船内実験室 (PM)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/27 04:28 UTC 版)
船内実験室 (Pressurized Module:PM)は、きぼうの中心となる部位。地上と同じ1気圧の空気が保たれ、宇宙飛行士は普段着で過ごせ、最大4名が同時搭乗できる。主に微小重力環境を利用した実験を行う。内部にはきぼう全体のシステムを管理・制御する装置のラックと実験設備が備えられた国際標準実験ラックの合わせて23個のラックを設置できるよう設計されており、そのうち10個は実験ラックを予定している。きぼうの主要システムは、ラックも含めてA系とB系の二重冗長構成になっている。船内実験室の四隅にはスタンドオフ部と呼ばれる各ラック間の隙間部分があり、ここに電力などの各種リソース供給のための配管・配線などがハーモニー側に向けて艤装されている。ラックなどが運び入れられると、宇宙飛行士が活動できる空間は約2.2m四方となり、クルー支援系設備として各所に多数の足拘束具であるフット・レストレイント(Foot Restraint)とハンドレールが設置されている。空気吹き出し口は照明と交互に10か所以上設けられており、空気吸い込み口は床側両端にある青線上に10か所以上設けられている。 船内と船外実験プラットフォームとの間で実験装置や交換用の機器などの出し入れに使う円筒形のエアロックも装備されているが、寸法が小さいため宇宙服を着た人間の出入りはできない。室内側の上部に小窓のついているハッチは内側ハッチと呼ばれ小窓を通して中の様子を確認でき、宇宙空間側のハッチは外側ハッチと呼ばれ、安全のため2つのハッチが同時に開かない仕組みとなっている。内側ハッチは手動で開閉されるが外側ハッチは基本的に電動により開閉され、ボタンでハッチが自動的に開閉するオートモードと、1つ1つボタンを押しながら開閉手順を確認して開閉するマニュアルモードの2種類あり、電力供給がなくなるなどの緊急時には船内実験室側から手動で開閉できるようになっている。物資を搬出する際には、エアロック内の移動テーブルに取り付けて伸展させることにより出し入れ行う。これらを使用して、地球観測、材料の実験や製造、生命科学(宇宙医学・バイオなど)、通信などの実験が行われる。このエアロックは、使用時にエアロック内の空気を船内に回収できる機能があり、3時間でエアロック内の空気の約8割を回収できる。 船内実験室は船内保管室と共にほとんどが高張力アルミ合金を用いた溶接一体構造となっている。空気漏洩対策として貫通部のシール全てが2重以上(与圧部間のOリングシールは3重)になされており、漏洩が起きてもシールを後から追加で取り付けられる構造となっていて、大きさが6インチ以上の漏洩時の影響が大きいシールは、測定孔が設けられ個別に漏洩確認ができるようになっている。筑波宇宙センターで行われた真空槽に入れての気密試験では、1年間に100リットル程度の漏洩量という試験結果が出ており、アメリカの実験棟より1桁少なく良好な結果を示している。また、2004年1月に起きたアメリカ実験棟にある2重ガラス窓の曇り防止のために設けられている空気排出用のジャンパホースを宇宙飛行士が何回も掴んだことによる空気漏洩事故により、まだ打ち上げ前の「きぼう」は対策として白いカバーをジャンパホースごと窓のある壁面を覆っている。 他モジュールとの接続部分である共通結合機構(Common Berthing Mechanism:CBM)は、国際宇宙ステーションの共通部品であるためアメリカ・ボーイング社が製造しており、船内実験室側のアクティブCBMに船内保管室側のパッシブCBMが接続しており、船内実験室側のパッシブCBMにハーモニー側のアクティブCBMが接続している。結露防止対策として外壁構造にヒーターが設けられていて、カビや微生物の繁殖を抑える塗装が施されている。 窓はエアロックの左右に1つずつ合計2つあり、通常はシャッターで閉じられているが、丸いハンドルを回すことで手動で開閉できる。当初、窓はロボットアームを操作する際、2人の内1人がディスプレイ越しに操作を行い、もう1人が肉眼でロボットアームの動きを見て補助をするのに用いるため設計に盛り込まれた。ところが、ロボットアームがディスプレイだけで操作ができるほど高性能だったため、必要性がなくなり開発費などの節減も含めて窓の削除が提起されたが、窓がない閉鎖空間で勤務する宇宙飛行士たちの心理的側面を考慮し窓の削除案は退けられている。また、キューポラが設置されるまでは地球を眺められる窓は「きぼう」やズヴェズダなどしかなく、よく宇宙飛行士が訪れていたという。 壁面の色は、やや灰色がかったオフホワイトが採用されている。これは壁面の色を決めるにあたって、約100人の被験者を集めて「きぼう」の小型模型で実験を行い、また、様々な国籍・人種の宇宙飛行士にストレスを与える要因がなく、新機材などによる内部の変化に調和しやすい色が考慮された結果である。 