ブタジエンとは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 固有名詞の種類 > 自然 > 物質 > 化合物 > 化合物 > ブタジエンの意味・解説 

ブタジエン【butadiene】

読み方:ぶたじえん

エチレン系炭化水素の一。炭素4個を含み2種異性体がある。ふつう一位三位とに二重結合をもつもの(1,3-ブタジエン)をさす。無色・無臭気体容易に液化工業的に石油分解ガスから抽出し合成ゴム原料として重要。分子式C4H6 示性式CH2=CH-CH=CH2

[補説] 異性体1,2-ブタジエン(メチルアレン)はCH2=C=CH-CH3


ブタジエン

分子式C4H6
その他の名称ジビニル、エリスレン、エリトレン、ブタジエン、Divinyl、Butadiene、Erythrene、1,3-Butadiene、ピロリレン、Pyrrolylene、NCI-C-50602、Trans-1,3-butadiene、trans-1,3-Butadiene、cis-1,3-Butadiene、ビエチレン、Biethylene、ビビニル、Bivinyl、ビニルエチレン、Vinylethylene、trans-1,3-ブタジエン、cis-1,3-ブタジエン、1,3-Butanediene
体系名:1,3-ブタンジエン、1,3-ブタジエン


ブタジエン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/05/22 09:30 UTC 版)

1,3-ブタジエン
識別情報
CAS登録番号 106-99-0 
PubChem 7845
ChemSpider 7557 
国連/北米番号 1010
KEGG C16450 
ChEMBL CHEMBL537970 
RTECS番号 EI9275000
特性
化学式 C4H6
モル質量 54.0916
外観 無色の気体(常圧常圧)
密度 0.64 g/cm3 (-6 °C, 液体)
融点

−108.9 °C, 164.3 K, −164.0 °F

沸点

-4.4 °C, 269 K, 24 °F

への溶解度 735 ppm
粘度 0.25 cP (0 °C)
危険性
安全データシート(外部リンク) ECSC 0017
主な危険性 引火性, 刺激性, 発癌性
Rフレーズ R45 R46 R12
Sフレーズ S45 S53
引火点 -85 °C
関連する物質
関連するアルケン
ジエン
イソプレン
クロロプレン
関連物質 ブタン
出典
国際化学物質安全性カード
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

ブタジエン (: butadiene) は、分子式C4H6で表される二重結合を2つ持つ不飽和炭化水素の一つである。単純にブタジエンと言った場合、ほとんどの場合は1,3-ブタジエン (CH2=CH-CH=CH2) を指す。1,3-ブタジエンはもっとも単純な共役ジエンであり、SBR(スチレン・ブタジエンゴム)などの合成ゴム生産における重要な工業中間体である。

もう一方の異性体として集積ジエン1,2-ブタジエン (CH2=C=CH-CH3) が存在するが、どちらも常温常圧下で無色の気体である。

1,2-ブタジエンは工業的に重要ではないため、以下は特に断らない限り1,3-ブタジエンについて詳述する。

歴史

1863年フランスの化学者がアミルアルコール熱分解により炭化水素単離したと報告したが、当時は構造決定にまでは至らなかった[1]1886年ヘンリー・アームストロング石油の熱分解により単離し、この炭化水素が1,3-ブタジエンであると決定された[2]1910年にはロシアの化学者セルゲイ・レベデフ英語版 が、ブタジエンを重合させゴム状の高分子を合成した。しかしながらこの高分子は天然ゴムに比べると柔らかすぎたため、自動車のタイヤなどに使用することはできなかった。

ブタジエンは第二次世界大戦の少し前に工業利用されるようになった。大戦前、大英帝国(イギリス)は天然ゴム生産をコントロールする立場にあり、対戦国に対して天然ゴムの供給制限をかけることが可能な状況であった。しかし1929年にドイツIG・ファルベン社の社員であったエドゥアルト・チュンカー (Eduard Tschunker) とヴァルター・ボック (Walter Bock) が、自動車のタイヤに利用できる程度の強度を持ったスチレンとブタジエンの共重合体を開発した。この合成法は急速に世界中に広まり、ソビエト連邦アメリカ合衆国ではエタノールを原料として、ドイツでは石炭由来のアセチレンを原料として製造されるようになった。

構造

アレン骨格を有する1,2-ブタジエンより、共役ジエンである1,3-ブタジエンが安定である。実際、1,2-ブタジエンは1,3-ブタジエンより53.2 kJ/molだけ不安定である。

1,3-ブタジエンのビニル基C2H3間の結合長1.48 Åは通常の炭素-炭素間の単結合1.54 Åより短い。このことは、ビニル基間の結合が単結合ではなく、二重結合性を帯びていることを示唆している。

製造

アメリカ合衆国や西ヨーロッパ、日本などではブタジエンは接触分解を用いて、エチレンや他のオレフィン類と同時に製造している。脂肪族炭化水素を蒸気と一緒に900 °C以上の高温に加熱すると、脱水素を起こしブタジエンなどの不飽和炭化水素へと変換される。エタンなどの分子量が小さな脂肪族炭化水素を用いるとエチレンが合成されるが、より分子量の大きい脂肪族炭化水素を用いるとブタジエンや芳香族炭化水素が合成される。

接触分解により製造された炭素数が同じ炭化水素群からブタジエンのみを単離する際には、通常アセトニトリルジメチルホルムアミドなどを用いて液-液抽出を行った後に蒸留により精製している[3]

