考えられた対応策
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/30 03:48 UTC 版)
「コロンビア号空中分解事故」の記事における「考えられた対応策」の解説
CAIBは、もしNASAが直ちに行動していれば、リスクは高いながらも救出策を実行することは可能だったと断定した。この場合2つの案が考えられ、1つは当時発射準備作業中であったアトランティスで救出に向かうものであり、もう1つは船外活動(EVA)によって破損した左主翼の熱保護システムを修復するというものである。CAIBによれば、いずれもNASAが即時に決断していれば実行可能なものであった。 シャトルの発射準備には相当な期間が必要とされ、またいったん宇宙に行ってしまえば軌道を周回している間に使用する消耗品(電力・水・空気など)の量には限りがあるため、通常は救出用のシャトルを打ち上げることは不可能である。しかしながらこの時はアトランティスが3月1日発射予定のSTS-114に向けて準備に入っていたし、またコロンビアも国際宇宙ステーション建設調査のための軌道滞在期間延長機器(Extended Duration Orbiter package)を搭載していた。このためCAIBは、コロンビアは最長で2月15日までは軌道に滞在することが可能であったとし、またNASAの調査官もアトランティスは安全項目の点検をおろそかにすることなく2月10日までには発射を行うことができたとした。従ってもし何も問題が発生しなければ、5日間の余裕を持って飛行士の救出が可能だったということになる。 またNASAは飛行士がEVAによって破損箇所を修理する方法も、修復用素材の復元力が不確実であるためにリスクは高いとしながらも、行うことは可能であったとした。通常、カメラで機体を撮影したり飛行士を翼のところまで運ぶ際にはカナダ・アーム(Remote Manipulator System, RMS)が使用されるが、コロンビアにはRMSが搭載されていない。そのため点検作業を実行するためには、通常時にはない特殊なEVAを行うことが要求される。しかしながら、たとえそのような準備がなされていなかったとしても、飛行士たちは想定外の船外活動を行うことは常に地上で訓練していた。たとえば軌道船底面には、外部燃料タンク(ET)との接続器が設置されている。発射時にはここを介してメイン・エンジンに燃料と酸化剤が供給され、ETが切り離されたあとは保護ドアを閉鎖して供給口がふさがれるようになっているのだが、もし何らかの理由でドアが閉じられなかった場合には、そこから熱が侵入して軌道船が崩壊することになる。このような事態を想定して、飛行士が手でドアを閉めに行く訓練は地上で何度も行われていた。この方法を応用すれば、主翼のところまで行って点検と修理作業を行うことは可能なはずであった。CAIBは、飛行士が船室からチタンその他の素材を持ち出して翼を修復する方法についても言及した。穴が開いた箇所に水が詰まったバッグを押し込み、その上に応急処置として耐熱素材をかぶせる。水は宇宙空間で氷結して補強材となり臨時の断熱材を内側から支え、機体の表面に乱流が発生して温度が過度に上昇するのを防いでくれるであろう。NASAはこの修復方法で果たして本当に大気圏再突入が実行できるのかは確認できないとしたが、少なくとも何も手を打たないよりは飛行士が生還できる可能性は高かったはずである、としている。
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