ゴム ゴムの概要

ゴム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/08/21 09:11 UTC 版)

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天然ゴムの原料となるラテックスの採取

概念

今日のオランダ語で gom、英語で gum、フランス語で gomme、ドイツ語で Gummiなどと一群の欧州言語で表記される物質は、古代中世には、アルコールには不溶だが、水を含ませると著しく膨潤してゲル状になり、種類によってはさらに水を加えると粘質のコロイド溶液となる植物由来の物質を指しており、主として多糖類から構成されている。逆に、水には不溶だがアルコールには溶ける植物由来の無定形の樹脂はレジンと呼ばれる。こうしたゴムの代表がアラビアゴムであり、また似たものにトラガカントゴムやグアーガムがある。近代の発酵工業によって新たに登場した類似物質として、キサンタンガムが知られる。これらは食品の粘度を調整したり(増粘多糖類)、接着剤、あるいは水彩絵具の基質として用いられてきた。これらは弾性ゴムが一般的となってからは水溶性ゴムと呼ばれている。

一方、16世紀になってヨーロッパ人が中南米の文化や自然産物と接触するようになってから、彼らが古くから知っていたゴム(ガム)に似ているが、それらにはない新しい性質を持った植物由来の物質が知られるようになり、また導入され、古くから知られていたゴム(ガム)と同じ範疇の物質としてゴム(ガム)と呼ばれた。これらは植物体に含まれる乳液(ラテックス)を採取し、凝固させることによって得られるものであった。その中のひとつはチクルの幹から得られ、人間の体温程度の温度で軟化するもので、噛む嗜好品として用いられていた。このゴム(ガム)に関しては、チューインガムを参照されたい。

以下、弾性ゴムについて詳述する。

歴史

天然ゴム

天然ゴムはクリストファー・コロンブスによって1490年代にヨーロッパ社会に伝えられた[1]。1493年、カリブ海の島に立ち寄ったコロンブスは大きく弾むゴムボールを見て非常に驚いたと伝えられている[2]。コロンブスによってゴムはヨーロッパに伝えられたものの不思議な物質として珍重されたがその後200年間は特に実用化されなかった[2]

1736年、フランスのシャルル=マリー・ド・ラ・コンダミーヌが南米を訪れた際、原住民がゴムの樹液から防水布やゴム靴などをつくっている様子を本国に報告したことからゴムの実用化が進められるようになった[2]

パラゴムノキの幹から採取されるラテックスを凝固させたものは高い弾性限界と弾性率の低さを併せ持ち、後世ヨーロッパで産業用の新素材として近代工業に欠かせない素材として受容され、発展することとなった。そのため、パラゴムノキ以外の植物からの同様の性質のゴムが探索され、また同様の性質を持つ高分子化合物の化学合成も模索されることとなった。この一群のゴムを弾性ゴムと呼び、イギリスの科学者ジョゼフ・プリーストリー鉛筆の字をこすって (: rub) 消すのに適することを報告したこと(消しゴムの発祥)から、英語ではこするものを意味するラバー (rubber) とも呼ばれることとなった[2]

また、天然のゴム類似物質としてガタパーチャ(グッタペルカ)が知られるようになった。

19世紀末、グッドイヤーによる加硫の発見によってゴム工業は裏長屋的生産から大規模な工場生産へと変化した[3]。さらに1888年のダンロップによるニューマチックタイヤの特許取得によりゴム素材は自動車用タイヤに用いられるようになり自動車工業の勃興にもつながった[3]

合成ゴム

天然ゴムの代替品(合成ゴム)の研究が始まったのは20世紀初頭である[3]。第一次世界大戦中にはドイツにメチルゴム合成工場ができ月180トン生産していた[3]

しかし、合成ゴムの本格的研究が始まったのは1930年代になってからである[3]。天然ゴムの主成分はイソプレンの重合体であるが、イソプレン (CH=C(CH3)−CH=CH2) のように2つの二重結合が1つの単結合を挟んだ構造を持つジエン化合物の重合体からゴム様物質が得られると予測されており、1930年にはアメリカでイソプレン分子におけるメチル基塩素原子で置換したクロロプレン (CH2=CCl−CH=CH2) の付加重合により、クロロプレンゴム (CR) が開発された。1934年にはスチレン・ブタジエンゴム(SBR)の商業生産が始まった[3]

