徴兵制とは? わかりやすく解説

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【徴兵制】(ちょうへいせい)

憲法法律によって国民外敵から国を守る義務科すこと。
また、その法令基づいて自国民を軍隊強制的に徴集し数年間の軍務兵役)に服させる制度

この制度敷かれている国において、兵役拒否犯罪行為みなされ軍隊における脱走敵前逃亡準じて重罰処される
命令不服従、脱走敵前逃亡はそれ自体重罪であり、死刑終身刑処されることも珍しくない
思想的宗教的理由での拒否は特に罰則重く属す思想・宗教集団自体利敵行為への加担疑われることにもなる。
戦時ない場合公共益する労役介護清掃消防活動など)に従事することを条件として兵役拒否認める「良心的兵役忌避」の制度運用する国家もある。

徴兵制を敷く国家でも、本人自由意志による志願入隊可能なのが普通。
特に高度な専門技術要求される海軍空軍、また士官学校卒業前提とする幹部候補生おおむね職業軍人のみで充足する。

関連赤紙 良心的兵役忌避

基本的な制度運用

徴兵制を採用する国家では、特定の年齢達した若者対象とした「兵役検査」が実施される
だが、全ての国民軍事訓練受けて武装するわけではなく兵士として不適格な者は徴兵免除される
詳細な徴兵免除基準は国や軍隊によって様々だが、おおむね以下の通り

徴兵対象となった者は、数年間(概ね1~3年ほど)の軍歴経て社会復帰する
この軍歴基本的に訓練期間であり、発展途上国では職業訓練をうけながら社会的信用獲得する手段として重宝される向きもある。
そして、軍歴終えて社会復帰した後も、軍務従事することが難しい年齢になるまでは予備役在郷軍人)として、いつでも軍隊復帰できるよう待機することを義務付けられる
こうした予備役国家総力戦突入した場合や、何らかの理由局地的な人員不足発生した際の補充要員として確保されている。

なお、国によっては政府作成する候補者名簿」への登録手続義務化され、その名簿から呼び出し受けて入営する、という国もある。

アメリカでは"Selective Service System"としてこの方式を採用しており、国防総省対象者米国籍、または米国永住権を持つ1825歳までの男性)の名簿作成している。
ただし、1973年に徴兵制自体運用停止しており、現在はこの名簿使用することはなくなっている。

戦略的意義

現代における徴兵制の萌芽は、1800年前後フランスにおいて、ナポレオンによって確立されたものとされる

中世封建時代以来兵士主体王侯貴族寺院・教会など特権階級各自集めてきた民兵傭兵であった
徴兵制はそれら旧来の制度比して士気が高いわけではなく訓練が行届いているわけでもなく、おおむね弱兵である。
一人一人兵士の質が低いという問題は徴兵制の根本的欠陥であり、この点は現代到るまでほとんど改善されていない

徴兵制の価値兵士の質ではなく、その潜在的な数と、運用柔軟性である。
兵士として現実的に投入可能な人員全て実際に投入可能な体制整えたこと。
戦力化された一定数の兵士を常に国家管理下に置くことで、損耗した兵士素早く補充可能にしたこと。
特権階級から軍を編成する権利没収し軍人から反逆参戦拒否他国への内応を行う機会奪ったこと。
そして全ての指揮系統一手集約させ、合理的に運用可能にしたこと――すなわち、国家総力戦可能にしたこと。
徴兵制の歴史的意義は、そのような形で司令部参謀作戦立案する際の効率寄与するもので、兵士能力待遇寄与するものではない。

事実徴兵され兵士はしばしば(民兵傭兵運用とは比較ならないほど)多大な損害を伴う強襲作戦投入された。
民兵傭兵にはそのような作戦実行できないという事実が極めて重大な戦略的利点であったためである。
この利点他の制度では決し対抗できないものであったため、近代に至るまでに世界各国が徴兵制を推進していく道を辿ることとなる。
民兵傭兵招集する権利巡って紛争頻発したが、在来勢力が徴兵制の軍を打倒して最終的な勢力を得ることはなかった。

徴兵制の問題点

徴兵制の最大問題は、徴兵前提とする戦略本質的に人海戦術であり、数多く兵士が単に「死ぬため」に動員されるという点にある。
今日までの戦争大半それ以外選択余地がないものであったが、今日においてはその前提崩れつつある。

さまざまな装備品機械化自動化され兵站複雑怪奇極め軍人専門職化進んだ現在、兵士物理的な数は国家総力戦における継戦能力にほとんど寄与しなくなってしまっている。
更に「不整地や市街地などにて繰り広げられるゲリラ戦」「スパイ情報戦比重置かれる対テロ戦」「大量破壊兵器とりわけ核兵器)による(相互確証破壊」など、単純に兵士増員して意味が無い戦争形態存在する
今日戦争求められるのは「長年にわたり、高度な研鑽積んできた専門家集団」であり、「利発な若者隊列」ではない。

