嘘
『イソップ寓話集』(岩波文庫版)42「農夫と息子たち」 農夫が、臨終時に「わしの葡萄畑の1つには、宝物が隠してある」と言い残す。息子たちは、耕作地を隅から隅まで掘り返す。宝物は見つからなかったが、葡萄畑はきれいに掘り返されたので、何倍もの実をつけた〔*ただの嘘だと→〔嘘〕7の『最後の嘘』(昔話)のような結果になる〕。
『銭形平次捕物控』(野村胡堂)「コント初姿銭形平次 八五郎手柄始め」 江島屋の娘が、「行方不明の父が残した『謎』」と言って、「たしのしい、けたはのらう」と記した紙を示す。八五郎が「裏の畠、石の下」と読み解き、小判1枚を掘り出す。大勢の男が「何千両もの埋蔵金があるか?」と期待して、畠全体を掘り荒らすと、江島屋の死体が出てくる。江島屋の娘は、父の死体を見つけ出すために謎を作り1両を埋めて、大勢に畠を掘らせたのだった。死体発見にともない、江島屋を殺して埋めた犯人も明らかになった。
『三国志演義』第21回 曹操が兵を率いて行軍中、水がないため皆喉の渇きに苦しんだ。曹操は一計を案じ、「前方に梅林がある」と、ありもせぬのに鞭で指し示した。それを聞いた兵たちは唾を湧かせ、渇きを止めることができた。
『法華経』「化城喩品」第7 宝を求めて密林を進む一行が、道のりの遠さゆえ引き返そうとする。案内人が神通力で前方に幻の都城を見せると、人々は密林を抜けたと思って喜び、都城まで到り休憩する。皆が体力を回復してから案内人は都城を消し、一行は再び歩き始める。
*子供たちの命を救うための方便としての嘘→〔火事〕6bの『法華経』「譬喩品」第3。
『韓非子』「内儲説」下 夫が急に帰宅したので、密夫が裸でざんばら髪のまま門からとび出す。夫が「あれは誰だ」と不思議がると、妻や家人が口裏を合わせて「何も見えない」と言う。夫は「自分は幽霊を見たのだ」と思い、動物の小便を浴びてお祓いをする。
『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』第27話 ティル・オイレンシュピーゲルが、「自分は絵師である」とふれこみ、「これは私生児には見えない絵だ」と言って、ただの白壁を貴族に見せる。貴族も奥方も侍女たちも皆、絵を鑑賞するふりをするが、道化の白痴女が「何も見えない」と言う。
*ばか者には見えない衣裳→〔裸〕4の『はだかの王様(皇帝の新しい着物)』(アンデルセン)。
*皆から、鹿を「馬だ」と言われて、「そうかもしれない」と思う→〔鹿〕4cの『史記』「李斯列伝」第27。
*性交現場を目撃するが、たくみに言いくるめられて、「幻を見たのだ」「見間違えたのだ」と思う→〔木登り〕3a・3b。
『星野屋』(落語) 星野屋の旦那が、囲い者のお花に金を与えて身投げ心中を迫り、お花は金を母親のもとに置いて心中に出かける。しかし旦那が身投げした後、お花は飛びこまずに帰ってしまう。旦那の使いの重吉が来て「旦那が幽霊になった。お前を取り殺しに来る」と言うので、お花は詫びの印に長い髪を切って渡す。重吉は「心中はお前の心を試すための芝居で、お前が身投げすれば本妻にするはずだった」と明かす。お花は「そんなことだろうと思ったから、本物の髪でなく鬘をあげたのさ」と言う。重吉は「だましたな。だが、さっき渡した小判はにせ金だ」と言い、お花は悔しがって小判を投げ返す。それを拾った重吉が「馬鹿め。これは本物だ」と笑うと、お花の母が「そう思ったから、3枚くすねておいた」と言う。
『宿屋の仇討ち』(落語) 宿屋に泊まった3人のうち1人が、「昔、姦通のあげく人を殺した」と嘘話をして得意がり、3人は大騒ぎする。ところが、隣室の武士が「汝こそ捜し求めた仇だ。明朝仇討ちする」と言うので、3人は恐れて震える。実は武士の言葉も嘘で、3人の騒ぎをやめさせ、静かに寝ようとしてのことであった。
『奇遇』(芥川龍之介) 王生は、ひそかに通じた娘との仲を娘の親に許してもらうために、「離れた所にいながら互いを夢に見、夢の中で交換した贈り物が目覚めるとそれぞれの枕元にあった」という作り話をする。娘の老父母は、それを嘘と知りつつ真に受けたふりをして、若い2人を祝福する〔*→〔夢で得た物〕4の『剪燈新話』巻2「渭塘奇遇記」のパロディ〕。
