東日本方言とは? わかりやすく解説

東日本方言

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/01/07 09:55 UTC 版)

東日本方言
話される国 日本
言語系統
日琉語族
言語コード
ISO 639-3
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東日本方言(ひがしにほんほうげん)または東部方言(とうぶほうげん)とは、東日本で話される日本語の方言の総称。西日本方言九州方言とともに日本語本土方言を構成する。

下位方言

都竹通年雄は、東日本方言を次のように分けた。

また、東条操は、岐阜・愛知方言も東日本方言に含め、次のように細分化した。

一方、平山輝男は、八丈方言は本土の他方言との違いが大きいと見て、東日本方言とは別に本土方言の中の独立した方言とした[1]。 また、奥村三雄は主に音韻体系とアクセントの違いから東日本方言を

  • 北奥羽方言、南奥羽方言、東関東方言
  • 越後方言、西関東方言、長野・山梨・静岡方言、岐阜・愛知方言

に二分した。

なお、北陸方言は西日本方言に属するが、発音は東北方言に似た面もある。

発音

  • 多くの方言で母音無声化が見られ、母音よりも子音重視の方言である。後述するような、ウ音便を使わないことや「じゃ」ではなく「だ」を用いることも、子音重視の傾向が反映しているという[2]
  • 母音 /u/円唇母音として発音することは少ない。東北では [ɯ̈]、中部では [ɯ]
  • 連母音の融合が見られる。
  • アクセントは北海道・北奥羽・西関東・東海東山で東京式アクセント、南奥羽・東関東などでは無アクセントとなる。

文法

  • 動詞の一段活用・サ変活用の命令形語尾に「よ」でなく「ろ」を用いる。「ろ」は万葉集東歌にも現れ、上代語から続く特徴である。
  • 否定の助動詞として「ぬ・ん」でなく「ない」を用いる(あるいは「ねえ」も用いることがある)。「ない」は同じく東歌に現れる「なふ」に由来する可能性があるが、異論もある[3]。過去否定も「なかった」「ないかった」を用いる(東北では「ねえがった」、「ねがった」を用いることがある)。
  • 動詞・形容詞連用形におけるウ音便がない。すなわち、形容詞の連用形は原型を用い(「高う」ではなく「高く」)、ワ行五段動詞の連用形音便は促音便(「貰うて」ではなく「貰って」)である。
  • 断定に「じゃ」でなく「だ」を用いる(この違いは室町時代に遡る)。
  • 推量・意志・勧誘の助動詞として、東北・関東の広い範囲で「べ(ー)」(古語「べし」に由来)が用いられる。ナヤシ方言では「未然形+ず・す」(古語の「むず」に由来)や「終止形+ら・ずら・だら・だらず」が用いられる。
  • 人や動物の存在を「おる」でなく「いる」で表現する。進行形などを表す補助動詞も「て(い)る」。
  • 結果態と継続態の区別を持たない[4]
  • サ行イ音便がない[4]

西日本方言との関係

  • 東海東山方言は文法において西日本方言との遷移地帯のため、上記の文法性質が当てはまらないものも多い。特にギア方言は文法や語彙の面から西日本方言に含む場合もある。
  • 山陰方言東山陰方言および出雲式方言)では断定助動詞の「だ」、ワ行五段活用動詞連用形の促音便「カッタ(買った)」など、東日本方言と共通する要素がいくつかみられる。
  • 出雲式方言や北陸方言裏日本方言の音韻体系を持っており、これは東北方言と共通する。
  • 文法上の東日本固有の主要な要素は否定助動詞「ない」及び「ねえ」と推量・意志・勧誘の助動詞「べ(ー)」(関東・東北)のみである。断定の「だ」とワ行五段動詞促音便は山陰に、形容詞連用形のク接続は琉球方言にみられ、「むず」や「らむ」が変化した推量・意志・勧誘の「終止形+ら・ずら・だら・だらず」「未然形+ず・す」についても山陰で「だら」があり、出雲市に「だらじ」がわずかに見られる[5][6]

歴史

日本語は上代から近世にかけての中央語である近畿方言を中心にして発展したとされる(方言周圏論も参照)。上代東国方言では中央語と異なる多くの言語現象があり、その一部(命令形「-ろ」など)はそのまま現代まで引き継がれたが、多くは中央語からの同化作用を受けた。金田一春彦は、現代東日本方言は平安時代以降の近畿方言から分岐したもので、八丈方言が上代東国方言の直接の子孫にあたるとしている[3]。また歴史的な背景から、東京方言は語法・語彙・発音に非東日本的な要素もみられ、特に敬語体系などにおいて関西方言との共通性が大きい[7]

