合成樹脂
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/25 07:49 UTC 版)
環境への影響


世界のプラスチック年間生産量は、1950年の200万トンから2015年には約200倍の4億700万トンに達した[47]。2050年には11億トンに達するといわれている。[48]プラスチックの多くは使い捨てされており、リサイクルされたのは生産量のわずか9%となっている。2016年時点で、1人あたりのプラスチックごみの排出量は1位がアメリカ、2位がイギリスである[42]。イギリスでは国内で処理しきれないため、トルコなど国外に送っている[42]。
利用後に処理されず環境中に流出してしまうことも少なくない。2018年現在、既に世界の海に存在しているプラスチックごみは1億5,000万トン、そこへ少なくとも年間800万トンが新たに流入していると推定され、2050年に魚類の総量を上回ると警告されている[49]。
漂流・漂着ごみの影響により、魚類、海鳥、アザラシなどの海洋哺乳動物、ウミガメを含む少なくとも約700種もの生物が傷つけられたり死んだりしているが、このうち92%がプラスチックの影響と考えられており[50]、プラスチックごみを体内に摂取している個体の比率は、ウミガメで52%、海鳥で90%にのぼると推定されている[51]。
また、2014年頃から国際的な会議の場で、海洋中のマイクロプラスチックの環境への影響が取り上げられるようになった[52]。石油で作られたプラスチックは、半永久的に分解されず直径5ミリ以下の粒子となり、自然界に存在する有害物質を吸着し海面や海底等に留まり、生物の体内にも取り込まれている[51]。マイクロプラスチックは大気中にも広く含まれ[53][54]、人が飲食や呼吸を通じて体内に取り込むマイクロプラスチックの量は最大で年間12万1000個に上り、ヒト組織の内部に入り込み局地的な免疫反応を引き起こす恐れがあるとする研究結果も発表されている[55][56]。
太平洋ゴミベルト[57]は、北太平洋の中央(およそ西経135度から155度、北緯35度から42度の範囲[58])に漂う海洋ごみの海域である。浮遊したプラスチックなどの破片が北太平洋循環の海流に閉ざされ、異常に集中しているのが特徴の海域である。太平洋ゴミベルトの面積はテキサス州の2倍に相当する[57]。プラスチックは海洋生物にとって最大の脅威となっている。海洋生物がゴミを食べ物と間違えて食べることにより、結果として海洋生物が大量のポリスチレンを摂取してしまう。[59]
2019年5月、国際環境法センターは新しく発表した報告書で、生産から廃棄にいたるまでの過程でプラスチックが大気中に放出する温室効果ガスの量について、2019年は8億5000万トンに上ると予測している[60]。
2019年時点で流入量は1000万トン超とされているが、海面上にあるのは44万トンであり、残りは海底に沈むなどして観測できず行方不明となっている。また低温では分解が進まないため、2019年に房総半島の約500km沖合で水深6000mの海底を調査した際には、昭和59年(1984年)に製造された食品の梱包材が発見されるなど、長期間にわたって残留することが判明している[61]。
主に海洋プラスチックや二酸化炭素(CO2)の削減から、欧米諸国ではプラ製品の製造を削減する議論が活発であり、欧州議会では2021年までに使い捨てプラ食器などの使用を禁止している[62]。
日本
日本は、プラスチックの1人当たりの容器包装プラスチックごみの発生量で世界第2位[63]。生産量は世界第3位となっており、日本近海でのマイクロプラスチックの濃度は、世界平均の27倍に相当するという調査結果もある。また四国の沖合ではプラスチックごみが滞留し、直下の海底へ沈降しているとの想定もある[61]。
日本では回収したプラスチックの材料自体のリサイクルは約20%にとどまり、57%を多くの先進国ではリサイクルと認められないサーマルリサイクルで熱回収に利用しており、原油由来のプラスチックの燃焼処理は地球温暖化対策とも逆行する[64]。
2018年6月にカナダで開催されたG7シャルルボア・サミットにて、プラスチックの製造、使用、管理及び廃棄に関して、より踏み込んで取り組むとする「G7海洋プラスチック憲章」では、日本とアメリカだけが署名しなかった[50]。
