活用 活用の概要

活用

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/13 08:40 UTC 版)

  1. 元来[1]日本語だけを扱う国語学日本語学)において、日本語の用言(つまり動詞形容詞形容動詞)と助動詞が起こす語形変化のことを指す。
  2. 言語学一般においては、インド・ヨーロッパ語をはじめとする諸言語において述語に立つ品詞(典型的には動詞)に属する語形変化のことで、: Conjugatio, : conjugaison, : conjugationの訳語である。

言語全般の活用については下の#概説の節を参照し、インド・ヨーロッパ語の活用については「#印欧語における活用」の節を参照し、国語学における日本語の活用については「#日本語における活用」の節を参照。

概説

言語全般についての「活用」という用語は、フランス語の「conjugaison コンジュゲゾン」や 英語の「conjugationコンジュゲイション」に当てられた訳語で、ある言語において動詞やそれに準ずる品詞に属するが、人称時制などの文法範疇に応じて語形変化するというものである[2]

活用する語を活用語といい、活用語が活用した語形の1つ1つをその語の活用形: conjugated form)という。

日本語のみを扱う国語学日本語学)においては、「活用」というのは日本語の用言(つまり動詞形容詞形容動詞)と助動詞がもつ語形変化のことを指す。

世界の言語を俯瞰すると、コンジュゲーションの一般的な方式は、形態の決まった語尾を持たず語形そのものを変化させる方式である。これは屈折語に特徴的で、印欧語族に属する膨大な数の言語群など、多くの言語がこの方式である。一方、特殊な方式としては、変化しない語幹接辞や活用語尾を接続することによって語形を変化させるもの方式がある。日本語は後者に当たり、人称や数、性などによる活用はなく、時制、法、態、相などの違いを区別する活用形をもっている。

本記事では、まず印欧諸語の活用について解説する。学問上、印欧語は、ロマンス諸語(=ローマ帝国の言語であるラテン語の方言が変化した言語群)のグループと、ゲルマン語派のグループは、ある程度区別して整理・整列しつつ解説するのが妥当なのでそうする。そして最後に、日本語や韓国語の活用について解説する。

印欧語における活用

言語学用語の「活用」(フランス語で「conjugaisonコンジュゲゾン」、英語では「conjugationコンジュゲイション、コンジュゲーション」)とは、動詞人称時制といった文法カテゴリーに応じた語形変化をすることである。

名詞やそれに準ずる品詞(例えば形容詞)の語形の変化は、あくまで「曲用(declension)」と言い、別物として扱う。

印欧語は、動詞が、時制や主語の人称によって変化する[注 1]。 なおハンガリー語には目的語定性による変化(定活用・不定活用)がある。またバスク語には聞き手(話し相手)が敬称親称のいずれで呼ばれるかによる変化(聞き手活用)があるが、これは必ずしも言及されない対象に関するものである[注 2]

様々な言語における存在動詞の活用
ラテン語 フランス語 イタリア語 スペイン語 ポルトガル語 英語 ドイツ語 スウェーデン語 ラトビア語 ハンガリー語
不定詞 esse être essere ser ser to be sein vara būt lenni
1人称・単数 (ego) sum je suis (io) sono (yo) soy eu sou I am ich bin jag är es esmu (én) vagyok
2人称・単数 (tu) es tu es tu sei (tú / vos / usted) eres / sos / es tu és you are du bist du är tu esi (te) vagy
3人称・単数 (is/ea/id) est il / elle est lui / lei / Lei è (él / ella) es ele / ela / você é he/she/it is er / sie / es ist han / hon / den / det är viņš/ viņa ir (ő/Ön) van
1人称・複数 (nos) sumus nous sommes (noi) siamo (nosotros / nosotras) somos nós somos we are wir sind vi är mēs esam (mi) vagyunk
2人称・複数 (vos) estis vous êtes (voi) siete (vosotros / vosotras / ustedes) sois / sois / son vós sois you are ihr seid ni är jūs esat (ti) vagytok
3人称・複数 (ei/eae/ea) sunt ils / elles sont (loro/Loro) sono (ellos / ellas) son eles / elas / vocês são they are sie sind de är viņi, viņas ir (ők/Önök) vannak

イタリア語

動詞の変化表(parlare = speak, talk; しゃべる、話す)

  • 現在分詞: parlante
  • 過去分詞: parlato

直説法単純時制と近過去、命令法現在のみ示す。

現在 半過去 遠過去 単純未来 命令法現在 近過去
一人称単数 parlo parlavo parlai parlerò ho parlato
二人称単数 parli parlavi parlasti parlerai parla hai parlato
三人称単数 parla parlava parlò parlerà parli ha parlato
一人称複数 parliamo parlavamo parlammo parleremo parliamo abbiamo parlato
二人称複数 parlate parlavate parlaste parlerete parlate avete parlato
三人称複数 parlano parlavano parlarono parleranno parlino hanno parlato

スペイン語

規則動詞の変化表(hablar = speak, talk; 話す、しゃべる)

  • 現在分詞[注 3]: hablando
  • 過去分詞: hablado
叙法 直説法 接続法 命令法
時制 現在 点過去 線過去 未来 過去未来 現在 過去 未来
1人称単数 hablo hablé hablaba hablaré hablaría hable hablara
hablase
hablare -
2人称単数 hablas hablaste hablabas hablarás hablarías hables hablaras
hablases
hablares habla
no hables
3人称単数 habla habló hablaba hablará hablaría hable hablara
hablase
hablare hable
1人称複数 hablamos hablamos hablábamos hablaremos hablaríamos hablemos habláramos
hablásemos
habláremos hablemos
2人称複数 habláis hablasteis hablabais hablaréis hablaríais habléis hablarais
hablaseis
hablareis hablad
no habléis
3人称複数 hablan hablaron hablaban hablarán hablarían hablen hablaran
hablasen
hablaren hablen

