざまな地域独自の試みが行われていた。多摩ニュータウンの八王子市柚木地区のNPOである「FUSION長池」や八丈島の「八丈島にブロードバンドを推進する会」などによる署名活動やブロードバンド事業者や行政に対する陳情活動が行われたり、北海道山越郡八雲町の八雲PC同好会のように署名や陳情だけではなく、独自に専用線を確保して、無線LANで分配することで定額接続を実現といったケースがある。特に八雲町のケースは、北海道新聞で報道され、これをきっかけにブロードバンド事業者が八雲町への進出を決めるなどの反響があった。
また、島根県や秋田県、岡山県では、ADSLを中心に進出したブロードバンド事業者に経済的援助を与えたり、地方自治体が整備したインフラを民間にも開放するなどの整備促進策を取ったり、三重県や岐阜県などでは、CATVを主として県がブロードバンド整備を行っている。このため、三重県においては、県道や国道から余程離れた一戸建て以外では、殆ど全県でCATVによるブロードバンドが利用できるまで整備された。
2010年代前半からこれらの通信格差は一部の離島や僻地を除き2010年代後半までにはほぼ解消された。またモバイルインターネットもLTEの登場により高速化し固定回線をある程度代替できるようになった。 ただし2010年末においていまだに2割近くがナローバンド回線を使っているという調査結果があった[33]。
こうして2010年代の時点でインターネット接続環境は世界一といわれるまでの状況になった一方、公的機関のインターネット活用は進まず[34]、2020年代の新型コロナウイルス騒動においてその状況が表面化した。
「スターリンク」などの人工衛星による超高速インターネットや、将来的には「成層圏プラットフォーム」(成層圏滞空飛行船)なども提案されている。JAXAでも「WINDS」として試験衛星を運用していた[35]。
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注釈
出典
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- ^ 『ジーニアス和英辞典』(大修館書店)では、「情報格差」の英訳は「digital divide」となっている
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- ^ 大竹文雄 『経済学的思考のセンス-お金がない人を助けるには』 中央公論新社〈中公新書〉、2005年、201頁。
- 1 情報格差とは
- 2 情報格差の概要
- 3 概説
- 4 情報格差の各側面
- 5 インターネット普及期の世界おける情報格差
- 6 インターネット普及期の日本における情報格差
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