アルキメディアン・スクリューとは? わかりやすく解説

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アルキメディアン・スクリュー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/24 13:32 UTC 版)

オランダズーテルメールにあるアルキメディアン・スクリュー
水を汲み上げる動作のイメージ映像

アルキメディアン・スクリュー: Archimedean screw)、アルキメデスの螺旋(-らせん、: Archimedes' screw)、またはスクリューポンプ: Screw pump)とはポンプスクリューの一種である。管の内部に螺旋があり、回転する事で連続的に上方へ移動させる。効率は低いが、粘性のある液体の搬送にも適している。主に液体の搬送などに使われるほか、砕氷船等の推進器としても用いられる。また、逆の動作となるが、上部から水を通すことで得られるシャフト(軸)の回転を利用したマイクロ水力発電にも活用されている。

アルキメデスが発明したとの言い伝えからこの名が付けられたが、アルキメデスの時代よりも4世紀前の紀元前7世紀、アッシリア王センナケリブの時代に既に使用されていたとする学説もある。

歴史

アルキメディアン・スクリュー
スペインの炭鉱の排水のために用いられた、ローマ時代のスクリュー

一般的には、スクリューポンプはアルキメデスがエジプトを訪問した際に彼が考案したとされる。ヘレニズム時代以前にこの装置がギリシアには知られていなかったことと、アルキメデスが生きていた時代に、名も無き技術者によりこの装置がギリシア世界にもたらされたことにより、この言い伝えが生まれたのかもしれない。[1]ギリシア・ローマ時代のスクリューポンプの描写を見る限りでは、装置全体を回すために、人が装置の外側を足で踏んでいた。そのため、装置の外周の筒が、スクリューにしっかりと固定されている必要があった。

一部の研究者は、古代の世界の七不思議の1つであるバビロンの空中庭園を灌漑するために、すでにスクリューが用いられていたと主張している。ステファニー・ダリーが翻訳した、アッシリア王センナケリブ(紀元前704-681年)の楔形文字の文書には、従来の説よりも約350年早い時期に、青銅で鋳造されたスクリューが用いられていたことが書かれている。[2]ストラボンは、空中庭園がスクリューによって灌漑されていたと書いているが、これとまさに一致するのである。[3]

14~15世紀のドイツの技術者コンラート・キーザーは、その著作「ベリフォルティス」(1405年)の中で、アルキメディアン・スクリューをクランクの仕組みにより動かす方法を述べている。この方法は便利であったため、昔ながらに筒を足で踏みつけて動かす方法に代わり、あっという間に広まっていった。[4]

日本でも、かつては坑道の排水に汎用された。佐渡金山では水上輪や竜樋と言われ、1637年(寛永14年)に大阪の水学宗甫という盲人が佐渡金山に紹介した。江戸時代において、もっとも効率的に排水ができる装置であった。また、水学は1636年(寛永13年)に長崎港外神島沖に沈没していたポルトガル船から、からくりを用いて六百余を引揚げたと『長崎志』に記述されている。このほか1674年(延宝2年)頃、島根県の出雲で洪水が発生した後の田畑を開墾するために、上方から水学が招かれた記事が『荒懇権輿』にある[要出典]

作動原理と構造

アルキメディアン・スクリューの動き
排水用風車の代わりとして設置 - オランダのキンデルダイク

管の内部に螺旋があり、回転する事で連続的に上方へ移動させる。効率は低いが、粘性のある液体の搬送にも適し、現代でも用いられる。

空洞の筒の中にスクリューがあり、螺旋状の面が中心の棒軸を囲むように作られる。スクリューは通常、風車、人力、牛やモーターなどにより回される。軸が回るとらせんの底面が一定量の水をすくう。この水は、回転する螺旋により上部へ押し上げられ、やがて筒の上部から流れ出す。

一回転するごとにすくわれる水の量が、漏れていく水の量と比べて大ければ、スクリューと筒の接触面の隙間を完全にふさぐ必要は無い。1つの層から水が漏れても、スクリューの次の層がそれを受け止め、上へと運んでいく。

静止した筒の中をスクリューが回転するのではなく、筒とスクリューが一体化して、同時に回転するタイプのものもある。この場合、スクリューと筒がピッチ(樹脂)または他の接着剤により貼り付けられたり、スクリューと筒が一体的に鋳造されたりする。

センナケリブが用いていた青銅製の重厚な装置は、駆動チェーンで動かす不安定なものだったが、ギリシアやローマの一般的なウォータースクリューのデザインである。細長い木材(まれに、青銅の板)を重い木製の柱に巻き付け、二重あるいは三重のらせんが作られた。らせんの回りに細長い板を固定し、ピッチ(樹脂)で防水処置して円筒が作られた。[3]

応用形

コンベヤー

スクリュー・コンベヤーは、筒の中に含まれたアルキメデスのスクリューである。モーターによって回転し、コンベヤーの端から端へと素材を届ける。特に、プラスチック粒子の射出成形や穀物の搬出など、粒状の素材の移動に適している。また、液体の移動にも用いられる。工業の現場においては、ロータリーバルブや搬送スクリューなど、一定割合または一定量の素材を工程に投入するために用いられる。

圧縮・成形

アルキメデスのスクリューの応用形は、射出成形機、ダイカストマシン、プラスチックの押出成形などでも見られる。それらの機械においては、素材を圧縮・融解するために、らせん部分の幅が狭い逓減ピッチが用いられている。回転スクリュー圧縮機もアルキメデスのスクリューを用いているほか、一部のごみ圧縮機英語版でも利用されている。

