形而上学 形而下学

形而上学

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/06 04:08 UTC 版)

形而下学

形而下学は、実体のない原理を研究の対象とする形而上学の反対であって、実体のあるものを対象とする応用科学の学問。

易経』繋辞上伝にある「形而上者謂之道 形而下者謂之器」という記述に依拠すると、「」は、世界万物の本質、根源であり、形のないもの。その形のないものがいざ実体のあるものに変遷した場合、『易経』はその状態を「形而下」とし、その状態にある物質を「器」と呼ぶ。「道」は「器」の根源であるに対して、「器」は「道」の発展形。

フランシス・ベーコンによれば、学問を形而下学 (physics) と形而上学の二つに分け、前者は原因のうち質料因や作用因を探求するものとして、自然・博物学(自然誌)と形而上学の中間に位置づける。形而上学は形相因や目的因を扱うものとしている。ベーコンの自然哲学の見地によれば、形相とは物そのもの、あるいは物の性質を構成する基本的要素としての単純性質のことであって、その数は無限にあるようなものではなく、限定されたものである。いわゆる物理法則のようなものではなく、ましてや「物の魂」とか抽象的な原理というようなものではない。これは自然科学の領域だけのことではなく、判例やコモンローの中にも隠されており、慎重な観察や体系的探求により発見できるとする[5]

毛沢東の批判による中国での影響

1949年中華人民共和国建国以後、1952年に『矛盾論[6]の発表につづき、毛沢東ソ連の政治体制への不満を噴出させる。スターリンなどの路線は、時代と環境の要素を加味できず、マルクス主義の単純コピー(「形而上学」、「教条主義」)だと強く批判した[7]。さらにその直後の文化大革命において、毛沢東語録の一部として「形而上学」という語彙が「唯心論」という意味合いで新聞などで多用された。その影響により、「形而上学」は今日に至るも中国では一般的には貶す言葉として使用されている。

脚注


注釈

  1. ^ アリストテレスは形而上学を「第一哲学」と位置づけていた。それは個別の存在者ではなく、存在するもの全般に対する考察であり、だからこそ形而上学という語は「meta」と「physics」の合成語として成り立っている。
  2. ^ 形而上学の「形而上」とは元来、『易経』繋辞上伝にある「形而上者謂之道 形而下者謂之器」という記述の用語であったが、明治時代に井上哲次郎がmetaphysicsの訳語として使用し広まった。中国ではもとmetaphysicsの訳語に翻訳家の厳復による「玄学」を当てることが主流であったが、日本から逆輸入される形で「形而上学」が用いられるようになった。牧田英二「中国語・日本語の漢字をめぐって―中国語のなかに移入された外来語としての日本語―」『講座日本語教育』第10号、早稲田大学語学教育研究所、1971年7月、162-169頁、NAID 120000785141 
  3. ^ 印欧諸語のmetaphysics、Metaphysikなどの訳語として、日本語をはじめとする漢字文化圏では、「形而上学」を当てており、これは『易経』繋辞上伝の“形而上者謂之道、形而下者謂之器”(形よりして上なる者これを道と謂い、形よりして下なる者これを器と謂う)という表現にちなんだ造語である。印欧語のmetaには、「〜の背後に」のほかにも「〜を超えた」という意味があり、自然を規定する超越者の学という意味では(語源を表現しきれていないことを除いては)学の内容をよくあらわしている。

出典

  1. ^ a b c d 『岩波哲学小事典』「形而上学」の項目
  2. ^ 竹田青嗣著『中学生からの哲学「超」入門』ちくまプリマー新書、2009年 pp74-76
  3. ^ a b c d 後掲加藤
  4. ^ 「書評:ヴィクトル・クラーフト「ウィーン学団」-科学と形而上学」大垣俊一(関西海洋生物談話会Argonauta7:20-30.2002)[1][2]
  5. ^ 黒河内晋「近代産業主義の起源--フランシス・ベーコン像の再評価」『ソシオサイエンス』第6号、早稲田大学大学院社会科学研究科、2000年、263-276頁、ISSN 13458116NAID 120000792656 
  6. ^ 毛沢東「矛盾論」
  7. ^ 唯物辩证法终将代替形而上学 ——毛泽东哲学思想浅谈





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