また、前述のように「一人一人兵士の質がどうしても低くなるということ問題である。
徴兵で軍に招集されることは、大多数の人にとって「不本意に自由と未来選択奪われた」状態であり、徴兵によって兵になったさせられた)者は、自ら志願して軍に入隊する者に比べて士気が低い傾向があると言われる
当然、無理やり戦場に連れてこられた兵士ではまともな戦闘など出来るはずもなく、結果として軍事力衰退予算削減など、平時から目に見える衰退ではなく有事の際に露呈する)に繋がりかねない、という意見もある。

加えて徴兵を行うことが国家経済に及ぼす悪影響指摘されている。
徴兵対象となる10代末期20代前半人間生物学的な成長ピーク迎え肉体的に精神的に活気満ちた時期である。
だからこそ、(人海戦術構成要員ともなる)兵士としてその世代最適であったのだが、若者活力を必要としているのはあらゆる産業あらゆる学問に共通である。
政府将来有望若者網羅的徴用して非生産活動送り込めばその分だけ若者未来閉ざされ失われた人材の分だけ各種産業生産能力低下する
新兵教練過程強烈なストレス伴うため、戦時でなくとも戦争神経症はじめとする精神疾患自殺犯罪への影響無視できない
それらは巡り巡って人口減少人件費高騰税収減少招き国力疲弊させる結果へと繋がっていくものと推定されている。

このような問題から、徴兵制を段階的に縮小したり、完全に廃止して職業軍人のみの軍隊移行する国々少なくない
また、こうした欠点解消するために、外国籍人間正規軍将兵として雇い入れる外人部隊制度取り入れたり民間軍事会社サービス利用する国も一部にある。

現代日本における「徴兵賛美・復活論」

前述理由から、日本では現在徴兵制は行われておらず、また、世界的に縮小傾向にあるのだが、近年わが国では、一部の層から徴兵制を賛美したり、または復活を望む旨の主張出てきている。
ただし、これらの主張は、
若者に(軍事教練兵舎での規律ある共同生活で)精神肉体集中的に鍛錬する機会与えることで、『モラル協調性の向上』『国家社会への忠誠心醸成』などを図れる」
という、本来の趣旨とはかけ離れた観点からなされているものがほとんどである。

また、徴兵制の肯定者は

がほとんどであり、徴兵肯定する発言は(仮に憲法改正で徴兵制が復活しても)「自分自身徴兵される可能性がない」ことを暗黙前提としている場合が多い。

このように肯定者が徴兵対象外である」ことや「軍隊教育機関とを混同して捉えている」ことなどから批判を受け、支持者はごく少数に留まっているのが現状である。

主要各国における徴兵制の現状

現在、世界で軍隊類する武装組織を持つ約170国家のうち、徴兵制を採用しているのは67ヶ国とされている。
以下に、主要国における徴兵制の採用・不採用をまとめた。

国名徴兵制の有無良心的兵役忌避可否特記事項
アイスランド共和国軍隊持たない自称必要な徴兵制を施行したとがない
アイルランド共和国不採用必要な
アルゼンチン共和国不採用必要な
アメリカ合衆国採用。ただし運用停止できる
イスラエル国採用女性のみ可女性徴兵対象
ただし兵役期間は男性より短い。
イタリア共和国不採用必要な
インド不採用必要な徴兵制を施行したとがない
スペイン不採用必要な
オーストラリア連邦不採用必要な
カナダ不採用必要な
ギリシャ共和国採用できる
グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国不採用必要な
コスタリカ共和国軍隊持たない自称非常時には徴兵あり必要な
サウジアラビア王国不採用必要な
シンガポール共和国採用できない徴兵各種公共機関共同。軍以外に配属される人員も多い
赤道ギニア共和国不採用必要な
スイス連邦採用できる
スウェーデン王国不採用必要な2010年7月1日に徴兵制を廃止
タイ王国採用できない
大韓民国採用できない
中華人民共和国採用。ただし運用停止できない
中華民国台湾採用できる徴兵制の廃止検討中
朝鮮民主主義人民共和国北朝鮮採用できない
デンマーク王国採用できる
ドイツ連邦共和国採用。ただし運用中止中できる
トルコ共和国採用できない
ニカラグア共和国不採用必要な
日本国憲法上、軍隊持たない自称必要な憲法徴兵禁じている
ニュージーランド不採用必要な徴兵制を施行したとがない
ノルウェー王国採用できる
パキスタン・イスラム共和国不採用必要な
ハンガリー共和国不採用必要な
バングラデシュ人民共和国不採用必要な
フィンランド共和国採用できる
フランス共和国不採用必要な
ヴェトナム社会主義共和国採用不明1979年以来運用停止されていたが、2011年運用再開
ベルギー王国不採用必要な
ポルトガル共和国不採用必要な
マレーシア採用できない実質志願制だが、形式的に徴兵を行う。
女性徴兵対象
ミャンマー連邦採用。ただし運用停止不明義務教育世代対象とした軍事教練存続
ヨルダン・ハシミテ王国不採用必要な
ロシア連邦採用できる
ルーマニア不採用必要な




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