麻疹とは? わかりやすく解説

麻疹

麻疹(measles)は感染症法に基づく4類感染症定点把握疾患であり(註:2003年11月施行感染症法一部改正により、5類感染症定点把握疾患変更)、その報告全国約3,000カ所の小児科定点より毎週なされるまた、学校保健法に基づく第二種伝染病属し登校基準としては、「発疹に伴う発熱解熱した後3日経過するまで出席停止とする」と述べられている。感染性は非常に高く感受性のある人(免疫抗体持たない人)が暴露を受けると90%以上が感染する年齢では1歳ピークがあり、約半数2歳以下である。

わが国1歳児の麻疹ワクチン接種率は約50%極めて低く患者のほとんどが予防接種接種である。また我が国では麻疹による死亡例毎年報告されており、厚生省(現厚生労働省)の人口動態統計をみると、数千人の麻疹による死亡者出ていた50年前比較する死亡数の減少著しいが、現在もなお数十名の死亡例があり、年齢的には0~4 歳児が大半占め、特に0、1歳児の占め割合が多い。


麻疹
麻疹

疫 学1)
ヒトからヒトへの空気感染飛沫核感染)の他に、さらに、飛沫感染接触感染など様々な感染経路感染する我が国では通常春から夏にかけて流行する過去1984 年大きな全国流行があり、1991年にも流行があったがやや小さくその後大きな全国流行はなかった。しかし、毎年地域的な流行反復している。感染症発生動向調査では、国内約3,000小児科定点から年間1~3例の報告があり、実際にはこの10倍以上の患者発生していると考えられるこの中で2歳以下の罹患が約50%占めており(図1)、罹患者95%以上が予防接種接種である。近年推移を見ると、小児科定点から報告された麻疹患者数は、1999平成11)年には過去最低となっていたが、2001平成13)年は過去10 年間では1993平成5)年に次いで二番目大き流行であった2001年当初より高知県奈良県九州地方などで流行がみられ、3月入って北海道でも患者数急増した。図2 にも示すように、近年の麻疹流行特徴は、流行の多い県と少ない県が隣り合っていることである。性別内訳ではやや男性に多い。また、平成11 年度から、全国500基幹病院定点より成人麻疹(18歳以上)の患者発生報告されているが、2001年過去3年間で最も多い報告となっている。これらの症例多く入院要するような比較重症例であると考えられる年齢階級別で多いのは、2024 歳20歳未満2529歳などである。発症予防には麻疹ワクチンが有効であるが、感染症流行予測調査によると国内での麻疹ワクチン接種率低く1歳児の接種率は約50%である(図3)。2000 年度同調査から感受性人口推計すると、日本全国300 万人弱の感受性者が存在していると考えられる(図4)2 )

麻疹
麻疹

病原体 3)
原因ウイルスである麻疹ウイルスParamyxovirusMorbillivirus 属に属し直径100~250nmのエンベロープ有する一本鎖RNA ウイルスである。A からH のcrade に分類されgenotype22種類報告されている。日本で主に流行しているのはD3, D5 タイプであり、ワクチン株Aタイプである 4)

麻疹ウイルスレセプター1993 年補体調節蛋白であるCD46membrane cofactor proteinMCP)であると発表され5 )CD46ヒト全ての核細胞発現しており、サルでは良く似たホモローグが赤血球にも認められるため、麻疹ウイルスサル赤血球凝集反応が起こると説明されていたが、リンパ組織中心に感染することについての機序不明であった

2000年Tatsuoらにより麻疹ウイルスレセプターリンパ組織特異的に発現する蛋白SLAMsignaling lymphocyte activation molecule;CDw150)であることがNature発表され 6)SLAM未熟胸腺細胞活性化されリンパ球単球成熟樹状細胞発現しリンパ球の活性化IFN‐γ産生制御誘導する報告されている。

感染後リンパ節脾臓胸腺など全身リンパ組織中心に増殖するエンベロープ蛋白のうち、F(fusion蛋白とH(hemagglutinin蛋白がその病原性大きくかかわっているが、F蛋白ウイルス宿主細胞膜融合引き起こし宿主細胞へのウイルスの侵入可能にすることが知られている。1980 年代流行から始まったH 遺伝子変異は、1990 年代になってF 遺伝子及んでいる。H蛋白、F蛋白感染防御抗体作らせる蛋白なので、これらの部位での変異注視する必要がある。幸い現在までのところ、現行ワクチンによる感染防御効果には変化見られていないが、これまで中国韓国流行していたH1 タイプウイルス国内でも報告されている。ウイルスは熱、紫外線、酸(pH<5)、アルカリpH10)、エーテルクロロホルムによって速やかに不活化される空気中や物体表面では生存時間は短い(2時間以下)。

臨床症状 7),8),9)

麻疹
麻疹

前駆期カタル期)>
感染後潜伏期1012日経て発症する38 前後発熱が2~4日続き倦怠感があり、不機嫌となり、上気道炎症状咳嗽鼻漏くしゃみ)と結膜炎症状結膜充血眼脂羞明)が現れ次第増強する

