竜巻 規模の指標

竜巻

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/02 03:32 UTC 版)

規模の指標

F4の竜巻の被害例
アメリカオクラホマシティの気象レーダー画像。左下のフック状になっている部分で竜巻が発生した(1999年5月3日)。

一般的に、強風被害を定量的に表す指標としては最大風速最大瞬間風速が用いられる。しかし、竜巻の場合はその指標を観測している観測所を通過する確率が非常に低く、主に被害から推定することしかできない。そのため、いくつかの指標が考案されてきた。現在では、藤田スケール(Fスケール)が広く用いられているほか、TORROスケールなども用いられている。

藤田スケール

藤田哲也シカゴ大学名誉教授が1971年に提唱したFujita-Pearson Tornado Scale(通称:F-Scale、藤田スケールとも)が、竜巻の規模を表す数値として国際的に広く用いられている。ただし、藤田スケールにおける風速に対応する想定被害と実際の被害とのズレが問題となったため、アメリカではこれを改良した改良藤田スケール(EF-Scale)が2007年から使用されている。

TORROスケール

イギリスでは、ビューフォート風力階級を基に竜巻・暴風研究機構(TORRO)の考案したTORRO tornado intensity scale(T-scale, TORRO scale)が用いられる。T0からT11の12段階。T0は風力8~9、T11は風力30以上に相当する。

竜巻への対策

竜巻は、発生のメカニズムならびに発達のきっかけが詳しく解明されていないことや、発生時間が短く急激に発達・衰退する局地現象であることから、現在のところ正確な進路予測及び発生予知が非常に難しい、という問題を抱えている。また、竜巻の解明に寄与すると考えられる竜巻内部の観測は、非常に危険であるためほとんど行われていない。アメリカでは歴史上たびたび竜巻による壊滅的な被害を受けた例があるため、アメリカを中心として竜巻研究及び対策が進められている。現在、アメリカ中部は竜巻の警報体制や防災設備が世界で最も進んでいる。

観測・警告

竜巻はその規模の小ささや活動期間の短さから、

  1. (総観スケールの)天気図作成を通した広域的な気圧配置・気温湿度分布の観測・予測
  2. (メソスケールの)数キロメートルメッシュ程度の高精度レーダーによる数分~数十分間隔での雨や風の観測・予測

を組み合わせて行うのが主流となっている。発生地域の直前予測には、メソスケールのモデルに最新観測データを逐一入力して、数分~数十分後の雨・雲・風分布をリアルタイムで算出する方法が用いられている。

竜巻対策として、アメリカでは気象ドップラー・レーダーによる監視・警告システムが発達しており、NEXRADという100か所を超える規模の観測網を有している。メソサイクロンの回転している雲の中では雲を構成する水滴や雨粒も高速で回転しているが、ドップラー・レーダーはこれを利用して風速を観測できる。

また、地上観測点やレーダーによる短い間隔でのリアルタイム観測により短時間の数値予報を行い、回転性の気流や上昇気流の発生確率・強度など複数の大気安定度指標を算出することで定量的に竜巻の発生を予測する手法がある。

竜巻の予兆を常時監視する手法としては、数値予報による大気安定度指標とドップラー・レーダーを併用したものが広く用いられている。

ドップラー・レーダーや解像度の高い降雨レーダーでは、発達したスーパーセルを観測するとフックの形をしたフックエコーHook echo)という特徴的なエコー画像が発見されることがある。フックエコーは竜巻周辺において強い上昇気流によって降雨・降雹が弱まることで生じる。フックエコーが見られた場合はその部分で竜巻が発生する可能性が強く、発生直前(数十分前)に竜巻への警戒を呼びかける目安となる。また、スーパーセル以外の要因で発生する竜巻の場合は、特徴的なボウエコーBow echo)やデレチョ(Derecho[注釈 3])と呼ばれるエコー画像が発見される場合が多い。

アメリカでは嵐などの悪天候を専門に管轄するStorm Prediction Center(SPC)が設置されており、竜巻などの突風の発生確率の予測が行われている。予報文において"Particularly dangerous situation(PDS、「特に危険な状況」の意)"が付加されたときは竜巻に対して注意が必要とされ、Tornado watch(竜巻注意報、竜巻監視)、Tornado warning(竜巻警報)の2段階の警報があり、ごく稀に猛烈な竜巻被害が切迫しているときにはTornado emergency(竜巻緊急事態)が出されることもある。カナダにもこれに準じた警報システムがある。また、民間企業等が自前の観測網を持っていて、レーダー等を搭載した車などで竜巻の近傍で直接観測を行うような「トルネードハンター(Tornado Hunter)」と呼ばれる者もいる。

これ以外の多くの地域では、竜巻注意報や竜巻警報という明瞭な形での情報提供は無く、気象情報などで「荒天に注意」「突風が発生しやすい」といった情報が、竜巻に関する情報に最も近い。

