メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症とは?

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メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症

黄色ブドウ球菌は、ヒト動物皮膚消化管内などの体表面に常在するグラム陽性球菌である。通常は無害であるが、皮膚の切創刺創などに伴う化膿症や膿痂疹毛嚢炎セツ、癰、蜂巣炎などの皮膚軟部組織感染症から、肺炎腹膜炎敗血症髄膜炎などに至るまで様々な重症感染症原因となる。一方エンテロトキシンTSST‐1などの毒素産生するため、食中毒トキシックショック症候群腸炎などの原因ともなる。

黄色ブドウ球菌における薬剤耐性獲得歴史現況
黄色ブドウ球菌は、1940 年代工業的に量産化に成功したペニシリンG に対し、当時良好感受性示し化膿傷や肺炎などの治療奏効した。しかし、一方、同じころプラスミド依存性ペニシリナーゼ産生するペニシリン耐性 1) が出現し、その後ペニシリン普及使用量の増加に伴い世界各地に広がっていった。これに対抗するためメチシリン開発され、1960 年ころより欧米使用されるようになったが、間もなくメチシリン耐性黄色ブドウ球菌MRSA)が海外確認されるようになったその後ペニシリン耐性同様に各地徐々に広がり1970年代後半より海外医療現場大きな関心事となった 2) 。
国内でも1980年代後半より、各地医療施設MRSA問題となり始めたが、当時分離率は高くても1割程度推定されていた 3) 。しかし、現在では、臨床分離される黄色ブドウ球菌の6 割程度MRSA判定される事態至っている 4) 。


ペニシリンメチシリン耐性分子機構
1940 年代出現したペニシリンG 耐性黄色ブドウ球菌は、PC1呼ばれるペニシリナーゼ産生能をプラスミド依存性獲得したものであった。一方黄色ブドウ球菌メチシリン耐性獲得する主な分子機構は、ペニシリン結合タンパク(PBP2')の獲得であることは今や衆知事実となっているが、これは、我が国研究者により1985 年世界ではじめ発見報告された研究成果
である 5) 。
高分子量のPBP1 やPBP2 などは、その構造中にトランスグリコシデース活性有するN 末端領域とトランスペプチデース活性有するC 末端領域を含むが、MRSA では、トランスペプチデース活性領域アミノ酸配列大きく変化したPBP2'が出現しており、これはmecA と呼ばれている遺伝子基づいて産生されている。mecA を含む遺伝子領域は、トランスポゾンなどの転位因子により他の種から黄色ブドウ球菌持ち込まれ、その染色体上に挿入(integlate)されたものが広がったと考えられている 6) 。

MRSA病原性感染症
MRSA病原性通常の黄色ブドウ球菌比較して特に強いわけではなく、それらと同等程度各種感染症引き起こす。したがって、通常の感染防御能力有するに対して一般的に無害であり、医療施設外で日常生活が可能な保菌者場合は、除菌のための抗菌薬投与基本的には必要ない。また、抗菌薬使用しない老人施設など長期療養型の施設においてはMRSA黄色ブドウ球菌を凌いで優位蔓延する可能性少ない。したがって、老人施設におけるMRSA への対策や対応は、急性患者重症患者を扱う医療施設におけるMRSA 対策同等ではなく必然的に異なった観点ら行われるべきであろう
しかし、易感染状態の患者MRSA感染症に対して抗菌化学療法実施する際に、各種抗菌薬抵抗性を示すため、治療難渋重症化する事例も多いため、医療現場恐れられているのは事実である。最近ではMRSA感染症マスコミなどで話題になる事は稀となったが、医療現場でのMRSA による院内感染症減少ていないのが実情である。一般的に内科系より外科系の疾患有する患者問題となる場合多く例え骨折後の骨髄炎開腹開胸手術後の術後感染などで治療困難な例も多い。特に血液疾患ガンなどの悪性消耗疾患基礎疾患に持つ患者ではリスクが高くなる。また、新生児高齢者などもハイリスクグループである。新生児室などでMRSA蔓延問題となることがしばしば報じられているが、ディスポの手袋の使用手洗いなど、適切な対策MRSA分離率や保菌状態を改善できるとの実績報告されており、あきらめる事なく対策努力惜しむべきではない。また、MRSA では、TSST‐1 以外に少数ではあるがエキソフォリアチンを産生する散見され、NTED 7) 以外にSSSS 8) を呈する症例もあり、注意が必要である。
MRSA分離同定方法については、前回記事 <2000年34週号「感染症の話-MRSA感染症」> を参考されたい

