柔道事故
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まず、柔道の投技の基本は受の背中が大きく畳に着くように投げることだが、取は受を頭から落さないように投げ、多くの投技では受の体が畳に着く寸前に引き手を引いて受の体をわずかに引かなければならず、受は正しい受身(腕で畳を打って緩衝し、同時に帯やへそをみることにより顎を引いて固定し後頭部を打たないように護る)を必ず身に付けなければならない。 しかし、取と受の双方若しくはいずれか一方が未熟な場合や極端な体格差であった場合に受が頭部を畳にぶつけることがある。例えば大外刈りは、受が後ろ倒しになるという技の性格上、初心者や過度に疲弊して正しく受身を取れない状態の者にかけると後頭部を強打する危険性が高い。また、頭からの落下による事故原因の他に加速損傷(回転加速度損傷)が原因と思われる可能性も示唆されており、これは頭部に外力(極端な遠心力、加速度)が加わることで頭蓋骨に回転加速度がつき頭蓋骨内の脳が全体的に回転(一方向への偏り)することで脳と硬膜を繋ぐ橋静脈が破断、急性硬膜下血腫に至るという機序である。他に間(日にち)を置かず頭部への強打によって起こる脳震盪(セカンドインパクト症候群)が原因となり脳が物理的ダメージを負う事で、障害、死亡などのリスクが高まる報告がある。 全柔連は長時間練習の疲労による負傷防止に「1日の活動時間は2時間が上限」など小学生の活動指針を立てている。 学校等での柔道事故事例 2002年7月31日、埼玉県立高校柔道部合宿中に1年生男子部員が同部教諭と立ち技乱取りを行い、同教諭から体落としにより投げられ背中から落ちたさい意識障害及び強直性の痙攣を起こし、運搬先病院で外傷性急性硬膜下血腫と診断、後遺障害として遷延性意識障害、植物状態で推移。被害家族が指導上の注意義務違反あったとして埼玉県に損害賠償請求。後、東京高裁にて指導教諭の保護義務違反を認め、被告県に対し国家賠償請求を認める判決。 2003年、須賀川市第一中学柔道部暴行傷害事件 2004年、横浜市奈良中学柔道部暴行事件 2007年7月、大阪府高槻市金光大阪高校柔道部1年生男子生徒が練習中に脳震盪で倒れた3日後に昇段審査などの講習会に参加。模範演技後に頭痛を訴えるも取下げられ、会場に駆けつけた母親の119番通報で病院に搬送。急性硬膜下血腫を発症し遷延性意識障害による意識不明の寝たきり状態になり、後、本人を含む家族が、学校法人、全日本柔道連盟、大阪府柔道連盟を相手に計約4億円の損害賠償を求める。全柔連への請求を除き、大阪地裁 (佐藤達文裁判長) にて約1億円の和解金を支払うことで合意。 2008年、横浜商科大学高等学校柔道部員後遺障害事件 2009年、広島県の私立尾道高等学校1年生男子生徒が柔道部の練習中に畳で頭を強打し急性硬膜下血腫を発症、高次脳機能障害を負う。後、被害者本人と両親が同校を運営する尾道学園に計約1億4400万円の損害賠償を求めた。2015年8月、広島地裁尾道支部 (次田和明裁判官) は「事故を防ぐための適切な措置を講じる義務に違反した」として同学園に計約8150万円の支払いを命じた。 2009年7月29日、滋賀県愛荘町立秦荘中学校柔道部の練習中、部員(当時12歳)が上級生との乱取り稽古後「声が出てない」との理由から柔道部顧問(当時27歳)の直接指導を受け。二度投げ一度締めの合わせ技を蒙った直後に失神、顧問が平手で殴打するも搬送先の病院で急性硬膜下出血で意識が戻らないまま1か月後に死亡。後、愛荘町中学校柔道部事故検証・安全対策検討委員会を設置。 