フランス語

動詞の変化表(parler = speak, talk; しゃべる、話す)

  • 現在分詞: parlant
  • 過去分詞: parlé

直説法単純時制と複合過去、命令法のみ示す。

現在 半過去 単純過去 単純未来 命令法 複合過去
一人称単数 parle parlais parlai parlerai ai parlé
二人称単数 parles parlais parlas parleras parle as parlé
三人称単数 parle parlait parla parlera a parlé
一人称複数 parlons parlions parlâmes parlerons parlons avons parlé
二人称複数 parlez parliez parlâtes parlerez parlez avez parlé
三人称複数 parlent parlaient parlèrent parleront ont parlé

ドイツ語

動詞の変化表(sprechen = 英 speak, talk; 話す、しゃべる)

  • 過去分詞: gesprochen
  • 現在分詞: sprechend

但し、この動詞は不規則動詞(現在活用・三基本形で語幹の母音が変化する動詞、強変化動詞とも呼ばれる)である。

直説法現在 直説法過去 命令法 接続法1式 接続法2式 現在完了
一人称単数 spreche sprach spreche spräche habe gesprochen
二人称親称単数 sprichst sprachst sprich sprechest sprächest hast gesprochen
三人称単数 spricht sprach spreche spräche hat gesprochen
一人称複数 sprechen sprachen sprechen sprechen sprächen haben gesprochen
二人称親称複数 sprecht spracht sprecht sprechet sprächet habt gesprochen
三人称複数 sprechen sprachen sprechen sprächen haben gesprochen
二人称敬称単複 sprechen sprachen sprechen sprechen sprächen haben gesprochen

現在完了(助動詞 haben, sein)、過去完了、未来形(助動詞 werden)、未来完了はいずれも[助動詞(+助動詞の不定形) + 本動詞の不定形/過去分詞]で作られ、助動詞が動詞と同じように活用するため、ここには(直説法の)現在完了のみ挙げた。ドイツ語も参照。

英語

上述の印欧語の諸言語の活用表を見た後で、英語の活用表を見ることになった人はほぼ誰でも気付くことになるわけだが、英語の活用表というのは、印欧語の他の諸言語と比較して、突出して「単純」で、「暗記しやすい」ものとなっている。これも「(諸言語の中でも突出して)英語は外国語として学ぶのに容易な言語」と言われる理由のひとつとなっている[注 4]

規則動詞の変化表 (speak)

  • 現在分詞: speaking
  • 過去分詞: spoken
現在 過去 現在完了 過去完了
一人称 speak spoke have spoken had spoken
二人称 speak spoke have spoken had spoken
三人称単数 speaks spoke has spoken had spoken

なお(他の言語同様に)不規則動詞もあり、(やはり)不規則動詞は頻用する基本的な動詞に多い。


注釈

  1. ^ その際、英語でいえばその語尾となる-ing, -edなどを活用による語形変化と考え「活用語尾」と呼ぶ解説者もいる[要出典]。またそれらを「接尾辞」と説明する解説者もいる[要出典]
  2. ^ 日本語でいえば丁寧語に当たる[要出典]
  3. ^ この名称は日本における名称で、スペイン語ではgerundioとよばれる。
  4. ^ 他にも、英語アルファベットはたったの26文字しかなく、フランス語などのように、発音区別符号がついたアルファベットがたくさんある言語と比べて、文字レベルでも(恐ろしいほど)単純だ、ということもしばしば挙げられる[要出典]
  5. ^ ここでいう「語」はアクセント単位や最小呼気段落にほぼ相当する[6]
  6. ^ 下一段という名は林圀雄によって造られた。また、中二段の名称はのちに黒沢翁満によって上二段に改められた。
  7. ^ これは中世の「体」「用」「てにをは」以来の伝統を継承するものである[12]
  8. ^ 例えば平賀譲(造船学者の平賀譲とは別人)が出題した「動詞の活用[20]」がある。

出典

  1. ^ 言語学大辞典:術語編』三省堂、1996年1月。ISBN 9784385152189 
  2. ^ Oxford Dictionaries, "conjugation"
  3. ^ a b 内田宗一 2016, pp. 41–42.
  4. ^ a b 平井吾門 2016, pp. 45–46.
  5. ^ 矢田勉 2016, p. 55.
  6. ^ a b c 屋名池誠 2005, p. 71.
  7. ^ 矢田勉 2016, p. 53.
  8. ^ 坪井美樹 2016, pp. 69–70.
  9. ^ a b 仁田義雄 2021, p. 134.
  10. ^ 中村朱美 2016, pp. 62–63.
  11. ^ 仁田義雄 2021, pp. 134–135.
  12. ^ a b 仁田義雄 2021, p. 135.
  13. ^ 鈴木康之 1977, p. 196.
  14. ^ 鈴木康之 1977, p. 229.
  15. ^ 寺村秀夫 1985, pp. 27–58.
  16. ^ a b 寺村秀夫 1985, pp. 14–26.
  17. ^ 寺村秀夫 1985, p. 20.
  18. ^ a b 寺村秀夫 1985.
  19. ^ 鈴木康之 1977.
  20. ^ コンピュータ・サイエンス誌『bit』の「ナノピコ教室」


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