タンパク質 タンパク質の栄養価

タンパク質

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/18 01:19 UTC 版)

タンパク質の栄養価

タンパク質の栄養素としての価値は、それに含まれる必須アミノ酸の構成比率によって優劣がある。これを評価する基準としては、動物実験によって求める生物価とタンパク質正味利用率、化学的に、タンパク質を構成するアミノ酸の比率から算出するプロテインスコア、ケミカルスコア、アミノ酸スコアがある。

化学的に算定する後三者の方法は、算定方法に細かな違いがあるが、最終的には必須アミノ酸各々について標品における含量と標準とされる一覧とを比較し、その中で最も不足しているアミノ酸(これを第一制限アミノ酸という)について、標準との比率を百分率で示すもの。この際、数値のみだけでなく、必ず第一制限アミノ酸の種類を付記することになっている。

生物価 (BV)

生物価 (BV) とは、吸収されたタンパク質の窒素量に対して,体に保持された窒素量の比を百分率で示した値のこと。内因性の糞尿への排泄量を補正する。

生物価 (BV) = 体内保留窒素量/吸収窒素量×100 (%)

という式で表される。

正味タンパク質利用率 (NPU)

正味タンパク質利用率 (NPU) とは、摂取したタンパク質(窒素)のどれだけの割合が体内でタンパク質(窒素)として保持されたかを示した値のこと。

正味タンパク質利用率 (NPU) = 体内保留窒素/摂取窒素×100 = 生物価×消化吸収率 (%)

という式で表される。

特殊なタンパク質

イエローストーン国立公園では、熱水の中で生育する細菌が発見されている。このような高温環境で生きられる生物のタンパク質にはどのような特徴があるか、全貌は解明されておらず、外見上も他のタンパク質と差は認められない。分析の結果、熱に弱いアミノ酸(アスパラギン・システイン・メチオニンなど)の含有量が比較的少なく、逆にプロリンが多く含まれていることが判明した[37]

逆に低温で機能を失わないタンパク質は不凍タンパク質と呼ばれ、魚類から発見され1969年に単離に成功した。このタンパク質が低温で活動できるメカニズムは、氷晶核が形成されにくい構造を持つためと考えられる[37]

複合タンパク質

タンパク質には、アミノ酸配列のヌクレオチドだけで構成される単純タンパク質と、その外側にアミノ酸以外の装飾をもつ複合タンパク質がある。複合タンパク質が纏う装飾には、主に糖とリン酸がある[38]

タンパク質が付随させる糖は単糖からなる糖鎖であり、アミノ酸アスパラギンの残基に、N-アセチルグルコサミンマンノースが繋がったコア構造という土台の先に、分岐も含め多様な構造をつくる。ただし、このようにタンパク質に接続する単糖の種類は9種[39]しか見つかっていない。例えば赤血球の細胞膜をつくるタンパク質に繋がる糖鎖の種類が、ABO式血液型を決定づけている[38]。この糖鎖は、その種類ごとに異なるレクチンという他のタンパク質があり、この組み合わせで情報交換を行う役割を担っている[38]

アミノ酸のトレオニンやチロシンなどが持つ水酸基残基と結びつくリン酸は、アデノシン三リン酸 (ATP) から供給され、リン酸を放出したATPはアデノシン二リン酸になる。リン酸化はタンパク質の働きを活性化したり、逆に抑制する働きを持つ。ひとつのタンパク質の活性化は次のタンパク質のリン酸化を促し、これが連続することで多岐にわたる情報伝達が行われる。この様子は「リン酸化カスケード」と呼ばれる[38]


