手-足-口病とは? わかりやすく解説

てあしくち‐びょう〔‐ビヤウ〕【手足口病】

読み方:てあしくちびょう

コクサッキーウイルスなどの感染により、手・足口の中に小さな水疱(すいほう)性の発疹(ほっしん)ができる病気。数週間治る幼児に多い。


手足口病

手足口病(hand, foot and mouth diseaseHFMD)は、その名が示すとおり、口腔粘膜および手や足などに現れる水疱性発疹主症状とした急性ウイルス感染症で、幼児中心に夏季流行見られる1950年代後半認識され比較歴史新しウイルス性発疹症であり、我が国では1967年頃からその存在明らかになった。本疾患はコクサッキーA16(CA16)、CA10、エンテロウイルス71EV71)などのエンテロウイルスによりおこり、基本的に予後良好な疾患である。
しかし、急性髄膜炎合併時に見られ、稀であるが急性脳炎生ずることもあり、なかでもEV71中枢神経系合併症発生率が他のウイルスより高いことが知られている。

疫 学
本症は4歳位までの幼児中心とした疾患であり、2歳以下が半数占めるが、学童でも流行的発生みられることがあるまた、学童上の年齢層大半は既にこれらのウイルスの感染不顕性感染も含む)を受けている場合が多いので、成人での発症はあまり多くない
感染症発生動向調査によると、国内における手足口病流行ピーク夏季であるが、秋から冬にかけても多少発生見られる(「グラフ総覧参照)。最近では、1985年1990年1995年2000年5年おきに比較大きな流行がみられており、それぞれの年に検出されウイルスをみると、85年はCA16、90年EV71、CA16、CA10の混合流行95年はCA16、2000年EV71それぞれ流行主流となっている。
最近数年間にアジア地域では死亡例伴った比較大きな流行見られ注目浴びた1997年4~6月にマレーシア・サラワクではHFMD大流行見られ急速な経過死亡する例が30例以上報告された。この間エンテロウイルス初めとする複数ウイルス検出されたが、死亡例からは咽頭便などからEV71分離されている。また剖検が行われた少数例では、中枢神経系浮腫炎症像がみられ、脳幹脳炎が1例に見られた。1997年大阪においてはHFMD発生状況例年をやや下回る程度であったが、HFMDあるいはEV71感染関連濃厚な小児死亡例が3例報告された。3例ともに急性脳炎肺水腫認められた。その後台湾においては1998年2月頃よりHFMD増加し5月ピークとする大流行となったHFMD関連する髄膜炎脳炎急性弛緩性麻痺acute flaccid paralysisAFP)などが相次ぎEV71分離され12月までに台湾全土死亡78例と報告された。2000年6~8月兵庫県脳炎による死亡例を含むHFMD流行がみられ、EV71検出されている(IASR2001年6月参照)。

病原体  
CA16、CA10、EV71などのエンテロウイルス病因となる。ヒト-ヒト伝播主として咽頭から排泄されるウイルスによる飛沫感染でおこるが、便中に排泄されウイルスによる経口感染水疱内容物からの感染などがありうる。便中へのウイルスの排泄長期間にわたり、症状消失した患者も2~4週間にわたり感染源になりうる。腸管増殖したウイルス血行性に中枢神経系(特にEV71)、心臓(特にCA16)などに到達すると、それらの臓器症状起こしうる。いちどHFMD発病すると、その病因ウイルスに対して免疫成立するが、他のウイルスによるHFMD起こすことは免れない

臨床症状
3~5日潜伏期をおいて口腔粘膜手掌足底足背などの四肢末端に2~3mmの水疱性発疹出現する(図)。時に肘、膝、臀部などにも出現することもある。
口腔粘膜では小潰瘍形成することもある。発熱は約1/3に見られる軽度であり、38以下のことがほとんどである。通常は3~7日経過消退し、水疱痂皮形成することはない。
稀に髄膜炎小脳失調症脳炎などの中枢神経系合併症の他、心筋炎AFPなどを生ずることもある。特に、EV71による場合には、中枢神経系合併症注意する必要がある

