ボース=アインシュタイン凝縮とは? わかりやすく解説

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ボースアインシュタイン‐ぎょうしゅく【ボースアインシュタイン凝縮】


ボース=アインシュタイン凝縮

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/09/03 22:44 UTC 版)

ボース=アインシュタイン凝縮(ボース=アインシュタインぎょうしゅく、: Bose–Einstein condensation[注 1])、または略してBECとは、ある転移温度以下で巨視的な数のボース粒子がある1つの1粒子状態に落ち込む相転移現象[1][2][3][4]。量子力学的なボース粒子の満たす統計性であるボース=アインシュタイン統計の性質から導かれる。BECの存在はアルベルト・アインシュタインの1925年の論文の中で予言された[5][6]。粒子間の相互作用による他の相転移現象とは異なり、純粋に量子統計性から引き起こされる相転移であり、アインシュタインは「引力なしの凝縮」と呼んだ[5]。粒子間相互作用が無視できる理想ボース気体に近い中性原子気体のBECは、アインシュタインの予言から70年経った1995年に実現された。1995年にコロラド大学JILA英語版の研究グループはルビジウム8787Rb)、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究グループはナトリウム2323Na)の希薄な中性アルカリ原子気体でのBECを実現させた[7][8]。中性アルカリ原子気体でBECが起こる数マイクロKから数百ナノKという極低温状態の実現には、レーザー冷却などの冷却技術や磁気光学トラップ英語版などの捕獲技術の確立が不可欠であった[9][10]。2001年のノーベル物理学賞は、これらのBEC実現の実験的成果に対し、授与された。


  1. ^ 英語では、凝縮する過程を condensation、凝縮した状態を condensate と言い分ける場合もある。
  2. ^ 対応する1粒子波動関数は
    である。
  3. ^ 基底状態の1粒子波動関数は
    であり、空間的には一様に広がっている。
  4. ^ 粒子間相互作用が強く、ボース液体であるヘリウム4による超流動では、どんなに低温にしても凝縮状態にあるのは一割程度である。
  5. ^ 系の体積が十分大きいとき、運動量についての和は次の積分による近似
    を適用することができ、
    となる。ここでλTは熱的ド・ブロイ波長であり、Fs(z)
    で定義される関数である。特に z=1 では、Fs(1)=ζ(s)リーマンゼータ関数になる。
  6. ^ 遷移する2準位の上側準位の全角運動量が下側準位よりも大きく、下側準位が縮退していないことが必要である。
  7. ^ A は逃散能 z=eβμ である。

出典

  1. ^ a b 上田 (1998)
  2. ^ a b c d e E.A. Cornel et al. (1999)
  3. ^ F. Dalfavo et al. (1999)
  4. ^ a b W. Kettelrle et al. (1999)
  5. ^ a b c d Einstein, A. (1925). “Quantentheorie des einatomigen idealen Gases. Zweite Abhandlung”. Sitzungsber. Preuss. Akad. Wiss., Phys. Math. Kl. 1: 3. https://web.physik.rwth-aachen.de/~meden/boseeinstein/einstein1925.pdf. 
  6. ^ a b c d A. Pais (2005), chapter.23
  7. ^ a b c Anderson, M. H.; Ensher, J. R.; Matthews, M. R.; Wieman, C. E.; Cornel, E. A. (1995). “Observation of Bose-Einstein Condensation in a Dilute Atomic Vapor”. Science 269: 198. doi:10.1126/science.269.5221.198. 
  8. ^ a b c Davis, K. B.; Mewes, M.-O.; Andrews, M. R.; Druten, N. J. van; Durfee, D. S.; Kurn, D. M.; Ketterle, W. (1995). “Bose-Einstein Condensation in a Gas of Sodium Atoms”. Phys. Rev. Lett. 75: 3969. doi:10.1103/PhysRevLett.75.3969. 
  9. ^ Cornel, E. A.; Wieman, C. E. (2002). “Nobel Lecture: Bose-Einstein condensation in a dilute gas, the first 70 years and some recent experiments”. Rev. Mod. Phys. 74: 875. doi:10.1103/RevModPhys.74.875.  (free access)
  10. ^ a b Wolfgang, Ketterle (2002). “Nobel lecture: When atoms behave as waves: Bose-Einstein condensation and the atom laser”. Rev. Mod. Phys. 74: 1131. doi:10.1103/RevModPhys.74.1131.  (free access)
  11. ^ C.J. Pethick & H. Smith (2008), chapter.1
  12. ^ 久我 (2003)、第7-8章
  13. ^ Bose, S.N. (1924). “Plancks Gesetz und Lichtquantenhypothese”. Zeitschrift fur Physik 26: 178. doi:10.1007/BF01327326. , 英訳版 Bose, S.N. (1976). “Planck’s Law and Light Quantum Hypothesis”. Am. J. Phys. 44: 1056. doi:10.1119/1.10584. http://hermes.ffn.ub.es/luisnavarro/nuevo_maletin/Bose_1924.pdf. 
  14. ^ Einstein, A. (1925). “Zur Quantentheorie des idealen Gases”. Sitzungsber. Preuss. Akad. Wiss., Phys. Math. Kl. 3: 18. 
  15. ^ The Collected Papers of Albert Einstein, The Berlin Years: Writings & Correspondence, April 1923–May 1925, 14, §384: Princeton University Press, http://einsteinpapers.press.princeton.edu/papers 
  16. ^ Stwalley, Willian C.; Nosanow, L. H. (1976). “Possible "New" Quantum Systems”. Phys. Rev. Lett. 36: 910. doi:10.1103/PhysRevLett.36.910. 
  17. ^ Hecht, Charles E. (1959). “The possible superfluid behaviour of hydrogen atom gases and liquids”. Physica 25: 1159. doi:10.1016/0031-8914(59)90035-7. 
  18. ^ Fried, Dale G.; Killian, Thomas C.; Willmann, Lorenz; Landhuis, David; Moss, Stephen C.; Kleppner, Daniel; Greytak, Thomas J. (1998). “Bose-Einstein Condensation of Atomic Hydrogen”. Phys. Rev. Lett. 61: 3811. doi:10.1103/PhysRevLett.81.3811. 
  19. ^ V. F. Sears; E. C. Svensson; P. Martel; A. D. B. Woods (1982). “Neutron-Scattering Determination of the Momentum Distribution and the Condensate Fraction in Liquid 4He”. Phys. Rev. Lett. 49: 279. doi:10.1103/PhysRevLett.49.279. 
  20. ^ ボース・アインシュタイン凝縮による超伝導を初めて確認”. 東京大学物性研究所 (2020年11月7日). 2020年12月3日閲覧。
  21. ^ “Cold Atom Laboratory Creates Atomic Dance”. NASA. (2014年9月26日). http://www.nasa.gov/mission_pages/station/research/news/cold_atom_lab/ 2015年5月5日閲覧。 


