ヘルペス脳炎とは? わかりやすく解説

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ヘルペス脳炎

【英】:Herpes encephalitis

ヘルペス脳炎は、4類感染症定点把握疾患の「急性脳炎日本脳炎を除く)」を代表する重要な疾患であり、全国500基幹病院定点より毎週報告されている(註:2003年11月施行感染症法一部改正により、5類感染症全数把握疾患急性脳炎ウエストナイル脳炎及び日本脳炎を除く)に変更)。単純ヘルペスウイルス1型herpes simplex virus type 1:HSV-1)あるいは2型herpes simplex virus type 2 :HSV-2)の初感染時または再活性化時に発症し発症年齢新生児年長児、成人)によってその病態はかなり異なる。年長児から成人のヘルペス脳炎のほとんどの症例はHSV-1によるものであり、新生児のヘルペス脳炎においては森島らの全国調査1993)によりHSV-1がHSV-2 より約2:1の比率で多いと報告されている1)HSV中枢神経系移行する経路は、上気道感染から嗅神経を介してルート血行ルート感染した神経節からのルートの3通り考えられている。新生児場合は全脳炎パターンをとることが多いが、年長児、成人においては上記ルートを介して好発部位である大脳辺縁系ウイルス到達し病変起こすとされている。
抗ウイルス剤開発されるまでの予後きわめて不良で、小児のヘルペス脳炎の致命率7080%、成人のヘルペス脳炎においても30%の致命率であると報告されていた。抗ウイルス剤開発されてからは致命率10%程度低下したものの、いまだ3分の1症例においては重度後遺症を残す重篤疾患であることに変わりはない。

疫 学
HSV世界的に広く浸透したウイルスで、感染様式HSV による皮疹口唇ヘルペス発症した患者唾液との密接な接触性器ヘルペスからの母子感染あるいは性的感染によると考えられている 2) 。
HSV‐1感染好発年齢2歳ピークがあり、6歳ぐらいまでに感染を受ける確率が高い。一方、HSV-2感染はsexually transmitted diseasesSTDとしての性質有し15歳以下の小児における抗体保有率は1%以下である。感染を受ける年齢2030 歳代が多くJohnson ら(1989)によると、米国若年成人における抗体保有率は20.2%であった報告されている 3) 。発症季節的な変動はないが、男女比ではやや男性の方が多く発症している。

森島らの全国調査結果から、我が国での小児における急性脳炎脳症発症数は約1,000~2,000 例/年で(厚生省予防接種研究班、AND 調査)、そのうちHSVよるものは約80 ~160 例と推測されている。成人含めると、森島亀井、Kagi らの報告により、年間100万人当たり1人、計300400 例といわれている。Whitley らによると米国での発症率年間50万人当たり1人であるが、年齢分布においては日本の方が10歳以下の発症率が高いようである4 ) 。参考のために、筆者らが以前にまとめた、急性脳炎脳症生じた例での原因となるヘルペスウイルスを示す(図)。

ヘルペス脳炎

図. 急性脳炎脳症原因ヘルペスウイルス阪大小児科 19942000

病原体 5),6)

