梅雨
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梅雨予想の目的
日本の気象庁が梅雨入り・梅雨明けの情報提供を始めたのは1955年ごろとされ、「お知らせ」として報道機関に連絡していた[26][27]。気象情報として発表を始めたのは1986年になってからである[26]。
梅雨の時期を発表することにより、長雨・豪雨という水害・土砂災害につながりやすい気象が頻発する時期としての「梅雨」を知らせることで防災意識を高める[26]、多雨・高温多湿が長続きする「梅雨」の時期を知らせることで生活面・経済面での対策を容易にする、「梅雨」という一種の季節の開始・終了を知らせることで季節感を明確にする(春一番、木枯らし、初雪などの発表と同様の役割)といった効果が期待されている。
梅雨に関連する文化
植物
楽曲
- 雨(作詞:北原白秋、作曲:弘田龍太郎)
- 雨ふり(作詞:北原白秋、作曲:中山晋平)
- 雨降りお月さん(作詞:野口雨情、作曲:中山晋平)
- 雨降り熊の子
- てるてる坊主(作詞:浅原六朗、作曲:中山晋平)
- かたつむり(唱歌)
- 五月雨(作詞・作曲・歌:大瀧詠一)
俳句
類似の気象現象
- 菜種梅雨
- おもに3月後半から4月前半ごろの連日降りつづく寒々とした降雨を、菜の花が咲くころに降るため「菜種梅雨(なたねづゆ)」という[28][29]。梅雨のように何日も降り続いたり、集中豪雨をみたりすることは少ないが、やはり、曇りや雨の日が多く、すっきりしない天気が何日も続くことが多い。
- また、「春の長雨」や「春霖(しゅんりん)」、「催花雨(さいかう)」とも言う[28][30]。「催花雨」は、桜をはじめいろいろな花を催す(咲かせる)雨という意味である[28][30]。「春雨(はるさめ)」も、このころの雨を指して言う場合が多く、月形半平太の名せりふ「春雨じゃ、濡(ぬ)れてゆこう」も、草木の芽を張らせ花を咲かせる柔らかい春の雨だからこそ、粋(いき)に聞こえる[30]。
- なお、NHKで「菜種梅雨」を言うときには、必ず説明を付けるようにしている[30]。
- 冬の間、本州付近を支配していた大陸高気圧の張り出しや、移動性高気圧の通り道が北に偏り、一方で、その北方高気圧の張り出しの南縁辺に沿って、冷湿な北東気流(やませ)が吹いたり、本州南岸沿いに前線が停滞しやすくなるために生じる[29]。そのときには南岸に小低気圧が頻繁に発生しやすくなるのもまた特色である。そのため、西 - 東日本太平洋沿岸部にかけていう場合が多く、北日本にはこの現象はみられない。近年は、暖冬傾向および、温暖化の影響もあり、菜種梅雨が冬に繰り上がるきらいがあり、気候の変動が懸念される面もある。
- また、菜種梅雨は梅雨のようにずっと続くということはなく、期間は一日中あるいは数日程度のことがほとんどである。
- 例としては、1990年2月は月の後半を中心に曇雨天続きで、東京での同・月間日照時間は僅か81時間しかならず、大暖冬を象徴するかのようだった。また、1985年には3月は月全体を通して関東以西の太平洋側地方では冷たい雨の連続で、東京では同年月での快晴日数は0(梅雨期である6、7月を除いては初のワースト記録)、日本気象協会発行の天気図日記では「暗い3月」と評される程であった。その他、1986年、1988年、1991年、1992年、1995年、1999年と3月が比較的長いこと曇雨天が持続した影響で、月間日照時間は北日本を除いてかなり少なかったため、20世紀末にかけての3月は、「菜の花の上にお日様無し」、「行楽受難・鬼門の月」、「花見には 傘など雨具が 必需品」、「卒業式、終業式、離任式はいつも雨」などと不名誉なレッテルが貼られたこともあった。その他、2002年、2006年には2月おわりから3月初めにかけて、南岸前線が停滞したり、朝晩中心に雨の降りやすいすっきりしない空が続いて、お天気キャスターの一部では「菜種梅雨の走り?」と評されたりもした。
- 走り梅雨
- おもに5月下旬から梅雨の先駆けのように雨が降り続く状態をいう[19][31]。ちょうど、その時期が卯の花が咲くころにあたり、卯の花を腐らせるような雨ということから、「卯の花腐し(うのはなくたし)」[31]と呼ぶことがある。「たけのこ梅雨」[31]の名もある。沖縄など南西諸島の梅雨期にあり、南西諸島付近にある梅雨前線が一時的に本州南岸沿いに北上したときに多くみられる。また、オホーツク海高気圧が5月前半に出現した場合に北東気流の影響を受けやすくなるため、関東以北の太平洋側で低温と曇雨天が長続きすることがある。その他、メイストームなど、日本海や北日本方面を通過する発達した低気圧の後面に伸びる寒冷前線が本州を通過して、太平洋側に達した後、南海上の優勢な高気圧の北側に沿って、そのまま停滞前線と化して、太平洋側、おもに東日本太平洋沿岸部でしばらくぐずつき天気が続くケースもそのたぐいである。
- 秋雨
- おもに9月から10月上旬ごろ(地域によって時期に差がある)の長雨の時期をいう。大陸からの高気圧の張り出しが強まり、前線が南下して雨となる[32]。「秋霖(しゅうりん)」[32]、「薄(すすき)梅雨」などとも呼ぶ。
- 詳細は「秋雨」を参照
- 山茶花梅雨
- おもに11月下旬から12月上旬にかけての、連続した降雨を「山茶花(さざんか)梅雨」という。山茶花が咲くころに降るためこの名前がある。
脚注
注釈
- ^ a b 梅雨前線のもととなる対流(雲)は、大気の相当温位θeの減率が大きいほど強くなる。大気の温度や湿度が高いほどθeは大きいので、乾と湿、あるいは寒と暖の性質を持つ気団の衝突によって大気のθe減率が大きくなることで、前線の雲が発生しやすくなる。