手足口病
手足口病
手足口病

図.手足口病における水疱性発疹

病原診断
通常臨床的になされることが多く水疱性発疹性状分布が重要であり、季節周囲での流行状況などが参考となる。鑑別診断としては、口腔内水疱についてはヘルパンギーナヘルペスウイルスによる歯肉口内炎アフタ性口内炎などが挙げられる手足発疹に関しては、水痘初期疹、ストロフルス伝染性軟疣腫水いぼ)などが鑑別対象となる。
病原診断としてはウイルス分離が重要である。その場合、臨床材料として水疱内容物咽頭拭い液、便、直腸拭い液などが用いられる血清診断補助的であるが、行う場合には、エンテロウイルス間での交差反応がない中和抗体測定勧められる急性期回復期血清で4倍以上の抗体価上昇により診断する

治療・予防
特別な治療要しないことがほとんどである。発疹にかゆみなどを伴うことは稀であり、抗ヒスタミン剤塗布を行うことはあるが、副腎皮質ステロイド剤などの必要はない。口腔病変に対しては、刺激ならないよう柔かめで薄味食べ物勧めるが、何よりも水分不足にならないようにすることが最も重要である。薄いお茶類、スポーツ飲料などで水分少量頻回与えるよう努める。ときには経静脈補液も必要となる。
発熱に対して通常解熱剤なしで経過観察が可能である。抗生剤投与意味がない。しかし、元気がない頭痛嘔吐高熱2日上続発熱などの場合には髄膜炎脳炎などへの進展注意する合併症生じた場合特異的な治療法確立されていない
予防としては患者に近づかない、手洗い励行などである。患者あるいは回復に対しても、特に排便の手洗い徹底させる。手足口病の原因ウイルス対すワクチン開発されていない

感染症法における取り扱い2003年11月施行感染症法改正に伴い更新
手足口病は5類感染症定点把握疾患定められており、全国約3,000カ所の小児科定点より毎週報告なされている。報告のための基準以下の通りとなっている。
診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、以下の2つ基準満たすもの。
1. 手のひら足底または足背口腔粘膜出現する2~5mm程度水疱
2. 水疱痂皮形成せず治癒
上記基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、病原体診断血清学診断によって当該疾患診断されたもの。

学校保健法での取り扱い
手足口病は、学校予防すべき伝染病1~3種含まれていない本文中に示した通り主症状から回復した後もウイルス長期わたって排泄されることがあるので、急性期のみ登校登園停止行って学校幼稚園・保育園などでの流行阻止ねらっても、効果はあまり期待できない。本症の大部分軽症疾患であり、脱水および合併症、ことに髄膜炎脳炎などについて注意がおよんでいれば、集団としての問題少ないため、発疹だけの患児長期欠席を強いる必要はなく、また現実的ではない。
通常の流行状況での登校登園問題については、流行阻止目的というよりも患者本人の状態によって判断すればよいと考えられる


国立感染症研究所感染症情報センター


手足口病(てあしくちびょう)

手や足、口の中に発疹水泡ができる、子どもによく見られる病気1週間から10日程度自然に治る

手足口病

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/26 14:57 UTC 版)

手足口病
11ヶ月男児の口の周りの典型的な病変
概要
診療科 感染症内科学
分類および外部参照情報
ICD-10 B08.4
ICD-9-CM 074.3
DiseasesDB 5622
MedlinePlus 000965
eMedicine derm/175
Patient UK 手足口病
MeSH D006232
KEGG 疾患 H01326

手足口病(てあしくちびょう、: Hand, foot and mouth disease; HFMD)は、コクサッキーウイルスなどが原因となって起こるウイルス性疾患である。病名は手の平、足の裏、口内に水疱が発生する英語病名の直訳に由来する。乳児幼児によく見られる疾患であるが、成人にも見られる。乳児ではまれに死亡することがある。夏季を中心に流行し[1]汗疹と間違えられやすい。

