指導力
リーダーシップ
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リーダーシップ(英語: leadership)とは、指導者としての能力・力量・統率力[1]。
リーダーシップは研究の歴史も古く、非常にさまざまな議論がなされ、定義も多岐に渡るが、一例として次の定義が挙げられる:「自己の理念や価値観に基づいて、魅力ある目標を設定し、またその実現体制を構築し、人々の意欲を高め成長させながら、課題や障害を解決する行動」[2]。またリーダーシップにおいて、リーダーの資質や人格的特徴は古くから関心の焦点となってきたが、リーダーが先天的に持つ資質や才能は、リーダーシップの質 (英: leadership qualities) に影響する。[3]リーダーシップ志向にアナーキズムはない。
リーダーシップの質
良質なリーダーシップの質 (英語: leadership qualities) を決定づけるリーダーの資質としては、以下の代表例が挙げられる。
孫子においては、「智」「信」「仁」「勇」「厳」の5つを挙げている。
クラウゼヴィッツは、指揮官の才能として、「知性と情熱を兼ねる高度な精神」「危険を顧みず自身の行動に責任を負う勇気」「不確実な事態における洞察力」「洞察に基づく具体的な行動する決断力」などを挙げた。
大日本帝国陸軍の教範において、蔵田十紀二は、「高邁の品性」「至深の温情」「堅確な意思」「卓越した識見」として、全体的な人間の能力を網羅している。
アメリカ海軍の士官候補生読本においては、「忠誠」「肉体的精神的勇気」「信頼」「宗教的信仰」「ユーモアのセンス」「謙虚」「自信」「常識」「判断力」「健康」「エネルギー」「楽天主義」が挙げられている。
ジョン・アデアによれば、優れたリーダーであることを証明する資質として、「誠実さ」「熱意」「思いやり」「冷静さ」「厳格にして公正」を一例としているが、リーダーは自分のチームに期待されている資質を具体的に示さなくてはならないとしている。さらに、すべてのリーダーの資質は、程度の差はあれ、訓練と経験で伸ばすことができ、そのプロセスは生涯続くとしている。[4]
心理学のリーダーシップ
社会心理学では様々な社会集団におけるリーダーシップの研究が行われてきた。初期のリーダーシップ研究では、各分野で称賛に値するリーダーシップを持つとされる人物のパーソナリティ特性(知性・情緒安定性・温厚さなど)を分析し、普遍的なリーダーの資質を明らかにする研究が行われた[5]。巨人説(great person theory)とも呼ばれるこの手法から得られた結論は、優れたリーダーには分野によって優位な特性はあるが各分野と共通するパーソナリティ特性は存在しないこと、パーソナリティ特性はあくまでも資質であってリーダーシップとは直接相関しないこと、集団のおかれた状況によってリーダーの影響は異なる、というものだった[5]。
領域の多様性と、リーダーシップとされる働きの多様性から、リーダーシップ概念の確固とした定義は「他者に影響を与える」という共通項以外は定まっていない。一般的には、目的達成における集団の活動に効果的に影響を与える過程・関係性・行動様式とされる[5]。
一例として、D・R・フォーサイスはリーダーシップの4つのプロセスをあげ、いずれかを強調することで様々なタイプのリーダーシップのスタイルを規定できると述べている[5]。
- リーダーとフォロワーとの互恵関係
- 時間・エネルギー・技術などを交換することで、報酬としてフォロワーに還元する交換関係のプロセス
- メンバーの動機をより高みへと導く交流のプロセス
- 目標達成に向けて集団を統合するプロセス
三隅二不二のPM理論など、リーダーの果たす役割を研究したモデルでは、リーダーシップには生産性を高め効果的に目標を達成する「課題リーダーシップ」と、集団内の対人関係を調整する「関係リーダーシップ」の2つの次元があることを示している[5]。F・E・フィードラーは、集団の特性や状況にも注目した「状況即応アプローチ」の研究によって、最適なリーダーシップはリーダーの資質と集団の状況との相互関係によって変化すると論じた。また、ハーシーとブランチャードは、集団の発達段階によって求められるリーダーシップは異なるとした状況的リーダーシップ論を提示している。すなわち錬度が低い場合は説得的リーダーシップが適切であり、中程度の場合では参加的リーダーシップ、高度な場合は委譲的リーダーシップが有効であると主張した[5]。
成功したにせよ失敗したにせよ、集団による行為や事業の成果が、リーダー個人の集団への影響力の強さによって評価される事がある[5]。しかし、集団が構造化し、役割分化した組織となると、リーダー個人の影響力は全体から見ると微々たるものとなる場合もあり得る。こうした状況において、リーダーの影響力を過度に評価してしまう評価態度をリーダーシップ幻想(romance of leadership)と呼ぶ[5]。
