様式と完成の25の大練習曲とは? わかりやすく解説

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カルクブレンナー:様式と完成の25の大練習曲

英語表記/番号出版情報
カルクブレンナー:様式と完成の25の大練習曲25 grandes études de style et de perfectionnement Op.143出版年1839年  初版出版地/出版社Paris: Meissonier,Milan: F. Lucca, Leipzig: Fr. Kistner  

作品概要

楽章・曲名 演奏時間 譜例
1 ヘ長調 F-durNo Data No Image
2 ヘ短調 F-mollNo Data No Image
3 変ロ短調  b-mollNo Data No Image
4 ロ長調 H-durNo Data No Image
5 イ短調 A-mollNo Data No Image
6 嬰ヘ長調 Fis-durNo Data No Image
7 ハ短調 C-mollNo Data No Image
8 ハ長調 C-durNo Data No Image
9 変ホ長調 Es-durNo Data No Image
10 ホ短調 E-durNo Data No Image
11 ハ長調 C-durNo Data No Image
12 変イ長調 As-durNo Data No Image
13 嬰ヘ短調 Fis-mollNo Data No Image
14 ロ短調 H-mollNo Data No Image
15 ハ長調 C-durNo Data No Image
16 前奏曲 嬰ハ短調 Preludio Cis-mollNo Data No Image
17 短調 F-mollNo Data No Image
18 イ長調 A-durNo Data No Image
19 変ホ長調 Es-durNo Data No Image
20 ト長調 G-durNo Data No Image
21 ト短調 G-mollNo Data No Image
22 嬰ト短調 - 変イ長調 Ges-moll - As-durNo Data No Image
23 ホ短調 E-mollNo Data No Image
24 変ロ長調 B-durNo Data No Image
25 トッカータ ハ短調-ハ長調  Toccata C-dur - C-mollNo Data No Image

作品解説

執筆者: 上田 泰史 

背景
カルクブレンナーは、1816年から1847年までの間に、7冊の練習曲集Op. 20, 108, 126, 143, 161, 169, 182)を出版している。作品10812曲の練習曲がついたメソッドで、「手導器」guide-mainsと呼ばれる演奏補助器具と共に売り出された。続く練習曲集作品126は、このメソッド予備練習として、また作品143は、その補遺としてもくろまれたものである。この《25様式と向上の練習曲作品143Paris: Meissonier)が出版されたのは1839年6月のことである(パリの他、ライプツィヒミラノでも出版された)。第1番~第13番までが第1巻第14番~第25番までが第2巻という構成をとる。1830年代後半多くピアニスト作曲家たちが競い合うように難技巧を駆使した練習曲出版した時期であり、カルクブレンナーもその潮流乗り遅れることはなかった。その一方で、この時期、単に技巧的難しさだけでなく、練習曲様式多様性求め動き顕著になるショパンの《12の練習曲作品25(1837)には、例えバレエ音楽風の飛び跳ねる動きを伴う第4曲や、歌唱様式第7曲などが含まれるカルクブレンナーのこの練習曲また、難技巧と同時に多種多様な性格の曲を含んでいる。

タイトル意義
このタイトルにある「様式style」とは、当時音楽的文脈においては作品のもつ性格、およびそれを、演奏通してそれを表現することと理解されていた。一方、「向上」perfectionnementとは、「より完全な状態に向かうこと」を意味するここで言う「完全」とは、三度オクターヴといった演奏技巧上の完全性である。したがって、この練習曲タイトル意義は、様々な性格作品を、その性格相応し方法演奏し同時に技巧をより完全なものとするための練習曲ということである。1842年作曲家批評家のジョルジュ・カストネルは、『ル・メネストレル』紙でこの曲の批評記事出したが、彼はこの練習曲表現にかかわる側面演奏技巧フランス語では「メカニスム」と呼ばれる)の双方を学ぶことができる点にこの練習曲特徴見出して次のように述べている。

教師となり、自己完成させたい人は、メカニスムという点からと同様に表現という点から24の大「練習曲」に助力求めるのがいいだろう和声豊かさ純粋さ、新鮮で傑出した旋律、ゆったりとしてかつ識者らしい仕上がりこうしたことはこの注目すべき出版物一般的な特徴である。(Le Menestrel. Dimanche, 13 mars 1842, neuvieme annee, no.15 p.1-2)

