形而上学としてのイングソック
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/12 08:43 UTC 版)
「イングソック」の記事における「形而上学としてのイングソック」の解説
イングソックは政治哲学であるだけでなく形而上学でもある。すべての知識や現実や存在は党の集合的知性の中に存在していると仮定しており、現実とは「党が現実といったもの」のことを指すとしている。これが、最新の発表通りに党が歴史的記録を改竄させる根拠(全ての記録は党の発表と矛盾してはならないため)となっている。党の最新発表に基づき、かつて知っていた事実を二重思考を用いて、今後は嘘であると信じ、新しく捏造された「過去」を信じることによって、新たに捏造された「過去」が現実となる。こうして過去を思い通りにした党は、「過去を支配する者は未来を支配する。現在を支配する者は過去を支配する」というとおり未来までも支配することになる。 本書の第三部、主人公に対するオブライエンによる尋問においては、純粋なイングソックにおける唯我論への言及が全面的に展開される。ここで暗示されるのは、イングソックによれば現実とは外在的なものではなく、全宇宙は一人の人間の頭の中に内在するということである。それも、誤りの多い普通の人間の頭の中ではなく、集団主義体制下の党の不滅の精神の内部にしか存在しない。本人の意思あるいは党の命令次第で、本人の認識の中にある宇宙や世界では、過去というものの存在も、客観的に見えるすべての事実や物理法則も、消え失せあるいは変化してしまうのである。党が「2たす2は5である」といえば2+2=5が現実となるし、党が「あなたは存在しない」といえば、いかに矛盾していようがそれが現実となる。
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