注釈

  1. ^ 東京大学の和田昭允教授の命名による。
  2. ^ 主に栄養学医学によって研究されている内容である。

出典

  1. ^ a b c d 生化学辞典第2版、p.810 【タンパク質】
  2. ^ a b c d e 武村(2011)、p.24-33、第一章 たんぱく質の性質、第二節 肉を食べることの意味
  3. ^ a b 三大栄養素の基礎知識”. 2020年10月31日閲覧。[リンク切れ]
  4. ^ a b 武村(2011)、p.16-23、第一章 たんぱく質の性質、第一節 栄養素としてのたんぱく質
  5. ^ 武村(2011)、p.3-6、はじめに
  6. ^ a b 生化学辞典第2版、p.812 【タンパク質の一次構造】
  7. ^ a b c d e 武村(2011)、p.34-48、第一章 たんぱく質の性質、第三節 「焼く」とどうなる?たんぱく質
  8. ^ a b 生化学辞典第2版、p.816 【タンパク質の二次構造】
  9. ^ a b c d 武村(2011)、p.85-96、第二章 たんぱく質の作られ方、第四節 ポリペプチドはいかにして「たんぱく質」となるか
  10. ^ a b 生化学辞典第2版、p.812 【タンパク質の三次構造】
  11. ^ a b c 生化学辞典第2版、p.816 【タンパク質の四次構造】
  12. ^ (PDB) [1]
  13. ^ a b 武村(2011)、p.54-60、第二章 たんぱく質の作られ方、第一節 体をつくるあげるたんぱく質
  14. ^ 武村(2011)、p.98-113、第三章 たんぱく質のはたらき、第一節 たんぱく質はたんぱく質を分解する
  15. ^ a b c d e 武村(2011)、p.113-123、第三章 たんぱく質のはたらき、第二節 体のはたらきを維持するたんぱく質を
  16. ^ 第2章 日本食品標準成分表 PDF(日本語版)”. 文部科学省. 2021年6月3日閲覧。
  17. ^ 栄養価やアレルギー、安全性など昆虫食の疑問にお答えします”. TAKEO. 2021年6月3日閲覧。
  18. ^ ヒトはなぜタンパク質を食べるの?”. 公益財団法人 日本食肉消費総合センター. 2021年6月3日閲覧。
  19. ^ a b たんぱく質 (PDF) 」『日本人の食事摂取基準」(2010年版)
  20. ^ a b Report of a Joint WHO/FAO Expert Consultation Diet, Nutrition and the Prevention of Chronic Diseases, 2003
  21. ^ a b Godman, Heidi (2022年6月1日). “Protein intake associated with less cognitive decline” (英語). Harvard Health. 2022年5月19日閲覧。
  22. ^ a b [2019年文献 植物性蛋白質を多くとる人は,全死亡ならびに心血管疾患死亡リスクが低い]”. Life Science. 2022年1月22日閲覧。
  23. ^ a b Sanjeev Budhathoki、Norie Sawada、Motoki Iwasaki、Taiki Yamaji、Atsushi Goto、Ayaka Kotemori、Junko Ishihara、Ribeka Takachi ほか「Association of Animal and Plant Protein Intake With All-Cause and Cause-Specific Mortality in a Japanese Cohort」『JAMA Intern Med』第179巻第11号、American Medical Association、2019年、1509-1518頁、doi:10.1001/jamainternmed.2019.2806 
  24. ^ Publishing, Harvard Health. “Eat more plant-based proteins to boost longevity”. Harvard Health. 2020年11月3日閲覧。
  25. ^ Publishing, Harvard Health. “Plant protein may help you live longer”. Harvard Health. 2020年11月13日閲覧。
  26. ^ 肉類摂取と死亡リスクとの関連”. 国立がん研究センター. 2022年1月22日閲覧。
  27. ^ Eiko Saito、Xiaohe Tang、Sarah Krull Abe、Norie Sawada、Junko Ishihara、Ribeka Takachi、Hiroyasu Iso、Taichi Shimazu ほか「Association between meat intake and mortality due to all-cause and major causes of death in a Japanese population」『PLoS One』第15巻第12号、Public Library of Science (PLOS)、2020年、doi:10.1371/journal.pone.0244007 
  28. ^ The sweet danger of sugar” (英語). Harvard Health (2017年5月1日). 2022年6月1日閲覧。
  29. ^ Solan, Matthew (2022年2月1日). “Building better muscle” (英語). Harvard Health. 2022年6月1日閲覧。
  30. ^ Eating enough daily protein may delay disability” (英語). Harvard Health (2019年2月1日). 2022年6月1日閲覧。
  31. ^ 「野菜350g」は本当にカラダにいいの…?食生活のウソホント”. FRIDAYデジタル (2020年7月16日). 2020年11月27日閲覧。
  32. ^ 『タンパク質・アミノ酸の必要量 WHO/FAO/UNU合同専門協議会報告』日本アミノ酸学会監訳、医歯薬出版、2009年05月。ISBN 978-4263705681 邦訳元 Protein and amino acid requirements in human nutrition, Report of a Joint WHO/FAO/UNU Expert Consultation, 2007
  33. ^ Low-carb and high-fat diet helps obese older adults” (英語). Harvard Health (2020年12月1日). 2022年6月1日閲覧。
  34. ^ 低炭水化物ダイエットご用心…発症リスク高まる2012.07.08読売新聞。スウェーデンの30〜49歳の女性43396人[信頼性要検証]
  35. ^ joint FAO/WHO expert consultation. "Chapter 11 Calcium", Human Vitamin and Mineral Requirements, 2002.
  36. ^ ウォルター C. ウィレット 『太らない、病気にならない、おいしいダイエット-ハーバード大学公式ダイエットガイド』 光文社、2003年5月。174〜175頁。ISBN 978-4334973964。(原著 Eat, Drink, and Be Healthy, 2001)
  37. ^ a b 武村(2011)、p.123-133、第三章 たんぱく質のはたらき、第三節 たんぱく質のお湯加減―いろいろな温度で働くたんぱく質たち―
  38. ^ a b c d 武村(2011)、p.134-145、第三章 たんぱく質のはたらき、第四節 たんぱく質の装飾品と、その利用
  39. ^ ガラクトースN-アセチルグルコサミンN-アセチルガラクトサミンマンノース、L- フコースグルコースキシロースグルクロン酸シアル酸(武村(2011)、p.139)
  40. ^ a b 武村(2011)、p.145-153、第三章 たんぱく質のはたらき、第五節 たんぱく質の「死」





英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「タンパク質」の関連用語

タンパク質のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



タンパク質のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのタンパク質 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS