温室効果ガス

英: greenhouse gas、GHG)とは、大気圏にあって、地表から放射された赤外線の一部を吸収することにより、温室効果をもたらす気体のことである[3]。水蒸気、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、フロンなどが温室効果ガスに該当する[3][4][5]。近年、大気中の濃度を増しているものもあり、地球温暖化の主な原因とされている。
(おんしつこうかガス、概要
京都議定書における排出量削減対象となっていて、環境省において年間排出量などが把握されている物質としては、二酸化炭素 (CO2)、メタン (CH4)、亜酸化窒素(N2O、=一酸化二窒素)、ハイドロフルオロカーボン類 (HFCs)、パーフルオロカーボン類 (PFCs)、六フッ化硫黄 (SF6) の6種類がある。
IPCC第4次評価報告書では、人為的に排出されている温室効果ガスの中では、二酸化炭素の影響量が最も大きいと見積もられている(地球温暖化の原因を参照)。二酸化炭素は、石炭や石油の消費、セメントの生産などにより大量に大気中に放出されているといわれる[6]。これに対する懐疑論も一部見られるが、多くは科学的論拠によって反論されている。また気候変動が世界各地で顕在化していることなどから、温暖化の主要因として相関性の高さが問われ、さらに悪化傾向が懸念されている。2015年、環境省などが温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」の観測データから、2016年中にも推定経年平均濃度が温暖化の危険水準である400ppmを超えてしまうと報告した[7]。
水蒸気も温室効果を有し、温室効果への寄与度も最も多い[8]。蒸発と降雨を通じて、熱を宇宙空間へ向かって輸送する働きも同時に有する。人為的な水蒸気発生量だけでは、有為な気候変動は発生しないが、全体的には上記のような物質が気候変動の引き金となり、水蒸気はその温暖化効果を増幅するとされる(地球温暖化の原因#影響要因としくみを参照)。この水蒸気の働きの一部だけを捉えて温暖化に対する懐疑論を主張する者も一部いる(地球温暖化に対する懐疑論#水蒸気を参照)。
地球温暖化係数
地球温暖化係数(ちきゅうおんだんかけいすう、英: global warming potential[注釈 1]、GWP)とは二酸化炭素を基準に、各種気体が大気中に放出された際の濃度あたりの温室効果の100年間での平均強度を比較して表したものである[9]。2016年10月15日、キガリで採択された、オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書の改正(モントリオール議定書2016年改正)で、「百年地球温暖化係数」として再定義された[10]。以下の表の数値が汎用されているが上述どおりこれはあくまで100年間スケールであり、現在進行中の地球温暖化に直接かかわる直近数年間での値ではないことに留意する必要がある。例えばメタンは太陽光存在下大気中では徐々に分解されるので、その温暖化効果は次第に減衰していくがその半減期は約12年であり[11]、したがって直近数年間での実際の温暖化効力は下の表にある28よりもはるかに大きく、20年スケールでさえ84-87[12][13][14][15]にもなる。
気体名 | 地球温暖化係数(100年間) | (参考)施行令改正[16]前の値 |
---|---|---|
二酸化炭素 | 1 | 1 |
メタン | 28 (20年間では84-87) | 21 |
一酸化二窒素(亜酸化窒素) | 298 | 310 |
トリフルオロメタン(HFC-23) | 14,800 | 11,700 |
ジフルオロメタン(HFC-32) | 675 | 650 |
フルオロメタン(HFC-41) | 92 | 150 |
1,1,1,2,2-ペンタフルオロエタン(HFC-125) | 3,500 | 2,800 |
1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134) | 1,100 | 1,000 |
1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a) | 1,430 | 1,300 |
1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143) | 353 | 300 |
1,1,1-トリフルオロエタン(HFC-143a) | 4,470 | 3,800 |
1,2-ジフルオロエタン(HFC-152) | 53 | 新規 |
1,1-ジフルオロエタン(HFC-152a) | 124 | 140 |
フルオロエタン(HFC-161) | 12 | 新規 |
1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(HFC-227ea) | 3,220 | 2,900 |
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236fa) | 9,810 | 6,300 |
1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea) | 1,370 | 新規 |
1,1,1,2,2,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236cb) | 1,340 | 新規 |
1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245ca) | 693 | 560 |
1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa) | 1,030 | 新規 |
1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン(HFC-365mfc) | 794 | 新規 |
1,1,1,2,3,4,4,5,5,5-デカフルオロペンタン(HFC-43-10mee) | 1,640 | 1,300 |
パーフルオロメタン(PFC-14) | 7,390 | 6,500 |
パーフルオロエタン(PFC-116) | 12,200 | 9,200 |
パーフルオロプロパン(PFC-218) | 8,830 | 7,000 |
パーフルオロシクロプロパン | 17,340 | 新規 |
パーフルオロブタン(PFC-3-1-10) | 8,860 | 7,000 |
パーフルオロシクロブタン(PFC-318) | 10,300 | 8,700 |
パーフルオロペンタン(PFC-4-1-12) | 9,160 | 7,500 |
パーフルオロヘキサン(PFC-5-1-14) | 9,300 | 7,400 |