解説

原因となるウイルスには、ピコルナウイルス科内のエンテロウイルス属に属するコクサッキーウイルスA16[2]が主で、他にA4, 5, 9, 10、B2[3], 5、またエンテロウイルス71型も原因となる[4][5]

家畜感染症である口蹄疫を引き起こす口蹄疫ウイルスもピコルナウイルス科の一種であるが、ヒトにおいては発症しない。

感染経路

感染者の鼻や咽頭からの分泌物便などによる接触感染である。飛沫感染も起こる。

潜伏期間

感染から発症までの期間は3日から5日程度とされる[4]

症状

手足口病の症状としては次のようなものがある。

初期症状として発熱と咽頭痛がある。1 - 2日後には手掌や足底、膝裏、足の付け根(臀部)[6]などに痛みを伴う水疱性丘疹が生じ、口内にも水疱が出現する。これが7 - 10日間続く。ただし、常に全ての徴候が出現するとは限らない。

多くの場合、1週間から10日程度で自然に治癒するが、まれに急性髄膜炎が合併し急性脳炎を生じる。エンテロウイルス71の感染症例では、他のウイルスを原因とする場合より頭痛嘔吐などの中枢神経系合併症の発生率が高い[6]。また、コクサッキーウイルスA16感染症例では心筋炎合併の報告がある[6]。出産直前の妊婦が感染した場合は、生まれてくる新生児に感染する恐れがある。ウイルス型 EV71[7]では重症化した場合、髄膜炎、脳炎、急性弛緩性麻痺をおこし急性脳炎に伴う中枢神経合併症による死亡例が多いと報告されている[6]

治癒後の症状として、1ヶ月から2ヶ月後に変形や爪甲脱落が生じる例が報告されている[8]

治療

手足口病のための特別な治療法はない。抗生物質や外用の副腎皮質ステロイド剤は用いない。ただれた部位の熱や痛みといった個々の症状は、対症療法によって緩和する。ただし、中枢神経症状が発生した場合は入院加療が必要である。

通常、感染症が治るまで自宅で安静にすることが病気に苦しむ子供にとって最も大切なことである。熱冷ましは高熱を下げるのに役立ち、水やぬるま湯による入浴もまた、乳幼児の熱を下げるのに役立つ。

感染症法5類感染症で小児科定点報告対象疾患[9]であるが、学校感染症には含まれていないので、登園・登校の可否は、患者本人の症状や状態によって判断すればよいと考えられる[6]

一度感染すると終生免疫が獲得されるが、原因となるウイルスは複数あるため、何度も罹ることがある[10]

予防

手足口病に有効なワクチンは存在しない。実用化を目指したEV71(手足口病)ワクチン開発が進められている[6]。手洗いとうがいを励行する。オムツの適切な処理やこまめな手洗い、タオルを共有しないなどの配慮が必要[11]

CA16やEV71などのエンテロウイルスはアルコール(消毒)に対する抵抗性が高いので、石けんと流水による手洗いを基本とする[12]。手指以外のウイルスに汚染された表面の消毒には、熱水(98℃15分–20分、多くの場合は80℃での10分洗浄でも可)、500–1,000ppm(特別な場合には5,000ppm)次亜塩素酸ナトリウム液、場合によりアルコール製剤を選択する[12]

国立感染症研究所による日本全国の約3000の小児科定点医療機関が報告した2020年7月13日から19日までの手足口病の患者報告数は、大流行した2019年のおよそ100分の1、過去10年で最も少なかった2016年の5分の1以下となり、同時期のコロナウイルス感染症の流行による手洗い等の対策が他の感染症の流行対策にも効果を及ぼしているとみられている[13]