推進装置

逆動作を用いた発電

上部からの水にて回転するスクリュー
トロス水力発電所英語版

水をアルキメデスのスクリューの上部に注ぐと、スクリューが回る。回転するシャフト(軸)は発電機を回すことができる。このような装置はポンプのスクリューと同様の有益性がある。非常に汚れた水や、極端に水量が増減する場合にあっても、効率的に水流を利用することができる。英国では、2か所でスクリューの回転を利用したマイクロ水力発電施設(出力100kW以下)を稼働させている。同国ノースヨークシャー州にあるセトル町(Settle, North Yorkshire)に設置されたセトル水力発電所英語版と、同国ダービシャー州にあるニュー・ミルズ町(New Mills, Derbyshire)に設置されたトロス水力発電所英語版である。落差の少ない英国の一般的な河川でも小規模の発電機を動かすことができる。例えば、テムズ川の水流を利用して、ウィンザー城にも電力を供給している。[5]

2017年、米国コネティカット州のメリデン市に、米国で最初のスクリュー型発電機が稼働した。メリデン市の事業では、ニューイングランド水力発電(米国マサチューセッツ州)が設備を建設・運営している。最大出力は193kW。5年間の稼働期間において約55%の設備利用率を想定している。[6][7]

関連項目

外部リンク

脚注

  1. ^ Oleson, John Peter (2000), "Water-Lifting", in Wikander, Örjan, Handbook of Ancient Water Technology (Technology and Change in History), 2, Leiden, pp. 242–251, ISBN 90-04-11123-9
    (『古代の水技術の手引き (技術と進歩の歴史 第2巻)』(著:オーリャン・ウィカンダー(スウェーデンの歴史学者)、ブリル出版(オランダ)、1999年)p.242-251に収められている『揚水』(著:ジョン・ピーター・オルソン(ヴィクトリア大学(カナダ)の歴史学者))より)
  2. ^ Dalley, Stephanie (2013). The Mystery of the Hanging Garden of Babylon: an elusive World Wonder traced. Oxford University Press. ISBN 978-0-19-966226-5.
    (『バビロンの空中庭園の謎:“世界の不思議”の謎を追う』(ステファニー・ダリー(イギリスの古代中近東学者)、オックスフォード大学出版 2013年))
  3. ^ a b Dalley, Stephanie; Oleson, John Peter (2003). "Sennacherib, Archimedes, and the Water Screw: The Context of Invention in the Ancient World". Technology and Culture. 44 (1): 1–26. doi:10.1353/tech.2003.0011.
    (『技術と文化(第44巻) センナケリブ、アルキメデスとウォータースクリュー ~ 古代における発明のつながり』(著:ステファニー・ダリー、ジョン・ピーター・オルソン、ジョンズ・ホプキンス大学出版(米国)、2003年)p.1-26)
  4. ^ White, Jr., Lynn (1962), Medieval Technology and Social Change, Oxford: At the Clarendon Press, pp. 105, 111, 168
    (『中世の科学技術と社会の変化』(リン・タウンセンド・ホワイト・ジュニア(カリフォルニア大学の歴史学者)、オックスフォード大学出版(英国)、1962年)p. 105, 111, 168より)
  5. ^ BBC. "Windsor Castle water turbine installed on River Thames" bbc.com, 20 September 2011. Retrieved: 19 October 2017. : BBC放映「テムズ川にウィンザー城の水力発電機を設置」(2011年9月20日放送)
  6. ^ HLADKY, GREGORY B. "Archimedes Screw Being Used To Generate Power At Meriden Dam". courant.com. : 新聞記事「メリデン・ダムの発電にアルキメデスのスクリューを利用」(ハートフォード・クーラント紙(米国コネティカット州)、記者:グレゴリー・フラッドキー、2016年12月29日)
  7. ^ Meriden power plant uses Archimedes Screw Turbine".
    新聞記事「メリデンの発電所がアルキメデスのスクリューを使用」(ニュー・ヘブン・レジスター紙(米国コネティカット州)、2017年5月25日)
  8. ^ オープンソースのデモンストレーション・プログラムを掲載するプロジェクト。視覚的に様々な分野の事項を表現することを目的としている。

アルキメディアン・スクリュー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/27 10:03 UTC 版)

船舶工学」の記事における「アルキメディアン・スクリュー」の解説

アルキメデスのねじ原理応用した「アルキメディアン・スクリュー」は砕氷船ガリンコ号のような特殊な船で使われている。ガリンコ号では大きな4本のねじ型回転部が砕氷器と推進器兼ねていて、流氷氷上雪上、柔泥地でもそのまま進むことができる。

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アルキメディアン・スクリュー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/14 15:43 UTC 版)

アルキメデス」の記事における「アルキメディアン・スクリュー」の解説

詳細は「アルキメディアン・スクリュー」を参照 工学分野におけるアルキメデス業績には、彼の生誕地であるシラクサ関連するギリシア人著述家アテナイオス残した記録によると、ヒエロン2世アルキメデス観光運輸、そして海戦用の巨大な船「シュラコシア号」 (en)の設計依頼したという。シュラコシア号は古代ギリシア・ローマ時代通じて建造され最大の船で、アテナイオスによれば搭乗員600船内庭園ギュムナシオンさらには女神アプロディーテー神殿まで備えていた。この規模の船になると浸水無視できなくなるため、アルキメデスはアルキメディアン・スクリューと名づけられた装置考案し溜まった掻き出す工夫施した。これは、円筒内部にらせん状の板を設けた構造で、これを回転させると低い位置にある汲み上げ、上に持ち上げることができる。アルキメディアン・スクリューは、ねじ構造初め機械使用した例として知られている。。ウィトルウィウスは、この機構バビロンの空中庭園灌漑するためにも使われたと伝える。現代では、このスクリュー液体だけでなく石炭の粒など固体搬送する手段にも応用されている。

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