騒動から1年を経て
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「女子柔道強化選手への暴力問題」の記事における「騒動から1年を経て」の解説
2014年1月29日には、今回の騒動が公に発覚してからちょうど1年となった。あるベテランの柔道担当記者は騒動を振り返りながら、「いいか悪いかは別として、柔道界である程度の暴力的指導が日常的に行なわれていたのは事実。ただ、(暴力問題で監督を辞任した)園田(隆二)監督のケースは暴力以前に、厳しい指導法に多くの女子選手が不満を抱えており、それが絡んでいるだけにややこしい。」と指摘した。続けて、園田は凄まじい練習を質量ともにこなしていた谷亮子をよく引き合いに出して、『あれくらい練習しないとメダルは獲れないぞ』と選手に呼びかけて厳しい練習を課していたが、今の選手はそのような園田の指導方法を前時代的なものと受け止めており、理解されていなかった。それにより孤立を深める園田が焦りのあまりさらに厳しい指導を行うと、選手がますます園田を嫌う悪循環に陥っていたと説明した。また、ある柔道関係者は監督が井上康生となってから選手との関係がうまくいっている男子とは違い、女子は「南條充寿現監督以下、指導陣と一部選手の間には大きな溝がある。男子とは違い、明らかに畳の上でのコミュニケーションはうまくいってない。」とも指摘した。2013年の世界選手権においてとある女子代表選手は、自らが嫌っている所属企業の柔道部監督がコーチに付くことを拒否して、『コーチが嫌いだから代えてくれ』と個人的な感情を持ち込み悪びれる様子もなく訴えたとさえいう。「以前より選手の自立や自由が重んじられるようになり、選手も言いたいことを言える環境が整いつつあるのはよいことだとは思う。しかし、そういった環境を逆手に取り、権利を履き違えている一部の選手がいるのは、とても残念なこと。」と担当記者は述べた。昨年のグランドスラム東京では、何名もの有力選手がケガを理由に出場を辞退した点に関して、前出の柔道関係者は「昔なら少々無理をしてでも出場していたと思うのですが……。もちろんケガの具合は選手本人じゃないとわからないし、欠場したことで選手生命は延びるかもしれない。ただ、出場しなかった選手が、何食わぬ顔で、観客席で笑って応援する姿を見ると、なんとも言えない気分にはなる。あんなことは以前では考えられない。選手の自主性に任せるのは時代の流れかもしれないけど、戦う気持ちまで失われていやしないか。柔道界にとって、現在の変革がいいか悪いか、非常に微妙だと思います。」との認識を示した。 1月30日に全柔連は臨時理事会を開催して、評議員選定委員会に推薦する新たな評議員候補者30名を承認した。一連の不祥事を受けた組織改革の一環として評議員の陣容は次のように変更された。柔道の専門家として関東、近畿など各ブロックから13名、全日本学生柔道連盟などから4名、外部有識者枠で10名、女性枠で3名の計30名。全体の評議員数は以前の53名に比べて大幅に減少することになった。これに加えて、都道府県連盟や協会との意見交換の場として設置した全国代表者会議の規則が承認された。2月27日の第一回会合では各都道府県の代議員を選任するが、定年は設定しない。山下副会長は「昨年の8月に体制が変わったが、改革はまだまだ続くし、やるべきことは山積みだ。開かれた柔道界になるためにも、これからの1年間はこれまでの1年間と同じくらい慌ただしくなるだろう」と語った。また全柔連は、広島市内の道場において女子小学生を虐めていた男子小学生に平手打ちを数回加えた男性指導者(35歳)に6カ月の会員登録停止処分を科した。 1月31日に全柔連は評議員選定委員会を開き、2月1日付けで発足する新評議員30名を選出した。外部有識者枠として、元宮内庁東宮侍従長で日本生命特別顧問を務める末綱隆や、日本棋院理事で囲碁棋士の小川誠子を始めとした官僚経験者や大学教授など10名を選出した。また女性枠として、これまで全柔連に批判的な姿勢を示してきたバルセロナオリンピック52 kg級銀メダリストで、静岡文化芸術大学准教授の溝口紀子らを選出した。これで女性の評議員は計7名となる。溝口は「柔道界という男社会のど真ん中で、今まで外で言ってきたことを発言していきたい。全柔連を批判してきた私を受け入れてくれたことは、組織として変わろうという意識の表れだと思います」と述べた。