ナビエストークス方程式
粘性を考慮した流体の運動方程式。このNavier-Stokes(NS方程式とも呼ばれる=運動量保存式)のほかに、連続の式(質量保存則)やエネルギー保存則などを連立させて解くことで、流体の運動を解析できる。非圧縮流れ、非粘性流れ、定常流れなど、解析したい物理現象によって式を省略したり簡略化したりする。
ナビエ-ストークス方程式
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2015/05/27 00:42 UTC 版)
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ナビエ-ストークス方程式(ナビエ-ストークスほうていしき、英: Navier-Stokes equations)は流体の運動を記述する2階非線型偏微分方程式であり、流体力学で用いられる。アンリ・ナビエとジョージ・ガブリエル・ストークスによって導かれた[1][2]。NS方程式とも略される。ニュートン力学における運動の第2法則に相当し、運動量の流れの保存則を表す。
目次
ナビエ-ストークス方程式の導出
運動量の保存則
を書きかえる。ここで、左辺はラグランジュ微分:
である。今、ニュートン流体を仮定して
に置きかえる。ここで、、
、
はそれぞれ、クロネッカーのデルタ、圧力、粘性率である。 また、
は変形速度テンソル、
は、
で定義される。 これを元の式に代入すると、
を得る。ただし、は流速の大きさである。この方程式をナビエ-ストークス方程式という[3]。
近似方程式
ナビエ-ストークス方程式は複雑すぎて解を求めることは困難であるので、いくつかの仮定をして問題を単純化することが多い[3]。しかし単純化された方程式でも解析的な解法は知られておらず、数値的解法が必要であることが多い[注 1][4]。
粘性率が一定の圧縮性流れ
μ = const.とした場合の近似方程式。
非圧縮性流れ
ρ= const.とした場合の近似方程式。粘性を動粘性係数ν = μ/ρ を用いて書き直すことが多い。
粘性率が一定の非圧縮性流れ
μ = const.、ρ = const.
オイラー方程式
粘性のない圧縮性流れ(μ = 0)を仮定して得られる式はオイラー方程式と呼ばれている。
ストークス流れ(クリープ流れ)
レイノルズ数が小さい(すなわち流体の速度が遅かったりスケールが小さいなどの)場合に、非線型である対流項
を無視した近似方程式
をストークス方程式(Stokes equations)と呼ぶ。
ポテンシャル流れ
非粘性で、速度場が非回転(μ= 0, )の場合の流れをポテンシャル流れという。
ブシネスク近似
熱輸送を伴う流れにおいて、温度による密度変化が大きくないとして扱う近似法をブシネスク近似という。
境界層近似
流れが主流方向を持ち(逆流、再循環および剥離がない)、幾何的な変形が緩やかなときに行う近似法を境界層近似という。
一般解
しばしば用いられる条件である、非圧縮性流れ (incompressible flow) ρ = const. の場合、ナビエ-ストークス方程式は
と簡単化される。ここでは動粘性係数である。各項はそれぞれ、
- 左辺 - 第1項 : 時間[微分]項、第2項 : 移流項(対流項)
- 右辺 - 第1項 : 圧力項、第2項 : 粘性項(拡散項)、第3項 : 外力項
と呼ばれる。外力項には、状況によって、重力をはじめ浮力・表面張力・電磁気力などが該当する。
上記の、非圧縮性流れに対するナビエ-ストークス方程式は、未知数として圧力 と流速
を含んでいる。したがって未知数決定に必要な方程式の数が足りない。そこで、質量保存則から導かれる連続の式(非圧縮性流れについては次の形)
と連立することによって、原理的には解くことが可能である。もし一般解が求まれば、流体の挙動を完全に知る事ができることになるが、未だ一般解は見つかっていない。また、解の存在性についても明らかとはなっておらず、物理学と数学の懸案事項の一つとなっている(ミレニアム懸賞問題、ナビエ-ストークス方程式の解の存在と滑らかさ参照)。したがって特殊な条件の問題を除いて、一般には次に示すように数値計算によって近似的に解かれる。
数値シミュレーション
流体の数値シミュレーション(数値流体力学、CFD)では、このナビエ-ストークス方程式と連続の式、その他必要に応じてエネルギーの式(熱対流)やマクスウェルの方程式(電磁流体力学)、状態方程式などを連立して、数値的に解くことで流体の挙動を予測する。
移流と拡散両方に関係している現象であるので、クーラン数、拡散数の両方を満たすようにシミュレーションを行う必要がある。
非線型性(乱流)
移流と粘性の強さの比率はレイノルズ数と呼ばれる無次元数であり、レイノルズ数がある閾値を越えると微小なかく乱が移流項の非線型性により拡大していくことで流れ場は非定常な乱流となる。
一方、右辺の粘性率を含む項(粘性項)は乱流の変動を抑制する効果を持つ。
脚注
- ^ 単純化された方程式を上手く選べば、数値計算の負荷を小さくできるため、依然これらの近似方程式は重要である(Ferziger, Perić, 2003)。
参考文献
- ^ C. L. M. H. Navier, "Mémoire sur les lois du mouvement des fluides," Mémoires Acad. Roy. Sci. Inst. France, 6, pp.389-440 (1823)