脚注

  1. ^ 平山輝男「八丈方言の特殊性」1960年(柴田武、加藤正信、徳川宗賢編『日本の言語学 第6巻 方言』岩波書店、1978年)
  2. ^ 佐藤武義『概説日本語の歴史』朝倉書店、1995年、249頁。
  3. ^ a b 金田一春彦「東国方言の歴史を考える」
  4. ^ a b 馬瀬良雄(1980年)『上伊那郡誌 民俗編下』
  5. ^ 方言文法全国地図 239 行っただろう” (PDF). 国立国語研究所. 2015年3月28日閲覧。
  6. ^ 方言文法全国地図 238 行くのだろう” (PDF). 国立国語研究所. 2015年3月28日閲覧。
  7. ^ 田中章夫『東京語―その成立と展開―』明治書院、1983年、17頁。

参考文献


東日本方言

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/16 22:29 UTC 版)

日本語の方言」の記事における「東日本方言」の解説

詳細は「東日本方言」を参照 北海道方言北海道内陸部方言 海岸部方言松前方言松前町中心に上ノ国町福島町分布道南方言函館市中心とし、内陸七飯町厚沢部町などを含む渡島・檜山地方分布東北方言北奥羽方言津軽弁青森県津軽地方下北弁青森県下北半島南部弁青森県および岩手県の旧南部藩領内)八戸弁青森県八戸藩領内) 盛岡弁岩手県盛岡市岩手県盛岡藩領内) 秋田弁秋田県)(秋田弁の文法秋田弁の音韻秋田弁のアクセント参照庄内弁山形県庄内藩領内庄内北部方言 庄内南部方言 小国方言山形県小国町。旧小国藩・米沢藩北越方言新潟県阿賀野川以北大鳥方言・三面方言山形県鶴岡市大鳥新潟県村上市三面南奥羽方言 ケセン語岩手県気仙郡宮城県気仙沼市岩手県南部方言岩手県南部。旧仙台藩領内) 仙台弁宮城県山形県内陸方言(山形県内陸部。山形弁参照村山弁山形市中心とする村山地方|旧山形藩香澄町弁 新庄弁新庄市中心とする最上地方|旧新庄藩置賜弁米沢市中心とする置賜地方|旧米沢藩福島弁福島県中通り方言福島県中通り狭義福島弁浜通り方言福島県浜通り会津弁福島県会津関東方言東関東方言学者によっては東北方言含める)茨城弁茨城県栃木弁栃木県足利市佐野市付近は除く) 西関東方言足利弁/両毛弁栃木県足利市付近群馬弁/上州弁群馬県埼玉弁埼玉県東部東関東方言に近い)秩父弁 房総弁千葉県)(西関東方言東関東方言中間地帯東総弁千葉県東部房州弁千葉県南西部多摩弁東京都多摩地域その周辺神奈川県方言神奈川県横浜弁神奈川県横浜市中心部相州弁神奈川県相模国。旧横浜市街地と津久井郡西部を除く) 郡内弁山梨県郡内地方神奈川県津久井郡西部東京方言/東京弁東京都区部江戸言葉/江戸弁/下町言葉東京下町山の手言葉東京山の手首都圏方言共通語と、東京方言を含む西関東方言中心に各地方言融合して成立した新方言東海東山方言越後方言新潟県越後中越方言越後中部新潟弁新潟市中心とする地域長岡弁長岡市中心とする地域中越南部方言魚沼地方奥信濃方言長野県栄村西越方言越後西部上越弁上越地方糸魚川弁糸魚川市、旧青海町を除く) 秋山郷方言新潟県津南町長野県栄村秋山郷長野山梨静岡(ナヤシ)方言長野県方言/信州弁長野県奥信濃方言栄村北信方言長野南端部除く)、北信地域栄村除く)) 東信方言上田佐久地域長野地域南部中信方言上伊那北部太田切川以北)、諏訪松本北アルプス地域南信方言木曽南信州地域上伊那地域南部太田切川以南)) 山梨県方言甲州弁山梨県国中地方奈良田方言山梨県早川町奈良田静岡弁伊豆弁静岡県伊豆半島駿河方言静岡県中東部) 井川方言静岡県井川村周辺遠州弁静岡県遠江国北部伊豆諸島方言東京都伊豆諸島御蔵島以北岐阜愛知ギア)方言学者によっては西日本方言含める)三河弁愛知県三河国尾張弁/名古屋弁広義)(愛知県尾張国名古屋弁狭義)(名古屋市付近知多弁知多半島美濃弁岐阜県美濃国北部除く)) 飛騨弁岐阜県飛騨国美濃国北部

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東日本方言

出典:『Wiktionary』 (2012/06/27 07:00 UTC 版)

名詞

東日本方言ひがしにほんほうげん

  1. 東日本話される日本語方言総称東部方言(とうぶほうげん)とも。

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