ブタジエンはブタンの触媒的脱水素によっても合成される。1957年、商業プラントがアメリカヒューストンに最初に設立された際には、年間65,000トンのブタジエンが製造された[4]

エタノールからの製造

東ヨーロッパや中国、インドなどではエタノールからブタジエンが合成されている。接触分解により大量に合成されるブタジエンと比較すると価格面では劣るが、エタノール経由の製造法は初期投資が小さいため小スケールのプラントで製造するのに好都合だったためである。大きく分けて2つの合成法がある。

1つめの合成法はセルゲイ・レベデフにより発見されたもので、エタノールを金属触媒下で高温に加熱してブタジエンと水素へと変換するものである[5]

このプロセスは第二次世界大戦中、および戦後のソビエト連邦の合成ゴム製造の中心となった方法であり、2006年現在でもわずかながらロシアや東ヨーロッパでプラントが稼働している。

もう一つの方法はロシアの化学者イヴァン・オストロミスレンスキー英語版により発見された方法であり、エタノールを酸化しアセトアルデヒドとした後に、タンタル / 二酸化ケイ素触媒下でエタノールを加え325–350 °Cに加熱することでブタジエンを得るというものである。

このプロセスは第二次世界大戦中のアメリカの合成ゴム製造の中心となった方法であり、2006年現在でも中国やインドで用いられている。

利用

ほとんどのブタジエンは合成ゴム合成に用いられる。ポリブタジエンは液体といっても差支えない程に柔らかいが、ブタジエンとスチレン、またはアクリロニトリルとを混合して重合させたスチレン・ブタジエンゴムニトリル・ブタジエンゴムはどちらも硬さと伸縮性を備え持っている。スチレン・ブタジエンゴムは自動車のタイヤの素材として多用されている。また家電製品や雑貨に広く用いられるプラスチックであるABS樹脂の主原料の1つでもある。

他にもナイロン合成の前駆体であるアジポニトリルの合成や、クロロプレンゴムの前駆体であるクロロプレン溶媒であるスルホラン、合成中間体として重要な1,4-ブタンジオールの合成などに用いられている。また三量化によるシクロドデカトリエンの工業的製造にも用いられている。

参考文献

  1. ^ Caventou, E. (1863), Annalen der Chemie und Pharmacie 127, 93.
  2. ^ Armstrong, H.E. Miller, A.K. (1886). "The decomposition and genesis of hydrocarbons at high temperatures. I. The products of the manufacture of gas from petroleum." Journal of the Chemical Society 49, 80.
  3. ^ Sun, H.P. Wristers, J.P. (1992). Butadiene. In J.I. Kroschwitz (Ed.), Encyclopedia of Chemical Technology, 4th ed., vol. 4, pp. 663–690. New York: John Wiley & Sons.
  4. ^ Beychok, M.R. and Brack, W.J., "First Postwar Butadiene Plant", Petroleum Refiner, June 1957.
  5. ^ Kirshenbaum, I. (1978). Butadiene. In M. Grayson (Ed.), Encyclopedia of Chemical Technology, 3rd ed., vol. 4, pp. 313–337. New York: John Wiley & Sons.

関連項目

外部リンク


「ブタジエン」の例文・使い方・用例・文例

Weblio日本語例文用例辞書はプログラムで機械的に例文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。



固有名詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「ブタジエン」の関連用語

ブタジエンのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



ブタジエンのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
デジタル大辞泉デジタル大辞泉
(C)Shogakukan Inc.
株式会社 小学館
JOGMECJOGMEC
Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油・天然ガス調査グループが信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、 機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。 また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。 したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。 なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
※Copyright (c) 2025 Japan Oil, Gas and Metals National Corporation. All Rights Reserved.
このホームページに掲載されている記事・写真・図表などの無断転載を禁じます。
独立行政法人科学技術振興機構独立行政法人科学技術振興機構
All Rights Reserved, Copyright © Japan Science and Technology Agency
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのブタジエン (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
Tanaka Corpusのコンテンツは、特に明示されている場合を除いて、次のライセンスに従います:
 Creative Commons Attribution (CC-BY) 2.0 France.
この対訳データはCreative Commons Attribution 3.0 Unportedでライセンスされています。
浜島書店 Catch a Wave
Copyright © 1995-2025 Hamajima Shoten, Publishers. All rights reserved.
株式会社ベネッセコーポレーション株式会社ベネッセコーポレーション
Copyright © Benesse Holdings, Inc. All rights reserved.
研究社研究社
Copyright (c) 1995-2025 Kenkyusha Co., Ltd. All rights reserved.
日本語WordNet日本語WordNet
日本語ワードネット1.1版 (C) 情報通信研究機構, 2009-2010 License All rights reserved.
WordNet 3.0 Copyright 2006 by Princeton University. All rights reserved. License
日外アソシエーツ株式会社日外アソシエーツ株式会社
Copyright (C) 1994- Nichigai Associates, Inc., All rights reserved.
「斎藤和英大辞典」斎藤秀三郎著、日外アソシエーツ辞書編集部編
EDRDGEDRDG
This page uses the JMdict dictionary files. These files are the property of the Electronic Dictionary Research and Development Group, and are used in conformance with the Group's licence.

©2025 GRAS Group, Inc.RSS