考えられるメリット・デメリット
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/25 16:28 UTC 版)
「日本のTPP交渉及び諸議論」の記事における「考えられるメリット・デメリット」の解説
論点メリット反論関税江田憲司は、2.5%を撤廃してもメリットがないと曰う輩は企業のコスト感覚を知らない、「たった2.5%」でも車一台4-5万円違うので150万台以上米国に輸出する日本車メーカーにとっては死活的としその危機意識がTPP反対派には欠如しているとしている。 中野剛志は、日本は既に米国を除くTPP参加国のほとんどとFTA・EPAを締結済み(#日本と関係国との貿易協定参照)であり、関税面での実質的なメリットは、米国内における対日関税(2.5%等)の撤廃のみである、日本は内需88%の内需依存国であり、かつ対外貿易における米国のシェアは14%に過ぎない、よってTPPによって米国内での関税が撤廃されたところで、日本経済への波及効果は限定的であるとしている(pp91-96)。 経済・貿易小宮山洋子厚生労働大臣は「成長しなければ復興財源も社会保障財源も出てこない。この時代に日本だけが鎖国をしていていいというわけではない」と述べた。2011年11月のAPECで強い指導力を示す為にも、日本は一刻も早く、この近隣の連帯に参加し、経済交流・発展を図るべきである[誰によって?]。また、TPPの参加によって、内閣府の試算によれば、2.7兆円のGDP波及効果が見込まれる。 片岡剛士は、政府試算は貿易自由化のみで排他的な国内規制やルールの撤廃・平準化を含む非関税障壁撤廃の影響については試算には含まれていないとしている。 中野剛志は、TPP交渉参加国は、2011年11月現在9か国に過ぎず、日本を含めても10か国である、それは決して全世界ではなく、そればかりかアジアの先進国である中国・台湾も欠いており、地理的にも経済的にも、ローカルで中規模な国際連帯に過ぎない、また参加国の顔ぶれは、日米を除くと、残りは発展途上国か人口の限られる資源国・都市国家だけであり、これらの国々は内需が少なく外需依存(輸出依存)の構図を持っている、よって、日本が参加しても市場があまりに狭い為、輸出先としては利点がなく(米国については「関税」の項で上述)、むしろこうした国々の低賃金労働力によって生み出される安い産品・サービスによって、日本の市場も公共サービスも、食い物にされるだけである。経済的に日本にとっては、百害あって一利無し(pp42-55)としている。浜田和幸は、農水・経済産業省の試算が正しければ、TPP参加は3兆円の新たな富を生み出す一方で、10兆円を遥かに超える損失が出るので、日本全体の経済を考えれば参加を見送るのは当然である、としている(p30)。 グローバル企業小倉正行は、自動車メーカーをはじめとする日本の複数の大企業は、世界各地に工場・下請け企業を持ち、人件費・素材費・法人税・インフラ状況など展開する先々の国の諸条件を勘案しながら、コスト面を重視した効率的な運営を望んでいる、そうした諸企業において、TPPが掲げる9か国共通ルールの整備・貿易障壁の撤廃は、企業内貿易(部品のやり取りなど)をやりやすくし、企業利益の向上に繋がるとしている(pp171-175)。ただし、米自動車貿易政策評議会 (AAPC) は日本の自動車市場を閉鎖的とし、軽自動車規格の廃止を始めとした参入障壁の撤廃を強く要求しており、これに対しては、志賀俊之日本自動車工業会会長は反発している。 中野剛志は、一部の大企業はTPPによって潤うかもしれないが、海外に十分に事業展開のできない国内の中小企業には旨みがなく比較劣位に立たされる、そして国際障壁の撤廃によって、大企業の海外進出・日本空洞化の波は加速し、国内中小下請け業者への受注は減るであろう、またこうした大企業の法人税はその展開する先々の国に納められるであろうから、彼らの利益が日本国の税収を増やすとも限らない、つまるところ、大企業の利益が、日本・日本人の利益になるとは限らないとしている(pp144-153)。 