梅雨 梅雨の概要

梅雨

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/03/11 07:37 UTC 版)

東アジアの四季変化における梅雨

気候学的な季節変化を世界と比較したとき、東アジアでは春夏秋冬に梅雨を加えた五季、また日本に限るとさらに秋雨を加えた六季の変化がはっきりと表れる[1]

東アジアでは、は、温帯低気圧移動性高気圧が交互に通過して周期的に天気が変化する。一方、盛夏期には亜熱帯高気圧太平洋高気圧)の影響下に入って高温多湿な気団に覆われる。そして、春から盛夏の間と、盛夏から秋の間には、中国大陸東部から日本の東方沖に前線が停滞することで雨季となる。この中で、春から盛夏の間の雨季が梅雨、盛夏から秋の間の雨季が秋雨である。なお、梅雨は東アジア全体で明瞭である一方、秋雨は中国大陸方面では弱く日本列島方面で明瞭である。また、盛夏から秋の間の雨季の雨の内訳として、台風による雨も無視できないほど影響力を持っている[1]

梅雨の時期が始まることを梅雨入り入梅(にゅうばい)といい、社会通念上・気象学上はの終わりであるとともにの始まり(初夏)とされる。なお、日本の雑節の1つに入梅(6月11日頃)があり、の上ではこの日を入梅とするが、これは水を必要とする田植えの時期の目安とされている。また、梅雨が終わることを梅雨明け出梅(しゅつばい)といい、これをもって本格的な夏(盛夏)の到来とすることが多い。ほとんどの地域では、気象当局が梅雨入りや梅雨明けの発表を行っている。

梅雨の期間はふつう1か月から1か月半程度である。また、梅雨期の降水量は九州では500mm程度で年間の約4分の1・関東東海では300mm程度で年間の約5分の1ある。西日本では秋雨より梅雨の方が雨量が多いが、東日本では逆に秋雨の方が多い(台風の寄与もある)。梅雨の時期や雨量は、年によって大きく変動する場合があり、例えば150mm程度しか雨が降らなかったり、梅雨明けが平年より2週間も遅れたりすることがある。そのような年は猛暑少雨であったり冷夏・多雨であったりと、夏の天候が良くなく気象災害が起きやすい[1][2][3]

東アジアは中緯度に位置している。同緯度の中東などのように亜熱帯高気圧の影響下にあって乾燥した気候となってもおかしくないが、大陸東岸は夏季に海洋を覆う亜熱帯高気圧の辺縁部になるため雨が多い傾向にある。これは北アメリカ大陸東岸も同じだが、九州では年間降水量が約2,000mmとなるなど、熱帯収束帯の雨量にも劣らないほどの雨量がある。この豊富な雨量に対する梅雨や秋雨の寄与は大きい。梅雨が大きな雨量をもたらす要因として、インドから東南アジアへとつながる高温多湿なアジア・モンスーンの影響を受けている事が挙げられる[1][4]

時折、梅雨は「雨がしとしとと降る」「それほど雨足の強くない雨や曇天が続く」と解説されることがある。これは東日本では正しいが、西日本ではあまり正しくない。梅雨の雨の降り方にも地域差があるためである。特に西日本や華中長江の中下流域付近)では、積乱雲が集まった雲クラスターと呼ばれる水平規模100km前後の雲群がしばしば発生して東に進み、激しい雨をもたらすという特徴がある[1]。日本本土で梅雨期にあたる6-7月の雨量を見ると、日降水量100mm以上の大雨の日やその雨量は西や南に行くほど多くなるほか、九州四国太平洋側では2カ月間の雨量の半分以上がたった4-5日間の日降水量50mm以上の日にまとまって降っている[5]。梅雨期の総雨量自体も、日本本土では西や南に行くほど多くなる[1]

名称

漢字表記「梅雨」の語源としては、この時期はの実が熟す頃であることからという説や、この時期は湿度が高くカビが生えやすいことから「黴雨(ばいう)」と呼ばれ、これが同じ音の「梅雨」に転じたという説、この時期は「毎」日のように雨が降るから「梅」という字が当てられたという説がある。普段の倍、雨が降るから「倍雨」というのはこじつけ(民間語源)である。このほかに「梅霖(ばいりん)」、旧暦5月頃であることに由来する「五月雨(さみだれ)」、の実る頃であることに由来する「麦雨(ばくう)」などの別名がある。

