活用 日本語における活用

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活用

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/07/06 03:27 UTC 版)

日本語における活用

日本語の「活用」という用語江戸時代国学本居宣長が用いて以来のものである。

日本語の動詞や形容詞、形容動詞、助動詞は、の述語の中心となるとき、その節全体の中で果たす意味や機能によって異なる語形で現れるが、このことを動詞や形容詞、形容動詞、助動詞の活用という。

日本語の述語全体(動詞・形容詞から終助詞接続助詞までを含む。)は、アクセントや息継ぎなどの点からいくつかの語に分けることができる[7][8]。つまり、日本語では述語は全体として複数の連続する語によって構成されている。

述語全体を語に分けず一体のものとして扱い、そのさまざまな形の変化を活用と呼んでパラダイムにまとめる立場もあるが、表が非常に大きくなる上、語ごとに同じ語形が何度も現れるため、無駄の多い記述法であるとされる[7]。これは、述部を構成している語はそれぞれ語形変化し、しかも同類の語は複数続くこともあるために、述語全体の形式のバラエティが豊富になるからである。

このため、日本語の述語の形の変化は、述語全体を構成する語の語順と、各語の語形変化とに分けて記述されることが一般的である。

日本語の述語全体は以下のように構成されている。

動詞/形容詞 - 補助動詞 - 助動詞 - 終助詞/接続助詞[7]

動詞/形容詞、補助動詞、助動詞はそれぞれ語形変化し、補助動詞、助動詞、終助詞/接続助詞は同類のものが複数一定の順序で続くことがありうる。

伝統的な文法論(橋本進吉らの学校文法)でいう活用とは、音声的な形態の違い、つまり付属する助動詞助詞の違いに対応する語幹の母音の変化によって述語を分類している。例えば、動詞五段動詞の「書く」であれば、「書か(ない)」「書き(ます)」「書く」「書く(こと)」「書け(ば)」「書け」のように母音がa, i, u, eと変化する。この五段動詞の音声的な変化を規準にして他の一段動詞や形容詞・助動詞にいたる活用形・活用表が作られている。

伝統的な活用表は形態素の連接による語形変化をそのまま反映しているのではなく、終止形・命令形のようにそれだけで意味を持つ単位であるものと、未然形や仮定形のように「ない(ぬ)」や「ば」を伴って初めて一定の意味をもつものが混在している。これは、現行の活用表が国学以来の伝統にのっとってかな単位で用言を分析していることと、ゼロ形態を想定していないことによる。音素表記によって日本語の動詞を形態素分析してみると、例えば「書く」「着る」「書かないで」「着ないで」「書かれる」「着られる」などは、それぞれ「kak-u」「ki-(r)-u」「kak-(a)-naide」「ki-naide」「kak-are-(r)-u」「ki-(r)-are-(r)-u」のように分析できる。この分析から、「kak-(書k-)」「ki-(着-)」という語幹と、「-u(終止・連体形)」「-naide(-ないで)」といった語尾、そして派生語幹をつくる接辞である「-are-(れる、られる)」などの形態素を認定できる。語尾「-u」が「着-」に連接するときに「kiru」という形態をとることや、「-naide」が「書k-」と連接すると「kakanaide」となることは、母音連続・子音連続を解消するために /r/ や /a/ が挿入されたものと考えられ、それぞれの形態素は一貫して同じ形態で記述できる。このように考えると、日本語の活用とは、語幹/派生接辞/語尾といった形態素が膠着的に連接していき、結果生じた母音連続や子音連続を解消するために子音母音が挿入される過程であるといえる。

活用語

日本語において活用する語は用言動詞形容詞形容動詞)と助動詞であり、あわせて活用語という。

活用形

語の活用された形を活用形と呼ぶ。学校文法橋本進吉の文法)では以下に示す通り六つの活用形を提示している。ただし、実際上、6つ全てが異なる活用形をもつ語は文語の「死ぬ」「往ぬ」「す」「来」だけである。他の語は同形の活用形をもつ場合がほとんどであり、また口語の形容動詞は同形がない代わりに命令形自体を持たない。