- ^ 2004年に立秋の2日以降にになってもまだ梅雨が明けない場合は梅雨明けを発表(特定)しないことを定めた。また8月31日の時点で梅雨明けしない場合は梅雨明けなしとなる(扱いは梅雨明け特定なしと同じ)。ちなみに、梅雨明け特定なしは何度があるが、梅雨明けなしは現時点では唯一、1993年だけである。1993年の記録的長雨では、沖縄と北海道以外での梅雨が、8月も梅雨となり(8月の梅雨は度々発生する青森・岩手・秋田の北東北3県を除き観測史上では極めて稀である)、2ヶ月半以上にわたって梅雨が続いた状態であったため、梅雨明け時期は特定しなかった。
- ^ ただしこのパターンの年は北海道も低温・多湿・多雨傾向であり、8月でも内陸部では最低気温が10度を割る日がしばしば起こることがあるだけでなく、更に夏季の降水量が平年以上に多くなる場合もあり、年によっては前線や湿暖流などからもたらされた長期的な大雨や集中豪雨になることも決して少なくない。
- ^ なお、「リラ冷え」は1970年代から知られるようになった言葉で、俳人の榛谷美枝子が初めて俳句に用いたものを、辻井達一が著書で紹介、それがさらに渡辺淳一によって引用され小説『リラ冷えの街』となり、テレビドラマ化もされたことが契機となって広まったと伝えられている。
出典
- ^ a b c d e f g h i キーワード 気象の事典、加藤内蔵進「梅雨」221-226頁
- ^ a b “夏(6〜8月)の天候” (PDF) (プレスリリース), 気象庁, (2021年9月1日) 2021年9月2日閲覧。
- ^ a b Yahoo!百科事典『梅雨(ばいう)』
- ^ 二宮、81-84頁
- ^ 二宮洸三 『豪雨と降水システム』、121-122頁、東京堂出版、2001年 ISBN 4-490-20435-3
- ^ 甲東哲、先田光演 編、『分類沖永良部島民俗語彙集』、p258、2011年、鹿児島、南方新社、ISBN 978-4-86124-209-0
- ^ 岩倉市郎、『喜界島方言集』p192、1941年、東京、中央公論社
- ^ a b c K.Iwata (2005年6月25日). “中国語の落とし穴026【出梅】”. 中国語学習ノート. 2009年8月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年6月11日閲覧。
- ^ “昭和26年(1951年)以降の梅雨入りと梅雨明け(確定値)”. 気象統計情報. 気象庁. 2022年9月2日閲覧。
- ^ a b 『気象予報士ハンドブック』、2008年、§1-3-2
- ^ a b 『気象予報士ハンドブック』、2008年、§1-3-5
- ^ a b 藤川典久 (2018). “北海道に梅雨のない時代は終わったのか?”. 細氷 (日本気象学会北海道支部) (64) .
- ^ 「榛谷美枝子さん:季語「リラ冷え」の俳人、1月に96歳で永眠、香る花に託した思い /北海道」毎日新聞、2013年5月31日北海道版
- ^ 豊島秀雄「ことば(放送用語) > 放送現場の疑問・視聴者の疑問 > 北海道の「リラ冷え」、本州の「花冷え」と同じ?」、NHK放送文化研究所、1999年5月1日付
- ^ “えぞ梅雨? 北海道内で雨や曇り続く 札幌は11日連続の降水”. 北海道新聞 (北海道新聞社). (2014年6月16日). オリジナルの2014年7月14日時点におけるアーカイブ。
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- ^ a b c 最新気象の事典 p.429.朝倉正「走り梅雨」
- ^ a b 最新気象の事典 p.46.平塚和夫「送り梅雨」
- ^ 地球の声を聞こう「台風の進路を予測しよう!」より。
- ^ 地球の声を聞こう「集中豪雨から身を守ろう!」より。
- ^ “エルニーニョ現象に伴う日本の天候の特徴”. エルニーニョ/ラニーニャ現象に関するデータ. 気象庁. 2007年6月29日閲覧。
- ^ “ラニーニャ現象に伴う日本の天候の特徴”. エルニーニョ/ラニーニャ現象に関するデータ. 気象庁. 2007年6月29日閲覧。
- ^ [1]
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- ^ 浅野芳 『お天気おじさんうちあけ話』家の光協会 (原著1981年7月)、p. 123頁。ASIN B000J7XODO。
- ^ a b c 最新気象の事典 p.389.平塚和夫「菜種梅雨」
- ^ a b 日本国語大辞典、世界大百科事典内言及, ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、デジタル大辞泉、とっさの日本語便利帳、大辞林 第三版、日本大百科全書(ニッポニカ)、精選版. “菜種梅雨(なたねづゆ)とは”. コトバンク. 2020年5月31日閲覧。
- ^ a b c d “「春の長雨」と「菜種梅雨」、同じ意味? | ことば(放送用語) - 放送現場の疑問・視聴者の疑問 | NHK放送文化研究所”. www.nhk.or.jp. 2020年5月31日閲覧。
- ^ a b c 最新気象の事典 p.28.平塚和夫「卯の花くたし」
- ^ a b 最新気象の事典 p.226.朝倉正「秋霖」
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