記録された流行

  • 1975年ブルガリアでEV71による死亡例報告。
  • 1978年ハンガリーでEV71による死亡例報告。
  • 1997年マレーシアサラワクで、本症(EV71分離症例あり)の発生により34人の子供たちが死亡した。
    • 7〜9月にかけて、大阪市内で3名の乳幼児が死亡[14]
  • 1998年台湾で手足口病の流行。78名の小児が死亡。死亡例の92%からEV71が検出された。
  • 2008年4月、中国安徽省でEV71により19名の児童が死亡したと報道された[15]
  • 2008年5月、中国で約25,000人の感染者の報道[16]
  • 2010年4月、カンボジアで手足口病の流行。52名の小児が死亡。この症例で入院したのは74人で、うちEV71が原因と特定できなかったケースを含めると61人が死亡した。

出典

  1. ^ 手足口病が西日本中心に季節外れの流行 コロナ対策で免疫獲得ない可能性”. 日刊スポーツ (2021年11月13日). 2021年11月18日閲覧。
  2. ^ 北村明子, 成澤忠, 林明男 ほか、「手足口病病因ウイルスの型同定 RT-PCRと特異プローブによる臨床検体からの遺伝子検出と同定」『感染症学雑誌』 1997年 71巻 8号 p.715-723, doi:10.11150/kansenshogakuzasshi1970.71.715
  3. ^ 正木明夫, 中山亜希代, 岩井雅恵, 滝澤剛則、「【原著】コクサッキーウイルスB2型によると考えられた手足口病様発疹症の集団発生 (PDF) 」『小児感染免疫』 2008年 20巻 3号 p.301-305, 日本小児感染症学会
  4. ^ a b 『感染症学』(改訂第4)診断と治療社、2009年。ISBN 978-4-7878-1744-0 
  5. ^ 篠原美千代, 内田和江, 島田慎一 ほか、「コクサッキーウイルスA16型及びエンテロウイルス71型の検査法の検討」『感染症学雑誌』 1999年 73巻 8号 p.749-757, doi:10.11150/kansenshogakuzasshi1970.73.749, 日本感染症学会
  6. ^ a b c d e f 手足口病とは”. 国立感染症研究所感染症疫学センター. 2019年7月18日閲覧。
  7. ^ 西村順裕、清水博之、「エンテロウイルス71受容体としてのP-selectin glycoprotein ligand-1の同定」 『ウイルス』 2009年 59巻 2号 p.195-204, doi:10.2222/jsv.59, 日本ウイルス学会。
  8. ^ 渡部裕子, 難波千佳, 藤山幹子 ほか、「【原著】手足口病後の爪変形,爪脱落の集団発生」『日本皮膚科学会雑誌』 2011年 121巻 5号 p.863-867, doi:10.14924/dermatol.121.863, 日本皮膚科学会
  9. ^ 感染症法に基づく医師の届出のお願い 厚生労働省
  10. ^ I.C.T. Monthly 阪大病院I.C.T 感染制御部 (PDF) (2015年8月)
  11. ^ “「手足口病」流行拡大 過去10年で最多に”. NHK WEB. (2019年7月16日). https://web.archive.org/web/20190716060758/https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190716/k10011994531000.html 2019年7月18日閲覧。 
  12. ^ a b 手足口病について”. ヨシダ製薬 (2010年8月2日). 2019年7月9日閲覧。
  13. ^ 手足口病は19年の100分の1 夏に流行する感染症激減 コロナ予防効果か 毎日新聞 (2020年7月28日) 2020年7月29日閲覧。
  14. ^ エンテロウイルス71型感染が原因で急死したと考えられた3症例―大阪市 国立感染 症情報センター 病原微生物検出情報
  15. ^ 川越一 (2008年4月28日). “手足口病で児童19人死亡 中国安徽省”. MSN産経ニュース. 2008年5月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年4月28日閲覧。
  16. ^ 手足口病の感染さらに拡大 死者32人に 中国”. CNN (2008年5月9日). 2008年5月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年5月9日閲覧。

参考文献

外部リンク


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