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ボース=アインシュタイン凝縮

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物質の状態」の記事における「ボース=アインシュタイン凝縮」の解説

詳細は「ボース=アインシュタイン凝縮」を参照 1924年アルベルト・アインシュタインサティエンドラ・ボースは、しばしば「第五の状態」とも言われる、ボース=アインシュタイン凝縮の存在予言した前述のように、超流動状態ヘリウム4が例として挙げられる気体原子でのボース=アインシュタイン凝縮は、長い間証明されなかったが、1995年についにヴォルフガング・ケターレらが実験的に作り出すことに成功した。ボース=アインシュタイン凝縮は、原子絶対零度近く、ほぼ同じ量子準位をとる時に生じる。 フェルミ凝縮はボース=アインシュタイン凝縮に類似した状態であるが、ボース粒子ではなくフェルミ粒子においておこる。パウリの排他律によりフェルミ粒子では同じ量子状態になることは妨げられるが、2つフェルミ粒子対になることによりボース粒子のように振る舞い、対になったフェルミ粒子制約を受けることなく同じ量子状態取り得る。

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ボース=アインシュタイン凝縮

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/05 16:03 UTC 版)

熱的ド・ブロイ波長」の記事における「ボース=アインシュタイン凝縮」の解説

詳細は「ボース=アインシュタイン凝縮」を参照 熱的ド・ブロイ波長は、量子力学的相転移現象であるボース=アインシュタイン凝縮が生じ条件特徴づけるボース粒子集団であるボース気体では、転移温度以下で巨視的な個数ボース粒子が最低エネルギー量子状態落ち込むボース=アインシュタイン凝縮を起こすボース粒子が従うボース統計では、同種粒子区別できず、任意個の粒子が同じエネルギー状態をとることができる。極低温ボース気体熱的ド・ブロイ波長平均原子間距離近づくと、各粒子波動関数互いに重なり始める。このとき、系のボース粒子交換に対して波動関数対称にしようと相空間の同じ場所に凝縮する。ボース=アインシュタイン凝縮が起きると、ボース粒子集団一つ波動関数記述されコヒーレント振る舞う理想ボース気体一様な系では、ボース=アインシュタイン凝縮が起き条件粒子数密度 n=N/V と熱的ド・ブロイ波長により、 n λ T 3 ≥ ζ ( 3 / 2 ) = 2.612 ⋯ {\displaystyle n\lambda _{T}^{3}\geq \zeta (3/2)=2.612\cdots } と表すことができる。但し、ζ(x)リーマンゼータ関数である。 ρ = n λ T 3 {\displaystyle \rho =n\lambda _{T}^{3}} で定義される ρ は位相空間密度呼ばれ位相空間密度が1程度オーダーとなるときにボース=アインシュタイン凝縮が起きることを表している。この条件は l=n-1/3=v1/3 で与えられる平均原子間距離より、熱的ド・ブロイ波長小さいことに対応する

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