機能によるリーダーシップ
「リーダーシップとは何か」ではなく「リーダーシップとは何をすることか」についての研究から生まれた機能的リーダーシップモデルが1970年代に確立された。 このモデルは、成功するリーダーの行動様式に着眼し、集団や組織が機能するために有効となるリーダーの行為行動を具体的に特定したものである。 このモデルの登場により、古代ギリシャ時代から定説であった「リーダーシップは生まれながらにして持った先天性のもの」という固定観念から、現代の「リーダーシップは後天的なものであり、訓練と経験によって獲得することができるもの」として常識を覆し、リーダーシップ開発の基礎となった。 このモデルの特徴としては、誰がリーダーシップを発揮するのかということよりも、どのように集団が成果へと導かれるのかという観点から語られている。
リーダーシップが果たす役割は、方向づけ(ディレクション)・焦点合わせ(alignment)・動機づけ(motivation)である(表を参照)。なすべきことの大枠をビジョンと戦略として示し、チーム全員の目線をその方向へと合わせ、障害を乗り越えて達成できるように動機づけ励ます。これによりチームは望む変化へ向かって迷わず一丸となって力強く進むことができる。リーダーシップの機能はマネジメントと相補的な関係にある[6]。
リーダーシップ | マネジメント | |
---|---|---|
役割 | 変化に応える[7] | 複雑性を捌き[8]秩序立てて結果を得る[9] |
何をするか[10] | ビジョンと戦略による方向づけ[11] | 計画と配分[12] |
どうまとめるか[13] | 人々の焦点を合わせる[14] | 組織化と人員配置[15] |
目標達成の保証[16] | 人々を動機づける[17] | 制御と問題解決[18] |
軍事的リーダーシップ
武装組織、特に軍隊のリーダーは負っている責任の性質が他の組織とは異なる。軍人は国家の非常事態において直接事態を処理する。その際に失敗することは自身の死であり、部下の死でもある。そのような状態においてのリーダーシップは平時から構築されていることが必要である。
脚注
- ^ 『広辞苑』
- ^ グロービスMBA経営辞書
- ^ 『Effective Leadership (New ed.)』Pan. (1988) [1983]. ISBN 0-330-30230-2.
- ^ ジョン・アデア/ペーター・リード『NOT BOSSES BUT LEADERS』(1987年) Kogan Page Publisher UK ISBN 07494-4632-3
- ^ a b c d e f g h 本間道子『集団行動の心理学:ダイナミックな社会関係のなかで』 サイエンス社 <セレクション社会心理学> 2011年、ISBN 978-4-7819-1287-5 pp.101-112.
- ^ "Nor is leadership necessarily better than management or a replacement for it. Rather, leadership and management are two distinctive and complementary systems of action." J. P. Kotter. (1990). What leaders really do. Harv Bus Rev. May-Jun 1990;68(3):103-11.
- ^ "Leadership ... is about coping with change." J. P. Kotter. (1990). What leaders really do. Harv Bus Rev. May-Jun 1990;68(3):103-11.
- ^ "Management is about coping with complexity." J. P. Kotter. (1990). What leaders really do. Harv Bus Rev. May-Jun 1990;68(3):103-11.
- ^ "Good management brings a degree of order and consistency to key dimensions like the quality and profitability of products." J. P. Kotter. (1990). What leaders really do. Harv Bus Rev. May-Jun 1990;68(3):103-11.
- ^ "deciding what needs to be done" J. P. Kotter. (1990). What leaders really do. Harv Bus Rev. May-Jun 1990;68(3):103-11.
