樋口一葉 一葉の手帳

樋口一葉

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/06 03:00 UTC 版)

一葉の手帳

一葉の残した手記として日記の他に作品の下書き・調査メモなどを記した手帳2冊がある。この手帳はともに個人蔵で、1冊は『別れ霜』の下書きなどが記されたもの、もう1冊が『うもれ木』の調査メモが記されたもの。

前者は洋綴じ・横罫のノートで、寸法は縦19.2センチメートル、横12.7センチメートル。9頁目までは鉛筆書きによる、平安時代の『土佐日記』の写しで、承平4年(934年)2月26条から翌承平5年1月4日までの部分が写されている。10頁目からは墨筆で『吹くる風』と題された小説の断片が記されている。これは内容から1892年(明治25年)3月31日から同年4月17日にかけて、一葉が「浅香のぬま子」の筆名で改進新聞に発表した『別れ霜』の未定稿にあたると考えられている。筑摩書房『一葉全集』では一部が翻刻されている。

後者は『うもれ木』の調査メモが記された手帳で、近年原本が発見された。表紙が和紙の小型手帳で、寸法は縦9センチメートル、横6センチメートル。一葉は1892年11月に『都之花』第95号から3回連載で『うもれ木』を発表しているが、手帳の内容は、鉛筆で作中に登場する薩摩窯陶器の歴史や製法が記された調査メモが主体となっている。なお「うもれ木」には、この手帳のほか未定稿が現存している。ほか、半井桃水から借りた朝鮮文学『九雲夢』の主人公を主題とした一葉自作の漢詩や、上野東京図書館で読んだ『新著聞集』の読書メモも記されている。

五千円紙幣

一葉の肖像は2004年平成16年)11月1日発行分からそれまでの新渡戸稲造に代わり、日本銀行券五千円紙幣の表面に採用されている[注釈 2]。女性としては、1881年(明治14年)発行の紙幣に採用された神功皇后以来、123年ぶりで2人目の採用である[66]2000年(平成12年)に発行開始された二千円紙幣の裏面に紫式部が描かれているが、これは肖像画の扱いではない[66]。偽造防止に利用される髭や顔の皺が少ないため版を起こすのに手間取り、製造開始は野口英世千円紙幣福澤諭吉一万円紙幣より遅れた。

その他

夏目漱石の妻・鏡子の著書『漱石の思ひ出』によると、一葉の父・則義が東京府官吏を務めていた時の上司が漱石の父・小兵衛直克であった。その縁で一葉と漱石の長兄・大助(大一)を結婚させる話が持ち上がったが、則義が度々直克に借金を申し込むことがあり、これをよく思わなかった直克が「上司と部下というだけで、これだけ何度も借金を申し込んでくるのに、親戚になったら何を要求されるかわかったものじゃない」と言って、破談にしたという。佐佐木信綱は、自宅に漱石が来訪した折、漱石の近親者と一葉との間に縁談があった旨話され、渋谷三郎のことだろうかと著書の中で記している[67][14]


注釈

  1. ^ 22歳の春に自分で「法通妙心信女」という戒名(ママ)をつけていたが、井上ひさしはこの戒名に「あなたの文学を解読する鍵がある。あなたは生きながら死んでいたのですね。だからこそこの世がよく見えたのでしょう」と『the座』創刊号の一葉との架空対談で語った[43]
  2. ^ 令和6年(2024年)以降発行分に予定されている紙幣刷新により、津田梅子に変更されるまで。
  3. ^ 現在の『毎日新聞』とは別の新聞。

