候補生の生活
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/25 13:43 UTC 版)
候補生の養成所での在学期間は、原則として毎年5月中旬から翌年3月下旬までの10か月間である。ただ、入所予定者は、原則として入所式前の4月中旬から下旬にかけて、技能試験合格者は2泊3日で、適性試験ないし特別選抜試験合格者は14泊15日で、それぞれガイダンスを兼ねた事前研修を受けることになっている。 養成所の入所者は、現在では小学校で一輪車の授業もあるなど(競技歴の有無はあるが)全員が(何かしらの)自転車経験者であるため、ボートレーサー養成所のように大量の脱落者が出ることはない。そのため、養成所の候補生は基本的に全員が同時に卒業するが、年次によっては何らかの理由で中途退所ないし卒業延期となる者が若干見られるほか、入所を1〜2年遅らせる候補生も稀に見られる。ただし、日本競輪選手養成所に改称した2019年の117期・118期から、年3回行われる記録会が全て卒業認定試験を兼ねており、卒業認定試験は1回のみであった旧競輪学校時代と比べて卒業へのハードルは上がっている。なお、記録会による卒業認定試験のほかに、自転車整備技術や学科においても卒業認定試験があり、これらでも赤点を取ると養成所を強制退所させられる。 一方で、学科科目または実科科目(主に競走訓練)にて優秀な成績を収めた者に対しては報奨金を与える制度があり、学科科目・実科科目それぞれにおいて高い出席率を残した者や、後述する記録会でのゴールデンキャップ獲得者に対しては規定の報奨金が卒業時に支給される(参考に119期は対象者一人あたり平均25万円が、120期は対象者一人あたり平均20万円が、それぞれ支給された)。 養成所内での平日の1日の基本的なスケジュールは、以下の通り。 時刻内容備考05:00 - 06:30 早朝自主練習 希望者のみ 06:30 起床 自主練習組はここで合流 06:45 - 07:10 点呼・錬成 ストレッチ体操を行う 07:10 - 07:20 清掃 手分けして養成所内を掃除 07:30 - 08:05 朝食 09:00 課業整列 09:05 - 09:45 第1時限 学科講習がメイン 09:55 - 10:35 第2時限 10:45 - 11:25 第3時限 11:25 - 12:05 昼食 12:05 - 12:45 訓練準備時間 12:50 課業整列 12:55 - 13:35 第4時限 実科講習(競走訓練など)がメイン(午前に実科・午後に学科とする日もある) 13:45 - 14:25 第5時限 14:35 - 15:15 第6時限 15:25 - 16:05 第7時限 16:15 - 16:55 第8時限 17:00 - 18:00 自主練習 希望者のみ 17:00 - 19:00 入浴 どちらを先に行うかは候補生次第 17:45 - 18:45 夕食 19:15 - 19:45 自習 19:45 - 20:55 自由時間 21:00 点呼 21:45 消灯準備 22:00 消灯 土曜は、旧競輪学校時代では講習は午前のみで午後は自由時間となっており、クラブ活動が行われていた。養成所となった現在ではクラブ活動は廃止され、英会話講習などが行われている。日曜・祝日は休み(終日自由時間)であり、日曜は隔週で日中の外出も可能である。 学科講習は、国語や社会といった一般教養科目の他に、自転車競技法や競輪規則などが主体。 実科講習(競走訓練など)は、主に養成所内の施設で行なわれるが、姉妹施設である隣接の日本サイクルスポーツセンターや公道にて中・長距離ロード訓練などを行なうこともある。なお、競輪は基本的に雨天決行であるため、競走訓練もそれに準じて雨天でも実施される(台風などで訓練に大きな支障をきたす恐れがある場合は除く)。 養成所となってから初となる117期・118期からは、実科では科学的トレーニングが導入されたほか、学科でもメンタルトレーニング、SNSの使用方法、外国人選手と円滑なコミュニケーションが図れるよう英会話などといった、時代を反映した講習も行われるようになった。 トレーニングにおいては、記録会で特に優秀な成績を収めた者を中心に瀧澤所長自らが選抜した選手に対して直接指導する(通称)「T教場」があるほか、将来有望なエリートをJCFブノワ・ベトゥ(フランス語版)、ジェイソン・ニブレット両コーチが直接指導する「ハイパフォーマンスディビジョン(HPD)教場」と呼ばれるものもある。 養成所は全寮制であり、既婚者・子供がいても自宅からの通所は一切認められておらず、また帰省できるのは8月のお盆休み(夏季休暇)と年末年始(正月休暇)の、それぞれ2週間程度のみとなっている。登下所や外出の際には制服着用が義務付けられており、また怪我の治療のための通院など特別な事情がある以外の私用の外出は男子・女子交互で隔週日曜の8:30 - 17:30のみ、かつ静岡県内に限定されて許可されているが、帰所が門限を1分でも過ぎれば退所処分を含む厳罰が下される。 養成所では、男女ともに各期ごとに候補生を代表する者として、選手候補生自治会長と同副自治会長がそれぞれ1名ずつ選ばれる(基本的に年長の候補生が選出される。なお、旧競輪学校時代では生徒会長、副会長と呼ばれていた)。 2011年5月より女子が入所したため、現在寮ではフロアにより男子限定・女子限定と隔てられている。男子は2階・3階フロアで、女子は4階フロアでそれぞれ宿泊し、4階には監視カメラと赤外線センサーが設置されている。