エネルギー 熱力学

エネルギー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/16 10:32 UTC 版)

熱力学

熱力学において、ある条件の元で仕事として取り出すことのできるエネルギーとして自由エネルギーが定義される。自由エネルギーには、ヘルムホルツの自由エネルギーギブズの自由エネルギーの 2 つがある。ヘルムホルツの自由エネルギー[注 2]は等温操作によって熱力学系から得られる仕事の最大値として定義される。ギブズの自由エネルギー[注 3]は等温等圧操作によって得られる仕事の最大値を与える。

自由エネルギーは、適切な変数の下では平衡状態の熱力学系のすべての情報を持った関数、すなわち熱力学ポテンシャルとなる。また、平衡状態は自由エネルギーが極小である状態として実現する。このように、自由エネルギーは理論的な道具として良い性質を持った量である。

一方、工学などの応用領域においては、熱力学系で仕事に寄与する有効エネルギーのみに意味があり、それを評価する量としてエクセルギー[注 4]が考案されている。反対に、熱力学系の仕事に寄与せず捨てられる無効エネルギーをアネルギーと呼ぶ。カルノー効率によれば、エクセルギーとアネルギーの発生割合は、高温側の熱源と低温側の熱源の温度比のみで規定されている。

古典力学

古典力学

運動の第2法則
歴史英語版

力学においては、質点の持つエネルギーは運動エネルギー位置エネルギーに分類される。運動エネルギーは粒子の運動量に依存するエネルギーで、ニュートン力学では

と定義される。ここで K は運動エネルギー、p は運動量、m質量v は速度である。また、|·|絶対値を表し、太字の量はベクトル量を表す。 位置エネルギーは質点の位置に依存するエネルギーで、特に質点が持つ位置エネルギーは、その質点の位置を変数とする関数として定義される。 位置エネルギーを表す文字としては、しばしば VUΦφ が用いられる。

粒子の持つエネルギーを一般化して、1 つの力学系に対してエネルギーを定義できる。 運動エネルギーに関しては、各粒子が持つ運動エネルギーの和が系の運動エネルギーに対応する。

ここで N は系の粒子数であり、pii 番目の粒子の運動量、mii 番目の粒子の質量である。 位置エネルギーは、各粒子の位置を変数とする関数として定義される。多くの場合、位置エネルギーは 1 体のポテンシャルと 2 体のポテンシャルを用いて、

と書き表すことができる。ここで Φ は系の位置エネルギー、φ1 は 1 体のポテンシャル、φ2 は 2 体のポテンシャルであり、rii 番目の粒子の位置を表す。

力学において定義されるこれらのエネルギーの総和は、熱力学における定義と対比して、しばしば力学的エネルギーと呼ばれる。 力学的エネルギーの変化量が、系が外界に対してなした仕事に等しい場合、「力学的エネルギーは保存している」と言い、これを力学的エネルギー保存則と呼ぶ。力学的エネルギーが保存しない系は、たとえば粒子に対して摩擦力が働く系や粒子が非弾性衝突をする系である。還元主義の立場では、このエネルギーの損失は、粒子やそれが運動する媒質などの内部自由度を記述し切れていないことに起因すると考えられている。

相対性理論

アインシュタインによる相対性理論において、物体が持つ運動エネルギーは下の式である。


注釈

  1. ^ : the vis viva dispute
  2. ^ : Helmholtz free energy
  3. ^ : Gibbs free energy
  4. ^ : exergy
  5. ^ 系全体のハミルトニアンの固有状態を特にエネルギー固有状態と呼び、固有値をエネルギー固有値と呼ぶ。エネルギー固有状態とは、エネルギーがある 1 つの値に定まった状態を指し、エネルギー固有値はそのときの系のエネルギーに等しい。
  6. ^ 正確にはその 1/2

出典

  1. ^ a b 小学館『デジタル大辞泉』
  2. ^ a b 岩波書店『広辞苑』、第5版、301頁、「エネルギー」。
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  4. ^ a b c d 培風館『物理学辞典』(1998)、pp.191-193。
  5. ^ 国際単位系(SI)第9版(2019)日本語版 産業技術総合研究所、計量標準総合センター、p.106 表4、2020年4月
  6. ^ 計量単位令(平成四年政令第三百五十七号)別表第6(第5条関係) 第13号”. e-Gov法令検索. 総務省行政管理局. 2019年12月17日閲覧。
  7. ^ 国際単位系(SI)第9版(2019)日本語版 産業技術総合研究所、計量標準総合センター、pp.128-129、2020年4月
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  15. ^ 江沢 2002, pp. 121–122, 127–128, §6.3 観測; §7.1 定常状態.
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  28. ^ 八坂保能編著『電気エネルギー工学 新装版 発電から送配電まで』森北出版、2017年、6頁。 
  29. ^ [1]
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