これ以後タイトルに「様式」という言葉用い練習曲次々出版されるようになった。たとえばフランスピアニスト作曲家アンリ・ラヴィーナ1847年カルクブレンナーのこの練習曲集同名練習曲集作品14出版している。この両者エチュードにおいて少なからず影響し合っているらしいということをここで指摘しておこう。カルクブレンナーのこの練習曲集半年先立って1839年1月出版されラヴィーナの《演奏会用練習曲作品1にも、カルクブレンナー参照した思われる類似の曲がいくつか含まれているのである両者の関係については適宜個別曲解説の中で言及する

以下、各曲様式技巧上の特徴着目しながら各曲解説する

各曲の解説

第1曲 ヘ長調 4/4 Leggiero e vivace
分散されオクターヴ練習曲全曲中でも比較小節数が少ない曲で、プレリュードのような役割果たしている。カルクブレンナー左右の手均質な機能性獲得することを早くから説いていたが、オクターヴの音型はここでも左右の手適用されている。

第2曲 ヘ短調 12/16 Moderato
分散和音、手の跳躍練習曲和音とそれに続くユニゾンによる5音を主要モチーフは、中間部遠隔調への巧み転調繰り返しながら劇的に展開される再現部では冒頭モチーフ始め左手和音跳躍によって重厚さ増し次に5音のユニゾン音が両手オクターヴ奏でられクライマックス形成する。短いながら、ひとつの着想基づいて入念に構成され一曲である。

第3曲 変ロ短調 4/4 Presto
和音オクターヴ急速な連打練習曲同年出版されラヴィーナの《演奏会用練習曲作品1第2番類似の手法書かれている中間部には三和音による半音階演奏する小さな難所設けられている。

第4曲 ロ長調 4/4 Moderato
跳躍する和音練習曲和音跳躍技巧上の主な課題としつつ、和音の間を縫うように甘美な旋律たくみに織り込まれている。曲の中ほど(第1719小節目)には異な声部間で冒頭モチーフ模倣見られるなど、短い曲ながら入念な展開が行われる。オーケストラ楽器彷彿とさせる色彩豊かな一曲である。

第5曲 イ短調 6/8 Allegro furioso
急速に跳躍する分散和音オクターヴ練習曲ピアノ幅広い音域和音を鳴らすことによって大音量を探求する重厚なスタイル貫かれている。

第6曲 嬰ヘ長調 2/4 Moderato il canto molto espressivo e marcato
異な声部引き分ける歌唱様式練習曲書法技巧上の目的という観点から見れば、この曲はショパンの《12の練習曲作品10-3相当する歌唱声部である最上声部際立たせ、内声部は背景となる。主題部甘美な雰囲気とは対照的に短調基調とし次々転調する中間部ほの暗い情熱的な気分支配される当時のオペラ・アリアに霊感受けた情景的な一曲である。

第7曲 ハ短調 4/4 Allegro furioso
オクターヴ押さえながら分散和音奏でる練習曲行進曲風の8小節序奏続き厳しさのある主題登場する。同じ音型が続く中にも内声繋留音強調されるなど豊かな創意工夫聴き手注意を引く(第26, 28小節など)。ハ長調中間部主題部はまった様式異にしたバロック室内協奏曲風の楽想によっている。もっぱら平易な音階構成されるこの箇所には、克服すべき技巧上の課題認められない。これは異な様式主題部対置させることによって、一曲中に様式上の多様性確保しようという表現上の要請から挿入された楽段であろう

第8曲 ハ長調 12/8 Allegrissimo
軽快分散和音練習曲息の長い右手分散和音を主要主題とし、16分音符による全音階半音階軽快パッセージ随時両手課される再現部直前にはこの世代の作曲家が度々用いた両手三度によるパッセージささやかな難所形成している。ただし、分散和音はほとんど右手のみに適用されており、左手分散和音奏でるのは最後ページの数小節のみである。両手均質性にこだわった30年代初期練習曲比べればいくらか柔軟性見られる

