懲戒処分
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/16 18:29 UTC 版)
裁判所における懲戒処分
船舶における懲戒処分
船員(船員法第1条に規定する船員)には労働基準法が適用されず(労働基準法第116条)、別途船員法によって船員に対する懲戒が定められている。
海員(船長以外の乗組員)は以下の事項を守らなければならず(船員法第21条)、船長は、海員がこれらの事項を守らないときは、これを懲戒することができる(船員法第22条)。
- 上長の職務上の命令に従うこと。
- 職務を怠り、又は他の乗組員の職務を妨げないこと。
- 船長の指定する時までに船舶に乗り込むこと。
- 船長の許可なく船舶を去らないこと。
- 船長の許可なく救命艇その他の重要な属具を使用しないこと。
- 船内の食料又は淡水を濫費しないこと。
- 船長の許可なく電気若しくは火気を使用し、又は禁止された場所で喫煙しないこと。
- 船長の許可なく日用品以外の物品を船内に持ち込み、又は船内から持ち出さないこと。
- 船内において争闘、乱酔その他粗暴の行為をしないこと。
- その他船内の秩序を乱すようなことをしないこと。
船長が科すことができる懲戒の範囲は次のとおりである(船員法第23条)。ただし、海員を懲戒しようとするときは、3人以上の海員を立ち会わせて本人及び関係人を取り調べた上、立会人の意見を聴かなければならない(船員法第24条)。
- 10日間以内の上陸禁止(停泊日数のみを算入)
- 戒告
学校における懲戒処分
校則に違反した者に対して行われる懲戒処分については、学校・設置者によって異なるが、主に次のようなものがある。
- 退学・放学(除名) - 退学処分の場合その学校は「中途退学(中退)」となるが、放学(除名)処分の場合はその学校に在学していたこと自体が抹消され、復学が認められなくなるばかりか、正式な学歴としても認められなくなる措置も存在する。
- 退学勧告 - 問題行動を起こした生徒・学生に対して、自主退学を促すものである。
- 停学 - 期限に設定の無い無期停学と期限に設定のある有期停学がある。無期停学では本人の反省の状況により解除され、有期停学は本人の姿勢に関係なく期間の満了をもって解除される。よって、無期停学であっても有期停学のそれより短期であることもあり得る。
- 訓告
- 謹慎 - 停学に準じる処分であるが、最近では生徒指導室や図書室、会議室等の別室で勉強する「学校謹慎」もある。
- 特別指導 - 校長や学長・総長に呼び出され説諭される譴責もこの一つ(こちらは公務員の譴責と若干違う)。
懲戒のうち、退学、停学、訓告の処分は校長(大学においては学長の委任を受けた学部長を含む)が行うとされている。また、退学は公立の小中学校、特別支援学校の小学部及び中学部の学齢児童、学齢生徒には行わず(ただし、大学付置の場合は行われると考えられる)、停学、謹慎は国公私立全ての学齢児童、学齢生徒には行わない。 なお学校教育法等による問題行動をおこした小中学生に対する出席停止は学校の秩序を維持し、他の児童生徒の教育権を確保するために生徒児童の保護者に対して発令される行政処分であって、懲戒処分ではない。
退学以外の処分では、処分と同時に自主的な退学の勧告がなされることもある。なお、体罰は学校教育法(昭和22年法律第26号)第11条により禁止され、体罰を加えた職員は逆に懲戒及び刑事処分(暴行罪・傷害罪)の対象となる。
また、叱責は必要な懲戒処分としてあまり問題視されていなかったが、2017年3月に池田町立池田中学校 (福井県)男子生徒(当時2年生)が学級担任・副担任からの執拗な叱責を苦にし自殺する事件が発生したため、事件を機に同年10月20日、文部科学省は「いたずらに叱責を繰り返すと、ストレスや不安の高まり、自信や意欲の喪失などを招き、精神的に追い詰めることにつながりかねない」と指摘し再発防止の徹底を求める通知を全国の教育委員会に出したため、今後は執拗な叱責を加えた職員は懲戒処分になる可能性が高くなると思われる。
なお、公立学校は、退学、退学勧告、停学、訓告、謹慎の処分を行った場合、その旨を所管教育委員会に報告しなければならないとしている自治体もある。また、校則に違反したことでなくても、違法行為が発覚した場合、これを理由とした懲戒処分が行われることがある。たとえば高校や大学などで、未成年時の飲酒や、刑法犯罪などが検挙された場合、学校が退学処分をする場合がある。
- 除籍 - 懲戒処分ではなく、事務手続きである。卒業、転退学、死亡以外に、学費の滞納や、修業年限を超えた場合、休学できる期間を超えても復学しなかった時、長期に渡り行方不明の場合も除籍となる。
家庭における懲戒
俗にお仕置きとも呼ばれることも多い。過去の長いいきさつがあり、改定が行われたのはあくまで最近のことなので、まず、1898年(明治31年)に施行された明治民法から2011年(平成23年)まで、民法第822条にどのように書かれていたか説明する。
- (第一項)親権を行う者は、必要な範囲内で自らその子を懲戒し、又は家庭裁判所の許可を得て、これを懲戒場に入れることができる。
- (第二項)子を懲戒場に入れる期間は、六箇月以下の範囲内で、家庭裁判所が定める。ただし、この期間は、親権を行う者の請求によって、いつでも短縮することができる。
明治民法の規定は戦後の民法改正においても引き継がれたのであった。
ただし第一項の「懲戒場」に該当する施設が実際には存在しなかったため、1項の後半および第二項は実際は意味が無く機能していなかった。そこで、2011年(平成23年)の改定で懲戒場に関する部分は削除され、次のようになった。
- 親権を行う者は、第820条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる(民法第822条)。
つまり、親権者は、子を監護し教育するために、子に不適切な行動などがあれば、懲戒(不適切な行動を改めさせる目的で、身体や精神に苦痛を加えること)を行うができる。懲戒を行うかどうかの決定やその内容は事実上、親権者の裁量に委ねられている。
昔から行われていたことは、例えば幼児の場合、幼児が(子供自身や周囲の人に)危険が及ぶような行為などをし、親がそのような行為を「してはいけない」などと何度か注意してもその行動が改まらない時などに、教育(躾け)目的で、しかたなく尻を(それなりに手加減して)平手で打ち、身体の感覚でもって、その行為の深刻さを感じさせ、行動を改めさせる、といったことである。昔このような事が普通に行われていたのは戦前の軍国主義教育の影響が大きいとされている。懲戒はしばしば「せっかん」などと言われていた。
ただし、懲戒は子の利益(820条)のため、また教育の目的を達成するためのものである、とされているので、その目的のために必要な範囲内でのみ認められる。この範囲を逸脱してまで過度の懲戒を加えると「懲戒権の濫用」と見なされる場合があり、特に暴力や大声で怒鳴りつけることは傷害罪・暴行罪等の犯罪を構成している、と見なされたり、児童虐待と見なされる可能性もある。
注釈
- ^ なお、これらの法律による規定がなされる前は、文官懲戒令(明治32年勅令第63号)(後に「官吏懲戒令」と改称)により懲戒処分が定められていた。
- ^ 国家公務員法第85条(刑事裁判との関係)
- ^ 公平審査という用語は、懲戒処分、分限処分に対する審査請求のほか、勤務条件に関する行政措置の要求、災害補償の実施に関する審査の申立て等及び給与の決定に関する審査の申立ての総称である[10]。なお法的には「請求」「要求」又は「申立て」であって、「申し出」ではない。
- ^ 防衛装備庁の職員である隊員の場合は、自衛隊法第48条の2の規定に基づく。防衛装備庁の職員以外の場合は、行政不服審査法の規定により処分庁の主任の大臣が防衛大臣になる。
- ^ 人事院規則一三―一(不利益処分についての審査請求)第19条の規定により設置される。
出典
- ^ 『懲戒処分』 - コトバンク
- ^ “女性教諭、生徒から告白され交際・キスも戒告処分…保護者は寛大な処分要求したため(読売新聞オンライン)” (日本語). Yahoo!ニュース. 2021年10月23日閲覧。 “教諭は生徒の保護者に交際の事実を伝え、理解を得ていたという。保護者は県教委に対し、教諭への寛大な処分を求める意見書を提出。県教委は意見書を考慮したうえで、処分内容を判断したとしている。”
- ^ “教え子の女子生徒からキスされた高校の35歳男性教師 3ヶ月停職の懲戒処分受け依願退職「相談に乗るうちに好意を…」 | 東海テレビNEWS” (日本語). www.tokai-tv.com. 2021年10月23日閲覧。
- ^ “車内の進路相談で突然、高3女子が教諭の頬にキス…その後も2回同じ状況に : 社会 : ニュース” (日本語). 読売新聞オンライン (2021年7月10日). 2021年10月23日閲覧。 “三重県教育委員会は8日、女子生徒と不適切な関係があったとして、県立高校の男性教諭(35)を停職3か月の懲戒処分にしたと発表した。教諭は8日付で退職した。”
- ^ “懲戒処分を受けるとどうなる? 処分の種類や基準をくわしく解説!” (日本語). マイナビニュース (2021年7月24日). 2021年10月23日閲覧。
- ^ “従業員の採用と退職に関する実態調査―労働契約をめぐる実態に関する調査(Ⅰ)―”. 国内労働情報. 14-03 (独立行政法人労働政策研究・研修機構). (2014-03-20) .
- ^ 高橋裕次郎 2002, p. 165
- ^ 菅野和夫 1996, p. 82
- ^ 期末手当及び勤勉手当の支給について(人事院事務総長発 昭和38年12月20日給実甲第220号)第35項-第37項
- ^ “国家公務員の公平審査制度”. 人事院 2020年9月23日閲覧。
- ^ 国家公務員法第99条第1項
- ^ 外務公務員法第20条第5項
- ^ 外務公務員法第19条第1項
- ^ 自衛隊法第49条第4項
- ^ 国家公務員法第92条の2、自衛隊法第50条の2、地方公務員法第51条の2
- ^ 最高裁判所第三小法廷昭和52年12月20日判決・事件名:行政処分無効確認等、附帯(通称 神戸税関職員懲戒免職)
- ^ “行政書士及び行政書士法人の措置請求事務取扱要綱 (pdf)”. 新潟県. 2021年8月4日閲覧。
- ^ a b “士業団体による会員の処分比較表 (pdf)”. 特許庁ウェブサイト. 2021年7月26日閲覧。
- ^ 懲戒処分の公表指針について(平成15年11月10日総参-786 人事院事務総長発)
- ^ 「懲戒処分の公表指針について」(平成15年11月10日総参-786 人事院事務総長発)の「3 公表の例外」参照
- ^ 最高裁判所第三小法廷 昭和52(オ)323 損害賠償等 昭和56年4月14日 判決 棄却 民集35巻3号620頁
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