カラーフィールド・ペインティング
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/29 18:32 UTC 版)
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カラーフィールド・ペインティング(英語: Color field painting)は、1950年代末から1960年代にかけてのアメリカ合衆国を中心とした抽象絵画の一動向。絵の中に線・形・幾何学的な構成など、何が描かれているか分かるような絵柄を描いたりはせず、キャンバス全体を色数の少ない大きな色彩の面で塗りこめるという特徴があった。その作品の多くは巨大なキャンバスを使っており、キャンバスの前の観客は身体全体を一面の色彩に包み込まれることになる。
語源
もともとは巨大な絵を制作することを通して、観客を包み込むような「場所」を作り観客に超越的な感覚を与えたいと語っていた画家バーネット・ニューマンの絵画を評して、批評家クレメント・グリーンバーグが1955年に使った言葉であった。この言葉は、色彩(カラー)を使ってキャンバスに「場(フィールド)」を出現させようとした同時代の抽象画家、特に抽象表現主義などの作家について説明するためにも使われるようになった。
色彩と場
グリーンバーグの説明する「場」とは、部分や要素の集合ではなく全体性や構造こそ重要視されるべきとしたゲシュタルト心理学を応用したものである。カラーフィールド・ペインティングで作られる絵画平面では、色面に中心や焦点がなく、「地」と「図」(柄と背景)の区別もなく、厚みもなく平面的で、どこをとっても均質で、画面を越えて色面がどこまでも続いているように見える、「オールオーバー」といわれる画面作りがされている。ここでは、絵画はのぞき窓ではなく、絵具を乗せた単なる平面だと認識された。そのため、画面の中に三次元の奥行きや世界があるように錯覚させる陰影や透視法などヨーロッパ絵画の伝統的な「イリュージョン」は否定されている。また花や人物、幾何学的図形といった主役となる中心(ヒエラルキー)は「地」と「図」の区別をつくってしまうためこれも否定されている。色彩はこうした陰影や物を描くために従属的に使われるのではなく、平面自体が主役となるような場を作るために使われている。
クレメント・グリーンバーグは、これら色彩や輪郭線の区別のあいまいな絵画作品を、1964年に自ら企画した展覧会名にちなみ「ポスト・ペインタリー・アブストラクション」(「絵画的抽象以降の抽象」、「地」に何か「図」が描いてある絵画的な状態を克服して、平面的で一切のイリュージョンを廃した抽象画)と呼んだが、最初にニューマンを評した際に使ったカラーフィールド・ペインティングが定着した。
フォーマリズムとモダニズム
グリーンバーグは、同時期の絵画を評して使われた「アクション・ペインティング」という用語の、美術家の行為を重視する見方より、美術家が作り出す絵画の形態を重視するフォーマリズムの立場を強調し、内容よりも形態こそが美術を批判的に評価して前進させる原動力と考えていた。彼は、モダニズム美術は自己批判を繰り消しながら余計な物をそぎ落とし根本的な要素まで還元し、形態・輪郭・色彩が平面上ですべて一つになる「形態的な純粋性」にいたる途上にあるとして、カラーフィールド・ペインティングをモダニズムの前衛として評価した。
他の時代の美術との関係
還元的になりすぎたカラーフィールド・ペインティングは1960年代には一旦下火になりグリーンバーグも大きな批判を受けたが、その作家たちは以後も試行錯誤を続け後進の美術家たちに影響を与え、1990年代以降にはグリーンバーグも再評価の動きがある。
カラーフィールド・ペインティングの原点を、20世紀前半のシュプレマティスムに求める考えもある。また、観客を包み込み空間を変容させる作品、というアイデアは、1970年代以降のインスタレーションにもつながっている。
カラーフィールド・ペインティングの代表的な画家
- アンソニー・カロ
- ヘレン・フランケンサーラー
- モーリス・ルイス
- ロバート・マザウェル
- バーネット・ニューマン
- ケネス・ノーランド
- マーク・ロスコ
- フランク・ステラ
- 中里斉
- 根岸芳郎
関連項目
外部リンク
カラーフィールド・ペインティング
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「抽象表現主義」の記事における「カラーフィールド・ペインティング」の解説