さらに、九州ブロック代表からは1976年モントリオールオリンピック軽重量級金メダリストの二宮和弘、全日本学生柔道連盟枠からは天理大監督の正木嘉美らが選ばれた。一方、31日付けで総辞職した53名のうち、引き続き評議員に留まったのは11名となった。評議員は全員就任時に70歳未満とする定年制も今回から適用された。新評議員の任期は2017年6月までと決まり、3月にはこのメンバーで初の評議員会が開催される。全柔連の近石康宏専務理事は「精いっぱいのスリム化を図り、十分に議論を尽くせる体制になった」と語った。 2月27日には、一連の不祥事を受けた組織改革の一環として新設した各都道府県の代表者による全国代表者会議が初開催された。会議において全柔連側は各都道府県の連盟や協会に、暴力根絶に向けて違反者への公式試合の出場禁止などを盛り込んだガイドラインを示すなどして、懲罰規定の設置を要請した。一方で、全柔連もより厳しい懲罰規定を検討する意向を示した。また2020年の東京オリンピックに向けて、国体少年の部の出場枠を地域ブロックから都道府県代表へ拡充する案が提示されると、多数の賛成が得られた。会議に出席した全柔連副会長の山下は、「これまでにないほど意見が出た。柔道界の発展のため、実り多き一歩となった」と語った。 3月7日に全柔連は常務理事会を開き、これまで連盟定款や競技者規定を準用していた指導者への罰則適用を改めて、新たに再編された懲罰委員会の規定案に一本化することになり、処分がより厳格化されることになった。今まで会員登録停止処分を受けた指導者や選手は全柔連主催の大会には関われないものの、所属先での活動は認められていたが、今後は所属における活動も停止される。また、すでに各都道府県の連盟にも同様の懲罰規定案を要請しており、重要な案件は全柔連が、軽微な案件は各連盟が処分を決定することになる。3月14日の理事会で承認を経て、4月1日付けから新規定案が施行されることになった。 3月14日に全柔連は理事会を開いて、暴力行為に対する処分や罰則などを新たにまとめた「倫理・懲戒規定」を承認した。規定は最も重い「除名」から一番軽微な「注意」まで4段階を設け、除名の次に重い「期間を定めた登録停止」に関しては、罰則に実効性を高めるために、全ての指導活動及び試合参加を対象にすることに決めた。また、役員の処分規定も定められた。一方で、専門委員会と特別委員会が再編されて、改革改善実行プロジェクトにおける「暴力の根絶プロジェクト」は名称を「柔道MINDプロジェクト特別委員会」に変更して、選手や指導者に対する礼節の啓発や品格の養成に取り組むことになり、従来の暴力やセクハラを根絶する活動はコンプライアンス委員会に受け継がれることになった。加えて、IJFに日本からの理事が不在になった事態に対応すべく、「総合国際対策特別委員会」を新設して、副会長の山下が委員長の座に就任した。 3月27日に全柔連は評議員会を開いて、強化委員長の斉藤仁、国士舘大学教授の小山泰文、兵庫県柔道連盟会長の藤木崇博の理事就任を承認した。この3名が加わったことで理事は計29名となった。斉藤に一連の不祥事の責任を取って総辞職した旧理事会のメンバーであったが、全柔連専務理事の近石康宏によれば、「選手強化をより充実するため」復帰することになった。 一連の不祥事を受けた組織改革の一環として講道館は4月1日から新たに施行した倫理規定において、暴力やパワハラ、人種差別などを違反行為とみなすとともに違反者への具体的な処分を規定した。重い方から順に除名、段位取り消し、館員資格停止、昇段差し止め、戒告、注意と6段階の処分が設定された。なお、違反行為は倫理委員会によって審理されるが、館員資格停止以上の処分に関しては、理事会が決定することになった。 6月3日に全柔連は常務理事会を開いて、全柔連への指導者や競技者の個人登録会員数が前年に比べて6,207名減少して16万9,333名にまで割り込んだことを明らかにした。1993年には約25万名の登録があったものの、2005年には20万3,038名となり、それ以降も減少の一途を辿っているという。全柔連事務局長の宇野博昌は「少子化に加え、(指導者の暴力や助成金不正受給などの)不祥事があるのではないか。会員を増やすべくいろんな努力をしたい」と語った。 6月26日に講道館は評議員会を開いて、講道館初の女性評議員として全柔連審判委員会の副委員長である天野安喜子と首都大学東京大学院の村田啓子教授を選定した。