養育費の確保
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/15 23:58 UTC 版)
日本ではひとり親の就業率は母子家庭8割・父子家庭9割と諸外国に比較して高いことに反して、相対的貧困率がOECD加盟国中最も高くなっているが、「夫が全児の親権を行う場合」を1966年に妻側が逆転して以降、妻が全児の親権者となる割合は現在では8割を超えているため、実際に主に困窮しているのは母子家庭である。ただし、「所得再分配調査」の分析による貧困家庭に占める母子世帯の割合は1995年で4.6%、2001年で4.7%と1割にも満たないとの研究もあり、母子世帯の貧困が貧困率全体に与える影響は大きくないとの指摘もある。 母子家庭の貧困対策については、アメリカでは母子世帯の増加に伴う福祉給付金の増大という財政問題に加え、母子世帯の福祉依存がアメリカ社会の基盤である「自立」精神を損なうこと、とくに子どもの成長過程で福祉依存が日常化し、福祉依存が継承されることへの危機感が強まって1996年の「福祉から就労へ」という福祉改革となった。一方で、非監護者(主に父親)の養育費徴収強力に推進され、養育費は給与天引きが行われ、養育費サービス機関は、福祉、税務、司法、検察・警察等の各種の行政機関、民間機関等と情報連携・行動連携を取りながら子どもの養育費確保のために動き、滞納者には免許停止やパスポート発行拒否など公権力が行使されている。政府支出も年々増加している一方、全体の受給率は4割にとどまるが、養育費が家計に占める割合が高い貧困母子世帯の受給率が向上しているため、貧困・低所得の母子世帯にとって養育費の状況改善の意味合いは大きいとされている。 イギリスでは、1980年代以降多くの生別母子世帯が貧困で社会保障給付に依存して生活していること、また多くの母子世帯が養育費を得ていないことについて、納税者からは父親の責任を問う声が強まった。私的扶養・家族責任と公的扶養・国家責任との境界をめぐる議論が起こった。現在では子と別に暮らしている親(多くが父親)から強制的に養育費を回収するための手段が取られている。 韓国では、ひとり親家庭の83%が元配偶者から養育費を受け取っておらず(2012年現在)、2015年3月、女性家族省のもとに養育費履行管理院が設けられた。その役割は相談と徴収で、申請を受け相手の住所、財産や所得を調査、協議成立から取り立てまで支援する。履行管理院の支援で658件、約30億ウォン(2億7千万円)の養育費が支払われた。 日本では、2006年現在では離婚や未婚の母に対して子どもの別れた父親の実際に支払いがある養育費は2割しかない状況であるが、養育費を取り決めていない理由には、「相手に支払う意思や能力がないと思った」が半数を占めているが、次いで2割が「相手と関わりたくない」という理由をあげている。養育費の文書での取り決め状況・養育費の受給状況共に母親の学歴が上昇するにつれ、割合が上がっている傾向があった。このように養育費は母の状況に左右されている。養育費の受給分析を通じて、養育費が子どもの権利であるという認識が母に、ひいては社会に不足しているとの指摘もある。 さらに、生活保護母子世帯においては、別れた相手の学歴も低学歴が多く、生活保護母子世帯の世帯主とのマッチングが高い、また相手は非正規就労など不安定就労のため扶養援助が期待できないとの指摘がある。 養育費の徴収については、2007年養育費相談支援センターが設立され、諸外国のような強制力は伴っていないが、書面を作成する場合には公証人役場で作成された公正証書は、約束を守らなかった場合には強制執行ができるという認諾条項の付いたものであれば強制執行を、また 一定の期間内に履行しなければ本来の養育費とは別に一定の金銭を支払うように命じる間接強制にも利用できるなどアドバイスを行っている。明石市は、離婚相手から不払いとなった養育費を補填するモデル事業を開始すると2018年に公表している。ひとり親世帯が養育費の保証契約を保証会社と締結し、保証料は市が負担して、養育費が不払いの場合でも、同社からひとり親世帯に年間最大60万円が払われるという。 国の政策としては、平成14年(2002年)に母子及び寡婦福祉法、児童扶養手当法等を改正し、「児童扶養手当中心の支援」から「就業・自立に向けた総合的な支援」へ転換したところだが、母子家庭の8割が既に就労している現在、就労による増収はパートタイム等で雇用されている母子家庭の母が常用雇用に転換することが有効だが、経済状況が厳しい上に、通常学歴内婚の比率が高いことに加え男女共に学歴が低いほど離婚率は高く、「離婚は低学歴層に集中して生起している」という離婚女性分析もあるため、正規雇用化は現実的に困難である。国の常用雇用転換奨励金事業において、母子家庭の母と有期雇用契約を結んだ事業主によるOJT計画書の提出件数が平成15年(2003年)4月から平成19年(2007年)12月までの合計で156件、そのうち、常用雇用に転換された者の人数は、128人となっている。 なお、民法においては、2011年に第766条1項が改正され「子の監護に要する費用の分担」についても離婚の協議事項と初めて明記された。この後法務省が、改正民法が施行された2012年4月から1年間の結果をまとめた。この法務省の調査によると、2012年4月からの1年間で、未成年の子がいる夫婦の離婚届の提出は13万1254件あったが、面会や交流の方法を決めたのは7万2770件(55%)、養育費の分担を取り決め済みだったのは7万3002件(56%)だった。
※この「養育費の確保」の解説は、「貧困の悪循環」の解説の一部です。
「養育費の確保」を含む「貧困の悪循環」の記事については、「貧困の悪循環」の概要を参照ください。
- 養育費の確保のページへのリンク