転生
『今鏡』「藤波の上」第4「伏見の雪のあした」 修理大夫俊綱(としつな)は、前世では尾張の国の俊綱(すんごう)という聖だった。その時、彼は熱田神宮の宮司に侮られたことがあった。俊綱は前世の修行のおかげで、現世では関白頼通の子として生まれたが、前世の恨みを晴らすため尾張の国の守となり、熱田神宮に参詣して宮司をきびしく咎めた〔*『宇治拾遺物語』巻3-14に類話〕。
『今鏡』「昔語」第9「真の道」 公経(きんつね)という能筆の者が、河内の国司になったことを不本意に思っていた。彼は「古寺の修理でもしようか」と思い、方々を見て歩いたところ、ある古寺の仏の台座の下に、「沙門公経(こうけい)」と署名して、「来世に当国の守となり、この寺を修理しよう」と記した願書があった。これを見て彼は宿縁を悟った〔*『発心集』巻5-6・七巻本『宝物集』巻5に類話〕。
『古事談』巻3-98 三河入道・寂照(大江定基)の前生は、唐の娥眉山の僧で、その名も同じ寂照であった。彼は師匠と法門を論じ、「自分が勝っている」と思ったまま入滅した。その執心により往生できず、日本に転生した。三河入道・寂照が入唐した時、現地の僧が「この人は娥眉山にいた寂照によく似ている」と、唐帝に告げた〔*『十訓抄』第10-48に類話〕。
『太平記』巻5「時政榎島に参籠の事」 鎌倉幕府創立の初め。北条時政(ときまさ)が榎島に参籠して子孫繁盛を祈り、「汝の前生は、『法華経』を66の霊地に奉納した箱根法師であった」とのお告げを得た。国々の霊地へ人をつかわし、『法華経』奉納の所を調べさせると、奉納筒の上に「大法師時政(じせい)」と記されていた。
『椿説弓張月』残篇巻之5第68回 鎮西八郎為朝と白縫の間の子・舜天丸(すてまる)〔*別名・源尊敦(たかあつ)〕は、長じて琉球王・舜天(しゅんてん)となった。舜天王は77歳で死去する時、「我が魂は庶兄・足利義包(よしかね)の家に去る。義包の子孫に、我が名・尊敦の『尊』の字のある者が現れたら、それが舜天の生まれ変わりだ」と遺言する。義包から7代目の足利高氏が、後醍醐帝の御名の1字を賜って、名を「尊氏」と改める。彼は京都室町に幕府を開いた。
*→〔経〕2の『天狗の内裏』(御伽草子)・〔転生と天皇〕1の『増鏡』第4「三神山」。
『江談抄』第3-8 藤原有国は伴大納言善男の生まれ変わりである。伊豆国にある伴大納言の肖像画は、有国の容貌とほとんど変わらないのである。
『今昔物語集』巻14-20 僧安勝は前世に黒牛だったため、今生でも墨のごとき色黒だった。
『今昔物語集』巻14-23 僧頼真は前世に牛だったため、今生でも、ものを言う時に口をゆがめ顔を動かして、牛のごとくであった。
*酒好きの李太白は、魚に変身後も赤い顔だった→〔魚〕1の『魚の李太白』(谷崎潤一郎)。
★3.神や天人が悪魔と戦うために、人間となって地上に転生する。
『松浦宮物語』 弁少将は渡唐して戦乱にまきこまれ、幼帝を補佐して闘い、敵将宇文会を討ち取る。弁少将は幼帝の母后と契りを交わし、前世からの因縁を聞かされる。宇文会は実は阿修羅であり、母后は第2天の天衆、弁少将自身は天童であった。母后と弁少将は天帝の命令で、阿修羅を懲すために地上に生まれたのだった。
『ラーマーヤナ』第1巻「少年の巻」 魔王ラーヴァナは「神にも悪魔にも殺されないように」と創造神ブラフマンに願って恩寵を得るが、人間を侮って「人間に殺されないように」との祈願をしなかった。そこでヴィシュヌ神が4つに分身してラーマたち4王子となって人間界に誕生し、ラーヴァナと戦うことになった。
*天人が世界を救うために、人間となって地上に転生する→〔天人降下〕4aの『今昔物語集』巻1-1。
