合成樹脂 環境への影響

合成樹脂

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環境への影響

世界のプラスチック生産(青)、廃棄(黄)、埋立て(茶)、焼却(赤)、リサイクル(緑)
このコアホウドリのひなは、親鳥によりプラスチックを与えられ、それを吐き出すことができなかった。そして飢えか窒息により死亡した。

世界のプラスチック年間生産量は、1950年の200万トンから2015年には約200倍の4億700万トンに達した[47]。2050年には11億トンに達するといわれている。[48]プラスチックの多くは使い捨てされており、リサイクルされたのは生産量のわずか9%となっている。2016年時点で、1人あたりのプラスチックごみの排出量は1位がアメリカ、2位がイギリスである[42]。イギリスでは国内で処理しきれないため、トルコなど国外に送っている[42]

利用後に処理されず環境中に流出してしまうことも少なくない。2018年現在、既に世界の海に存在しているプラスチックごみは1億5,000万トン、そこへ少なくとも年間800万トンが新たに流入していると推定され、2050年に魚類の総量を上回ると警告されている[49]

難破船とともに海岸に打ち上げられて残るプラスチック製品(積丹半島西の河原

漂流・漂着ごみの影響により、魚類、海鳥、アザラシなどの海洋哺乳動物、ウミガメを含む少なくとも約700種もの生物が傷つけられたり死んだりしているが、このうち92%がプラスチックの影響と考えられており[50]、プラスチックごみを体内に摂取している個体の比率は、ウミガメで52%、海鳥で90%にのぼると推定されている[51]

また、2014年頃から国際的な会議の場で、海洋中のマイクロプラスチックの環境への影響が取り上げられるようになった[52]。石油で作られたプラスチックは、半永久的に分解されず直径5ミリ以下の粒子となり、自然界に存在する有害物質を吸着し海面や海底等に留まり、生物の体内にも取り込まれている[51]。マイクロプラスチックは大気中にも広く含まれ[53][54]、人が飲食や呼吸を通じて体内に取り込むマイクロプラスチックの量は最大で年間12万1000個に上り、ヒト組織の内部に入り込み局地的な免疫反応を引き起こす恐れがあるとする研究結果も発表されている[55][56]

太平洋ゴミベルト[57]は、北太平洋の中央(およそ西経135度から155度、北緯35度から42度の範囲[58])に漂う海洋ごみの海域である。浮遊したプラスチックなどの破片が北太平洋循環の海流に閉ざされ、異常に集中しているのが特徴の海域である。太平洋ゴミベルトの面積はテキサス州の2倍に相当する[57]。プラスチックは海洋生物にとって最大の脅威となっている。海洋生物がゴミを食べ物と間違えて食べることにより、結果として海洋生物が大量のポリスチレンを摂取してしまう。[59]

2019年5月、国際環境法センター英語版は新しく発表した報告書で、生産から廃棄にいたるまでの過程でプラスチックが大気中に放出する温室効果ガスの量について、2019年は8億5000万トンに上ると予測している[60]

2019年時点で流入量は1000万トン超とされているが、海面上にあるのは44万トンであり、残りは海底に沈むなどして観測できず行方不明となっている。また低温では分解が進まないため、2019年に房総半島の約500km沖合で水深6000mの海底を調査した際には、昭和59年(1984年)に製造された食品の梱包材が発見されるなど、長期間にわたって残留することが判明している[61]

主に海洋プラスチックや二酸化炭素(CO2)の削減から、欧米諸国ではプラ製品の製造を削減する議論が活発であり、欧州議会では2021年までに使い捨てプラ食器などの使用を禁止している[62]

日本

日本は、プラスチックの1人当たりの容器包装プラスチックごみの発生量で世界第2位[63]。生産量は世界第3位となっており、日本近海でのマイクロプラスチックの濃度は、世界平均の27倍に相当するという調査結果もある。また四国の沖合ではプラスチックごみが滞留し、直下の海底へ沈降しているとの想定もある[61]