なお、「五月雨」の語が転じて、梅雨時の雨のように、物事が長くだらだらと続くことを「五月雨式」と言うようになった。また梅雨の晴れ間のことを「五月晴れ(さつきばれ)」というが、この言葉は最近では「ごがつばれ」とも読んで新暦5月初旬のよく晴れた天候を指すことの方が多い。気象庁では5月の晴れのことを「さつき晴れ」と呼び、梅雨時の晴れ間のことを「梅雨の合間の晴れ」と呼ぶように取り決めている。五月雨の降る頃の夜の闇のことを「五月闇(さつきやみ)」という。

地方名には「ながし」(鹿児島県奄美群島[6])、「なーみっさ」(喜界島での別名[7])がある。沖縄では、梅雨が小満から芒種にかけての時期に当たるので「小満芒種(スーマンボースー、しょうまんぼうしゅ)」や「芒種雨(ボースーアミ、ぼうしゅあめ)」という別名がある。

中国では「梅雨メイユー)」[1]台湾では「梅雨(メイユー)」や「芒種雨」、韓国では「장마チャンマ)」[1]という。中国では、古くは「梅雨」と同音の「霉雨」という字が当てられており、現在も用いられることがある。「」はカビのことであり、日本の「黴雨」と同じ意味である。中国では、梅が熟して黄色くなる時期の雨という意味の「黄梅雨(ファンメイユー)」もよく用いられる[8]


注釈

  1. ^ a b 梅雨前線のもととなる対流)は、大気の相当温位θeの減率が大きいほど強くなる。大気の温度湿度が高いほどθeは大きいので、乾と湿、あるいは寒と暖の性質を持つ気団の衝突によって大気のθe減率が大きくなることで、前線の雲が発生しやすくなる。
  2. ^ 2004年に立秋の2日以降にになってもまだ梅雨が明けない場合は梅雨明けを発表(特定)しないことを定めた。また8月31日の時点で梅雨明けしない場合は梅雨明けなしとなる(扱いは梅雨明け特定なしと同じ)。ちなみに、梅雨明け特定なしは何度があるが、梅雨明けなしは現時点では唯一、1993年だけである。1993年の記録的長雨では、沖縄と北海道以外での梅雨が、8月も梅雨となり(8月の梅雨は度々発生する青森岩手秋田北東北3県を除き観測史上では極めて稀である)、2ヶ月半以上にわたって梅雨が続いた状態であったため、梅雨明け時期は特定しなかった。
  3. ^ ただしこのパターンの年は北海道も低温・多湿・多雨傾向であり、8月でも内陸部では最低気温が10度を割る日がしばしば起こることがあるだけでなく、更に夏季の降水量が平年以上に多くなる場合もあり、年によっては前線や湿暖流などからもたらされた長期的な大雨や集中豪雨になることも決して少なくない。
  4. ^ なお、「リラ冷え」は1970年代から知られるようになった言葉で、俳人の榛谷美枝子が初めて俳句に用いたものを、辻井達一が著書で紹介、それがさらに渡辺淳一によって引用され小説『リラ冷えの街』となり、テレビドラマ化もされたことが契機となって広まったと伝えられている。