論点デメリット反論労働者・移動の自由化 および 日本人の雇用と給与水準小倉正行は、TPPへの参加により、参加国間の労働者の「移動の自由化」が促進されれば、TPP参加の東南アジアや南米諸国から低賃金労働者や技術者が多量に流入することになり、それは必然的に日本人の賃金の低下、労働環境の悪化、失業率の増大を招くとしている。TPPでは「単純労働者はTPP交渉の対象外」とするが、TPPの作業分野「サービス貿易」には、建設サービス及び関連エンジニアリングの中に、(A-D)建築物・土木に関わる仕事、建設物の仕上げ工事等に携わる技術者が含まれており、これは実質的に労務者移動の抜け道となりかねない、と危惧する。またこうした技術者には医師や看護婦、弁護士も含まれており、日本人医師や看護婦を増員せずに、海外医師らで補うのは、本末転倒、としている(pp132-142)。 内閣官房は、TPP交渉では、ビジネスマンの出張や海外赴任などに関する手続等を容易にすること等を主眼として議論されているのであって、単純労働者の移動や医師や看護師など個別の資格の相互承認の議論はない、単純労働者や質の悪い医師や看護師などが入国しやすくなることはない、環境基準や労働者の権利保護の水準を引き下げないようにすることが議論されているとしている。 ある程度の海外からの労働者の流入は起こるだろうが、それは日本の製造業に活力を与える。だけでなく、国内で低賃金労働力の雇用が可能になることにより、これまで日本で進んでいた工場・会社の海外移転、産業の空洞化は減速する。 江田憲司は、日本の貿易総額に占めるFTA比率が韓国、中国、米国に劣っていることを指摘し、米韓FTAの発効で無関税になることを見越してトヨタや東レが生産を海外に移している事例を挙げて、FTA競争に出遅れた現状で既に日本の産業の空洞化が着実に進んでいるとしている。 片岡剛士は、米国はソーシャルダンピング懸念している、TPPでは労働の規制緩和ではなく途上国の労働規制強化を求めている、米国は過去単純労働者の国際的な移動に反対してきた、途上国まで参加するTPPで資格統一を図ろうという議論が出る可能性はかぎりなく低い、わが国の労働環境は米国と比較してよいとはいえないから米国医師が日本で働きたいと考える可能性も低いとしている。 格差 R. Lawrence、M. Slaughter、J. Sachs、H. Shats、A. Woodらは、計量分析によれば、貿易が国内の所得 格差の主因にはなっておらず、国内所得格差の拡大の主因は技術革新であるとした。 地方経済浜田和幸は、政府調達の公開入札基準額はWTOの政府調達協定から大幅に引き下げられ(物品・技術的サービスは5万SDR(約630万円)に、建設は500万SDR(約6億3千万円)になるとしている。原協定で対象となっている中央政府機関および地方政府機関(Regional Governments)について詳しくは、原協定第11章のAnnex 11.Aを、物品、サービス、建設サービスの基準額は、原協定第11章のAnnex 11.Cを参照のこと。また、同氏は、地方自治体も外資に解放され、公共サービスの入札と競争は過激化し、外資の落札は相次ぐだろうが、彼らはその性質上、地元や国内の業者ほどには資金を現地に還流しないことから、地方経済の資金の循環は切れてしまう、金額的には日本の市場規模は、米国を除く他のTPP参加諸国の市場の数倍な為、公共工事の受注を通して、日本からは資金が国外に流出する(日本企業が獲得する海外受注分を、国内からの流出分が必然的に上回る)としている(pp182-186)。同氏は、TPP参加後日本語のみ入札で受け付けるとなればそれが非関税障壁として、提訴されかねず、国際競争入札の対象となる案件については英語で作成された必要書類のみ受理しなければならなくなる可能性がある、としている。その場合、地方の小さな建設業者などは英語で書類作成ができず、入札から事実上締め出されることになりかねない、としている(pp182-186)。