日本では回収したプラスチックの材料自体のリサイクルは約20%にとどまり、57%を多くの先進国ではリサイクルと認められないサーマルリサイクルで熱回収に利用しており、原油由来のプラスチックの燃焼処理は地球温暖化対策とも逆行する[64]

2018年6月にカナダで開催されたG7シャルルボア・サミットにて、プラスチックの製造、使用、管理及び廃棄に関して、より踏み込んで取り組むとする「G7海洋プラスチック憲章」では、日本とアメリカだけが署名しなかった[50]

2019年5月には日本政府が海洋汚染に対して海洋で分解可能なプラスチックに対して、国際規格を定めて日本企業を支援する報道がなされている[65][66]が、安倍晋三首相は2019年10月6日の国立京都国際会館で開かれた科学技術と人類の未来に関する国際フォーラムにおいて、海洋プラスチックごみ問題に対してプラスチックの社会への重要性を説きつつ「プラスチックを敵視したり、その利用者を排斥したりすべきことではありません」「必要なのはゴミの適切な管理ですし、イノベーションに解決を求めることです」と発言し[67]、日本企業の生分解性プラスチック開発への取り組みを評価しつつ、ゴミの適切な処理と、技術革新によって海洋プラスチックごみが解決されることが重要である旨の発言をした[68]

2022年4月1日にプラスチック資源循環促進法が施行される予定になっている。

脱プラスチックへの議論・懐疑

BBCニュースとしてミシガン州立大学の包装学部長Susan Selkeは「ペットボトル飲料を仮にガラス瓶に置き換えた場合、輸送エネルギーは40%増加する」と話す。米国化学工業協会英語版と環境評価企業Trucost英語版は清涼飲料水のプラスチックをスズ、アルミ、ガラスなどに置き換えた場合に、環境汚染への対策費は5倍に増えると推定している。また真空パックによって食品ロスも削減されており、単純にプラスチックを使わなければよいという意見には、議論が存在する[69][70]。なおペットボトルからアルミ缶への移行はアルミのリサイクルシステムが構築されていることや、賞味期限の延長のという恩恵があるため有用という意見もある[71]。食品ロスと脱プラスチックの両立案として、小売店での量り売りや店側による容器の回収と再利用などがある[42]

プラスチックの石油消費量は、日本の石油消費全体の3%[72][73]~7%[74]程度であり、燃料(77%)など石油製品全体の割合からすると少ない。食品容器はさらに、この一部(全体の0.2%)であるため、石油原料の消費量の点において、プラ容器は環境負荷が元々少ないという主張もある[要出典]

国内で生産される業務用ストローの約50%を生産する岡山県シバセ工業では、プラスチック製品の存在が悪いのではなく、廃棄の仕方に問題があると考えており、「脱プラ製ストロー」の動きに関しては、特に分別回収が徹底され、ほぼ焼却されている日本にはそぐわない。海洋汚染を語るなら、本当の問題は"垂れ流し"を行っている途上国や先進国でも洪水の可能性があるも関わらず埋め立てという手法を取っている欧米諸国にあると指摘している[75][76]

バイオプラスチックが及ぼす食料需給への懸念

バイオプラスチックの普及、生産のためには多くの農地が必要である。食糧生産のための農地がバイオプラスチックやバイオ燃料の材料用農地に変わる可能性がある。そうなれば世界総人口の増え続ける世界の食料需給に影響を与える可能性がある。特に影響を受けるのは発展途上国や低所得の貧困層になるだろう。これからバイオ素材が普及し大量に使われ長期的に利用料されるようになれば食料需給に影響をあたえる可能性が高い[77]


注釈

  1. ^ 物質名称以外の表現で用いる場合、(柔軟で)感受性の強い性格、作り笑いなどの人工的な・不自然な、あるいは形成・造形を指す場合に用いる。
  2. ^ Cassone et al. (2020) は、合成樹脂を摂食する動物を指すことばとして "plastivore" という単語を使用している[21]。これは "plastic"と、「-を食べる動物」を意味する接尾辞"-vore"とを組み合わせた造語である[22]

出典

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  6. ^ 桑嶋 & 久保 2011, pp. 158–159.
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