HSV はヒトヘルペス科ウイルスα亜科属する約152kbp の2本鎖DNA ウイルスで、直径150200 nmである。増殖サイクル速くその後神経節潜伏感染する性質有する皮膚粘膜感染したHSV知覚神経軸索輸送により神経節へと運ばれ潜伏感染状態に入る。ウイルス粒子内では線状DNAとして存在し細胞取り込まれたあとは、環状構造をとる。再活性化時は前初期遺伝子immediate early gene)、初期遺伝子early gene)、後期遺伝子late gene)の順に転写進行しrollingcircle 型のDNA複製行いenvelopeかぶったウイルス粒子として細胞外へ放出される
HSV にはHSV-1とHSV-2が存在し、この2つウイルス間のDNA相同性は約50%である。制限酵素パターンその他の分子生物学的手法ならびに免疫学的手法用いて区別が可能である。HSV‐1は主に顔面に、HSV-2は主に外陰部病巣形成する。そのため、HSV‐1 は三叉神経節領域、HSV-2 は腰髄仙髄神経領域潜伏感染することが多い。しかし、我が国においては欧米比してHSV-1 による性器ヘルペス頻度高く新生児ヘルペス原因ウイルスがHSV-1とHSV-2 で約2:1 であることがそれを物語っている。ただし、性器ヘルペス再発頻度としてはHSV-2の方が高頻度であるため、ウイルスの型別診断を行うことは重要である。HSV細胞への進入にはenvelope存在する糖蛋白glycoprotein D(gD)およびgB関与していることが、Campadelli‐Fiumeら(1988年)、Johnson ら(1990年)、Lee&Fuller ら(1993年)によって報告されていた。その後Montgomery ら7) (1996年)、Warner ら8)(1998年)の研究で、HSV細胞進入関与する蛋白herpesvirus entry mediator (Hve )と命名され、この遺伝子産物はTNF/NGFファミリー属し、現在HveA, ‐B, ‐C, ‐D が見つかっている。
また最近では、シカゴ大学のRoizmanら、アラバマ大学Whitley らのグループにより、HSV‐1の
γ34.5 遺伝子 9) が神経病原性に関与していることが報告され10) 、この性質用いてγ34.5欠損ミュータント脳腫瘍遺伝子治療応用する報告なされている11) 。

臨床症状 1 ),2 ),6 ),12
潜伏期は2 ~12 日平均6日)である。新生児ヘルペス脳炎と小児期成人のヘルペス脳炎ではその病態異なる。その理由として、新生児ヘルペス場合産道感染したHSV血行性に全身広がり血液脳関門通過して中枢神経系到達するが、年長児や成人の場合血液からウイルス検出されないことから、神経行性にウイルスが脳に進入し好発部位である側頭葉大脳辺縁系病変呈するため、と考えられている。小児期年長児・成人違いは、小児の場合HSV初感染伴って発症することが多いのに比して成人年長児の場合はそのほとんどが再活性化によることである。
新生児ヘルペス脳炎に関しては、名古屋大学森島らの詳細な報告がある 1) 。それによると、新生児ヘルペス全身型中枢神経型、表在型の大きく3つのカテゴリー分類され脳炎症状呈するのは全身型中枢神経型である。頻度的には全身型36%、中枢神経型が36%、表在型が28%であり、発症時期は、全身型生後平均4.6 日、中枢神経型が平均11.0日、表在型が平均6.0日とされている。母親性器ヘルペスから産道感染することが最も多いが、ヘルペス病変認めない場合多く家族医療従事者含めて口唇ヘルペスひょう疽感染源なり得るため、新生児との接触には十分に注意が必要である。
臨床症状皮疹以外は非特異的で、発熱哺乳低下活気がないなどの症状から始まり痙攣肝機能異常呼吸障害出血傾向認められるうになる皮疹ない場合多く上記にあげる非特異的症状をみた場合、いかに早く新生児ヘルペス疑って治療開始するかが予後大きく左右する
年長児・成人のヘルペス脳炎はHSV-1の再活性化よるもの多くHSV‐2 は主に脊髄炎髄膜炎の形をとることが多い。急性期症状としては、発熱頭痛嘔吐髄膜刺激症状意識障害痙攣記憶障害言語障害人格変化幻視、異常行動、不随意運動片麻痺失調脳神経症状など多彩で、すべてが揃うことは少なく発熱不随意運動のみの症例経験している。中枢神経症状認め患者診た場合には、まずヘルペス脳炎を念頭に置いて迅速診断早期治療心がける必要がある
抗ウイルス剤開発により致命率減少したものの、後遺症を残す症例多く、いまだ重篤疾患一つであることと、抗ウイルス剤投与中止後の再燃には十分な注意が必要である。病原診断とは別に検査所見として、まず髄液においては髄液圧高く髄液中の細胞数軽度増加認めリンパ球単球優位である。髄液タンパク量も発症1週目をピークに、100mg/dl 程度増加認め場合が多い。髄液糖は通常正常範囲内で、病初期には高値であることが少なからず存在する
血液検査では、新生児ヘルペス場合肝機能異常LDH増加高頻度認めCRPなどの炎症反応軽度中等陽性にとどまる。播種性血管内凝固症候群DIC)を合併することも多く呼吸管理血漿交換などNICU 管理が必要となる。一方成人ヘルペス脳炎では肝機能異常頻度低く炎症所見軽度認め程度で、中枢神経系症状が主である。
画像検査では、発症早期においてはびまん性の脳浮腫認められるその後側頭葉中心としてCT上低吸収域あるいはmass effect認め出血巣が混在するうになる予後不良症例においてはその後吸収域がさらに増加するMRI はその進歩により、CT比べて早期診断有用であると言われている。CT比して側頭葉底部海馬領域など大脳辺縁系所見がとらえやすいことがその理由考えられ片側性の側頭葉下部、島、海馬などの異常所見は、強くヘルペス脳炎を疑う所見であると言われている。脳波所見では、非ヘルペス脳炎に比してparoxysmal lateral epileptiform discharges:PLEDs頻度が高い。