『一人二役』(江戸川乱歩) 結婚後も女遊びのやまないTは、変装し別人物となって自分の細君と関係を持つ。細君はTの悪戯に気づくが、これで家庭が円満に行くなら結構なことだと思い、Tに調子を合わせて、だまされたふりをする。後にそれを知ったTは「女は魔物だ」と言いつつ、細君と睦まじく暮らす→〔一人二役〕1b。
『義経千本桜』3段目「すし屋」 いがみの権太は平維盛を救おうと考え、維盛のにせ首を用意する。さらに権太は、自分の妻子を維盛の奥方(若葉内侍)と若君(六代君)にしたて、にせ首と一緒に鎌倉幕府に引き渡す。しかし源頼朝はすべてを承知しており、表向きは維盛が死んだことにして、ひそかに彼を出家させ命を救おうと考えていた→〔誤解による殺害〕2。
『サザエさん』(長谷川町子)朝日文庫版第25巻8ページ マスオが「ちょっと高いけど新種だそうだ」と言って、渦巻き模様のスイカを買って来る。サザエは「千円(昭和37年当時)! ただのスイカに色塗ったんじゃないの。すぐ人の言うこと信じるんだから」と怒る。後にビアガーデンで、ノリスケとマスオが「へえ。飲み代を浮かすために色は君が塗ったの」「すぐだまされるんだ、うちのやつ」という会話をする。
★6a.いつも嘘をついているので、本当のことを言っても信用されない。
『イソップ寓話集』(岩波文庫版)210「羊飼いの悪戯」 羊飼いが、たびたび「狼が羊を襲いに来た。助けてくれ」と叫んで、慌てて飛び出て来る村人を見て笑う、という悪さをしていた。ある時本当に狼が現れ、羊飼いは助けを求めたが、村人は「またいつもの嘘だ」と思い、放っておいたので、羊飼いは羊を失ってしまった。
『協力的な男』(星新一『エヌ氏の遊園地』) 青年が「この前の現金強奪事件の犯人は私です」と言って、警察署に自首する。ところが青年は、これまで何度も、事件があるたびに自首し、しかもそれがことごとく作り話だったので、「2度と来るな」と言って追い返される。青年は「今度は本当の話だったのに」とつぶやき、強奪した金で酒でも飲もうと考える。
*仮病薬を開発した男が、本当の病気になっても信用されない→〔仮病〕6の『へんな薬』(星新一)。
*いつもだまされているので、実の娘が訪れても信ぜず、殺してしまう→〔盲目〕5の安寿塚の伝説。
★6b.いつも演技をしているので、本心を吐露しても信用されない。
『斜陽』(太宰治)3 「僕(直治)」が早熟をよそおって見せたら、人々は僕を、早熟だと噂した。「僕」は、なまけものの振りをしたり、小説を書けない振りをしたり、嘘つきの振りをしたり、金持ちの振りをしたり、冷淡をよそおったりして、人々はそれを信じた。けれども、「僕」が本当に苦しくて、思わず呻(うめ)いた時、人々は「僕」を、苦しい振りをよそおっていると噂した(直治の『夕顔日誌』)。
『イソップ寓話集』(岩波文庫版)33「法螺吹」 5種競技の選手が海外遠征から帰って来て、「あちこちの国で勇名をはせたが、殊にロドス島では、オリンピア競技祭の優勝者でさえ届かぬほどのジャンプをした」と、大法螺を吹いた。すると、その場にいた1人が、「それなら、ここがロドスだ。さあ跳んでみろ」と言った。
『最後の嘘』(昔話) 一生、嘘ばかりついていた男が病気になり、看病する友人に「床の下に8百両、紙に包んでおいたので、それで葬式をしてくれ」と言い遺す。男の死後、友人が「今度こそ嘘ではあるまい」と思って床の下を捜すと、「8百両」と書いた紙切れがあった(青森県三戸郡)。嘘つき婆が子供たちに、「お金のたくさん入った瓶が床下に埋めてあるから、わしが死んだら出して使え」と言う。婆の死後、子供たちが瓶を掘り出して開けると、「これで嘘のつきじまい」と書いた紙切れがあった(香川県小豆郡内海町福田)。
*これを変形させると、→〔嘘〕1aの『イソップ寓話集』(岩波文庫版)42「農夫と息子たち」の物語になる。
★8.嘘のつきくらべ。
『てんぽ競べ』(昔話) 奈良のほら吹き男が修行に出て、ほら吹き村に来る。道ばたの子供に案内を請うと、子供は「父は、富士山がひっくり返るので線香3本持ってつっかい捧しに行き、母は、琵琶湖の水が漏れるので小糠3合持って穴ふさぎに行って、留守だ」と言う。男は驚くが、負けじと「奈良の大仏殿の大釣鐘が風で飛んだが、この辺に落ちなかったか」と聞く。子供は「それは納屋の蜘蛛の巣にひっかかって、ワーンワーン鳴ってうるさかった」と答えるので、男は「子供でさえこれだ。親はどんな嘘をつくことか。とても太刀打ちできない」とあきれて、帰って行った(福島県平市・相馬郡)。
★9.嘘ばかり言う動物。
『神異経』「西南荒経」 西南の果てに、人をだます獣がいる。姿は兎のごとく、人間の顔をして言葉をしゃべる。しかし「東」と言えば本当は西、「可」と言えば否、「悪」と言えば善で、言うことはすべて反対である。その名を「誕(たん。=でたらめ)」という。肉は美味だが、食べると、その人が言うことは真実でなくなる。
★10.嘘の嫌いな子。
『ノンちゃん雲に乗る』(石井桃子) ノンちゃんが雲に乗って(*→〔雲〕3)、不思議なおじいさんといろいろな話をするが、そのうち家に帰りたくなる。おじいさんは「何か1つうまい嘘をついたら、家へ帰してやろう」と言う。しかしノンちゃんは嘘が嫌いなので、どうしても嘘を言うことができず、泣き出す。おじいさんは「もうよい、わかった」と笑い、ちぎれ雲にノンちゃんを乗せて、家まで送る。気がつくとノンちゃんは家の布団に寝ていた。ノンちゃんは池に落ちたのを、助けられたのだった。
『壁』(サルトル) 内戦下のスペイン。人民戦線の一員である「わたし(イビエタ)」は、ファシスト軍に捕らえられ、銃殺刑を宣告される。敵の将校が「仲間のグリスの居場所を教えたら、命を助けてやる」と、取引きを持ちかける。「わたし」はグリスの隠れ家を知っていたが、「彼は地下墓所か、でなければ墓掘りの小屋に潜んでいる」と、でたらめを教える。ところが偶然にも、グリスは隠れ家を出て、その時、実際に墓掘りの小屋にいた。彼はその場で殺され、「わたし」の銃殺は取りやめになった。
*でたらめのお経をあげていたら、偶然、泥棒の行動と一致した→〔偶然〕1bの『鼠経』(昔話)。
『ヴィヨンの妻』(太宰治) 夫が、小料理屋・椿屋から5千円を盗んで、姿をくらました(*→〔夫〕1a)。「私」は、「お返ししますから警察沙汰にしないで下さい」と、椿屋の主人夫婦に頼み込む。翌日(クリスマスの前夜祭の日)、「私」は椿屋へ行って「今晩か明日、お金を持って来てくれる人がいます」と、すらすら嘘を言う。奇蹟は、この世の中にも、時たま現れるものらしい。9時過ぎに、バーのマダムが夫を連れてやって来て、5千円を払ってくれた。
*事実と反する嘘を言うと、その言葉が本当になってしまう→〔言霊〕5b。
『五十四万石の嘘』(松本清張) 肥後54万石城主・加藤忠広の息子光正は、江戸屋敷で退屈を持て余していた。彼は、臆病な茶坊主玄斎をからかうことを楽しみとし、ある時、「将軍家に対して謀反を起こすので、お前は侍大将になれ」と命じた。玄斎は肝をつぶして他国へ逃げるが、馴染みの遊女と別れる際に、「光正殿御謀反」と打ち明ける。遊女は何人かの客にその話をし、謀反の噂は老中土井利勝の耳に入る。幕府はこれを良い口実として、肥後54万石を取りつぶす。
★14.嘘発見器。
『子不語』巻20-538 貴州の平越府の府署に高さ7尺の石台があり、梵字の仏典が16幅、所蔵されていた。歴代の太守は尋問の際、この経典を床に敷き、その上に容疑者を転がした。正直な者には何の害もないが、嘘を述べる者は、たちまち目を見開き、身体が硬直した〔*張文和公の第5子・景宗が、ここに赴任して、石台を壊し経典を焼いた。その年、彼の息子が2人死に、翌年・乾隆20年(1755)には、父張文和公が死んだ〕。
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