同じ抽象表現主義としてくくられながら、アクション・ペインティングより静かな印象を与えるのが「カラーフィールド・ペインティング」であろう。こちらはその名のとおり、行為によってよりも「色彩」によって、観客を包む「場」を形成するような作品といえる。 キャンバス全体にあまり多くない数の色面が大きく、バランスよく配されている。またその色面には中心や焦点がなく、「地」と「図」の区別もなく、厚みもなく平面的で、どこをとっても均質で、画面を越えて色面がどこまでも続いているように見える、「オールオーバー」といわれる画面作りがされている。 彼らは、絵画はのぞき窓ではなく、絵の具を乗せた単なる平面だと認識した。そのため、画面の中に三次元の奥行きや世界があるように錯覚させる陰影や透視法などヨーロッパ絵画の伝統的な「イリュージョン」は全面的に否定している。また花や人物といった主役となる中心(ヒエラルキー)は「地」と「図」の区別をつくってしまうためこれも完全否定され、平面自体が主役となるように作品を作っている。 たとえばバーネット・ニューマンの、人間以上に大きな大画面を一つの色彩で覆いつくし、そのなかに人間の姿を象徴するような一本の白く縦長の細長い色面(「zip」)を置いて崇高さを醸し出す作品、マーク・ロスコの、大画面に巨大な色面を、何重にも色彩を塗り重ねて作り出した、色が画面からじわじわと放射されるような作品、アド・ラインハートの一色だけで塗られた大画面のように見えて、実は格子状にほんの少し違う色が描き分けられている作品、モーリス・ルイスの下塗りをしないキャンバスに薄めた絵具をたらして、偶然性によりいろいろな色の染みやにじみを作り出した作品(まさに平面そのもの)など、多くは大画面が奥行きのない一つの色で塗られ、それが絵画としての場を形成するようなものである。また、カラーフィールド・ペインティングの特徴は、実は先述のアクション・ペインティングの美術家にも共通しており、ポロックなどのペンキのドリップはまさにオールオーバーに大画面を覆いつくして焦点も始めも終わりもないかのように見える。 これを1950年代から60年代にかけて理論的に主導したのが評論家クレメント・グリーンバーグである。彼はこれらの美術家を1964年に自ら企画した展覧会名にちなみ「ポスト・ペインタリー・アブストラクション」(「絵画的抽象以降の抽象」、「地」に何か「図」が描いてある絵画的な状態を克服して、平面的で一切のイリュージョンを廃した抽象画)と呼んだが、最初にニューマンを評した際に使ったカラーフィールド・ペインティングが定着した。 グリーンバーグは、かつて1930年代に「アヴァンギャルドとキッチュ」という評論を書き、大衆向けの文化を前衛の反対にある俗悪なキッチュだと断じ、明確な主題を持たないがゆえに大衆を寄せ付けない難解な美術を称揚した。戦後になって、さらに「フォーマリズム」の理論を深化させて独自の理論を打ちたてモダニズムを擁護し、抽象表現主義をフォーマリズムに即した美術として賞賛した。 フォーマリズムとは、描かれた内容より形式(フォーム)を重視し、内容からではなく形式から作品を解釈する美学理論でありその歴史は古いが、グリーンバーグは内容より形式にこそ美術を批判的に評価し前進させる力があると考えた。アカデミックな写実に反抗しキュビズムなどから始まったモダニズムは、それ自体の「内的論理」、つまり「自己批評」(美術についての美術であること)と「自己規定」によってある必然的な結論へと突進し、もっとも純粋な美術の形態へと至ることになっている、と彼は言う。絵画が三次元の再現ではなくただの平面だと気づいた初期の抽象画家たちの段階から、いまだ絵具を昔同様に形態・輪郭・色彩に分割されるように用いている幾何学的抽象などの段階を経て、最終的な結論である「形態的な純粋性」にいたり、形態・輪郭・色彩が平面上ですべて一つになるスタイルが完成する、というのが彼の説であった。余計な要素を絵画からそぎ落とし必要で根本的な要素にまで還元することによりモダニズムが最終的な美術の形態になるという彼の議論は美術界に大きな影響を与えた。グリーンバーグはフォーマリズムの立場から批評を加え美術家たちの制作にも介入し、美術家の側もフォーマリズムの理論に沿うべく、イリュージョンを廃し平面的で色面以外の何をも描かない抽象画を作ることを心がけた。
※この「カラーフィールド・ペインティング」の解説は、「抽象表現主義」の解説の一部です。
「カラーフィールド・ペインティング」を含む「抽象表現主義」の記事については、「抽象表現主義」の概要を参照ください。
「カラーフィールドペインティング」の例文・使い方・用例・文例
カラーフィールド・ペインティングと同じ種類の言葉
絵画に関連する言葉 | 形而上絵画(けいじじょうかいが、ケイジジョウカイガ) 具象絵画 カラーフィールドペインティング ペン画 モノクローム |
ペインティングに関連する言葉 | ファブリックペインティング マットペインティング カラーフィールドペインティング ボディペインティング フィンガーペインティング |
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