第9曲 変ホ長調 3/4 Poco Allegro
和音跳躍練習曲終始16分音符和音継起によって成り立っている。リズム多様性求めない分、和音跳躍によって幅広い音域使用し、また甘美な旋律歌わせる

第10曲 ホ短調 3/4 Allegro e molto staccato
装飾的な分散和音スタッカート同音連打左手跳躍練習曲軽快舞曲風の性格を持つ一曲主題反復される際に4-4という運指急速な同音連打要求する第7番同様、主題部とは対照的な様式中間部がおかれ、緩やかなホ長調ポリフォニー現れる

第11番 ハ長調 4/4 Moderato quasi Adagio
分散和音三度六度練習曲きわめて優美な歌唱様式よる。わずか22小節ながら、装飾的なパッセージグリッサンドなどさまざまな技法盛り込まれている。

第12番 変イ長調 4/4 Molto Allegro
手の交差練習曲。5連符分散和音による伴奏一貫して右手担い左手右手飛び越えながらバス旋律線を演奏する同種の技法はすでにショパン友人J.-C.ケスラーの《練習曲集作品20(1828)やラヴィーナのいっそう過激な演奏会用練習曲作品1(第11番)に見られる。彼らより年長カルクブレンナー若い世代張り合いながらこの技巧取り組んでいる。

13嬰ヘ短調 4/4 Moderato e Legato
分散されるオクターヴ親指内声旋律際立たせて演奏するための練習曲主部一貫して旋律形作る右手分散オクターヴのフィギュレーションで構成され左手軽快分散和音を刻む。主部後半には同主調変ヘ長調転調する美し瞬間がある(第2122小節)。嬰ヘ長調中間部は、同時代色合いを持つ主部とは異なり古典的な様式書かれており、第7、10番同様、様式対照性がここにも見出せる。一つの曲の中で即座に演奏様式変える」ことを要求しているのである

14ロ短調 2/4 Molto Allegro
手の交差跳躍オクターヴ分散和音三度練習曲和音オクターヴによるきびきびとした動き主部対し、同主調ロ長調提示される中間部様式主部とは対照的である。中間部甘美な旋律的とそれを飾る分散和音三度の音型で構成されるが、そこには冒頭動機忘れられることなく織り込まれており、全体統一図られている。

15ハ長調 3/4 Brillante
三度六度オクターヴ練習曲一貫したリズム動機特徴づけられた軽快優美な性格一曲カルクブレンナーの《メソッド作品108収録され練習曲では、技巧様式両面から第11番相当するが、こちらの方が技巧多様性富んでいる。

16曲 Preludio 嬰ハ短調 3/4 Moderato e espressivo
ポリフォニー練習曲。この曲は《前奏曲》という特別なタイトルつけられている。厳格ではないにせよ、対位法的な配慮至る所見られるJ. S. バッハ鍵盤作品通じていたカルクブレンナーは、ここで過去様式同時代様式とを調和させている。彼は、早くから各指の独立訓練のためにポリフォニック作品演奏学習者にとって不可欠考えていた。それは、作曲規範とされた対位法的作品身体刻み込ませることで、規範性身体化し保存するためであった曲尾ヘミオラ極めて印象深い

17ヘ短調 2/4 Tempestoso
和音連打半音階練習曲繰り返される急速な半音階は、19世紀音楽家たちの間では風や嵐を連想させる一つトポスであった。この曲の表現とりわけ当時パリ音楽家で知るもののなかったであろうロッシーニの《ウィリアム・テル》(1829)序曲登場する嵐の場面思い出させる中間部は同主調変イ長調勇ましく優美なオクターヴ旋律主題部好対照をなす。

18イ長調 12/16 non troppo allegro il canto ben marcato
両手対照的な分散和音練習。このフィギュレーションは1837年ショパン出版した12の練習曲作品25第1番通称エオリアン・ハープ」)のそれに近く風にたなびくような曲想類似している。最上声部だけでなく、内声バスにも巧みに旋律隠されており、どの旋律際立たせ、あるいは背景残しておくのか、繊細な配慮要求される