2019年5月には日本政府が海洋汚染に対して海洋で分解可能なプラスチックに対して、国際規格を定めて日本企業を支援する報道がなされている[65][66]が、安倍晋三首相は2019年10月6日の国立京都国際会館で開かれた科学技術と人類の未来に関する国際フォーラムにおいて、海洋プラスチックごみ問題に対してプラスチックの社会への重要性を説きつつ「プラスチックを敵視したり、その利用者を排斥したりすべきことではありません」「必要なのはゴミの適切な管理ですし、イノベーションに解決を求めることです」と発言し[67]、日本企業の生分解性プラスチック開発への取り組みを評価しつつ、ゴミの適切な処理と、技術革新によって海洋プラスチックごみが解決されることが重要である旨の発言をした[68]。
2022年4月1日にプラスチック資源循環促進法が施行される予定になっている。
脱プラスチックへの議論・懐疑
BBCニュースとしてミシガン州立大学の包装学部長Susan Selkeは「ペットボトル飲料を仮にガラス瓶に置き換えた場合、輸送エネルギーは40%増加する」と話す。米国化学工業協会と環境評価企業Trucostは清涼飲料水のプラスチックをスズ、アルミ、ガラスなどに置き換えた場合に、環境汚染への対策費は5倍に増えると推定している。また真空パックによって食品ロスも削減されており、単純にプラスチックを使わなければよいという意見には、議論が存在する[69][70]。なおペットボトルからアルミ缶への移行はアルミのリサイクルシステムが構築されていることや、賞味期限の延長のという恩恵があるため有用という意見もある[71]。食品ロスと脱プラスチックの両立案として、小売店での量り売りや店側による容器の回収と再利用などがある[42]。
プラスチックの石油消費量は、日本の石油消費全体の3%[72][73]~7%[74]程度であり、燃料(77%)など石油製品全体の割合からすると少ない。食品容器はさらに、この一部(全体の0.2%)であるため、石油原料の消費量の点において、プラ容器は環境負荷が元々少ないという主張もある[要出典]。
国内で生産される業務用ストローの約50%を生産する岡山県のシバセ工業では、プラスチック製品の存在が悪いのではなく、廃棄の仕方に問題があると考えており、「脱プラ製ストロー」の動きに関しては、特に分別回収が徹底され、ほぼ焼却されている日本にはそぐわない。海洋汚染を語るなら、本当の問題は"垂れ流し"を行っている途上国や先進国でも洪水の可能性があるも関わらず埋め立てという手法を取っている欧米諸国にあると指摘している[75][76]。
バイオプラスチックが及ぼす食料需給への懸念
バイオプラスチックの普及、生産のためには多くの農地が必要である。食糧生産のための農地がバイオプラスチックやバイオ燃料の材料用農地に変わる可能性がある。そうなれば世界総人口の増え続ける世界の食料需給に影響を与える可能性がある。特に影響を受けるのは発展途上国や低所得の貧困層になるだろう。これからバイオ素材が普及し大量に使われ長期的に利用料されるようになれば食料需給に影響をあたえる可能性が高い[77]。
注釈
- ^ 物質名称以外の表現で用いる場合、(柔軟で)感受性の強い性格、作り笑いなどの人工的な・不自然な、あるいは形成・造形を指す場合に用いる。
出典
- ^ Cassone et al. (2020) は、合成樹脂を摂食する動物を指すことばとして "plastivore" という単語を使用している[21]。これは "plastic"と、「-を食べる動物」を意味する接尾辞"-vore"とを組み合わせた造語である[22]。
- ^ “合成樹脂製の器具容器包装の規格に関する留意点”. 一般財団法人日本食品分析センター. 2020年12月1日閲覧。
- ^ 松藤 & 廃棄物資源循環学会リサイクルシステム・技術研究部会 2009, pp. 2–3.
- ^ 桑嶋 & 久保 2011, p. 152.
- ^ a b GIBBENS, SARAH (2018年11月20日). “バイオプラスチックは環境に優しいって本当? プラスチック代替品としての潜在能力を専門家に聞いた”. ナショナルジオグラフィック日本版. 2019年12月6日閲覧。
- ^ 桑嶋 & 久保 2011, pp. 164–165.