病原診断
髄液中のHSV DNAPCR 法検出するのが最も迅速かつ有用である。ただし、抗ウイルス剤投与後はウイルス量減少し検出感度下になるため、投与前あるいは投与初期髄液診断することが重要である。

ウイルス分離新生児ヘルペス場合陽性であることが多いが、年長児、成人のヘルペス脳炎でウイルス分離されることはきわめて稀であり、PCR 法による迅速診断必須である。髄液中のHSV 抗体価森島らによると13発症後10日から1カ月の間に1週間間隔繰り返しELISA 法実施するのが適当であるとのことである。発症後時間経過した症例や、抗ウイルス剤投与時間経過した症例などにおいては有用な検査方法である。また、ペア血清血清中のHSV IgG有意な上昇、あるいは急性期HSV IgM 陽性診断一助となるが、陰性例も少なからず存在するため、必ずその他の方法同時に行っておく必要がある

治療・予防
ヘルペス脳炎を疑う場合一刻も早く抗ウイルス剤投与開始すべきである。第1選択アシクロビルで、10mg/kg を一日3回緩徐点滴静注する。最近では、投与量を15mg/kg~20mg/kg/回に増量した方が治療成績良いとの報告投与期間も従来14 日間より21日間の方が再燃割合少ないなどの報告もみられ、今後検討課題である。また、治療終了時には、必ずPCR 法によるHSV DNA陰性化を確かめることが重要である。
アシクロビル作用機序は、HSV の持つチミジンキナーゼによりリン酸化されたアシクロビルウイルスのDNA 鎖に取り込まれDNA 鎖の伸長反応止めることにより、ウイルス増殖抑制することにある。ただし、腎機能低下した患者においては血中濃度高くなりすぎるため、クレアチニンクリアランスに応じて投与量減量が必要である。発病初期に近い程効果期待できるため、早期投与開始が望ましい。
第2選択剤はビダラビン(Ara-A)である。アシクロビル効果不十分な場合投与考慮するその場合、アシクロビルとの併用奏効する場合もある。作用機序は、(1)宿主細胞チミジンキナーゼにより3 リン酸となり、ウイルスDNA ポリメラーゼ阻害(2)ウイルス特異的リボヌクレオチドリダクターゼを阻害(3)リン酸化体によるアデノシルホモシステイン水解酵素抑制、のいずれか、あるいはそれらの組み合わせよる。ヘルペス脳炎の場合投与量として、基本的に1日15mg/kg を2時間上かけ緩徐点滴静注する。投与期間は10日間を1クールとする。副作用として白血球血小板減少肝機能異常注意要するペントスタチン製剤との併用により、腎不全肝不全神経毒性発現するとの報告があり、併用禁忌である。
その他、γグロブリン製剤、抗痙攣剤、脳浮腫に対して副腎皮質ステロイド剤浸透圧利尿剤、濃グリセリンなどが併用して用いられる

