気体 微視的性質

気体

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/01 02:34 UTC 版)

微視的性質

極めて高倍率の顕微鏡で気体を観察できるとすれば、様々な粒子(分子、原子、イオン、電子など)が決まった形や塊を形成せずに無作為に動いている様子が観察できるだろう。そういった中性の気体粒子が運動の向きを変えるのは、別の粒子と衝突したときか容器の壁と衝突したときだけである。そういった衝突が完全に弾性的だと仮定すると、その気体は理想気体だということになる。このような粒子レベルの微視的観点は気体分子運動論で扱われる。

気体分子運動論

気体分子運動論は、気体の巨視的性質を分子構成と分子運動によって説明する。運動量運動エネルギーの定義を出発点として[13]運動量保存の法則と立方体の幾何学的関係を使い、系の巨視的性質である温度と圧力を分子ごとの運動エネルギーという微視的属性に対応付ける。この理論によって温度と圧力という2つの属性の平均値が得られる。

この理論はまた、気体系が変化に対してどう反応するかを説明している。例えば、理論上完全に静止した気体が絶対零度から熱せられるとき、その内部エネルギー(温度)が増大する。気体を熱すると、その粒子が速度を増し、温度が上昇する。高温になると粒子速度が上がって単位時間あたりに容器内で発生する粒子の衝突が増える。単位時間あたりの容器表面での粒子衝突回数が増えると、それに比例して圧力も上昇する。

ブラウン運動

ブラウン運動は、流体内に浮遊する粒子の無作為運動を説明する数理モデルである。気体の拡散は気体分子運動論で説明することもできるし、素粒子物理学でも説明できる。

気体の個々の粒子(原子や分子)を観察するテクノロジーには今のところ限界があり、それらが実際にどのように動いているのかについて理論的計算でしか示せないが、その動きはブラウン運動とは異なる。ブラウン運動では気体分子が問題の粒子と何度も衝突することで頻繁に粒子の向きが変わる。この粒子は一般に原子数百万個から数十億個の大きさであるために衝突しやすく頻繁に向きを変えるのであって、気体分子そのものはそれほど頻繁に衝突しないと考えられる。

分子間力

気体が圧縮されると、このような分子間力がより強く働くようになる。

粒子間には引力と斥力が働いており、それが気体の力学に影響を及ぼす。物理化学ではこの力をファンデルワールス力と呼ぶ。この力は粘度流量といった気体の物性を決定する重要な因子となる。ある条件下ではそれらの力を無視することで、実在気体理想気体のように扱うことができる。そのような仮定の下では理想気体の状態方程式を使い、解に至る経路を大幅に単純化できる。

そういった気体の関係を正しく把握するには、気体分子運動論を再度考慮する必要がある。気体粒子が電荷や分子間力を持つとき、粒子同士の距離が近いほど互いに影響を及ぼしやすくなる(図のような水素結合もその一例である)。電荷がない場合、気体粒子間の距離が極めて近くなれば、粒子同士の衝突が避けられなくなる。気体粒子間の衝突が増大する別の場合として、体積が一定の気体を熱した場合があり、粒子の速度が高速になる。つまり理想気体の状態方程式は、圧縮によって極めて高圧になった状態や高温によってイオン化した状態では適切な結果を示せない。このとき除外された条件では、気体系内でのエネルギー伝達が発生することに注意が必要である。系内部におけるエネルギー伝達がないことは理想条件などと呼ばれ、その場合エネルギー伝達は系の境界でしか発生しない。実在気体は粒子間の衝突や分子間力を一部考慮する。粒子間の衝突が統計的に無視できる程度なら、理想気体の状態方程式の結果は妥当といえる。一方、気体を極限まで圧縮すると液体のように振る舞い、流体力学で扱うのが妥当となる。


注釈

  1. ^ このような物理特性の例外として、マイケル・ファラデーは1833年、氷に電気伝導性がないことを発見した。詳しくは、John Tyndall's Faraday as a Discoverer (1868), p.45
  2. ^ このときの温度の上限は 1500 K とされている。詳しくは(John 1984, p. 256)

出典

  1. ^ a b c 岩波書店『広辞苑』 第6版 「気体」
  2. ^ a b ブリタニカ百科事典 【気体】
  3. ^ McPherson & Henderson 1917, pp. 104–10
  4. ^ American Chemical Society, Faraday Society, Chemical Society (Great Britain)'s The Journal of physical chemistry, Volume 11 (Cornell – 1907), page 137.
  5. ^ Tanya Zelevinsky (2009). “84Sr—just right for forming a Bose-Einstein condensate”. Physics 2: 94. http://physics.aps.org/articles/v2/94. 
  6. ^ Quantum Gas Microscope Offers Glimpse Of Quirky Ultracold Atoms ScienceDaily 4 November 2009 - ボース=アインシュタイン凝縮についてのリンクを提供
  7. ^ The Journal of physical chemistry, Volume 11 (Cornell – 1907) pp. 164–5.
  8. ^ John S. Hutchinson (2008). Concept Development Studies in Chemistry. p. 67. http://cnx.org/content/col10264/latest/ 
  9. ^ Anderson 1984, p. 501
  10. ^ J. Clerk Maxwell (1904). Theory of Heat. Mineola: Dover Publications. pp. 319–20. ISBN 0486417352 
  11. ^ See pages 137–8 of Society (Cornell – 1907).
  12. ^ Kenneth Wark (1977). Thermodynamics (3 ed.). McGraw-Hill. p. 12. ISBN 0-07-068280-1 
  13. ^ (McPherson & Henderson 1917, pp. 60–61)
  14. ^ Anderson 1984, pp. 289–291
  15. ^ Anderson 1984, p. 291
  16. ^ John 1984, p. 205
  17. ^ John 1984, pp. 247–56
  18. ^ McPherson & Henderson 1917, pp. 52–55
  19. ^ McPherson & Henderson 1917, pp. 55–60
  20. ^ John P. Millington (1906). John Dalton. pp. 72, 77–78 
  21. ^ Online Etymology Dictionary
  22. ^   (英語) The Chemical History of a Candle/Lecture II, ウィキソースより閲覧。 






気体と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「気体」の関連用語

気体のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



気体のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの気体 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS