養育費問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/14 00:52 UTC 版)
「養育費」も参照 日本では、2006年現在では離婚や未婚の母に対して子どもの別れた父親の実際に支払いがある養育費が2割しかない状況であったが、養育費を取り決めていない理由には、「相手に支払う意思や能力がないと思った」が半数を占めているが、次いで2割が「相手と関わりたくない」という理由をあげている。養育費の文書での取り決め状況・養育費の受給状況共に母親の学歴が上昇するにつれ、割合が上がっている傾向があった。このように養育費は母の状況に左右されている。養育費の受給分析を通じて、養育費が子どもの権利であるという認識が母に、ひいては社会に不足しているとの指摘もある。養育費がない家庭が多数であることが母子家庭の困窮の一因となっている。2018年現在では、子供自身が支援機関に養育費について相談するケースが増えているとも言われている。ただし、母子世帯の母の学歴構成が同世代の女性にくらべてやや低いほうに偏っていることであることから、一つの解釈として学歴は出身階層の代理変数であり、相対的に出身家庭が裕福とは言えない階層出身者が多いとすると、彼女らは、似たような階層の男性と結婚する確率が高いと考えられ、この推論から別れた父親も比較的所得水準の低いものが多いとした場合、現実問題としての支払い能力を疑問視する分析もある。 一方、年収の高い父親ほど、養育費を払っている割合は高いが、年収500万円以上の離別父親ですら、その74.1%は養育費を支払っていない。貧困層の父親は「支払い能力の欠如」、非貧困層の父親は「新しい家族の生活優先」が理由となり、どの所得層の父親においても、養育費を支払わないという状況が生み出されているとの分析もある。政治家でも養育費不足の問題はあり、元東京都知事の舛添要一については、2014年1月現在、元妻片山さつきがその選挙応援を要請されたがその支障となるものとして「舛添さんは障害をお持ちのお子さんに対する慰謝料や扶養が不十分」とインタビューで、公式ブログでは「現時点では舛添氏は、障害をお持ちのご自身の婚外子の扶養について係争になっており、これをきちんと解決していただくこと」が必要だと語っている。なお、民法においては、2011年に第766条1項が改正され「子の監護に要する費用の分担」についても離婚の協議事項と初めて明記された。法務省が、改正民法が施行された2012年4月から1年間の結果をまとめた。この法務省の調査によると、2012年4月からの1年間で、未成年の子がいる夫婦の離婚届の提出は13万1254件あったが、面会や交流の方法を決めたのは7万2770件(55%)、養育費の分担を取り決め済みだったのは7万3002件(56%)だった。明石市では、養育費や面会交流の具体的な意見を書き込める「こどもの養育に関する合意書」と「こども養育プラン」という2種類の用紙を離婚届を取りに来た夫婦に配布している。市への提出義務はないが、調停や裁判の資料として使用が可能。用紙の配布により、離婚届の『養育費と面会交流の取り決め』のチェック欄の記入率が上がり、全国で約60%のところ、明石市では約70%となったと公表されている。 平成27年には、養育費の取り決めをしたのチェックは62%となっているが、平成25年より60%を少し超えたところで頭打ちしている。法務省は離婚する夫婦に未成年の子どもがいる場合の養育費や面会交流に関する新たな手引書を作成し、2016年10月から全国の自治体の戸籍窓口で対象者に配布を始める。また、ホームページにて養育費と面会交流の取り決め方や、その実現方法についてのパンフレット及び養育費等合意書見本を掲載している。離婚後の面会交流を現在でも行っている割合は、離婚母子では約28%、離婚父子では約37%(平成23年度全国母子世帯調査)となっており、面会交流の実施率は父子家庭の方が1割程度高くなっている一方、離婚することにより6-7割の子供は親子断絶状態に陥っており、文字通り片親を失った状態にある。こうした子ども達の中には、親による子供の拉致によって連れ去られた子ども達も含まれており、両親の根深い対立によって交流が阻害されているケースが含まれている。また、なかには国際結婚の破綻によって、外国から連れ去られて親子断絶状態にあるケースや、経済力のあまりない外国人配偶者が親権者となり、貧困状態に陥っているケースも散見される。 明石市では、養育費や面会交流について独自の離婚後のこども養育支援を行っている。2014年度から、養育費の額や支払期間などを記入する「合意書」を独自に作成し、離婚届を取りに来た市民に手渡しているという。同市は、離婚相手から不払いとなった養育費を補填するモデル事業を開始すると2018年に公表していた。ひとり親世帯が養育費の保証契約を保証会社と締結し、保証料は市が負担して、養育費が不払いの場合でも、同社からひとり親世帯に年間最大60万円が払われるという。また、養育費不支払者には氏名公表のペナルティも検討されているが、市民からは不払い者の氏名公表とか取り立てについて、別れた親の立場から新しい家族の存在と家や車の購入を理由に養育費を払わない、共同親権になった時には子供は引き取ると市の介入に反対する声が寄せられている。2020年6月、明石市では新型コロナウイルスの感染拡大の影響で困窮するひとり親世帯に対し、緊急措置として不払いになった養育費を市が立て替え、全国初の試みとして相手からの回収も市が担うと発表している。なお、家庭裁判所に調停を申し立てる費用は約3000円程度であり、公正証書を作るのにかかる費用は、概ね1万円から3万円程度で作成できているのが一般的と市は説明している。更に2020年7月には養育費を取り決めていない市内のひとり親に対し、裁判の調停費用、公正証書作成に関する手続き費用の全額補助を決め、書類の記入方法や戸籍謄本の取得などのアドバイスも行うこととした。大阪府では、全国に比較し、母子家庭のうち養育費について何らかの取り決めをしているのは、大阪市は28.1%、全国42.9%でそのうち、公正証書等、債務名義を有しているのは大阪市では12.5%、全国は25.0%であり同様に低い状況であることをかんがみ、2019年度から公正証書等作成費補助の全額補助や保証会社と養育費支払い保証契約を締結した場合に、本人負担費用に対し全額補助(1回限り、上限設定あり)を行う。また、履行確保に弁護士の協力制度を設ける。東京都港区では、2020年度予算に離婚前後の弁護士相談、民間保証会社による養育費保証制度利用経費の補助、または ADR(裁判外 紛争解決手続)に係る費用の一部を補助(上限額 5万円)、民間の面会交流支援機関を活用した面会交流の支援(中学生以下の子ども)について予算計上した 。 養育費の算定方法については、東京家庭裁判所が「養育費・婚姻費用算定表」を参考資料として公表している。日本弁護士連合会では、「権利者と義務者の生活水準を同程度にするという生活保持義務の考え方からは,住居費や保険掛金等について,そもそも特別経費として控除する理由は導かれない」とその算定方法について疑問を呈している。同会では、諸外国の養育費の分析を行い、日本でも養育費立替払制度の新設を提言するなどしている。更に、2016年11月に、総収入から特別経費として控除していた住居費等を一律には控除せずに可処分所得に含めた新算定方式の養育費と婚姻費用の新算定方法について提言をしている。2020年には改正民法が施行され成人が18歳になるため、養育費の取り決めが「成人するまで」となっている場合には18歳までか20歳までか争いが起こる可能性がある。このため、取り決めを年齢で明記することも勧められている。紛争解決には法テラス(電話0570-078374)や各地方自治体の無料法律相談及び女性相談センター、または公証人役場などが有用だが、通常無料相談には回数上限があり、弁護士などの相談費用がかさむため支払い能力がない保護者の場合、元配偶者への養育費請求をあきらめることへつながっている。なお、養育費の養育費取得の裁判費用については、母子及び父子並びに寡婦福祉資金の対象であり、自治体で1,236,000円までを貸し付けている。なお、平成28年4月28日参議院の厚生労働委員会において、次のような審議が行われている。