未然形 打消の「-ない」、受身・可能などの「-れる(られる)」、使役の「-せる(させる)」、意思・推量の「-う」などに接続する形。
連用形 他の用言や多くの助動詞、過去・完了の「-た(だ)」などに接続する形。接続無しで名詞として用いられることもある。
終止形 他への接続無し、又は終助詞に接続して文末で言い切る形。
連体形 他の体言に接続する形。
仮定形
文語では已然形いぜんけい
仮定・条件(文語では原因・理由)の「-ば」に接続する形。文語での仮定表現は未然形に「-ば」を接続させた形。
命令形 他への接続無し、又は終助詞に接続して命令を表す形。

また活用される前の基本の形を基本形と呼び、辞典の見出しなどに使われている。

活用形の問題点

活用形を見ると、「る」「れ」「よ(ろ)」までが含まれているが、これは係り結びの結びの語形であったり、命令の語形であったり、全て言い切る際の語形であったためである。しかし、その他の場面において「る」は名詞修飾の際に動詞と名詞の間を繋いだり、名詞自体の役割をするものであり、「れ」は本来、「れば」で「ば」と分かちがたい。また命令の「よ(ろ)」も対照的な禁止の「な」などは助詞に分類されている。よってこれらは動詞の一部というよりは文法機能を果たす付属成分であり、これらを一段・二段・カ変・サ変・ナ変動詞のみにつく助詞とすれば、現在のように表まで作る必要がなくなる。

活用の基本的規則

日本語動詞の活用の種類
文語 口語
四段活用
ナ行変格活用
ラ行変格活用
下一段活用
五段活用
下二段活用 下一段活用
上一段活用
上二段活用
上一段活用
カ行変格活用
サ行変格活用

活用の基本的規則には以下のようなものがある。

口語体

  • 形態素連接と音挿入の規則
    • 〜C+C〜
      • C〜は〈否定〉の意味を持つ→ a を挿入
      • その他
        • C〜は t で始まる語尾→音便形処理
        • その他→ i を挿入
    • 〜V+V〜
      • V〜は -ase- → s を挿入
      • V〜は -oo → y を挿入
      • その他→r を挿入
    • その他→そのまま
*C は子音、V は母音。「〜C」「〜V」はそれぞれ先行部が子音終わり・母音終わりであること、「C〜」「V〜」は後続部が子音始まり・母音始まりであることを示す。
  • 語幹の例
    • 子音終わり語幹(学校文法の五段活用動詞)
      • yom-(読む) tat-(立つ) oyog-(泳ぐ) waraw-(笑う)など
    • 母音終わり語幹(学校文法の上一段、下一段活用動詞)
      • mi-(見る) oki-(起きる) ne-(寝る) nage-(投げる)など
  • 接辞
    • -ase-(使役) -are-(受身) -e-(可能) -mas-(丁寧:特殊な語尾を取る)
    • 先行部となったときは形容詞型の活用をするもの
      • -na-(〜ない〈否定〉) -ta-(〜たい) -yasu-(〜やすい) -niku-(〜にくい)
  • 語尾
    • -u(終止・連体形) -oo(う/よう) -una(禁止) -e/o(命令形:子音終わりの先行部には -e 、母音終わりの先行部には -o で現れる) -eba(ば) -uto(と) -ni(目的の「に」) -nagara(ながら) -ゼロ(連用形中止)
    • 〈否定〉の意味を持つもの
      • -naide(ないで) -zuni(ずに)
    • 音便形をとるもの
      • -ta(た) -tara(たら) -tari(たり) -te(て) -tya(ちゃ)