また、オリンピック体操競技金メダリストでJOC理事の塚原光男も選定されるなど、計5名が新評議員に選ばれた。任期は4年間となる。一方、暴力問題や助成金の不正受給問題などを受けて昨年全柔連の理事を辞職しながら、講道館評議員には居座っていた吉村和郎や村上清氏らの辞任届が受理されたことにより、評議員は24名となった。臨時理事会では館長の上村春樹氏ら9名が再任された。 6月30日に全柔連は評議員会を開いて、約1億2千5百万円の赤字となった2013年度の決算を承認した。不正受給問題で日本スポーツ振興センターなどから助成金や補助金が停止されたことにより前年度から約1億円、さらには企業の協賛金も5千万円ほど減少したことが、10年ぶりに赤字となった主要因だという。この点について会長の宗岡は「安定した財政基盤を確立しないといけない。経費節減も必要。」と訴えた。また、長野県で柔道指導者が教え子に重度の障害を与えたとして強制起訴となり、有罪判決が出されたことを「深刻に受け止めないといけない」として、被害者側と連携して柔道事故のゼロに努めることを表明した。さらに、2013年度の全柔連登録会員数が過去最低の約16万9千名にまで減ったことに関して、ある評議員からは「不祥事だけでなく、経年的な結果で危機的な状況にある。登録に付加価値をつける仕掛けも必要だ。」との見解が示された。なお、評議員会はマスコミに対して原則公開をしてきたが、公益財団法人が会議の模様を公開する義務はなく、さらに一部評議員から報道関係者の前では話しづらいなどの声もあがったことにより、今回は別室に控える記者への音声公開にとどまった。 他方、講道館本館の5階を事務局として利用している全柔連が年間約1,617万円、月にすると約135万円を講道館に支払っていることを明らかにした。光熱費などは別途負担している。専務理事の近石によれば、公認会計士から会計の透明性をより高めるようにとの助言を受けて、公表に踏み切ったという。 7月30日に全柔連は全国柔道事故被害者の会と初めてとなる協議会を持った。全柔連からは会長の宗岡やの副会長の山下などが出席して、被害者の会から安全に配慮した指導マニュアルの作成や暴力根絶などの要請書を受け取った。また全柔連側は、「重大事故総合対策委員会」を設置して被害者の会とも連携しながら、正しい指導の徹底に全力を尽くして柔道事故の撲滅を図っていく意向を明らかにした。 8月11日には全柔連会長となってから約1年を経過した宗岡が記者会見を開いて、「改革の半分は終わった。今後もコンプライアンス(法令順守)を徹底し、ガバナンス(統治)の利く競技団体でありたい。」との見解を表明するとともに、「今後は指導者の育成にも力を入れたい」とさらなる改革に意欲を示した。 10月16日に全柔連は理事会を開いて、昨年8月に一連の不祥事の責任を取る形で全柔連会長を辞任した上村春樹、副会長を辞任した藤田弘明・佐藤宣践、専務理事を辞任した小野沢弘史ら8名に、会長の宗岡と理事会からの諮問に応じる顧問の就任を要請するための委託状を出すこととなった。全柔連の規定によると、顧問の資格があるのは会長や副会長など執行役員や理事の経験者で、今までは退任した理事らが自動的に就任していた。なお、任期は8年で無報酬の名誉職となる。一部の理事からは就任への反対意見も出されたが、宗岡の見解によれば、明確な処分が行われていなければ就任を妨げるものではないという。上村は顧問要請に関して「知らないし、聞いていない」と述べるにとどまった。 また理事会では、柔道事故を防止するための「重大事故総合対策委員会」の設置を決めるとともに、道場や学校などで大きな事故が発生した場合に備えて、約2万名に及ぶ登録指導者らに賠償責任保険への加入を義務付けることに決めた。合わせて、保険金の支払額が1億円を超える任意の保険加入も促すこととなった。 さらに、今夏で契約が満了した女子代表監督の南條充寿を、2016年のリオデジャネイロオリンピックまで続投させることに決定した。男子代表監督の井上康生及び強化委員長の斉藤仁も留任となった。山下は「課題はありますが、全体としてはよくやったと評価している。特に南條監督は厳しいときに女子の日本代表の監督を引き受け、頑張ってくれた。」との見解を示した。
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