- ^ G. G. Stokes, "On the Theories of the Internal Friction of Fluids in Motion, and of the Equilibrium and Motion of Elastic Solids ," Trans. Camb. Phil. Soc., 8, pp.287-319(1845)original paper
- ^ a b 寺沢寛一編 『自然科学者のための数学概論 応用編』 岩波書店、1960年、640頁。ISBN 4-00-005481-3。
- ^ Joel H. Ferziger; Milovan Perić; 小林敏雄、谷口伸行、坪倉誠訳 『コンピュータによる流体力学』 シュプリンガー・フェアラーク東京、2003年、12-15頁。ISBN 4-431-70842-1。
関連項目
外部リンク
ナビエ–ストークス方程式
連続体力学 | ||||||||
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ナビエ–ストークス方程式(ナビエ–ストークスほうていしき、英: Navier–Stokes equations)は、流体の運動を記述する2階非線型偏微分方程式であり、流体力学で用いられる。[1][2]アンリ・ナビエとジョージ・ガブリエル・ストークスによって導かれた[3][4]。日本語の文献だと「NS方程式」とも略される[5]。ナビエ・ストークス方程式は、ニュートン力学における運動の第2法則に相当する。
導出
ナビエ-ストークス方程式
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/15 01:54 UTC 版)
「レイノルズ数」の記事における「ナビエ-ストークス方程式」の解説
レイノルズ数はナビエ-ストークス方程式(非圧縮性で外力なし)を無次元形に変形することで、方程式を支配する唯一のパラメータとして得ることができる。 ρ ( ∂ v ∂ t + v ⋅ ∇ v ) = − ∇ p + μ ∇ 2 v {\displaystyle \rho \left({\frac {\partial \mathbf {v} }{\partial t}}+\mathbf {v} \cdot \nabla \mathbf {v} \right)=-\nabla p+\mu \nabla ^{2}\mathbf {v} } 上式中の各項は、体積力(単位体積当たりの力、N/m3)、もしくは同等な表現として、加速度と密度の積(m/s2kg/m3)の単位を持っている。 物理的サイズに直接的によらない形の式を得るため、方程式を無次元化する。 無次元式を得るひとつの方法として次の係数を式全体に掛ける方法がある: D ρ V 2 {\displaystyle {\frac {D}{\rho V^{2}}}} V {\displaystyle V\,} - 平均速度 または 流体との相対速度(m/s) D {\displaystyle D\,} - 特性長さ(m) ρ {\displaystyle \rho \,} - 流体密度(kg/m3) ここで次のように各物理量を無次元化する: v ′ = v V , p ′ = p ρ V 2 , ∂ ∂ t ′ = D V ∂ ∂ t , ∇ ′ = D ∇ {\displaystyle \mathbf {v'} ={\frac {\mathbf {v} }{V}},\quad p'={\frac {p}{\rho V^{2}}},\quad {\frac {\partial }{\partial t'}}={\frac {D}{V}}{\frac {\partial }{\partial t}},\quad \nabla '=D\nabla } するとナビエ-ストークス方程式を次の無次元化された方程式に書き直すことができる。 ∂ v ′ ∂ t ′ + v ′ ⋅ ∇ ′ v ′ = − ∇ ′ p ′ + μ ρ D V ∇ ′ 2 v ′ {\displaystyle {\frac {\partial \mathbf {v'} }{\partial t'}}+\mathbf {v'} \cdot \nabla '\mathbf {v'} =-\nabla 'p'+{\frac {\mu }{\rho DV}}\nabla '^{2}\mathbf {v'} } この式にはパラメータが右辺第2項にしか現れていない。このパラメータを次のように書き換え、レイノルズ数と定義する: R e = ρ D V μ {\displaystyle Re={\frac {\rho DV}{\mu }}} 最終的に式を読みやすくするためにプライム記号を省略して書き直すと次のようになる。 ∂ v ∂ t + v ⋅ ∇ v = − ∇ p + 1 R e ∇ 2 v {\displaystyle {\frac {\partial \mathbf {v} }{\partial t}}+\mathbf {v} \cdot \nabla \mathbf {v} =-\nabla p+{\frac {1}{Re}}\nabla ^{2}\mathbf {v} } この式はパラメータとしてレイノルズ数Re しか持たない。したがって同じレイノルズ数を持ち、かつ境界条件も相似形である流れは数学的に全て同等である。 上記の式でRe → ∞のとき、粘性項が消える。したがって、高レイノルズ数流れはおよそ非粘性の自由流れと同じとなる。
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