寮の階段も男女別とされており、異性用の階段を使用すればペナルティーが科せられる。入浴施設は、既存の大浴場の室内に新たに仕切りの壁を設置して、男子用・女子用とで隔てた。なお、食事は食堂にて男子と女子とでエリアを分けて摂っているほか、コロナ禍の現状では食事中の私語も禁止されている。 養成所では、以下の項目が禁止事項として定められている。 飲酒 喫煙 暴力・窃盗その他刑罰法規に違反する行為 無断外出、無断外泊 賭事またはこれに類する行為 携帯電話、スマートフォンを始めとした通信可能な電子機器の構内への持ち込みおよび使用ただし、日曜外出時および帰省時、または特別に許可した時は養成所外のみで使用が可能。なお、現在は日曜外出が禁止となっているため、例外的に、日曜午前中の2時間のみ養成所内でも使用が許可されている。 持ち込みは1台のみとし、養成所内では電源を切り選手候補生宿舎事務室に預けることになっている。 教官への重大な反抗行為 異性間での身体接触および男女各規制区域への出入りただし、訓練中(ウエイトトレーニングの補助、ホルダーなど)で教官の指示があった場合を除く。 重大な虚偽の申告 タトゥー、入れ墨、アートメイクその他医療検査を受けられない可能性のある物を身体に施術すること。または、施術した状態で入所すること 養成所の秩序を乱し、その他著しく選手候補生としての本分に反する行為 養成所内では携帯電話など通信機器は原則使用禁止であり、電話(発信)は夜間の自由時間ないし日曜日に限り養成所内の公衆電話のみ使用が許可されているため、養成所では未だにテレホンカードが大人気である。なお、公衆電話の使用は奇数日が男子、偶数日が女子、かつ1人5分以内としている。 旧競輪学校時代は、学校内での生活はまさに「軍隊」「ネイビーシールズ(アメリカ海軍特殊部隊)」並みの厳しさと言われ、飲酒、喫煙はもちろんのこと、ドライヤー、化粧品など不必要な私物も一切禁止されていた。実際に、102期(女子1期生)では夏季休暇後の帰校の際にパソコンと携帯電話を隠し持っていた候補生がおり、その内の1人である奈良岡彩子は停学・留年(のちに104期生としてデビュー)、もう1人は退学の処分が下った。また私物のドライヤーを持ち込んだ候補生に対しては、暫くの間外出禁止とされた。一方、養成所となってからの現在では、携帯電話の使用・飲酒・喫煙の禁止などは変わらないが、携帯電話は養成所外では使用が認められるようになったほか、候補生によってはDVDプレイヤーを持ち込んで自由時間に鑑賞する者もいたり、在所中のメイクも解禁されるなど、旧競輪学校時代と比べて緩和されているところもある。 髪型についても、旧競輪学校時代よりは緩和され、在所中は「訓練に支障がない程度の短髪」とされており、男女とも髪を伸ばしている候補生もいる。なお、礼節には非常に厳しく、所内の人間に対しては全員に大きな声で「こんにちは」と挨拶し、教官に対する反抗的な態度や、候補生同士でツケ・オゴリも含めた金銭の貸し借りなどが発覚した場合は即刻退所処分となる。同様に、在所中は男女間の候補生同士の交流も厳禁である(ただし、英会話など一部の授業では男女合同で行うこともある)。 公営競技の選手は命賭けの職業でもあることから、養成所における教官の指導は厳しいが、それでも「自ら鍛えないと強くなれない」という意識が徹底しており、早朝や放課後または休日に学校から課せられた訓練とは別のトレーニングを自主的に取り組む候補生もいる。 イベントとして、候補生による体育祭なども行われている。 在所中は、授業料は無料だが、食費や制服・ウェア代、競輪仕様の車輪・タイヤ代など諸費用については受益者負担の原則から候補生による自己負担となっており、翌年の卒業まで在籍した場合120万円ほど(男子の場合。女子は男子より食事の量を少なめにしているため、それよりはやや安い)の費用が必要である。食費のみ毎月、その他は入所後養成所が指定した日に一括して入金することになっている。なお、この120万円ほどの諸費用についてはJKAから無利子で貸し付けを受けることも可能であり、貸し付けを受けた場合、競輪選手としてデビュー後に獲得賞金の中から源泉徴収によって分割払いし、1年間かけて返済することになっている。 食事については、毎食ともおかずやデザートの量は決まっており全員が同じである一方、ごはん(白米)は食べ放題となっているため、体づくりのためにと丼に白米をてんこ盛りにして食べる候補生もいる。ちなみに白米の足しとしてごま塩のふりかけが人気である。 所内には売店や飲料の自動販売機がある。売店やマッサージにかかる費用はチケット制としており、チケットに利用した分の金額を記載したあと、その費用は月締めで後日登録した銀行の預金口座から引き落とし精算となる。 卒業直前の翌年3月には、まず上旬に資格検定を受験し、資格検定に合格すれば養成所を卒業となり、競輪選手になる資格を得られる。そして下旬には2日間かけて「卒業記念レース」が行われ卒記チャンプが決定する。卒業記念レース決勝戦の翌日が卒業式で、卒業式当日は、講堂で卒業証書授与のあと一斉に外に駆け出し、集合写真の撮影と恒例の(防衛大学校のような)帽投げが行われる。帽投げの時だけは男女関係なく卒業生同士、肩を組んで円陣をつくる。 養成所(旧競輪学校)での生活については、漫画『Odds -オッズ-』『閃光ライド』に詳しい描写があるほか、漫画『ギャンブルレーサー』でも少し触れられている。 このほか、在所中に国民体育大会自転車競技に代表選手として参加する候補生もいる。
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