照明に関しては、当初は4面全てに照明を設ける予定であったが、実験を行ったところ4面全てが天井に見えてしまい不快感の惹起や宇宙酔いの原因にもなりうるなどの心理面による身体的悪影響が判明したため、照明は船内保管室が設けられている側の1面のみにし、その反対側の壁面には両端に青線を2本引き、目視で上下を判断できるようになされている。 静粛性に関しては、他国のモジュールでは空調ファンや冷却水ポンプなどを原因とする騒音が酷く(防音・吸音・遮音材・サイレンサーなどの対策により現在はある程度改善している)、初期には宇宙飛行士が一時的な難聴になるほどだったのに対し、きぼうはISSの中で最も静かなモジュールで、ISSで定められている「一般の静かな事務所と同程度の水準」としている騒音基準を満たしているのは「きぼう」のみとなっている。そのため他国の宇宙飛行士に人気があり、家族と交信する際などに「きぼう」がよく使われるという。広くて静かなため、ISSが6人態勢になった時に2010年秋までアメリカ製の個室の寝室が設置されたこともある(現在はハーモニーに移されている)。 船内実験室の入り口側の壁には、JAXAの旗、日の丸、きぼう組み立て時や日本人宇宙飛行士が長期滞在した時のミッションのワッペンと宇宙飛行士のサインがある。入口の床には、打ち上げ前に宇宙飛行士に宛てて「Welcome to KIBO! Please enjoy and relax in this brand-new, the most spacious and quietest room in the ISS.」と書かれた青いシールが貼られている。船外実験プラットフォーム上の船外実験装置を撮影する曝露部視覚装置(船外カメラ)がエアロック側側面外縁部脇に窓と同じ高さに2台設置されており、これとは別に船内にも入口側とポート側のエアロック上部に2台の視覚装置(カメラ)が設置されている。 また、船内実験室の外壁には日の丸と「JAPAN」の文字が入っており、多数の船外活動用手すりが外壁全周に配置されている。「こうのとり」近傍通信システム(Proximity Communication System:PROX、無線通信装置)の通信アンテナは、船内実験室の進行方向側側面外壁に設置されており、レーザー反射鏡である反射器(レーザーレーダーリフレクター)は船内実験室の地心側に設置されている。船内実験室をISSに設置する際に用いるロボットアームの把持部であるグラプルフィクスチャーは、進行方向側側面に電力・通信インターフェース付グラプルフィクスチャー(Power and Data Grapple Fixture:PDGF)が、その反対側側面に軌道上取り外し可能型グラプルフィクスチャー(Flight Releasable Grapple Fixture:FRGF)が、それぞれ天頂面よりに1つずつ計2か所に設けられている。スペースシャトルの貨物室に固定するためのトラニオンピンが右舷と左舷の両側面に1つずつ計4か所、キールピンが地心側中央部分に1か所あり、いずれも船内実験室がISSに設置された後に放熱を防ぐため断熱カバーで覆われている。 主要諸元 形状 - 円筒形 直径(外径) - 4.4m 直径(内径) - 4.2m 全長 - 11.2m 壁の厚さ - 約10cm(メテオロイド・デブリシールドとして、進行方向側以外の壁が外から順に、1.27mm厚の白いアルミ合金6061-T6のデブリバンパー、多層断熱材(Multi Layer Insulation:MLI)、アルミ合金2219-T87の与圧壁(アイソグリッド構造で最薄4.8mm)で構成されている「ホイップルバンパー」でできており、進行方向側150度分のみ「スタッフィング入りバンパー」(スタッフィングはバンパー側から順にMLI、アルミメッシュ、Nextel AF62(セラミック)、Kevlar 710(炭素複合材)、Kapton(ポリイミド)でできている)が設けられている。)。 非貫通確率 - 10年間軌道上で運用した時、外壁に微小隕石やデブリによって貫通穴が生じない確率は、船内実験室と船内保管室を合わせて0.9738以上。 質量 - 14.8t 搭乗員 - 通常2名、最大4名(時間制限あり)、居住設備は米国モジュールに依存 搭載ラック - 総数23台システム機器用ラック - 11台電力ラック(Electrical Power System:EPS) - 分電盤や分電箱が搭載されているラックで、ISSの太陽電池パドル(Solar Array Wing:SAW)で発電した電気(直流120V×2系統)を、きぼうの各機器に分配する役割を持っており、2台設置し冗長構成にしている。 