感染症法における取り扱い2003年11月施行感染症法改正に伴い更新
急性脳炎ウエストナイル脳炎及び日本脳炎を除く)は5類感染症全数把握疾患定められており、診断した医師7日以内最寄り保健所届け出る報告のための基準以下の通りとなっている。
○  意識障害伴って24時間以上入院した者、あるいは24時間未満死亡した者で、かつ、以下の一つまたはそれ以上症状有するもの
 ・ 38度以上の発熱
 ・ 何らかの中枢神経症状
 ・ 先行感染症状
○  熱性けいれん代謝疾患脳血管疾患脳腫瘍外傷など、明らかに感染性とは異なるものは除外する
○  可能な限り病原体診断行い明らかになったものは病原体名、検体種類及び検査方法記載する。なお、上記基準該当する脳症含める。


備考
・  他の届出基準該当する感染症インフルエンザ手足口病流行性耳下腺炎等)による急性の脳炎脳症についても、急性脳炎としての届出が必要となる。その際には、二重の届出となる(脳症発症したインフルエンザについて、定点医療機関においては、インフルエンザ及び急性脳炎届出が必要となり、定点医療機関以外では急性脳炎のみが届出対象となる等)。
・  ウエストナイル脳炎又は日本脳炎診断ついている場合には、急性脳炎としての届出必要ない。ただし、急性脳炎届出後に、ウエストナイル脳炎又は日本脳炎診断がついた場合には、ウエストナイル脳炎又は日本脳炎としての届出が必要となり、結果として二重の届出となる。


文 献
1 )森島恒雄、庄司紘史:新生児ヘルペス単純ヘルペス脳炎.ヘルペスウイルス感染症 監修・編集 新村眞人山西弘一.発行臨床医薬研協会.1996;144151
2 )Annunziato PW.Herpes simplex virus.In :Krugman's Infectious Diseases of Children,Tenth Ed.
(ed.By Katz SL,Gershon AA,Hotez PJ ), MosbyYear Book, Inc.,1998, 189203
3 )Johnson RE,et al.A seroepidemiologic survey of the prevalence of herpes simplex virus type 2 infection in the United States.N Engl J Med.1989;321(1 ):7‐12.
4 )Whitley R,et al.Predictors of morbidity and mortality in neonates with herpes simplex virus infections.The National Institute of Allergy and Infectious Diseases Collaborative Antiviral Study Group.N Engl J Med.1991;324 (7 ):450‐4.
5 )Roizman B,Knipe DMHerpes simplex viruses and their replication.In Fields Virology 4th ed.2001 pp2399‐2459 by Lippincott Williams &Wilkins
6 )Whitley R:Herpes simplex viruses.In Fields Virology 4th ed.2001 pp2461‐2459‐ 2509 by Lippincott Williams &Wilkins
7 )Montgomery RI,et al.Herpes simplex virus‐1 entry into cells mediated by a novel member of the TNF/NGF receptor family Cell.1996;87 (3 )427‐36.
8 )Warner MS,et al.A cell surface protein with herpesvirus entry activity (HveB)confers
susceptibility to infection by mutants of herpes simplex virus type 1,herpes simplex virus type 2,and pseudorabies virus.Virology.1998;246 (1 ):179‐ 89.
9 )Whitley RJ,et al.Replication,establishment of latency,and induced reactivation of herpes
simplex virus gamma 1 34.5 deletion mutants in rodent models.J Clin Invest.1993;91 (6):2837‐43.
10Chou J, et al. Mapping of herpes simplex virus‐1 neurovirulence to gamma 1 34.5,a gene
nonessential for growth in culture.Science.1990;250 (4985 ):1262‐ 6.
11 )Mineta T, et al.Attenuated multi‐ mutated herpes simplex virus‐1 for the treatment of malignant gliomas.Nat Med.1995;1 (9 ):938‐43.
12Kohl S:Herpes simplex virus.In:Textbook of pediatric infectious diseasesed by Ralph D. Feigin, James D. Cherry, pp1703‐1731, by W.B.Saunders Company, USA,1998.
13森島恒雄、庄司紘史、倉田毅:ヘルペス脳炎1997 編集発行株式会社スタンダード・マッキンタイヤ

国立感染症研究所感染症情報センター 多屋馨子)

  