★4.仙境の存在が俗世間の生活に関心を持ち、人間となって下界に転生する。
『紅楼夢』第1回 仙境の神瑛侍者が毎日、甘露を絳珠草に注いだので、絳珠草は草木の形を脱して、女人の姿となった。ある時、神瑛侍者は煩悩にとらわれ、「俗世の生活を味わいたい」と願って、人間に転生した。絳珠草も後を追って下界に転生した。これがきっかけで、大勢の仙女たちが人間世界に転生した〔*神瑛侍者は『紅楼夢』の主人公・賈宝玉となり、絳珠草は彼の恋人・林黛玉となった。仙女たちは、賈宝玉を取り巻く大勢の美女たちになった〕。
『子不語』巻19-499 私(=『子不語』の著者・袁枚)の甥・韓宗琦は幼い頃から聡敏だったが、15歳で病死した。臨終の床で、彼は母親に言った。「今、前生を思い出しました。僕は、玉帝に仕える献花童子でした。玉帝の誕生祝いの折、僕は献花しながら、下界の花灯の様子を盗み見ました。すると仙人たちが『けしからん』と言い出し、僕は罰せられて、この世に降ろされました。今、その期限が満ち、天界に帰るのです」。
*天人が地上に女児として生まれ、子供のうちに死ぬ→〔天人降下〕4bの鵜ノ池の伝説。
『聊斎志異』巻6-240「餓鬼」 朱という老人が、ならず者の馬永(あだ名は「餓鬼」)に、金を与えたことがあった。馬永は40笞(たたき)の刑を受けて死んだが、その夜、彼は朱翁の夢に現れて、「ご恩返しに参りました」と告げる。朱翁が目覚めると、妾が男児を産んでいたので、馬永の生まれ変わりだと知って、「馬児」と名づけた〔*馬児は子供の時から読書に励み、朱翁を喜ばせたが、結局、凡庸な不良役人となって一生を終わった〕。
『聊斎志異』巻12-483「李檀斯」 走無常(=冥土の仕事を手伝う巫女)の婆さんが、「今夜、李先生(=檀斯)をかついで、柏家荘の新婚の家へ放り込みに行く」と言った。それを聞いた李檀斯は、「何を馬鹿な」と相手にしなかったが、その夜、彼は病気でもないのに頓死した。驚いた人が翌朝、柏家荘の新婚の家を訪ねると、夜の間に女児が生まれていた。
*死んだその日に、ただちに別人に生まれ変わる→〔同日・同月〕3cの『子不語』巻13-317、→〔老翁〕1dの『子不語』巻13-336、→〔前世〕4eの『子不語』巻13-338、。
『閲微草堂筆記』「ラン陽消夏録」52「転生しかけた人」 ある男が舟中で病気になったが、何者かに案内されて産婦のいる家へ行き、背後から押されたと思うと、赤ん坊になって蒲団に寝かされていた。ところが3日目に下女が誤って赤ん坊を落とし、気づくと男は再び舟中に寝ていた。家族が「息が絶えて3日になるが、身体が暖かかったので納棺せずにいた」と告げた。
『チベットの死者の書』第2巻 「汝」が死んでバルドゥ(中有)の期間が過ぎると、男女が情を交歓する幻影が、眼前に現れる。それにとらわれなければ、胎の入口は閉ざされて、「汝」は再び地上に生まれずにすむ。男女の交歓の幻影に「汝」が愛着したり嫉妬したりすると、「汝」は再生の胎に入ってしまい、馬・鳥・犬・人間など胎生のものとして、また地上に生まれ出るのである。
*死後、地上に転生する人と、天へ向かう人→〔天〕5の『アエネーイス』(ヴェルギリウス)第6巻。
*幸せな境遇に転生する→〔掌〕2bの『力(りき)ばか』(小泉八雲『怪談』)。
転生(動物への)
『日本霊異記』中-15 僧形の乞食が、高橋連東人の家の法事に講師として招かれる。夜、乞食の夢に赤い牛が現れ、「私は東人の母である。生前、子の物を盗み用いたため、死後この家の牛に転生し、罪の償いをしている」と告げる。翌朝、乞食は夢の告げを語り、法事が終わると牛は死んだ〔*『今昔物語集』巻12-25に類話〕。