また、同氏は、TPPの政府調達基準が適用されると、日本の地域経済へのTPP参加国企業の参入が頻発する可能性があるとしている(pp182-186)。 内閣官房は、日本はWTO政府調達協定に加盟しているので既に外国企業の参入も認めている、これまで日本の公共事業への外国企業の参入実績はわずかである、WTO政府調達協定で求められる英語等による事務対応は調達物件の名称・数量・入札期日等を公示することのみとしている。WTO政府調達協定では、基準額以上の政府調達(国だけでなく都道府県と政令指定都市の公共工事など物品・サービスの調達も含む)については外国企業が参入しやすいように一定の手続を取ることとなっている。2012年1月現在の、WTOの政府調達協定における地方政府の機関の基準額は、次の通りである。 WTO政府調達協定の「基準額」並びに「換算額」機関の区分(万SDR)(万円)1. 産品 20 3,000 2. 3. 及び4. 以外のサービス 20 3,000 3. 4. に関連する技術的サービス 150 23,000 4. 建設サービス 1,500 230,000 ラチェット規定中野剛志は、ラチェット規定は現状の自由化よりも後退を許さない規定であり、後で何らかの事情により市場開放をし過ぎたと思っても規制を強化することが許されない、ラチェット規定が入っている分野は米国企業に有利な分野ばかりであるとしている。 内閣官房は、ラチェット規定は衛生植物検疫が規定される分野とは直接には関係なく、食品安全の基準を一度緩和すると再び厳しくすることはできなくなるということはないとしている。 潮田道夫帝京大学教授は、自由化を促進することにTPPの意義はあるのだから、その後退にあらかじめ歯止めをかけるのは当然である、そもそも、ラチェット規定は日本が過去にEPA交渉において他の国に要求したこともあるルールであるとしている。 WTOや米韓FTAでは輸入急増に対処する手段や生命や健康の保護のために必要な措置等のセーフガードが認められており、TPP原協定(P4協定)においてもWTOセーフガード協定上の権利と義務は確認されている。 参加中野剛志は、国際ルール策定の場では多数派工作は常識だが、TPP交渉参加国の中に日本と同じような利害や国内事情を有する国はなく(超大国の米国か、外需依存の高い経済的小国ばかり)、日本が自国の有利なようにルールを主導して築ける可能性はほとんどない、としている(pp42-48)。 経済産業省は、韓国のFTA先行により日本の輸出が減少すると予想している。みんなの党の江田憲司衆議院議員は、国際交渉では交渉スケジュールが予定通りに行く方が稀であり、TPP交渉も当初のスケジュールよりは遅れており、最終合意前に日本は交渉に参加できる、離脱が困難とするのは今の国際交渉の現実、ルール、過去の条約や協定等への知識不足からくる懸念であり、ルール上も実際上もいつでも離脱できるとしている。 2013年7月24日、マレーシアの首相ナジブは、朝日新聞のインタビューに応じて、国内産業の保護よりも自国系企業を育てることが大事で、多少のマイナス面は覚悟しなければならないとしながら、国益よりもマイナス面が大きいと判断した場合は離脱することも選択肢になると述べた。 技術浜田和幸は、米国の意向やTPP作業部会で中小企業が取り上げられていることを併せて考えると、日本がTPPに参加した場合、非関税障壁の整理等で日本の中小企業の買収がより容易になるよう法改正を求められる可能性がある、としている。日本の技術力の売りの一つは中小企業であり、これらが買収により米国を中心とした海外に流出すれば、日本は誇るべき技術を喪失し、折角の目先の企業利益や輸出機会の増大も意味が激減する、としている(pp186-188)。現に2008年米国は、「年次改革要望書」において、海外投資家の日本企業のより容易な買収を可能とする法改正を求めており、こうした企業買収の容易化はTPPの作業部会の一つ、分野横断事項でも取り上げられている、としている(pp186-187)。
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