日本では、竜巻による甚大な被害が少なく他の気象災害に比べて予報の必要性が低かったこと、変化が激しくリアルタイムで出さなければならない竜巻予報を正確に求めて迅速に広く伝える方法が乏しかったことなどから、竜巻や突風に関する予報や警報が整備されていなかった。しかし1990年代以降、特に2000年代中盤の竜巻被害多発を受けて、ドップラー・レーダーや監視・警告システムの導入が始められており、2008年3月から気象庁防災気象情報の中で「竜巻注意情報」の発表が開始された。また2010年5月から、竜巻等の突風の発生確率を詳細に予測し警戒を呼びかける竜巻発生確度ナウキャストの発表が開始された。

竜巻注意情報は、竜巻発生確度ナウキャストにおいて確率の高い発生確度2となった地域に発表される(現在は46都府県別地域と北海道8地域[注釈 4] に区別しているが、2016年12月15日正午より天気予報と同じ細分で情報が発せられる[13])。現在の予測技術の限界から、竜巻注意情報の「有効期限は約1時間」とされ、時間的余裕は短い。また、市民への周知方法はまだ試行的段階にある。テレビ・ラジオでは、NHK総合テレビでは警報同様に画面上部にテロップで表示、ラジオ第1FMでは番組に割り込む形で放送され、民放の例として関西テレビでは通常の気象速報と同様にテロップで表示し「この情報は○時○分まで有効です。」との付記を行っている。他の周知方法として、民間気象会社、通信事業者、自治体などの一部では、登録した利用者に災害情報メールなどを一斉送信するサービスに竜巻注意情報を含めているところがある。多くの自治体では全国瞬時警報システムと連動した市町村防災行政無線固定系による一斉放送で警戒を促す。

竜巻の予報に関する注意点として、以下のようなことが挙げられる。

  • 予測精度を保つため、数十分後~3時間後程度の短時間予測が中心である(1日後などの長時間予測では、広域的に「大気の不安定による突風」に注意を呼び掛けることしかできない)。
  • 長時間予測で突風の危険が高い時間帯に速報に留意し、短時間予測による注意報などの速報が出たら対策を行う、などの2段構えの対策が必要(例:前日夜~当日朝発表の当日天気で「突風のおそれ」を確認した上で留意しながら、雷注意報や竜巻注意情報が発表されたら警戒を強める)。
  • 大雨や集中豪雨などの災害に比べて、発生の予測が難しく、「外れ」も多い。更に「竜巻注意情報」は通常の注意報・警報に比べて、的中率が低い(3パーセント)という特徴がある。観測された突風に対する捕捉率は2割、情報発表件数に対する的中率は1割弱となっている(2008 - 2009年[14])。2014年6月14日秋田県三種町で観測された[15] 際には、同県には逆に注意情報さえ出ていなかった。

竜巻の予兆・前兆

竜巻対策は即時性が求められるため、専門家のアドバイスや公的機関による情報提供だけではなく、竜巻の通過直前に見られる現象から危険を察知し、避難を行うことも重要だとされている。

まず、日中の目視可能な時間帯であれば、真っ黒な雲や暗緑色に近い雲が現れる、低く垂れ下がった雲や壁のような雲など不気味な形の雲が上空低い所に現れる、空が急に暗くなる、などの予兆がみられることがある。また、風が急に強くなる、風向が急に変わる、雹が降る、木の葉・枝・建物の残骸・土・砂といった飛散物が上空を飛んでいたり自分の周りに降ってくる、といった予兆もある。

竜巻の接近によって気圧が急降下・急上昇すると、キーンという音や耳鳴りといった耳の異常を感じることがあるほか、激しい気流の渦に伴う轟音、飛散物の衝突に伴う衝撃音などもある。

雷も、竜巻の発生しやすい気象条件であることを示しているが、頻度からすれば関連性はあまり強くない。

避難と被害防止

猛烈な風は、窓ガラスを割り、板やコンクリートなどの建材を崩し、木の枝を折った上、これらを猛スピードで飛散させる。また、勢力の強い竜巻は、大木を根元から吹き飛ばし、数百キログラム以上の車や構造物をひっくり返したりすることもある。これらの飛散物が、屋外のあらゆる物体や人に衝突して被害を発生させる。

屋内の場合、開いている窓は閉めてカーテンを閉め、窓から離れ、シャッターやドアを閉めるなどした上で、建物の地下や1階に移動し、壊れやすい部屋の隅から離れてできるだけ家の中心に近いところで、机などの下に身を潜めて頭を保護するのが適切な避難方法である。

屋外の場合、周りの飛散物に注意し、壊れて飛散しやすい車庫・物置やプレハブの建物、自動販売機の近く、橋の周囲は避け、鉄筋コンクリート等の頑丈な建物の中に避難するか、体が収まるような水路やくぼみに隠れて頭を保護するのが適切な避難方法である。風の影響を受けにくく窓がないことから、地下室が最も安全な避難場所とされている。