単純ヘルペス脳炎

(ヘルペス脳炎 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/05/05 06:37 UTC 版)

単純ヘルペス脳炎(たんじゅんヘルペスのうえん、英語: Herpes simplex encephalitis)とは単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)によって引き起こされる脳炎である。

概念

単純ヘルペスウイルス脳炎の95%がHSV-1によって生じ、約70~80%はHSVの再活性化(または再感染)でおこると推定されている。全単純ヘルペス脳炎の約80%にあたる典型例では側頭葉、前頭葉眼窩回などを選択的に障害する左右非対称急性壊死性脳炎の病理像をとるため精神症状をおこすことが多い。逆に全単純ヘルペスウイルスの20%が非典型例であり、軽症、慢性脳炎、脳幹脳炎などの形をとることがある。約10%程度に再発、再燃が認められ治療上注意が必要である。全年齢における検討では単純ヘルペス脳炎の未治療での死亡率は60~70%であった。抗ウイルス薬、特にアシクロビルの治療によって死亡率は19~28%に減少した。しかし適切な治療にもかかわらず死亡と高度後遺症を含めた転帰不良率は約30~50%と未だに高く、社会復帰率も約半数にとどまる。後遺症としては記憶障害、行動異常、症候性てんかんなどが多い。

疫学

単純ヘルペス脳炎は脳炎全体の10~20%を占め、起炎ウイルスの判明した散発性脳炎の中では最も多い疾患である。地域差はなく100万人あたり年間2~4人の頻度で起こり日本では年間400例前後の発症があると推測されている。全年代に起こりえるが50~60歳代に発症のピークがある。

診断

日本神経感染症学会より診療ガイドラインが示されている。急性(時に亜急性)脳炎を示唆する症状・症候、神経学的検査所見を満たしたものが単純ヘルペス脳炎疑いであり、ウイルス学的検査所見によって確定例になる。

臨床病型

神経症候、神経放射線所見を総合していくつかの臨床病型が知られている。

側頭葉型または辺縁系型

いわゆる辺縁系脳炎をおこす典型的な単純ヘルペス脳炎である。側頭葉下内側部、前頭葉眼窩回、島回帯状回海馬扁桃体被殻などが主に侵されるもので精神症状を呈する。

側頭葉脳幹型

側頭葉型と同様であるが、脳神経領域の障害が認められるものである。脳幹へのHSVの感染の可能性と頭蓋内圧亢進症の可能性がある。

脳幹脳炎

側頭葉型に比べて発症早期の発熱の頻度が低い、初回髄液圧が低い、脳波で周期性同期性放電がみられない、死亡例、再発例はなく自然軽快例も認められるといった特徴が報告されている。しかし剖検例の単純ヘルペス脳炎の脳幹脳炎型も報告されており予後不良例も存在する。

慢性脳炎

4~5ヶ月の経過の慢性緩徐進行性脳症の報告例がある。

軽症~非典型例

単純ヘルペス脳炎の確定診断が脳生検からPCR法に代わって依頼、非典型的な軽症例の存在が指摘されるようになった。軽症~非典型例と呼ぼれるが、治療後完全回復する、痙攣と精神状態の変化を呈するのみで神経学的局在症候がない、脳CTで正常所見を呈することがあるなどの症例を示す。このような病態がおこる背景としてHSV-2の感染によるものや宿主の免疫機能低下、脳炎病巣が劣位半球側頭葉に限局するといった点も指摘されている。

その他

頭頂葉型、前頭葉型、散在多病巣型などが報告されている。

びまん性脳炎型

びまん性脳炎型は局在性脳炎から進展する場合が殆どである。

免疫不全患者の単純ヘルペス脳炎

後天性免疫不全症候群での単純ヘルペスウイルスの頻度は低い。サイトメガロウイルスとの同時感染例が多い、感染部位が前頭葉下面、側頭葉内側面に限局せず小脳や脳幹、上衣下組織にも認められる。成人AIDS症例では脳炎がHSV-2で起こることが多いといった特徴が知られている。