- ^ 桑嶋 & 久保 2011, pp. 158–159.
- ^ 桑嶋, 木原 & 工藤 2005.
- ^ 齋藤 2011.
- ^ 桑嶋 & 久保 2011, p. 18.
- ^ 桑嶋 & 久保 2011, p. 20.
- ^ a b c d e f g h i 島崎 1966.
- ^ 桑嶋 & 久保 2011, pp. 88–89.
- ^ 桑嶋 & 久保 2011, pp. 84–87.
- ^ 桑嶋 & 久保 2011, pp. 10–11.
- ^ a b c プラスチック循環利用協会 2019, p. 11.
- ^ a b c d e 日立ハイテク 2018.
- ^ a b c d e f g 日立ハイテク 2017.
- ^ a b テクノUMG 2019.
- ^ a b c d 冨田 1991.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t Ru, Huo & Yang 2020.
- ^ a b c Cassone et al. 2020.
- ^ “プラスチックを生分解する幼虫と腸内細菌との謎多き関係――環境汚染対策の鍵となるか”. fabcross for エンジニア. MEITEC (2020年3月24日). 2021年12月19日閲覧。
- ^ a b 大武 2001.
- ^ Taipale et al. 2019.
- ^ a b Peng et al. 2020.
- ^ NatureWaxwormSaliva 2022.
- ^ ニューズウィーク2022年10月25日, p. 54.
- ^ 及川 et al. 2003.
- ^ Wang et al. 2020.
- ^ a b c Jiang et al. 2021.
- ^ 中島(神戸) 2007.
- ^ a b c Kawai, Kawabata & Oda 2019.
- ^ 桑嶋 & 久保 2011, pp. 124–125.
- ^ 神代 & 古田 2014.
- ^ 入江 1989.
- ^ 入江 1990.
- ^ a b “トピックス”. 日本プラスチック工業連盟. 日本プラスチック工業連盟. 2019年12月5日閲覧。
- ^ https://dot.asahi.com/articles/-/126461?page=2 「スタバ、マックの「脱プラ」 契機はG7と中国のプラごみ輸入規制」中原一歩 アエラドット 2018.9.9 2019年12月5日閲覧
- ^ 桑嶋 & 久保 2011, pp. 46–47.
- ^ 桑嶋 & 久保 2011, pp. 200–201.
- ^ 松藤 & 廃棄物資源循環学会リサイクルシステム・技術研究部会 2009, pp. 15–16.
- ^ a b c d 日本放送協会. “すべて“量り売り” イギリス最新買い物スタイル”. NHKニュース. 2021年9月17日閲覧。
- ^ “汚れた廃プラスチック、バーゼル条約で規制対象に(世界)”. ジェトロ. 2022年3月23日閲覧。
- ^ 松藤 & 廃棄物資源循環学会リサイクルシステム・技術研究部会 2009, p. 14.
- ^ a b “環境省_令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 状況第1部第3章第1節 プラスチックを取り巻く国内外の状況と国際動向”. 環境省. 2022年3月23日閲覧。
- ^ “行き場を失う日本の廃プラスチック | どうする?世界のプラスチック - 特集 - 地域・分析レポート - 海外ビジネス情報”. ジェトロ. 2021年9月17日閲覧。
- ^ 1カ月「脱プラスチック生活」やってみた。日本は1人のプラゴミの排出量、世界ワースト2位 Business Insider 2019年9月2日
- ^ “The New Plastics Economy: Rethinking the future of plastics - download the infographics”. www.ellenmacarthurfoundation.org. 2019年12月25日閲覧。
- ^ 【ポスト平成の未来学】第6部 共創エコ・エコノミー/ゴミはなくせる/海のゴミ1.5億トン 増加止まらず『日本経済新聞』朝刊2018年4月12日
- ^ a b 海洋プラスチック問題について WWFジャパン 2018年10月26日
- ^ a b G20大阪サミット前に海洋プラスチック汚染問題解決への政策提言を実施 WWFジャパン 2019年6月14日
- ^ DOWAエコシステム 環境ソリューション室 森田 (2018年7月2日). “そうだったのか!マイクロプラスチック問題とは?(1)”. 2019年2月24日閲覧。
- ^ 辺境の山地にもマイクロプラスチック、大気中を浮遊 AFP BB NEWS 2019年4月16日
- ^ 大気中からもマイクロプラスチック 福岡市内で確認 朝日新聞 2019年11月19日
- ^ ナショナル ジオグラフィック (2018年10月24日). “人体にマイクロプラスチック、初の報告”. 2019年2月24日閲覧。
- ^ 人体に取り込まれるマイクロプラスチック、年間12万個超 研究 AFP BB NEWS 2019年6月6日
- ^ a b Handwerk, Brian. ““太平洋ゴミベルト”の実態調査”. ナショナルジオグラフィック日本語版. 2021年12月18日閲覧。
- ^ Dautel 2009.