「愛荘町中学校柔道部事故検証・安全対策検討委員会報告書」(※PDF) 愛荘町中学校柔道部事故検証・安全対策検討委員会 平成22年7月14日 2010年5月1日、大分県立竹田高等学校柔道部合同合宿練習中に男子生徒部員(当時17歳)が大外刈を受けて頭部を強打し緊急搬送、同日深夜に搬送先病院にて死亡した。司法解剖の結果、死因は急性硬膜下出血と判明。 2011年6月15日、名古屋市立向陽高等学校の武道場において1年生男子部員が乱取り稽古中に大外刈で投げられ頭部を強打、休憩中に体調不良を訴え流延を発症し緊急搬送を要請、搬送先病院にて急性硬膜下血腫の緊急開頭手術を行うが同年7月23日に死亡。 名古屋市立向陽高等学校柔道事故調査報告書(※PDF 外部リンク)名古屋市柔道安全指導検討委員会 平成24年5月11日 2014年10月、福岡市内の道場で稽古を受けていた中学校2年生男子部員が指導者から「絞め落とし」を掛けられて一時意識不明となった。元部員被害男性は福岡地方裁判所に2015年2月にこの指導者を相手取り提訴。一・二審は男性の訴えを認めて4万4,000円の支払いを命じ、2018年6月19日付で最高裁判所は、指導者側の上告を受理しない決定をし、賠償が確定した。 2015年5月21日、大分県立中津北高等学校1年生男子柔道部員が乱取り稽古中に頭部を強打し急性硬膜下血腫の緊急手術を行う、被害生徒は遷延性意識障害を発症し医療機関にてリハビリ。後、事故調査委員会設置、報告。 大分県立中津北高等学校柔道事故調査報告書について(概要) 大分県教育委員会 2015年5月22日夕、福岡市立席田中学校柔道部の約束稽古中、大外刈をかけられた女子部員(当時13歳)が頭部を強打、意識不明に陥り、翌日搬送先病院で死亡。後、市は事故調査委員会を設置。 福岡市立中学校柔道事故調査報告書(※PDF 外部リンク) 福岡市柔道安全指導検討委員会 平成27年12月・福岡市 2016年4月25日、仙台市内の私立高校の柔道部に所属する3年生男子部員(当時17歳)が部活動の試合中に頸椎と脊髄を損傷、緊急搬送されて手術を行うも、同年5月13日に死亡。 2016年5月31日夕、群馬県館林市の市立中学校にて柔道部約束稽古中に3年生男子部員(14歳)が同級生に投げられて頭を打ち失神、以降、急性硬膜下血腫で意識不明の重体。 館林市立中学校柔道事故調査報告書及び提言書(※PDF)館林市柔道安全指導検討委員会 平成29年1月 その他事例 学校管理下の柔道死亡事故 全事例(※PDF)全国柔道事故被害者の会 判例 昭和49(ネ)2185 損害賠償請求事件 平成6(オ)1237 損害賠償 平成9(ワ)1282 損害賠償請求 平成16(ワ)484 国家賠償請求事件 平成18(ワ)283 損害賠償請求事件 平成22年(ワ)第3461号 損害賠償請求事件 平成22(ワ)8232 損害賠償請求事件 平成23年(ワ)第251号 損害賠償請求事件 大津地方裁判所 平成26(ワ)3880 損害賠償請求事件 関連出版物 「隠蔽 須賀川一中柔道部「少女重体」裁判」 テレビ朝日「スーパーモーニング」取材クルー (著), 被害者の母 (著) 幻冬舎 2009年6月25日 ISBN 4344016882 「柔道事故」内田良(著)河出書房新社 2013年6月21日 ISBN 4309246230 「それでもボク柔道好きだから ―柔道事故と黒帯の品格」テレビ信州 (編集)・テレビ信濃= (編集) 龍鳳書房 2015年10月 ISBN 4947697520
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