騒動から2年を経て
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/12 03:21 UTC 版)
「女子柔道強化選手への暴力問題」の記事における「騒動から2年を経て」の解説
2015年3月4日に全柔連は常務理事会を開き、一連の不祥事により会長を辞任した上村春樹、副会長を辞任した藤田弘明・佐藤宣践、専務理事を辞任した小野沢弘史ら8名が、会長や理事会からの諮問に応じる名誉職の顧問に就任したことを発表した。すでに昨年10月には要請が出されていたが、上村のみ態度を保留していたものの、今年1月になって受託した。任期は2022年3月までとなる。これで顧問は28名となった。 3月5日に全柔連は強化委員会を開いて、先月のグランプリ・デュッセルドルフに出場する予定だったものの、市販の風邪薬を服用したことでドーピング違反に抵触する可能性が出たために大会を欠場した了徳寺学園職員の緒方亜香里と綜合警備保障の田知本遥に警告、女子代表の監督である南條及び代表コーチ5名と所属先の監督2名の計7名に注意処分をそれぞれ科した。市販薬を使わないのはアスリートの常識とされており、本来ならチームドクターが管理する風邪薬を服用しなければならないところだった。各選手には全柔連から事前に服用可能な薬一式を渡されていたにもかかわらず、両選手ともそちらの使用を怠った。全柔連では体重超過などで大会への出場が果たせなかった選手に対して強化指定選手から除外する措置を講じてきたため、今回のケースでもその処分が適用される可能性があるという。全日本女子代表の南條監督は「強化選手としての義務を怠った」「公費(を含む強化費)で派遣されている以上、ペナルティーが与えられてしかるべきだ」として、両選手に対する強化指定選手の除外を1年以上科す可能性を示唆した。しかしながら、結果として両選手に対しては警告処分にとどまることになった。今回のケースは実際にドーピング違反をしたわけではなく、自己申告により出場を取りやめた「法令・規定違反行為」にあたるとして警告扱いとなった。「2人の処分は軽い」との意見も出されたが、最終的には強化委員39名のうち38名がこのレベルの処分を妥当だと見なした。なお、海外遠征の際に男子選手には「現在使用している薬をすべて申告」させているが、女子選手には「違反する薬を持っているなら提出」するだけの状況だった。強化委員長の増地千代里は「故意か過失かという議論になった。体重超過は故意。今回は過失という見解。」だと述べた。全柔連副会長の山下も「計量失敗は自己管理不足。今回は知識不足の過失。我々の中では全然重さが違う。」と柔道界の論理を振りかざして今回の処分の妥当性を強調した。なお、田知本の大学時代の指導者でもあった山下が実質上“おとがめなし”とも言える今回の決定に何らかの影響力を及ぼしたのではないかと見る向きもある。さらには、田知本の所属会社が全柔連絡みの大会の協賛ともなっている関係から、財政的側面を考慮したのではないかと指摘する声もある。また、とある強化委員は今大会がグランプリ大会だったからこそ“温情裁定”となったものの、これがオリンピックや世界選手権だったら警告では済まされなかったとの見解を示した。 2015年4月5日に全柔連は、全日本選抜体重別選手権後に開催された代表選手選考のための強化委員会を一部公開した。男子監督の井上と女子の監督である南條が強化委員に対して、事前のコーチ会議で選出された各階級の代表選手の選考理由を提示した後、質疑応答を経て最終的に代表が承認された。過去の代表選手選考において選考過程が不透明と指摘されていたことや、今年に入ってから他競技の陸上競技の女子マラソンや卓球の代表選考が不明瞭であるとの批判がなされていたことを受けて、選考過程の透明性を高めるために敢行された。全柔連強化委員長であり、日本オリンピック委員会で選手の競技環境整備を担当するアントラージュ専門部会長でもある山下は、マスコミがいれば本音で発言できないと公開に批判的な強化委員も複数いたことをあきらかにした上で、「日本のスポーツ界でも代表選考に不信感を抱く選手は多かった。透明化を図るため、柔道界が一歩踏み込んでやってみたい。」「この大会の優勝者が代表に選ばれないことも多いが、真剣に議論していることを分かってもらいたい」と公開事情を説明した。ただし、報道陣は強化委員会でのやり取りを傍聴することのみ可能で、カメラによる撮影や録音は認められない。