- ^ “太平洋ゴミベルト:プラスチックの濃縮スープとなった海(動画)”. 2014年11月10日閲覧。
- ^ 進まないプラスチックリサイクル、温暖化に影響も Forbes Japan 2019年6月1日
- ^ a b 『房総半島沖の水深6,000m付近の海底から大量のプラスチックごみを発見 ―行方不明プラスチックを探しに深海へ―』(プレスリリース)JAMSTEC 国立研究開発法人海洋研究開発機構、2021年3月30日 。2021年4月3日閲覧。
- ^ “欧州議会、2021年までに使い捨てプラスチック製品を禁止することを支持”. 駐日欧州連合代表部. 2019年7月23日閲覧。
- ^ 環境省 プラスチックを取り巻く国内外の状況 <第3回資料集> 2019年02月20
- ^ 世界基準からズレた日本の「プラごみリサイクル率84%」の実態 Forbes Japan 2019年1月10日
- ^ “「海で分解するプラスチック」国が開発企業を支援へ”. NHK NEWSWEB (日本放送協会). (2019年5月6日). オリジナルの2019年5月6日時点におけるアーカイブ。 2019年5月14日閲覧。
- ^ “海で分解するプラスチック、官民で規格策定へ 国際標準への提案めざす”. 日本経済新聞 (日本経済新聞社). (2019年5月12日). オリジナルの2019年5月13日時点におけるアーカイブ。 2019年5月14日閲覧。
- ^ 安倍首相の「STSフォーラム」あいさつ全文 産経新聞 2019年10月6日閲覧
- ^ 安倍首相"海洋プラ問題解決に技術革新" 日テレNEWS24 2019年10月6日閲覧
- ^ “日本が直面する、脱プラスチック問題”. ニッセイ基礎研究所. 2019年7月23日閲覧。
- ^ Gray, Richard. “What's the real price of getting rid of plastic packaging?” (英語). www.bbc.com. 2019年7月23日閲覧。
- ^ Inc, mediagene (2021年4月23日). “無印良品が、ペットボトル容器を廃止。あえて「売れづらいアルミ缶」に素材を変えた理由とは?”. www.gizmodo.jp. 2021年9月17日閲覧。
- ^ “環境負荷が少ないプラスチック食品容器 | プラトレネット”. www.japfca.jp. 2019年9月14日閲覧。
- ^ プラスチック循環利用協会 2019.
- ^ “プラスチックとは|日精樹脂工業株式会社”. www.nisseijushi.co.jp. 2019年9月14日閲覧。
- ^ “プラ製ストロー逆風こそ商機”. 朝日新聞 (2018年10月25日). 2021年11月1日閲覧。
- ^ “「脱プラ製ストロー」で波紋「生分解」引き合い急増の備中化工 国産トップシバセ工業は「分別回収する日本でなぜ」”. VISION OKAYAMA 2018-11-19 (2018年11月19日). 2021年11月1日閲覧。
- ^ 棟居洋介, 増井利彦, 「バイオマスプラスチックの普及が世界の食料不安に及ぼす影響の長期評価」『環境科学会誌』 2012年 25巻 3号 p.167-183, , doi:10.11353/sesj.25.167
合成樹脂と同じ種類の言葉
固有名詞の分類
- 合成樹脂のページへのリンク