MRSA への監視対策
院内感染症原因として最も主要な耐性菌であるMRSA による感染症動向把握するため、1999年4月より施行された「感染症法」では、4類感染症起因中にMRSA指定し、定点施設においてMRSA 感染症例が発生した場合には報告求めている(註:その後2003年11月施行感染症法一部改正により、5類感染症定点把握疾患変更)。2001年MRSA感染症報告件数は、1定点施設あたり約40.46件で、VRE 感染症PRSP 感染症薬剤耐性緑膿菌感染症などと比べ格段に高い値を示している。年間報告総数18,246件で、毎月平均1,500件以上が恒常的報告されており、臨床現場では依然として深刻な状況となっている事が示唆される。一方平成12年度より開始された厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業JANIS )」では、血液髄液から分離された黄色ブドウ球菌における薬剤耐性獲得状況実態動向把握されつつある。
黄色ブドウ球菌ではメチシリン耐性のみならずアルベカシン耐性 9) やムピロシン耐性 10) も国内でしばしば報告されており、それらの抗菌薬耐性今後動向について十分に警戒するとともに、それらを増加させないための抗菌薬適正な使用方法について、より一層配慮が必要となっている。

感染症法における取り扱い2003年11月施行感染症法改正に伴い更新
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症は5類感染症定点把握疾患定められており、全国500カ所の基幹定点より毎月報告がなされている。報告のための基準以下の通りとなっている。
○  診断した医師判断により、症状所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれか方法によって病原体診断がなされたもの
病原体検出
(1) 血液腹水胸水髄液など、通常無菌的であるべき臨床検体から分離された場合敗血症心内膜炎腹膜炎胸膜炎髄膜炎骨髄炎など)で、以下の検査室での判断基準満たすもの
(2) 喀痰、膿、尿、便など無菌的ではない検体からの分離では、感染症起因判定された場合肺炎などの呼吸器感染症肝・胆道系感染症創傷感染症腎盂腎炎複雑性尿路感染症扁桃炎細菌中耳炎副鼻腔炎皮膚軟部組織感染症など)で、以下の検査室での判断基準満たすもの
検査室での判断基準
 オキサシリンMIC, ≧4 μg/ml
 または、オキサシリン感受性ディスク(KB)の阻止円直径が10mm以下


参考文献
1 )Abraham EP,Chain E,1940,An enzyme from bacteria able to destroy penicillin.Nature 146:837.
2 )Cafferkey MT, Hone R, Coleman D, Pomeroy H, McGrath B, Ruddy R, Keane CT.1985. Methicillin‐ resistant Staphylococcus aureus in Dublin 1971‐ 84. Lancet 2 (8457):705‐ 708.
3 )Tomizawa K, Sato S,1988,An analysis of incidents of Staphylococcus in Kashima Rosai Hospital (I ), Jpn J Antibiot.41:494‐ 504.
4 )「院内感染対策サーベイランスJANIS )」http://idsc.nih.go.jp/index-j.html
5 )Ubukata K,Yamashita N,Konno M.1985.Occurrence of a beta‐lactam‐inducible penicillin‐binding protein in methicillin‐ resistant staphylococci.Antimicrob Agents Chemother.27:851‐ 857.
6 )Kreiswirth B, Kornblum J, Arbeit RD, Eisner W, Maslow JN, McGeer A, Low DE, Novick RP. 1993. Evidence for a clonal origin of methicillin resistance in Staphylococcus aureus.Science 259(5092):227230
7 )Takahashi N, Nishida H, Kato H, Imanishi K, Sakata Y, Uchiyama T. 1998.Exanthematous disease induced by toxic shock syndrome toxin 1 in the early neonatal period.Lancet 351(9116 ):1614‐ 1619
8 )Yokota S, Imagawa T, Katakura S, Mitsuda T, Arai K.1996.A case of staphylococcal scalded skin syndrome caused by exfoliative toxin‐B producing MRSA.Kansenshogaku Zasshi. 70(2 ):206‐ 210.
9 )Fujimura S, Tokue Y, Takahashi H, Kobayashi T, Gomi K, Abe T, Nukiwa T, Watanabe A. 2000. Novel arbekacin‐and amikacin‐modifying enzyme of methicillin‐resistant Staphylococcus aureus.FEMS Microbiol Lett.190 (2):299‐303.
10Watanabe H, Masaki H, Asoh N, Watanabe K, Oishi K, Kobayashi S, Sato A, Sugita R, Nagatake T. 2001. Low concentrations of mupirocin in the pharynx following intranasal application may contribute to mupirocin resistance in methicillin‐resistant Staphylococcus aureus.J Clin Microbiol.39:3775‐ 3777. 


メチシリン耐性黄色ブドウ球菌

(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/12/15 02:52 UTC 版)

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(メチシリンたいせいおうしょくブドウきゅうきん、Methicillin-resistant Staphylococcus aureusMRSA)とは、抗生物質メチシリンに対する薬剤耐性を獲得した黄色ブドウ球菌の意味であるが、実際は多くの抗生物質に耐性を示す多剤耐性菌である。


  1. ^ J Antimicrob Chemother 2014 Sep 10; [e-pub ahead of print].
  2. ^ Andersson DI, Levin BR. (1999年). “The biological cost of antibiotic resistance.”. Curr Opin Microbiol. 2 (5): 489-93. 
  3. ^ Miriam Ender, Nadine McCallum, Rajan Adhikari, and Brigitte Berger-Bächi (2004年). “Fitness Cost of SCCmec and Methicillin Resistance Levels in Staphylococcus aureus”. Antimicrobial Agents and Chemotherapy 48 (6): 2295-7. 


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