乳幼児では消化器症状として下痢腹痛を伴うことが多い。発疹出現の1~2 日前頃に頬粘膜臼歯対面に、やや隆起し紅暈に囲まれた約1mm 径の白色斑点コプリック斑)(写真1)が出現するコプリック斑診断的価値があるが、発疹出現2日目終わりまでに急速に消失するまた、口腔粘膜発赤し、口蓋部には粘膜疹がみられ、しばしば溢血斑を伴うこともある。

発疹期>
カタル期での発熱が1 程度下降した後、半日くらいのうちに再び高熱多くは39.5 以上)が出るとともに(2峰性発熱)、特有の発疹写真2)が耳後部頚部前額部より出現し翌日には顔面体幹部、上腕におよび、2 日後には四肢末端にまでおよぶ。発疹全身広がるまで、発熱(39.5 以上)が3~4日間続く。発疹ははじめ鮮紅色扁平であるが、まもなく皮膚面より隆起し融合して不整形斑状(斑丘疹)となる。指圧によって退色し、一部には健常皮膚を残す。発疹次いで暗赤色となり、出現順序に従って退色する。発疹期にカタル症状は一層強くなり、特有の麻疹様顔貌呈する

回復期
発疹出現後3~4日続いた発熱回復期に入ると解熱し、全身状態活力改善してくる。発疹退色し、色素沈着がしばらく残り、僅かの糠様落屑がある。カタル症状次第軽快する。

合併症のないかぎり7~10 日後には回復する患者気道からのウイルス分離は、前駆期カタル期)の発熱時に始まり、第5 ~6 発疹以後発疹色素沈着以後)は検出されないこの間感染力をもつことになるが、カタル期が最も強い。

合併症
(1)肺炎:麻疹の二大死因肺炎脳炎であり、注意要する

 病初期認められ胸部X 線上、両肺野の過膨張瀰漫性の浸潤影が認められるまた、片側性の大葉性肺炎の像を呈する場合もある。

 発疹期を過ぎて解熱ない場合考慮すべきである抗菌薬により治療する原因菌としては、一般的な呼吸器感染症起炎菌である肺炎球菌インフルエンザ菌化膿レンサ球菌黄色ブドウ球菌などが多い。

巨細胞肺炎
成人一部、あるいは特に細胞性免疫不全状態時にみられる肺炎である。肺で麻疹ウイルス持続感染した結果生じるもので、予後不良であり、死亡例も多い。発疹出現しないことが多い。本症では麻疹抗体産生されず、長期間わたってウイルス排泄される発症急性または亜急性である。胸部レントゲン像では、肺門部から末梢広がる線状陰影みられる


(2)中耳炎:麻疹患者の約5 ~15%にみられる最も多い合併症一つである。細菌二次感染により生じる。乳幼児では症状訴えないため、中耳からの膿性耳漏発見されることがあり、注意が必要である。乳様突起炎を合併することがある

(3)クループ症候群喉頭炎および喉頭気管支炎合併症として多い。麻疹ウイルスによる炎症細菌二次感染よる。吸気呼吸困難が強い場合には、気管内挿管による呼吸管理要する

(4)心筋炎心筋炎心外膜炎をときに合併することがある。麻疹の経過中半以上に一過性の非特異的心電図異常が見られるとされるが、重大な結果になることは稀である。

(5)中枢神経系合併症:1,000例に0.5~1例の割合脳炎合併する発疹出現後2~6日頃に発症することが多い。髄液所見としては、単優位中等細胞増多を認め蛋白レベル中等上昇、糖レベルは正常かやや増加する。麻疹の重症度脳炎発症には相関はない。患者の約60%は完全に回復するが、2040%に中枢神経系後遺症精神発達遅滞痙攣行動異常、神経聾、片麻痺対麻痺)を残し致死率は約15%である。

(6)亜急性硬化性全脳炎subacute sclerosing panencephalitisSSPE):麻疹ウイルス感染後、特に学童期発症することのある中枢神経疾患である。知能障害運動障害徐々に進行しミオクローヌスなどの錐体錐体外路症状を示す。発症から平均6~9カ月で死の転帰をとる、進行性予後不良疾患である。発生頻度は、麻疹罹患者10万例に1人麻疹ワクチン接種100万人に1人である。

病原診断
ウイルス分離、麻疹特異的IgM 抗体価の測定急性期回復期ペア血清での麻疹IgG 抗体有意な上昇をもって診断可能である。従来日本では臨床症状のみで診断することが多かったが、今後実験室診断が必要であると考える。近年の流行ウイルス株調べたりウイルスのH抗原変異など検索する分子疫学的な調査のために、ウイルス分離は重要である。通常咽頭拭い液、血液などから分離されるが、カタル期から発疹出現3 日以内分離率が高い。B95a細胞用いた場合咽頭拭い液および血液から、早ければ24 時間以内分離される 10抗体測定方法には、赤血球凝集抑制法(hemagglutination inhibitionHI 法)、中和法、ゼラチン粒子凝集法particle agglutinationPA 法)、ELISA 法などが用いられている。