第19番 変ホ長調 2/4 Molto Appassionato
急速な分散和音オクターヴ練習曲右手32分音符分散和音 + 8分音符オクターヴという終止一貫したフィギュレーションで書かれているが、下属調による中間部以降左手にも32分音符分散和音適用されるすぐれて同時代的できらびやかな一曲

20番 ト長調 3/4 Moderato
トリル練習曲4つ声部からなる管弦合奏曲風の小品で、主題部トリルフルートを、イ短調に始まる中間部トリルファゴット連想させる主題部後半(第5~8小節)、中間部後半(第1315小節)、それ以降主題再現部最上声とテノール音域配置された「フルート」と「ファゴット」のデュオであり、もう一本高音楽器低音楽器伴奏する

21番 ト短調 2/4 Risoluto e agitato
オクターヴによる旋律伴奏声部右手引き分けるための練習曲左手専ら伴奏副旋律を担う。ハ短調に始まる中間部旋律一見新しいようだが、実は主題リズム旋律形を僅かに変形させているだけで、同一着想基づいていており、楽曲内的統一への配慮みられる。音型の一貫性多様にしているのは左手であり、例えば第21~22小節目に現れる内声旋律、第4346小節目に現れるホルンの音型が曲に奥行き与えている。

22番 嬰ト短調変イ長調 2/4 Presto, molto agitato
同音連打スタッカート練習曲主題冒頭同音反復(嬰ニ音)はすべて5の指で処理するよう指示されている。スタッカート強調するためにカルクブレンナーがしばしば支持する奏法一つである。中間部には巧み転調幾つもみられる。はじめは嬰ハ短調基調とするが、嬰ハ短調嬰ト短調へと転調し、これが変イ短調読み替えられ嬰ト短調主題回帰する再現部入念に作りこまれており、主調異名同音調の並行調である変イ長調転調し、両手分散和音同音連打の音型を演奏し、この調のまま曲は閉じられる

23ホ短調 3/4 Molto allegro
15曲同様、三度主眼置かれ練習曲。但し、曲の性格は全くことなる。第15曲がスタッカート基調とした軽快曲想であったのに対し、この曲では基本的にレガート三度四度演奏することが求められている。レガート中にはスタッカート時折挿入され様々なアーティキュレーション練習兼ねる。

24番 変ロ長調 4/4 Vivo e agitato
オクターヴ跳躍練習曲飛び跳ねる左手の音型によって、バレエ風の軽快様式特徴づけられている。反復記号繰り返される中間部(第9~12小節)・再現部のうち、前者ではオクターヴ跳躍左手によって担われる。コーダでは第20番トリルの音型が一瞬現れる

25ハ短調ハ長調 Toccata 4/4 Allegrissimo
レガート敏捷な手の動き練習。その他、分散和音同音連打オクターヴ跳躍など多く技術上の課題を含む。トッカータ名付けられ練習曲は、カルクブレンナーの《メソッド作品10810番同年生まれ音楽院同僚であるヅィメルマンの《25の練習曲》(1831)における終曲24番などにみられる。この時期トッカータ・エチュードは、拍子調性一貫した傾向認められるわけではないが、無窮動的な動き共通している。この第25番は曲集において最も長く華麗に書かれており、曲集を終えるために意図的に労作されたと考えられる
全体複縦線区切られ4つセクション(A-B-A’-C)からなりロンド風の体裁をとる。冒頭三連音符系の急速なリズム模倣による出だしジーグ印象強めている。この点から見れば、《メソッド作品108第6番類似性見出すことができる。出だしフーガ装うが、以後厳格なフーガ書法適用されていない。Aが反復記号により繰り返され変ホ長調閉じられると、ロ短調エピソードBに入る。BはA同様模倣によって始まり第1番練習曲現れオクターヴ跳躍の音型が両手適用される一時ハ長調転じるが、直ちハ短調主和音解決しA’が導入されるハ長調のCは長大コーダとみることもできる。ここでは当時ピアノ協奏曲聴かれる、左手軽快伴奏を伴う右手華麗な走句が展開され曲尾向けて華々しいクライマックス形成される




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