小児の単純ヘルペス脳炎

小児の場合HSV初感染で発症することが多いこと、新生児ではHSV-2によっても発症すること、全脳炎を呈することが多いこと、小児例では初回治療終了後2週~2ヶ月以内の再発が20~30%と高率に認められることなど成人と異なる点がある。3歳未満の発症、GCS10以下では予後が悪いとされている。

急性(時に亜急性)脳炎を示唆する症状・症候

各年齢でみられるが,50歳~60歳にピークを認める。症状は頭痛、嘔気、発熱が多いがこれらは50%程度にしか認めないという報告もある。髄膜刺激症状、急性意識障害(覚醒度の低下、幻覚・妄想、錯乱などの意識の変容)、痙攣、局在神経脱落症状(失語症、聴覚失認や幻聴などの聴覚障害、記銘障害、運動麻痺、脳神経麻痺、視野障害、異常行動など)不随意運動、自律神経障害、SIADHなどが認められることがある。

検査所見

神経放射線学的所見

側頭葉・前頭葉(主として、側頭葉内側面・前頭葉眼窩・島回皮質・角回を中心として)などに病巣を検出する。

脳波

ほぼ全例で異常を認める。局在性の異常は多くの症例でみられるが、比較的特徴とされる周期性一側てんかん型放電(PLEDS)は約30%の症例で認める。

髄液

髄液圧の上昇、リンパ球優位の細胞増多、蛋白の上昇を示す。糖濃度は正常であることが多い。赤血球やキサントクロミー英語版を認める場合もある。

PCR

髄液を用いたPCR法でHSV-DNAが検出されること。ただし陰性であっても診断を否定するものではない。治療開始後は陰性化する可能性が高い。

抗体測定

髄液HSV抗体価の経時的かつ有意な上昇、髄腔内抗体産生を示唆する所見が認められることがある。髄腔内抗体産生を示唆する所見とは血清/髄液抗体比≦20または抗体価指数である。抗体価指数は髄液抗体/血清抗体÷髄液アルブミン/血清アルブミンであり2以上ならば髄腔内抗体産出が示唆される(BBBが破壊されれば抗体価は上昇する)。

ウイルス分離

髄液からDNAはPCRによって比較的高頻度に分離できるがウイルス分離は稀である。

成人の治療指針

一般療法

気道の確保、栄養維持、二次感染の予防などが行われる。

抗ヘルペスウイルス薬の早期投与

診断基準で疑い例となった時点で抗ウイルス療法を開始する。単純ヘルペス脳炎が否定された段階で抗ウイルス療法を中止する。

シクロビル

アシクロビルは10mg/kgで1日3回1時間以上かけて点滴静注を14日間を目安に投与する。重症例ではアシクロビル20mg/kgが使用されることもある。ショック、皮膚粘膜眼症候群、アナフィラキシー様症状、DIC、汎血球減少症、意識障害や痙攣、錯乱などの脳症、急性腎不全などの副作用に注意する。

ビダラビン

アシクロビル不応例にはビダラビン15mg/kg、1日1回点滴静注を14日間を目安に投与する。

痙攣発作,脳浮腫の治療

痙攣にはジアゼパム、ミダゾラム、フェニトインなどが用いられる。脳浮腫にはグリセオールやマンニトールが考慮される。

その他

脳幹脳炎、脊髄炎に対しては、抗ウイルス薬に加えて副腎皮質ステロイドの併用を考慮する。副腎皮質ステロイドの機序は脳浮腫の軽減、炎症性サイトカインの放出抑制などが想定されている。

予後解析

転帰不良の要因としては、発症年齢が30歳以上、発症から抗ウイルス薬開始までの期間が4日以上、抗ウイルス薬開始時の意識障害がGCSで6点未満、治療開始時CTにて病巣の検出されること、初回髄液のPCRでHSV-DNAが100copy/ml以上などが指摘されている。

日本の法律

感染症法では五類感染症(全数把握)となっている。急性脳炎(ウエストナイル脳炎、西部ウマ脳炎、ダニ媒介脳炎、東部ウマ脳炎、日本脳炎、ベネズエラウマ脳炎及びリフトバレー熱を除く)として届出が必要である。

出典




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