出典

  1. ^ a b c d e f g h i キーワード 気象の事典、加藤内蔵進「梅雨」221-226頁
  2. ^ a b “夏(6〜8月)の天候” (PDF) (プレスリリース), 気象庁, (2021年9月1日), https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/stat/tenko2021jja_besshi.pdf 2021年9月2日閲覧。 
  3. ^ a b Yahoo!百科事典『梅雨(ばいう)』
  4. ^ 二宮、81-84頁
  5. ^ 二宮洸三 『豪雨と降水システム』、121-122頁、東京堂出版、2001年 ISBN 4-490-20435-3
  6. ^ 甲東哲、先田光演 編、『分類沖永良部島民俗語彙集』、p258、2011年、鹿児島、南方新社、ISBN 978-4-86124-209-0
  7. ^ 岩倉市郎、『喜界島方言集』p192、1941年、東京、中央公論社
  8. ^ a b c K.Iwata (2005年6月25日). “中国語の落とし穴026【出梅】”. 中国語学習ノート. 2009年8月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年6月11日閲覧。
  9. ^ 昭和26年(1951年)以降の梅雨入りと梅雨明け(確定値)”. 気象統計情報. 気象庁. 2022年9月2日閲覧。
  10. ^ a b 『気象予報士ハンドブック』、2008年、§1-3-2
  11. ^ a b 『気象予報士ハンドブック』、2008年、§1-3-5
  12. ^ a b 藤川典久 (2018). “北海道に梅雨のない時代は終わったのか?”. 細氷 (日本気象学会北海道支部) (64). http://www.metsoc-hokkaido.jp/saihyo/pdf/saihyo64/64_17_fujikawa.pdf. 
  13. ^ 榛谷美枝子さん:季語「リラ冷え」の俳人、1月に96歳で永眠、香る花に託した思い /北海道」毎日新聞、2013年5月31日北海道版
  14. ^ 豊島秀雄「ことば(放送用語) > 放送現場の疑問・視聴者の疑問 > 北海道の「リラ冷え」、本州の「花冷え」と同じ?」、NHK放送文化研究所、1999年5月1日付
  15. ^ “えぞ梅雨? 北海道内で雨や曇り続く 札幌は11日連続の降水”. 北海道新聞 (北海道新聞社). (2014年6月16日). オリジナルの2014年7月14日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20140714160247/http://www.hokkaido-np.co.jp/news/topic/545685.html 
  16. ^ 森田正光 (1999年8月30日). “小笠原に梅雨はある?”. 森田さんのお天気ですかァ?. TBSテレビ. 2009年8月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年8月16日閲覧。
  17. ^ “장마의 시작과 끝(평년값)(梅雨の開始と終了 平年値)” (html) (プレスリリース), 大韓民国気象庁, (2009年5月26日), https://data.kma.go.kr/climate/rainySeason/selectRainySeasonList.do?pgmNo=120 2021年3月5日閲覧。 
  18. ^ 幡野泉 (2006年5月30日). “韓国にも「梅雨」はあるの?”. 季節から学ぶ韓国語. All About. 2009年8月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年6月11日閲覧。
  19. ^ a b c 最新気象の事典 p.429.朝倉正「走り梅雨」
  20. ^ a b 最新気象の事典 p.46.平塚和夫「送り梅雨」
  21. ^ 地球の声を聞こう「台風の進路を予測しよう!」より。
  22. ^ 地球の声を聞こう「集中豪雨から身を守ろう!」より。
  23. ^ エルニーニョ現象に伴う日本の天候の特徴”. エルニーニョ/ラニーニャ現象に関するデータ. 気象庁. 2007年6月29日閲覧。
  24. ^ ラニーニャ現象に伴う日本の天候の特徴”. エルニーニョ/ラニーニャ現象に関するデータ. 気象庁. 2007年6月29日閲覧。
  25. ^ [1]
  26. ^ a b c “梅雨って何?(3) どう生かす 「梅雨」への高い関心”. asahi.com (朝日新聞社). (2005年6月13日). http://www.asahi.com/special/june2005/TKY200506130497.html 2017年6月7日閲覧。 
  27. ^ 浅野芳 『お天気おじさんうちあけ話』家の光協会 (原著1981年7月)、p. 123頁。ASIN B000J7XODO 
  28. ^ a b c 最新気象の事典 p.389.平塚和夫「菜種梅雨」
  29. ^ a b 日本国語大辞典、世界大百科事典内言及, ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、デジタル大辞泉、とっさの日本語便利帳、大辞林 第三版、日本大百科全書(ニッポニカ)、精選版. “菜種梅雨(なたねづゆ)とは”. コトバンク. 2020年5月31日閲覧。
  30. ^ a b c d 「春の長雨」と「菜種梅雨」、同じ意味? | ことば(放送用語) - 放送現場の疑問・視聴者の疑問 | NHK放送文化研究所”. www.nhk.or.jp. 2020年5月31日閲覧。
  31. ^ a b c 最新気象の事典 p.28.平塚和夫「卯の花くたし」
  32. ^ a b 最新気象の事典 p.226.朝倉正「秋霖」






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