『日本霊異記』中-32 薬王寺の檀家の男の夢に牛が現れ、「私は物部の麿という者だ。生前に寺の酒2斗を借用し、返さずに死んだ。そのため牛に生まれ変わり、寺で8年間の労役をせねばならない。今、5年が終わり、残りはあと3年だ」と告げた。実際、寺には、5年前から使役されている牛がいた。3年後、牛は労役を終えて、どこかへ行ってしまった〔*『今昔物語集』巻20-22に類話〕。
『今昔物語集』巻13-42 橘の木を愛した僧は、死後小蛇に生まれ変わって木の下に住んだ。
『今昔物語集』巻13-43 紅梅を愛した娘は、死後1尺ほどの蛇に転生し、紅梅の小木にまきついた。
『今昔物語集』巻14-4 聖武天皇に一夜の寵を受けた女が、賜った黄金千両を墓に埋めるように遺言して死ぬ。女は死後、蛇と化して墓所に住み黄金を守る。
*現世に残した物に執着する死者が、幽霊となって現れる→〔霊〕3a・3b。
★3.魚への転生。
『ギリシア哲学者列伝』(ラエルティオス)第8巻第2章「エンペドクレス」 エンペドクレスは、魂は動物や植物のありとあらゆる種類のものへ入って行く、と考えた。彼は言った。「私はこれまでにも、若者にも乙女にも、潅木にも鳥にも、さらには、波間におどるもの言わぬ魚にもなったのだ」。
『ライムライト』(チャップリン) 老芸人カルヴェロは彼の生涯最後の舞台で、生まれ変わりの歌を歌い、踊った。「3歳の時、生まれ変わりについて聞き、今も信じている。この世を去る時、期待で心躍るだろう。でも木に生まれ変って地面にへばりつくのはいやだ。花に生まれ変わって花粉を待ち続けるのもいやだ。鰯に生まれ変わり、青い海の底を泳ぎたい」〔*この直後に彼は背骨をいため、心臓発作を起こして死ぬ〕。
★4a.人間は死んだ後に、各氏族の祖先である動物に転生する。
『金枝篇』(初版)第3章第12節 ホピ族は、熊族・鹿族・狼族・野ウサギ族・・・などのトーテム集団に分かれており、彼らは、自分たちの氏族の祖先が、熊・鹿・狼・野ウサギといった動物だ、と考えている。そして、それぞれの氏族の者は、死ねば転生してその動物になる、と信じている。
『キリシタン伝説百話』(谷真介)73「三世鏡」 キリシタン伴天連の持つ「三世鏡」をのぞくと、そこに自分の未来の姿が映し出される。ある男が三世鏡を見せられ、牛や馬、鳥や獣になった自分の顔が次々と映し出されたので、びっくりして嘆き悲しんだ。伴天連が、それから逃れる手立てとしてデウスの教えを説き、男はただちにキリシタンになった。
★5.人間のまま転生し続けることは稀で、前世で動物だったり、来世で動物になったりするのが普通である。
『酉陽雑俎』巻2-75 裴という男が旅の途中、病み臥した鶴を見る。白衣の老人が「人の血を塗ってやれば、飛べるようになります」と言うので、裴は自分の臂を刺して血を取ろうとする。老人は、「三世、人間でなければ、その血は効果がない。あなたの前世は、人間ではありません」と告げ、「洛陽の胡蘆生という人物が、三世、人間です」と教える。裴は洛陽へ行き、胡蘆生の血をもらって、鶴の病気を治してやった。
*奴隷の前世は乞食、前々世は猫だった→〔猫〕4bの『広異記』35「三生」。
*汪可受の前世は人間だったが、前々世は騾馬だった→〔赤ん坊〕2cの『聊斎志異』巻11-439「汪可受」。
*生まれ変わるとしても、もう人間にはなりたくない→〔兵役〕7の『私は貝になりたい』(橋本忍)。
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