津田弥太郎参議院議員が離婚後に元配偶者から養育費を徴収することへの妨げになっている原因として、元配偶者の正確な資産内容を把握することが困難であることを掲げ、国税庁に直接情報提供協力を求める発言を行い、同庁より難しいとの回答を得ている。しかしながら、例えば生活保護法では第29条においては、保護の実施に当たり、本人の同意書を得たうえで、保護の実施機関及び福祉事務所長に官公署、日本年金機構を始め、銀行、信託会社、雇主その他の関係人に、扶養義務者の資産状況を含む報告を求めることができる強力な調査権を付与しているが、児童扶養手当支給に当たっても、同趣旨の内容を規定した児童扶養手当法の第30条を根拠とし、手当支給の算定根拠となる養育費の支給状況及び児童の父または母の資産状況について、行政職員による調査を行う手法が閉ざされているわけではない。 また、元配偶者の所在地について同委員会内で佐々木さやか議員が、捜索することの困難性について言及しているが、直系卑属の開示請求により、戸籍の附票の写しや住民票の除籍を辿ることにより住所履歴は確認することは可能となっている。さらに、令和元年5月に成立した改正民事執行法では、確定判決などに基づいて地方裁判所に申し立てすることで、相手の預貯金の口座情報や勤務先の情報を、対象の金融機関や、住民税の徴収などを基に職場を把握している市町村などから取得できるようになった。また、改正民事執行法第152条の2により「扶養義務等に係る債権」とする差し押さえの場合は税金控除後の給与2分1の部分が差し押さえ禁止で、つまり2分の1までは差し押さえ可能となる。ただし、公正証書での給与差し押さえの場合、正本に、債務者が公正証書正本に記載された債務を履行しない場合、直ちに強制執行に服する旨(執行受諾文言)が記載されていることを要する。差押申し立て手続きは地方裁判所の案内に詳しい。ほか法務省で説明資料やYouTubeでの動画解説を提示している。公正証書を作成する公証人とは、原則として判事や検事などを長く務めた法律実務の経験豊かな者で、公募に応じた者の中から、法務大臣が任命することになっている(公証人法第13条)ため、裁判官のOBの立場の者が就任していることからその作成した公正証書は強い公定力を持っている。2020年5月、実業家の前澤友作は受領できない養育費を元パートナーに代わり支払い、相手に交渉等も行う予定の養育費回収会社の設立を発表したが、3日で5000件以上の申し込みがあったと公表している。また、改正民事執行法205条により、財産開示手続の開示拒否や虚偽の報告をした者に対して、「6か月以下の懲役または50万円以下の罰金」の刑事罰を科すことになり、該当者には刑事罰が与えられることになった。 養育費の不払いによるひとり親の困窮に対して行われる行政の福祉給付受給については、アメリカでは納税者に遺棄して去った父親の代わりを負わせることへの議論が高まり、1975年社会保障法改正によって、子を監護していない親の養育費支払義務を強制することになった経緯がある。未払いの場合州によっては裁判所で拘禁まで課されることもある。2020年10月、沖縄県在住女性が米国の「養育費回収システム」を使って別れた米兵である父親を特定し、養育費を女性に支払うようハワイ州の家庭裁判所に認められている。イギリスにおいてもサッチャー政権下に母子世帯の福祉依存と父親の養育費不払いへの批判が高まった結果、ひとり親が所得補助等を利用している場合には1993年から導入された養育費制度の利用が義務付けられている。日本においても、生活保護において非監護親が養育費支払い能力を有する場合でも、監護親世帯が生活保護を受給することにより養育費受給が低減するという研究結果があり、またひとり親に給付される児童扶養手当では、費用負担は国が3分の1、都道府県、市が3分の2であるが2010年の国庫負担分の予算案が1678.4億円、都道府県、市等併せると年間約5,035億円となる。養育費未徴収の福祉給付受給者が増加することが福祉費増大の一因となるため、養育費徴収の実現は財政健全化にも寄与する。
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