物理的特徴

弾性ゴムは高弾性材料である。ここで言う「高弾性」とは弾性限界が大きいことを指す[4][5]。なお、弾性に関する指標には弾性限界のほかに弾性率等があって、ゴムの場合には弾性限界は大きいが弾性率は小さい(つまり、高弾性限界であるが低弾性率である)。

ゴム弾性の構造

分子間を共有結合で結合し、三次元網目構造を形成する高分子は、ガラス転移温度以上ではゴム弾性という特殊な性質を示すゴム状態となる。ゴム弾性とは、ゴムのように弾む性質ではなく、一見柔らかく塑性変形を起こしやすそうに見えるが、元に戻る応力が大きく、変形しにくいといった性質を指し、次のような特徴を持つ。

  • 通常の固体ではその弾性率は1〜100 GPaであるが、ゴムは1〜10 MPaと非常に低い弾性率を示す。
  • このため、弱い力でもよく伸び、5から10倍にまで変形する。しかし外力を除くとただちに元の大きさまで戻る。伸びきった状態では非常に大きな応力を示す。
  • 弾性率は絶対温度に比例する。
  • 急激(断熱的)に伸長すると温度が上昇し、その逆に圧縮すると温度が降下する(Gough-Joule効果英語版)。
  • 変形に際し、体積変化がきわめて少ない。すなわちポアソン比が0.5に近い。

これはゴムの弾性がエントロピー弾性と呼ばれる、他の固体とは異なる機構で実現しているからである(他の固体ではエネルギー弾性という)。ゴムの弾性は、本来規則構造を持たない(非晶質)分子の配列が、外部からの力により規則的(結晶組織)になり、これが元の不規則な配列に戻ろうとするときの力によるもので、熱力学的には応力によるエントロピーの低下(ギブス自由エネルギーの増加)が元に戻ろうとする力による弾性である。

その他の物理的特徴

ゴムは粘弾性を持つ。粘度の測定にはムーニー粘度英語版を測るムーニー粘度計英語版やキャピラリーレオメータ英語版が用いられる。

実用上は他に、耐摩耗性、耐寒性(ガラス転位温度)、耐熱性、耐候性(耐日光、オゾン)、耐油性(溶解パラメーター)などが重視される[6]


  1. ^ a b c 伊藤眞義 『図解入門よくわかる最新ゴムの基本と仕組み』 秀和システム、2009年。ISBN 978-4-7980-2425-7 
  2. ^ a b c d 化学はじめて物語”. 日本化学工業協会. 2020年2月10日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i 前田守一「配合設計 (1) 原料ゴムの種類と性質」『日本ゴム協会誌』第51巻第8号、 632-640頁。
  4. ^ 高弾性 大辞林
  5. ^ 高弾性 大辞泉
  6. ^ a b 日本ゴム協会編 『ゴム技術入門』 丸善、2004年。ISBN 4-621-07393-1 
  7. ^ 長岡技術科学大学化学系の天然ゴム研究
  8. ^ 1. 1 はじめに”. 東京材料. 2020年6月24日閲覧。
  9. ^ a b c d 渡辺訓江, 近藤肇「ゴムの工業的合成法」『日本ゴム協会誌』第90巻第4号、2017年、 210-214頁、 doi:10.2324/gomu.90.210 アーカイブページ
  10. ^ International Standards of Quality and Packing for Natural Rubber Grade というマニュアルによる格付け[9]
  11. ^ TOCOMにTSR上場、日本が発信する天然ゴムの国際指標”. 2019年10月23日閲覧。
  12. ^ a b TOCOM、TSR(技術的格付ゴム)上場へ”. 株式会社ポスティコーポレーション. 2019年10月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年10月23日閲覧。
  13. ^ a b 第10条1号 : 業務規程”. 株式会社東京商品取引所. 2019年10月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年10月23日閲覧。
  14. ^ a b c カシオ EX-word XD-SF6200収録 ブリタニカ国際大百科事典 小項目電子辞書版 『老化(ゴムの)』
  15. ^ a b カシオ EX-word XD-SF6200収録 百科事典マイペディア 電子辞書版 『老化(化学)』


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