出典

  1. ^ 澤田 2005, p. 10.
  2. ^ a b 「略年譜」(樋口アルバム 1985, pp. 104–108)
  3. ^ 樋口一葉生誕の地”. 千代田区観光協会 (2021年11月3日). 2021年11月2日閲覧。
  4. ^ 澤田 2005, p. 9.
  5. ^ 「歌人・なつ子」(樋口アルバム 1985, pp. 2–21)
  6. ^ 澤田 2005, p. 13.
  7. ^ a b 『樋口一葉と甲州』, p. 30.
  8. ^ 澤田 2005, p. 14.
  9. ^ 澤田 2005, p. 22.
  10. ^ 澤田 2005, p. 25.
  11. ^ 澤田 2005, p. 30.
  12. ^ 澤田 2005, pp. 32–34.
  13. ^ 佐佐木信綱「芸術界の人々 樋口一葉」『明治大正昭和の人々』新樹社、1961年、111頁。 
  14. ^ a b 明治大正昭和の人々 12 芸術界の人々1/11”. 江戸期版本を読む. Livedoor blog (2022年10月2日). 2022年10月21日閲覧。
  15. ^ a b 宮本百合子婦人と文学青空文庫
  16. ^ 澤田 2005, p. 47.
  17. ^ 澤田 2005, p. 39.
  18. ^ 澤田 2005, p. 41.
  19. ^ 澤田 2005, pp. 43–45.
  20. ^ 村上計二郎著『列伝偉人の結婚生活』日本書院、大正14年
  21. ^ a b c d e f g h i 無謀な決断が道を拓いた 樋口一葉の日記をたどる」『日本経済新聞』日曜朝刊「NIKKEITheSTYLE」9-11面(2020年11月29日閲覧)
  22. ^ 澤田 2005, pp. 45–47.
  23. ^ 澤田 2005, p. 38.
  24. ^ a b c 『樋口一葉と甲州』, p. 32.
  25. ^ 澤田 2005, p. 78.
  26. ^ 澤田 2005, pp. 56–65.
  27. ^ 澤田 2005, pp. 85–89.
  28. ^ 澤田 2005, p. 65.
  29. ^ 澤田 2005, pp. 94–96.
  30. ^ 澤田 2005, pp. 106–107.
  31. ^ 澤田 2005, pp. 127–134.
  32. ^ 澤田 2005, pp. 138–143.
  33. ^ 桑原朝子「樋口一葉『大つごもり』に見る信用問題 : 西鶴との比較を手掛りとして」『北大法学論集』第73巻第2号、北海道大学大学院法学研究科、2022年7月、1-40頁、ISSN 0385-5953CRID 1050293015560520448 
  34. ^ 『樋口一葉と甲州』, p. 63.
  35. ^ 澤田 2005, p. 161.
  36. ^ a b c d 『樋口一葉と甲州』, p. 50.
  37. ^ 『樋口一葉と甲州』, p. 50-51.
  38. ^ 『樋口一葉と甲州』, p. 40,50.
  39. ^ 澤田 2005, pp. 182–188.
  40. ^ 服部敏良『事典有名人の死亡診断 近代編』(吉川弘文館、2010年)p.249
  41. ^ 樋口一葉夭逝す『新聞集成明治編年史 第九卷』林泉社、1936-1940
  42. ^ 澤田 2005, p. 217.
  43. ^ 笹沢信『ひさし伝』新潮社 2012年 p.287
  44. ^ a b c d e 『樋口一葉と甲州』, p. 60.
  45. ^ 一葉歌集国立国会デジタルコレクション、2022年10月20日閲覧。
  46. ^ 「大藤村講演會の一幕」『随筆』戸川秋骨著(奎運社, 1924年)
  47. ^ 村上計二郎『列伝偉人の結婚生活』日本書院、大正14年
  48. ^ 戦前都道府県知事総覧
  49. ^ a b 施設概要”. 一葉記念館. 2021年11月3日閲覧。
  50. ^ a b 過去の展覧会アーカイブ”. 日本近代文学館. 2021年11月3日閲覧。
  51. ^ 樋口一葉・その文学と生涯”. 日本近代文学館. 2021年11月3日閲覧。
  52. ^ 常設展のご案内”. 山梨県立文学館. 2021年11月3日閲覧。
  53. ^ やまなし文学賞”. 山梨県立文学館. 2021年11月2日閲覧。
  54. ^ 日外アソシエーツ編『最新文学賞事典2014-2018』日外アソシエーツ、2019年、95-96頁。ISBN 9784816927706 
  55. ^ 開館15周年記念企画展 樋口一葉展Ⅰ われは女なりけるものを ―作品の軌跡―”. 山梨県立文学館. 2021年11月3日閲覧。
  56. ^ 開館15周年記念企画展 樋口一葉展Ⅱ 生き続ける女性作家 ―一葉をめぐる人々―”. 山梨県立文学館. 2021年11月3日閲覧。
  57. ^ 開館20周年記念企画展 樋口一葉と甲州”. 山梨県立文学館. 2021年11月3日閲覧。
  58. ^ 企画展「樋口一葉没後120年記念 ひびきあう、清方と文学」”. アイエム インターネットミュージアム (2021年11月3日). 2021年11月2日閲覧。
  59. ^ 樋口一葉没後120年記念 ひびきあう、清方と文学”. 鎌倉市鏑木清方記念美術館 (2021年11月3日). 2021年11月2日閲覧。
  60. ^ 会社概要 風水国際グループ株式会社
  61. ^ 特別展「樋口一葉展―わが詩は人のいのちとなりぬべき」”. 神奈川近代文学館 (2021年11月3日). 2021年11月2日閲覧。
  62. ^ 『樋口一葉展―わが詩は人のいのちとなりぬべき』神奈川近代文学館、2021年、2頁。 
  63. ^ 「女性・ジェンダー」「貧困」「東京」現代につながる樋口一葉/生誕150年 ゆかりの地で記念展東京新聞』夕刊2022年5月2日1面(2022年5月4日閲覧)
  64. ^ 旗手勲「日本資本主義の生成と不動産業国連大学人間と社会の開発プログラム研究報告(1981年、ジェトロアジア経済研究所
  65. ^ 樋口一葉 和歌(1)
  66. ^ a b 読売新聞』2002年8月2日[要ページ番号]
  67. ^ 佐佐木信綱「芸術界の人々 樋口一葉」『明治大正昭和の人々』新樹社、1961年、114頁。 
  68. ^ 『邦楽ジャーナル』11月号[要文献特定詳細情報]
  69. ^ 『日本女性新聞』2017年8月15日(第2246号)[要ページ番号]、『山梨日日新聞』2017年8月20日[要ページ番号]






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