- ^ "leading ... by setting a direction—developing a vision of the future ... along with strategies for producing the changes needed to achieve that vision" J. P. Kotter. (1990). What leaders really do. Harv Bus Rev. May-Jun 1990;68(3):103-11.
- ^ "planning and budgeting—setting targets or goals for the future ... , establishing detailed steps ... , and then allocating resources" J. P. Kotter. (1990). What leaders really do. Harv Bus Rev. May-Jun 1990;68(3):103-11.
- ^ "creating networks of people and relationships that can accomplish an agenda" J. P. Kotter. (1990). What leaders really do. Harv Bus Rev. May-Jun 1990;68(3):103-11.
- ^ "leadership ... aligning people. ... communicating the new direction to those who can create coalitions that understand the vision and are committed to its achievement." J. P. Kotter. (1990). What leaders really do. Harv Bus Rev. May-Jun 1990;68(3):103-11.
- ^ "Management ... by organizing and staffing— creating an organizational structure and set of jobs ... , staffing the jobs ... , communicating the plan ... , delegating responsibility for carrying out the plan, and devising systems to monitor implementation." J. P. Kotter. (1990). What leaders really do. Harv Bus Rev. May-Jun 1990;68(3):103-11.
- ^ "ensure that those people actually do the job" J. P. Kotter. (1990). What leaders really do. Harv Bus Rev. May-Jun 1990;68(3):103-11.
- ^ "leadership ... motivating and inspiring" J. P. Kotter. (1990). What leaders really do. Harv Bus Rev. May-Jun 1990;68(3):103-11.
- ^ "management ... controlling and problem solving— monitoring results versus the plan in some detail ... ; identifying deviations; and then planning and organizing to solve the problems." J. P. Kotter. (1990). What leaders really do. Harv Bus Rev. May-Jun 1990;68(3):103-11.
関連項目
指導力
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/28 05:03 UTC 版)
「第二次ウィンチェスターの戦い」の記事における「指導力」の解説
この戦闘におけるジュバル・アーリーの指導力は図抜けたものだった。リー将軍はアーリーへの信任が厚く、最終的には1864年に南軍第2軍団ではないが、新しいバレー地区軍を預け、リーが常に夢見てきた北部侵攻の示威行動を今一度行わせた(1864年のバレー方面作戦)。リーがシャープスバーグ(アンティータムの戦い)とゲティスバーグで2度失敗したところでアーリーは成功し、南部を解放するための高貴で最後絶望的試みとして、ワシントンD.C.のスティーブンス砦を砲撃した(スティーブンス砦の戦い)。
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「指導力」の例文・使い方・用例・文例
- 彼の指導力はうちの会社にとってとても貴重な力である
- 国は強い指導力を持つ者を必要としている
- 彼は指導力のある人だ。
- リンカーンはその指導力のために立派だと見なされている。
- すばらしい[おそまつな]指導力を発揮する[示す].
- 欠点のある性格が指導力に災いした.
- 人々が全体で忠実に、熱心に指導力を受け入れない限り、政府は効率的にならない
- デーヴは彼の新しい地位で指導力を発揮した
- 無秩序な状態は、先見の明がある指導力によってのみ防げる
- 新しく力強い指導力
- 指導力
- ローマカトリック教会の指導力
- ギリシアにおけるアテネの政治的文化的優位性に貢献したその指導力で知られるアテネの政治家
- 政治的掻き立てが新しい政治指導力を生んだ
- 指導力を失った大統領
- 小泉純一郎首相は強い指導力を発揮して,抜本的な改革の方針を打ち出す必要がある。
- 彼は「国民は安定かつ一貫した信念のある指導力を求めている」ので,自分は選挙で勝つだろうと語った。
- 古田選手は昨年,日本プロ野球選手会の会長として指導力を発揮したことで人気が上昇した。
- 彼の知性だけでなく指導力も高く評価されたのだ。
- チームの代表者がやって来て,「北京五輪の開催国として,我々はシンクロで我が国初のメダルを獲得したい。我々の目標を達成するにはあなたの経験と指導力が必要なのです。」と言いました。
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