治療・予防
特異的治療法はなく、対症療法中心となるが、中耳炎肺炎など細菌性合併症起こした場合には抗菌薬投与が必要となる。それ故に、ワクチンによる予防が最も重要である。

母体由来の麻疹特異IgG抗体があると、接種した麻疹ワクチンウイルスの増殖十分でないため、母体由来抗体がほぼ消失した考えられる生後1歳以降の児に接種を行う国が多い。我が国における現行の予防接種法では、生後12カ月90カ月未満接種年齢としているが、麻疹ワクチン接種は、疾患罹患した場合重症度感染力強さから考え接種年齢達した後なるべく速やかに少なくとも生後1215カ月接種することが望ましい。例えば、誕生日との関係でポリオ集団接種時期重複した場合は、麻疹ワクチン優先するのが望ましいと考えられる生後6か月以降母親由来免疫減弱するため、麻疹流行期保育園などで集団生活をしている場合は、緊急避難的1歳以前ワクチン接種する選択もあるが、この場合接種定期接種ではなく任意接種として有料実施することになる。いずれにしても1 歳前に接種受けた場合は、1 歳以降に再接種(この場合定期接種として実施)をする必要がある。その理由は、乳児期後期まで母親からの移行抗体持続している場合があり、その場合はワクチンウイルスが母親免疫中和されてしまうため、十分な抗体産生されない可能性があるためである。また、γグロブリン投与された後は、6 カ月未満乳児同様の理由効果得られないため、3カ月間は接種行わない川崎病などの治療大量療法受けた場合には、6カ月間あける必要がある

ワクチンによる免疫獲得率は95%以上と報告されており、有効性は明らかである。接種後の反応としては発熱が約2030%、発疹は約10%認められるいずれも軽症であり、ほとんどは自然に消失する熱性けいれん既往に対しては、発熱性疾患罹患時と同様の方法で抗けいれん剤(例:ジアゼパム坐剤)による予防が可能である。

ワクチンアレルギーの原因となったゼラチンに関しては、ゼラチン・フリーや低アレルゲンゼラチン採用するなどで改善された。ごく稀に100150 接種に1例程度脳炎を伴うことが報告されているが、麻疹に罹患したときの脳炎発症率比べる遙かに低い。

感染症法における取り扱い2003年11月施行感染症法改正に伴い更新
麻しん成人麻しんを除く)は5類感染症定点把握疾患定められており、全国約3,000カ所の小児科定点より毎週報告なされている。報告のための基準以下の通りとなっている。

診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、以下の3つの基準全て満たすもの
1. 全身発しん回復期には色素沈着を伴う)
2. 38.5 上の発熱
3. 咳嗽鼻汁結膜充血などのカタル症状
 なお、コプリック斑出現診断のための有力な所見となる

上記基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、病原体診断血清学診断によって当該疾患診断されたもの。


文 献
1 )国立感染症研究所 感染症情報センター. 麻疹の現状と今後の麻疹対策について. 2002, http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/report2002/measles_top.html
2 )多屋馨子, 新井智, 松永泰子, 岡部信彦:2000 年度麻疹血清疫学調査ならびにワクチン接種調査感染症流行予測調査より~IASR.2001;22 (11):275-277.
3 )Griffin D.E.Measles virus.In:Fields Virology 4th editioned by Knipe D.M., Howley P. M.2001;pp1401-1441. Lippincott Williams&Wilkins USA.
4 )Dorig RE,Marcil A,Chopra A,Richardson CD :The human CD46 molecule is a receptor for measles virus (Edmonston strain). Cell 1993;75295‐305.
5 )Tasuo H, Ono N,Tanaka K,Yanagi Y.:SLAMCDw 150is a cellular receptor for measles virus. Nature 2000406, 893-897.
6 )Nomenclature for describing the genetic characteristics of wild‐type measles virusesupdate)WER 76, 242-247, 2001part I), WER 76, 249-251, 2001part II
7 )Cherry J.D.Measles virus.In:Textbook of pediatric infectious diseasesed by Ralph D. Feigin, James D.Cherry, 1998;pp1922-1949, W. B. Saunders Company, USA.
8 )Katz SL., Gershon AA., Hotez PJ.:Measles(Rubeola):Krugman's Infectious Diseases of Children,10th ed. Mosby-Year Book, Inc. 247-264, 1998
9 )Committee of Infectious Diseases American Academy of Pediatrics:Measles. In:Red book 2000 Report of the committee on infectious diseases 25th edition 385-396.
10 )Kobune F, Sakata H, Sugiura A.:Marmoset lymphoblastoid cells as a sensitive host for isolation of measles virus.J Virol.1990;64:700-5.

国立感染症研究所感染症情報センター 多屋馨子)









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