竜巻の常襲地域であるアメリカ中部・東部では、各家庭や公共の建物に地下室や竜巻避難用として堅固に作られた地下シェルターが普及していて、竜巻警報が出たら地下室に避難するという対応が市民に広く周知されている。日本ではこのような地下室はほとんど普及していない。

主な竜巻被害


注釈

  1. ^ 雲のまとまりの形態により分類される「降水セル」の一種。「セル」は雲を構成する気流の流れが1つの細胞(cell)のような形状であることに由来し、「スーパー」がつくのは通常の単一セルに比べて規模が非常に大きい為である。
  2. ^ 角運動量保存則により、渦の直径が小さくなると同時に回転速度が速くなる。分かりやすい例えとしてフィギュアスケートがよく引き合いに出され、腕を広げて広くゆっくり回転している選手が、腕を引いてコンパクトになると回転が速くなる。
  3. ^ デレチョの中で竜巻発生の可能性が高いのはシリアルデレチョ(Serial derecho)とハイブリッドデレチョ(Hybrid derecho)
  4. ^ 北海道は「石狩空知後志」「渡島檜山」「胆振日高」「十勝」「上川留萌」「宗谷」「釧路根室」「網走・北見・紋別」の8地域。

出典

  1. ^ 宮古島で大龍巻、十二戸が全半壊『大阪毎日新聞』(昭和13年2月21日)『昭和ニュース事典第6巻 昭和12年-昭和13年』本編p54 昭和ニュース事典編纂委員会 毎日コミュニケーションズ刊 1994年
  2. ^ Julian J. Lee, Timothy P. Samaras, Carl R. Young (7 October 2004). "Pressure Measurements at the ground in an F-4 tornado". Preprints of the 22nd Conference on Severe Local Storms. Hyannis, Massachusetts: アメリカ気象学会.
  3. ^ 気象庁、予報用語
  4. ^ 「竜巻の正体を知ろう!」(2014年放送)のラストでは、「雷や急な風の変化などを感じたら、丈夫な建物の中に!」のテロップが挿入されている。
  5. ^ a b 台風0819号に伴い発生した竜巻に関する数値実験 佐藤和歌子、石川裕彦、"京都大学防災研究所年報" 第51号B 平成20年6月、2008.
  6. ^ Tornado: Global occurrence Encyclopædia Britannica.
  7. ^ U.S. Tornado Climatology National Climatic Data Center, Updated 23 February 2011.
  8. ^ ホーム > 気象統計情報 > 竜巻等の突風データベース > 年別の発生確認数 気象庁、2012年2月1日閲覧。
  9. ^ 竜巻などの激しい突風に関する気象情報の利活用について 気象庁、2010年3月30日
  10. ^ 月別の発生確認数 気象庁、2012年5月7日
  11. ^ 発生時刻別の確認数 気象庁、2012年5月7日。
  12. ^ 日本における発生状況 気象庁、2012年6月9日。
  13. ^ 竜巻注意情報が変わります - tenki.jp、2016年11月5日
  14. ^ 気象庁 2008年の検証結果2009年の検証結果2011年1月4日閲覧。
  15. ^ 秋田の突風被害は「竜巻と推定」 NHKニュース2014年6月15日
  16. ^ Tri-State Tornado - History, Facts and Information、2020年5月25日閲覧
  17. ^ Maddox, Robert A.; M. S. Gilmore; C. A. Doswell III; R. H. Johns; C. A. Crisp; D. W. Burgess; J. A. Hart; S. F. Piltz (2013). “Meteorological Analyses of the Tri-State Tornado Event of March 1925”. e-Journal of Severe Storms Meteorology 8 (1). http://www.ejssm.org/ojs/index.php/ejssm/article/view/114. 
  18. ^ "Tornadoes in Bangladesh". Tornadoproject.com. 2012年9月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年8月20日閲覧
  19. ^ Lyons, Walter A (1997). The Handy Weather Answer Book (2nd ed.). Detroit, Michigan: Visible Ink press. ISBN 978-0-7876-1034-0. https://archive.org/details/handyweatheransw00lyon 
  20. ^ "Research: Tornado Extremes". TORRO. 2007年8月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年8月20日閲覧
  21. ^ " "A 39 años del tornado en San Justo, el único F5 en toda Sudamérica y Latinoamérica". Uno Santa Fe. 2014年3月18日閲覧[リンク切れ]
  22. ^ National Climate Centre. "Australian Climate Extremes-Storm". BOM. 2009年3月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年9月3日閲覧
  23. ^ World: Largest tornado Outbreak Archived 26 September 2013 at the Wayback Machine. at the World Meteorological Organization website
  24. ^ "Annual Fatal Tornado Summaries". Storm Prediction Center. National Oceanic and Atmospheric Administration. 2021年7月23日閲覧


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