ダム水路式発電所とは? わかりやすく解説

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水力発電

(ダム水路式発電所 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/03/31 10:29 UTC 版)

水力発電(すいりょくはつでん、英語: hydroelectricity)とは、水の持つ位置エネルギーを利用して、落水や流水により水力で羽根車(はねぐるま)を回し、それによる動力発電機を回して電気エネルギーを得る(発電を行う)方式のことである[1]。略称は「水発(すいはつ)」「水力(すいりょく)」。

概要

水力発電は発電の一方式であり、水力発電機を動かし電力を生む方式のことである[2]ダム式、水路式、揚水式などがある[2]

また、水力発電は、個人が小さな水力発電装置を自作・設置して行うこともでき[3]、特に小規模の水力発電を小水力発電[4](マイクロ水力発電)という。私道脇の水の流れ、小川渓流などの、比較的小さな水の流れを利用して水力発電を行う。他の水力発電と比較し、環境への負荷が小さいため、次世代の水力発電として注目されている。[5]ただし河川や湖沼、用水路などの水の利用については水利権が設定されているため、権利者との協議や許可申請を行う必要がある。発電に使用した水を元に戻しても、水流や水質の変化が発生するためである。

一般には、発電の歴史の中で果たしてきた役割の重要さ、発電量の大きさ、その設備の雄壮な外観などによって、水力発電の中でも特にダム式のものや大河を利用したものがよく知られている。

水力発電の上位5カ国の近年の総出力の推移

歴史

自然に流れる水の力を動力として利用するという考えは、古代より続くものである。例としては、流れる水の力を水車によって動力にし、製粉紡績などを行っていた。

1832年フランスヒポライト・ピクシーにより現在の交流発電機の原型となるダイナモが発明され、1840年にはイギリスウィリアム・アームストロングが水力を動力源とする水力発電機を発明した[6]

世界で最初の水力発電は、1878年に前出のアームストロングが自身の屋敷に設けた絵画展示室の照明を点灯させるために、1km離れた川に個人でダムを築き、発電機を置いたものである[7]

垂直型水力発電機の図(en:Terrell Croft著、1917年刊『 Electrical Machinery』171頁掲載)

米国では1881年にナイアガラの滝の近くに水力発電所(en:Robert Moses Niagara Hydroelectric Power Station)が竣工し、1882年には当時の電流戦争(交流方式と直流方式の争い)の最中にいたエジソンによる最初の水力発電所(en:Vulcan Street Plant直流、出力12.5kW)がウィスコンシン州アップルトンに竣工した[8]。1886年には米国およびカナダに45の水力発電所、1889年には米国だけで200の水力発電所が稼働していた[9]。1890年にはウェスティングハウスが交流長距離送電を開始した[10]

日本

日本の最初の発電所は1887年に竣工した東京の火力発電所であった[6]。水力発電では1888年(明治21年)7月に宮城紡績が設置した三居沢発電所(5kW)で自家用発電を開始し[注釈 1]、その後紡績会社や鉱山会社による発電所の設置が続いた[11]

1891年(明治24年)に米国のコロラド州アスペンの水力発電所を参考にして[12]琵琶湖疏水の落差を利用する蹴上発電所(水路式、直流、160kW)が、運用を開始した。これが日本で最初の一般電気事業用水力発電所である[13]

初期の電力の需要は主に電灯であったが、日本では1913年(大正2年)に電力の動力需要が照明用の需要を超え、1914年(大正3年)には工業用の動力で電力が蒸気力を越えた[6]

山王坂から御代集落、勢至堂峠方面を望む

日本で最初の長距離送電は、猪苗代湖から福島県安積郡郡山町(現郡山市)を結ぶ安積疏水の途中にある沼上瀑布の落差を利用した沼上水力発電所(出力300kW)と、郡山絹糸紡績(現日東紡績)を送電距離22.5km、送電電圧11kVで結んだのが始まりとされる。 [14] [15] [16] [17]

また、1915年(大正4年)には逼迫する首都圏の電力需要に答えるべく、鉄道技術者、経営者として知られる仙石貢が、猪苗代水力電気株式会社東京電燈日本発送電を経て現在の東京電力の一部)を設立し、猪苗代湖北西部の日橋川に、当時で世界第三位、東洋一の出力を誇る37,500kWの猪苗代第一発電所を完成させ、115kVの高圧を以て湖南西部の黒森峠 (福島県)を経て南の勢至堂峠を通り、白河開閉所・宇都宮開閉所・古河開閉所を通って、東京田端の変電所まで、実に228kmにも渡る送電網を構築し、日本初の長距離高圧送電を実現した[18] [19] [17] [20] [21] [22]

大正から昭和初期にかけて大規模な水力発電所が多く作られ、1950年代までは電力の大半は水力発電によるものであった。このため、1950年から1951年の冬など降水量が少ない時期には、電力の需給がひっ迫した[23]。家庭の工夫や大口工場の操業時間をずらして「一割節電」を求めたり、週二回の輪番制で銀座など繁華街のネオンサインを消灯する取り組みが行われた[24]