またマスコミに対しては、出席した強化委員への配慮から、記事において発言者を特定しないでほしいとの要望も出された。強化委員会内部からは「リスクが大きすぎる」との声も上がっているものの、来年以降は会議の模様を全面公開することも検討する意向だという。 4月10日に内閣府の公益認定等委員会の委員長である山下徹らは、スポーツ界としては初となる全柔連への訪問を果たして、宗岡会長や山下副会長と意見交換を交わした。2013年7月に全柔連は一連の不祥事により、同委員会から体制の再構築を求める勧告を受けた。それ以降、全柔連は旧執行部の総退陣を始めとして、外部有識者及び女性役員の登用、コンプライアンス(法令順守)委員会の新設、評議員会のスリム化などの改革に取り組んできた。委員長の山下副会長は「ガバナンスがしっかりとし、透明性も自立性も高まった。改革が着実に進展し、見違えるようになった」と、全柔連による再発防止策や危機管理に対して一定の評価を与えた。 2015年6月10日に全柔連は理事会を開いて、役員改選に伴う理事候補28名と監事候補3名を承認した。参議院議員の谷亮子は公務多忙で理事会への出席が少ないことが影響したとみられて理事に再任されなかった。アスリート委員会の委員長の委員長は田辺陽子が再任された。また、2014年度の収支決算は、スポンサー収入の不足や柔道事故防止活動など新たな政策による支出増が原因で、約1,600万円の赤字になる。専務理事の近石によれば、来年度は特別協賛金の増収などが見込まれて赤字にならないという。一方で全柔連は、パラリンピックへの強化や全体的な柔道普及も見据えて、日本視覚障害者柔道連盟を加盟団体として新たに承認した。さらに、小学生以下への普及と育成を目的として、全国少年柔道協議会の新設を決めた。会長は全柔連副会長の山下泰裕が務めるとともに、各都道府県の代表が委員に収まることになった。 2015年6月29日に全柔連は臨時理事会と評議員会を開いて、宗岡の会長続投を正式決定した。任期は2年となる。2013年に会長に選出された当初、会長就任は1期限りと示唆していたものの、2期目も続けることになった。「不祥事はなくなってきたが課題はある。柔道人口減少に歯止めをかけ、事故防止の徹底も必要だ。国際連盟との関係も構築しなければいけない。」と宗岡は語った。山下、近石も再任された。また、約1,600万円の赤字となる2014年度決算及び9名の新理事がそれぞれ承認されることになった。新理事には日本航空の取締役を務めている岩田喜美枝も含まれる。これで29名の理事のうち女性は4名となった。なお、参議院議員の谷が理事から外れた件に関して近石は「国会の業務で理事会にほとんど出席していない。本人にも気の毒なので、ご遠慮願った。」と理由を説明した。 8月20日にIJFは世界選手権が開催されるカザフスタンのアスタナで理事会を開き、全柔連副会長の山下と講道館館長の上村を理事に登用することを承認した。さらに翌日の総会では両者の理事就任を全会一致で決定した。任期は2年となる。会長指名の理事枠が従来の最大2名から5名とする規約改正が今総会でなされたことにより、この両者に加えて中国及びスイスから選出された各1名の計4名が、IJF会長であるビゼールが指名する議決権を伴わない理事となった。2017年の役員改選を飛び越して両者を指名理事に加えたビゼールは、「柔道界のレジェンドだ。柔道の発展のため、日本の存在は重要。20年東京五輪で柔道の団体戦が新種目として採用されるチャンスがある。(国際オリンピック委員会などへの)ロビー活動において全柔連と講道館の力は不可欠だ。」とコメントした。両者は理事会において教育や普及の分野を担当することになるという。山下は教育理事の再選を果たせなかった2007年、上村は指名理事を辞任した2013年以来の理事復帰となった。2013年に日本からの理事が不在となったことで、日本の発言権や情報収集力など国際柔道界での影響力の低下を招いていたところだった。今年2月の段階で理事就任を打診されていたという山下は、「責任の重さを感じる。理事会に入れば集まってくる情報量が格段に違う。他のIJF理事とのネットワークを使って、何ができるかを考えたい。柔道を通じて日本文化を伝えたい。」、また上村は「柔道の本来あるべき姿を発信し、世界に正しい柔道を普及させていきたい」とそれぞれ語った。
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