文語体

  • 動詞の活用の種類
    • 四段活用
    • ラ行変格活用(口語の五段活用(四段活用)に相当し、「有り」「居り」「侍り」「いまそかり」の4語のみ)
    • ナ行変格活用(同上。「死ぬ」「往ぬ」の2語のみ)
    • 上一段活用(口語の上一段活用に相当し、「着る・見る・似る・煮る・射る・鋳る・干る・居る・率る」の9語)
    • 上二段活用(同上)
    • 下一段活用(口語のラ行五段活用(四段活用)に相当し、「蹴る」の1語のみ)
    • 下二段活用(口語の下一段活用に相当する。ただし「得(う)」は口語において下一段形の「得る(える)」と下二段形の「得る(うる)」に分かれている)
    • カ行変格活用(「来(く)」の1語のみ)
    • サ行変格活用(「おはす」、「す」またはその複合語)
  • 形容詞の活用の種類
  • 形容動詞の活用の種類
  • 助動詞の活用の型
    • 四段型
    • ラ行変格型
    • ナ行変格型
    • 下二段型
    • サ行変格型
    • ク活用型
    • シク活用型
    • ナリ活用型
    • タリ活用型
    • 不変化型
    • 特殊型

活用の研究史

江戸時代、国学において活用の研究がなされた。本居宣長は『御国詞活用抄』(みくにことばかつようしょう)によって活用の分類を行った。これを受けて、鈴木朖は『活語断続譜』で『御国詞活用抄』の語例を列挙して1等から8等に分け、本居春庭は『詞八衢』(ことばのやちまた)で動詞の活用を四段・一段・中二段・下二段・変格の5種類に分類している(中二段の名称はのちに黒沢翁満によって上二段に改められた)。さらに東条義門は『活語指南』において活用形を「将然言(未然言とも)・連用言・截断言・連体言・已然言・希求言」という6つに分類し、現在の活用形はこれを継承している。終止という名は黒川真頼『詞栞』による。命令という名は田中義廉『小学日本文典』による。未然という名は堀秀成による。

林圀雄によって下一段という名が造られ、また動詞に変格活用があることを説いたのは本居春庭の『詞八衢』が最初で、その後修正が加えられた。

形容詞では本居春庭の『詞八衢』が最初で、「く、し、き、けれ」「し、く、し、しき、けれ」とまとめたのは東条義門であり、その『山口栞』にこのことを詳述した。

助動詞では富樫広蔭[9]『詞玉橋』がある。

最近の活用表作り

学校文法の活用表には様々な問題点があるが、これに替わるための決定的な案はまだ定まっていない。学校文法の活用表の問題点は音声的な形態が重視されて文法的機能との対応が少ない点で、文法的機能によって否定形・受身形・使役形・可能形・丁寧形…といったように分類するような試みがある。また五段動詞の語幹を子音で終わることとし、学校文法のa,i,u,e,oを伴った形態は語幹ではなく、語基とする。五段動詞を子音語幹動詞、一段動詞を母音語幹動詞、カ変・サ変を不規則動詞とすることも行われている。

関連項目

関連文献


  1. ^ Oxford Dictionaries, "conjugation"
  2. ^ 世界の諸言語の中では、日本語と韓国語だけが、一種の「孤立した言語」になっていて、非常に特殊で、諸言語の活用全般を類推で理解するのにほとんど役立たず、一種の「行き止まり」的な知識となるので、一番最後に解説する
  3. ^ その際、英語でいえばその語尾となる-ing, -edなどを活用による語形変化と考え「活用語尾」と呼ぶ解説者もいる。またそれらを「接尾辞」と説明する解説者もいる。
  4. ^ 日本語でいえば丁寧語に当たる
  5. ^ この名称は日本における名称で、スペイン語ではgerundioとよばれる。
  6. ^ 他にも、英語アルファベットはたったの26文字しかなく、フランス語などのように、アクセント記号がついたアルファベットがたくさんある言語と比べて、文字レベルでも(恐ろしいほど)単純だ、ということもしばしば挙げられる。
  7. ^ a b c 屋名池 (2005 p.71)
  8. ^ ここでいう「語」はアクセント単位や最小呼気段落にほぼ相当する。
  9. ^ 精選版 日本国語大辞典『富樫広蔭』 - コトバンク


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