情報管制ラック(Data Management System:DMS) - きぼうのメインコンピューター「きぼう制御装置」(JEM Control Processor:JCP)と実験装置用の中速データ伝送装置などが搭載されているラックで、2台設置し冗長構成にしており、片方が故障しても自動的に残りの1台に切り替わる。 空調/熱制御ラック(ECLSS/TCS Rack:Environmental Control and Life Support System(イークレス)/Thermal Control System Rack) - きぼう内の温度、湿度、気圧の調整、空気の循環・浄化、各ラックに冷却水の供給を行うラックで、ECLSS/TCS1(LTL(Low Temperature Loop))とECLSS/TCS2(MTL(Medium Temperature Loop))の2台設置し冗長構成にしている。 ロボットアーム制御ラック - 船内実験室へ最初に設置された、きぼうロボットアーム(JEM Remote Manipulator System:JEMRMS)のロボットアーム操作卓を収めたラック。 ワークステーションラック(Work Station Rack) - 画像データ等の切替機器、音声通信端末装置(Audio Terminal Unit:ATU)、テレビモニター2台(1台のみ設置)、警告・警報パネル(Caution and Warning Panel:C&W Panel)などが収められているラック。 衛星間通信システムラック(ICS/PROX:Inter-orbit Communication System/Proximity Communication System) - 衛星間通信システム機器とHTV用のPROX装置を搭載したラック。 保管ラック(JEM Resupply Stowage Rack:JRSR) - 2台 実験ラック - 10台(予定)(2017年12月26日時点で、JAXA 5台、NASA 2台、冷凍・冷蔵庫ラック 2台を設置)各ラックの位置 きぼう船内実験室の入り口から向かって左側手前(後方:After)から「JPM1A1」 - NASAの冷凍・冷蔵庫のMELFI-2 「JPM1A2」 - 細胞実験ラック 「JPM1A3」 - 流体実験ラック 「JPM1A4」 - 多目的実験ラック(MSPR) 「JPM1A5」 - 保管ラック(Zero-g StowageRack:ZSR) 「JPM1A6」 - きぼうロボットアーム制御ラック(JEM Remote Manipulator System:JEMRMS) 反対の右側手前(進行方向:Forward)から「JPM1F1」 - NASAの米国実験ラック(EXPRESS(Expedite the Processing of Experiment to the Space Station) Rack 5) 「JPM1F2」 - 多目的実験ラック2(MSPR-2) 「JPM1F3」 - 勾配炉実験ラック 「JPM1F4」 - ワークステーションラック 「JPM1F5」 - NASAの米国実験ラック(EXPRESS Rack 4) 「JPM1F6」 - NASAの保管ラック(ZSR) 入り口から向かって床側手前(床:Deck)から「JPM1D1」 - 空調・熱制御用のECLSS/TCS1(LTL)ラック 「JPM1D2」 - 電力ラック1(EPS1) 「JPM1D3」 - 保管空間 「JPM1D4」 - NASAとJAXAの冷凍・冷蔵庫のMELFI-1 「JPM1D5」 - 電力ラック2(EPS2) 「JPM1D6」 - 空調・熱制御用のECLSS/TCS2(MTL) ラック 反対の天井側手前(天井:Overhead)から「JPM1O1」 - 情報管制ラックのDMS2、可搬式酸素マスクのPBA(Portable Breathing Apparatus)と消火器のPFE(Portable Fire Extinguisher) 「JPM1O2」 - システム保管ラック1(JRSR-2) 「JPM1O3」 - ユーザー保管ラック1(JRSR-1) 「JPM1O4」 - 衛星間通信システムラックのICS/PROX 「JPM1O5」 - 情報管制ラックのDMS1、更にその奥に可搬式酸素マスクのPBAと消火器のPFEが設置されている。 電力 - 直流120V・最大24kW 通信制御 - 32ビット計算機システム、高速データ伝送最大100Mbps 環境制御性能 - 温度:18.3-26.7度、湿度:25-70% 寿命 - 10年以上 エアロック主要諸元 外径 - 船外実験プラットフォーム側1.7m、船内実験室側1.4m 長さ - 2.0m 耐圧性能 - 約1,047hPa 通過可能荷物寸法 - 約0.64m×0.83m×0.80m 通過可能荷物重量 - 300kg 消費電力 - 600W以下
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