水力エネルギー量

包蔵水力

包蔵水力とは、水資源のうち、技術的・経済的に利用可能な水力エネルギー量のこと。包蔵水力は、「既開発」「工事中」「未開発(今後の開発が有望な水力エネルギー)」の3つに区分にわけられる[25]

世界(2008年)の水力発電電力量は3,288TWhで、発電電力量の16%強であり、また、世界の技術的開発可能包蔵水力量は、16,400TWh/年以上と見積もられている。今後の開発により水力発電は2050年には最大電力量6,000TWhまで発電することが可能と推定される[26]。なお、日本の開発が有望な未開発の水力電力量は約44,148,039MWhと試算されている[27]

日本の水力エネルギー量・出力別包蔵水力(一般水力)
出力区分(kW) 既開発 工事中 未開発
地点 出力(kW) 電力量(MWh) 地点 出力(kW) 電力量(MWh) 地点 出力(kW) 電力量(MWh)
1,000未満 621 254,672 1,546,814 23 10,946 50,513 349 231,410 1,165,133
1,000~3,000 425 753,087 4,186,412 5 8,900 48,846 1,204 2,212,600 8,988,634
3,000~5,000 163 609,465 3,192,290 5 18,710 98,105 513 1,925,000 7,717,712
5,000~10,000 282 1,909,628 9,765,728 8 57,490 317,116 336 2,266,300 9,055,750
10,000~30,000 358 6,043,960 27,732,993 16 241,726 1,110,018 204 3,218,300 12,013,910
30,000~50,000 87 3,297,400 14,617,629 1 40,000 171,950 21 801,900 2,610,500
50,000~100,000 66 4,325,000 17,106,799 2 114,550 429,698 13 782,100 2,132,400
100,000以上 26 4,988,400 13,700,152 1 120,000 716,034 2 236,000 464,000
2,028 22,181,612 91,848,817 61 612,322 2,942,280 2,642 11,673,610 44,148,039
平均 - 10,938 45,290 - 10,038 48,234 - 4,418 16,710
2020年3月31日現在[27]


火力発電との比較

1960年代以降は、日本は高度成長期に入り獲得した外貨で安価な化石燃料が確保できるようになったこと、大容量の水力発電所の建設適地が少なくなってきたことから、火力発電の比重が増大していった。1955年には水力発電は全電力の78.7%であったが、1962年には水力46.1%と、火力が逆転した。2005年は水力発電は8.3%まで落ち、火力が59%、原子力31%であった[28]

日本において、過去の電力利用初期には水力発電が発電の主力であり、「水主火従の時代(すいしゅかじゅうのじだい)」と呼ばれている。その後、火力発電に軸足が移ると「火主水従の時代(かしゅすいじゅうのじだい)」となった。

また、揚水発電所の建設も始まったが、この当時は豊水期に貯水し、渇水期はその水を繰り返し発電に利用することで年間を通じて発電を行うようにするという、年間調整が主たる役割であり、火力・原子力発電による夜間の余剰電力を有効利用する現在の方法[29]とは違った目的だった。

1962年(昭和38年)からの火主水従、1963年(昭和38年)に原子力発電所の運用開始後は、高度経済成長による昼間と夜間との電力需要の格差拡大が問題となっていた。火力・原子力発電等の汽力発電はその出力を頻繁に変動させるということは困難であり、ほぼ一定の出力で運転し続けている。従って日中の高需要時に合わせて運転すると夜間は発電過剰となり、夜間の余剰電力は揚水発電所において揚水運転として消化するという考えが持ち上がった。揚水発電所は、単位出力あたりの建設費が火力・原子力発電所より安いことが注目され、夜間に揚水・貯水し、昼間のピークに備えるという目的へと移っていき、それに特化するように大規模な純揚水発電所が建設されるようになった。但し、その結果水に含まれる不純物が原因のダムの堆積物増加が問題化し始めている[要出典]

環境への負荷

発電施設は大きく取水施設、発電施設、放水施設に分けられる。取水・放水施設は水と接するために河川沿いとなる。発電施設は水源との距離に制限は無いが、取水・放水施設と管路で接続されるためにその中間に設置されることが多い。そのため水力発電施設は山岳や森林を開発することがほとんどとなり、自然保護の観点に注意が必要である。また取水・放水によって河川の流れが変わることも問題となる。また、発電用ダムを建設する場合は大規模になることが多く、既に形成された自然の地形、地盤、河川状況を考慮すると既に人里が存在している場所が候補になりやすい。大規模ダムが完成すると「水没」する村は過去にも多く例がある。

完成後の環境負荷はほとんど無いと言われることが多いが、これは火力・原子力発電と比較した場合であり、問題とされやすいCO2排出、NOx排出、放射性物質排出は皆無となる。稼働開始直後は水流変化による環境負荷はあるが、多くの発電施設は自然と共生する様態を示す。ダムにおいては水利調節機能も含有する場合が多いので、洪水の防止、干ばつの緩和にもなる。今日までに既設のダムが取り壊された例は少なく、発電所の老朽化が自然に与える影響は不明な部分が多い。

水力発電の分類

落差を得る方法による分類

水路式発電
発電所から見て上流に位置する河川湖沼などより取水し、緩勾配の水路(開渠または暗渠)によって発電所まで導き、落差を得るもの。多くは流れ込み式で、落差の変動はほとんどない。
ダム式発電
河川内にダムを設けて貯水し、そこで生ずる落差を利用して発電するもの。発電所はダム付近に建設される。ダムの水位変化によって、落差変動が大きくなる。
ダム水路式発電
ダムと水路により落差をつくるもの。
水路式発電
信濃川発電所早川第一発電所など)
ダム式発電
田子倉発電所安曇発電所など)
ダム水路式発電
奥只見発電所黒部川第四発電所など)

運用上の分類

プロペラ水車と発電機の模式図
A : 発電機
1 : 固定子
2 : 回転子
B : 水車
3 : 案内羽根
4 : ランナ
5 : 流水
6 : 主軸
流れ込み式
河川の流量をそのまま利用するもの。発電所の出力は河川流量に比例し、任意での出力調整は難しい。総電力需要のうちベース部分をまかなう。比較的小規模なものが多い。
調整池式
日間・週間の電力需要変動に対応するため、需要の少ない軽負荷時に出力を落として貯水し、需要の多い重負荷時の発電運転に備えるもの。総電力需要のうちピーク部分をまかなう。年間流量に比較して中小規模な貯水量を有するダムを伴う。
貯水池式
豊水期に貯水し、渇水期でも安定した発電ができるだけの水量を確保するもの。調整池式が日間・週間の負荷変動であるのに対し、季節間の調整を行う。総電力需要のうちピーク部分をまかなう。年間流量に比較して大規模な貯水量を有するダムを伴う。
逆調整池式
調整池式・貯水池式の下流の流量変動を平滑化するために設ける逆調整池の落差を利用し、一定の出力で運転するもの。
揚水式
上下二つの調整池を持つもので、軽負荷時に下部調整池から上部調整池へ水をくみ上げておき、重負荷時に発電するものである。総電力需要のうちピーク部分をまかなう。
揚水発電には貯水池式水力発電をさらなる重負荷へ対応させるために揚水発電機を設置した混合揚水式と、上池を山の頂上近くなどに置いた自然流入量がほとんど無い純揚水発電がある。
揚水発電に対して、流れ込み式・調整池式・貯水池式・逆調整池式は一般水力発電あるいは自流式水力発電という。
揚水発電のエネルギー源は原子力発電所や大規模火力発電所の電力であり、一般水力発電の源はを降らせる元になる海水蒸発させた太陽エネルギーだという違いがある。つまり一般水力発電は再生可能エネルギーであるが、揚水発電は一種の二次電池(蓄電池)である。
揚水発電(揚水過程)の模式図
電力需要が下がる深夜等の余剰電力で発電電動機をポンプとして回し、下部貯水池から上部貯水池へ水の汲み上げを行う。
揚水発電(発電過程)の模式図
昼間・夕方などの高需要時間帯に上部貯水池から下部貯水池へ水を流し、発電電動機を水車として回し発電することで需給調整を行う。

多く見られる組み合わせ

水路式発電で流れ込み式
河川勾配の急な上中流部に多い。取水するためのダムはあるが、落差を得るほどの高さはなく、流量調整能力がない。
ダム式発電で調整池式(または貯水池式)
河川勾配の緩い中下流部に多い。水路はあってもダムと発電所を結ぶだけで落差を得るものではない。流量調整能力に応じて調整池式か貯水池式になる。
ダム水路式発電で調整池式(または貯水池式)
河川勾配が適度にある中流部に多い。ダムと水路の両方で落差を得る。流量調整能力に応じて調整池式か貯水池式になる。
ダム式発電で揚水式
上下流に連続して二つのダムを設置し、得られる落差と容量を利用して揚水発電を行うもの。自然流量も利用する混合揚水式が多い。
ダム水路式発電で揚水式
隣接する河川に二つのダムを設置して得られる容量と両者を結ぶ水路で得られる落差を利用して揚水発電を行うもの。落差が大きいほど大規模化しやすく経済的になるので、上部ダムは小河川の最上流部に設置することが多い。ほとんどが純揚水式であり、日本でも外国でも近年この形式の揚水発電所が多い。

出力規模による分類

統一された明確な定義は無く団体や機関による様々な定義がある[30]

理論

水のエネルギー

流水は位置エネルギー運動エネルギー・圧力エネルギーを持っている。流水の持つこれらのエネルギーを水力という。

流水を作用させる点を基準点とすると、高さ h (m) にある質量 m (kg) の水は、mgh (J) の位置エネルギーを有している。

質量 m (kg)、密度 ρ (kg/m³) の水が自由落下するとき、ある一点における流水の速度(流速)を v (m/s)、圧力水圧)を p (Pa) とすると、この流水のエネルギーは以下の三形態によって表すことができる。





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