パーフルオロデカリン(PFC-9-1-18) | 7,500 | 新規 |
六フッ化硫黄 | 22,800 | 23,900 |
三フッ化窒素 | 17,200 | 新規 |
上記の表以外の物質の GWP(100) として、イギリスの政府が水素のGWPを試算しWGPを11±5とした[17]。水素自体は温室効果ガスではないが、メタンやオゾンなどと反応すると反応熱を発し、それによりGWPを上昇させる[18][19]。
排出状況
世界の主要国の排出量は、2010年時点で二酸化炭素に換算して約434億トン(LUCFを除く)だったが、2019年には481億トン(LUCFを除く)に達している。2010年時点での各国の排出量は、中国 (26.4 %) が一番多く、それにアメリカ (12.5 %)、インド (7.1% )、ロシア (5.1 %)、日本 (2.4 %)、ブラジル (2.2 %)、インドネシア (2.1 %)、イラン (1.9 %) 、ドイツ (1.6 %)、カナダ (1.5 %)と続く[20]。
国名\年 | 1990 | 1995 | 2000 | 2005 | 2010 | 2015 | 2019 | 2020 | 割合 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
世界計 | 30614 | 31890 | 34165 | 38938 | 43387 | 46085 | 48117 | 47513 | 100 % |
中国 | 3240 | 4309 | 4569 | 7267 | 10219 | 11818 | 12705 | 12943 | 27.2% |
アメリカ | 5834 | 6147 | 6787 | 6753 | 6427 | 6082 | 6001 | 5505 | 11.6% |
インド | 1220 | 1441 | 1697 | 1940 | 2534 | 3065 | 3395 | 3201 | 6.7% |
ロシア | 3015 | 2286 | 2176 | 2279 | 2285 | 2287 | 2477 | 2331 | 4.9% |
日本 | 1182 | 1277 | 1277 | 1288 | 1235 | 1270 | 1167 | 1095 | 2.3% |
ブラジル | 590 | 676 | 768 | 891 | 991 | 1095 | 1057 | 1065 | 2.2% |
インドネシア | 476 | 587 | 666 | 706 | 769 | 850 | 1002 | 976 | 2.1% |
イラン | 325 | 426 | 527 | 669 | 782 | 844 | 894 | 845 | 1.8% |
ドイツ | 1 128 | 1 033 | 958 | 923 | 880 | 844 | 750 | 693 | 1.5% |
カナダ | 540 | 580 | 645 | 691 | 670 | 704 | 737 | 678 | 1.4% |
また、国連の下部機関であるUNFCCC(国連気候変動枠組条約)事務局の集計結果が、温室効果ガスインベントリにて公表されている。
参考:2010年の国の温室効果ガス排出量リスト
日本における温室効果ガスの排出量は、2007年度に過去最高(二酸化炭素に換算して13億7400万トン)を記録した[22]。その後、リーマン・ショックの影響で、2008年度、2009年度と二年連続で排出量は前年度の水準を下回った。2011年の福島第一原子力発電所事故の発生後、電源構成が原子力から火力に変化した[23]ため、2011年度、2012年度と二年連続で排出量は前年度の水準を上回った。

詳細な数値は、日本国温室効果ガスインベントリにおいて公表されている。これは日本から正式に気候変動枠組条約締約国会議(UNFCCC事務局を通じて)に提出されている値である。 温室効果ガスの排出元は、2020年度実績で、電気・熱分配前の値で、エネルギー転換部門が約40 %、産業部門が約24 %、運輸部門が約17 %、非エネルギー部門が約7 %、業務その他が約6 %、家庭部門が約5 %となっている[24]。日本の温室効果ガス物質の2位(CO2換算で全体の2.3 %)であるメタンについては、2015年度の実績で稲作が44 %、消化器官内発酵が約23 %、固形廃棄物の処分が約10 %、家畜排泄物の管理が約7 %、燃料の燃焼が約5 %、その他が約10 %の順となっている[25]。
脚注
注釈
- ^ 字義的には「地球温暖化(潜在)能力」を意味する。
出典
- ^ “Annual Greenhouse Gas Index (AGGI)”. Global Monitoring Laboratory. 2021年10月23日閲覧。
- ^ “海洋の温室効果ガス”. 気象庁. 2021年10月23日閲覧。
- ^ a b 小倉 2016, p. 119.
- ^ 小倉 2016, p. 279.
- ^ “温室効果ガスの種類”. 気象庁. 2019年12月11日閲覧。
- ^ https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/chishiki_ondanka/p04.html 気象庁
- ^ http://www.kagakukogyonippo.com/headline/2015/11/26-22673.html 化学工業日報
- ^ “温暖化の科学 Q9 水蒸気の温室効果 - ココが知りたい地球温暖化”. 地球環境研究センター (2014年4月9日). 2023年11月13日閲覧。
- ^ a b “地球温暖化対策の推進に関する法律施行令(平成十一年政令第百四十三号)”. e-Gov法令検索. 総務省行政管理局 (2016年5月27日). 2020年1月25日閲覧。 “2016年5月27日施行分”
- ^ オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書の改正 新旧対照 外務省(2019年2月27日) (PDF)
- ^ “Methane and climate change – Global Methane Tracker 2022 – Analysis” (英語). IEA. 2025年1月21日閲覧。
- ^ “IPCC Sixth Assessment Report, Chapter 7: The Earth’s Energy Budget, Climate Feedbacks, and Climate Sensitivity, Section 7.6.1.1 Radiative Properties and Lifetimes, Table 7.15 | Emissions metrics for selected species: global warming potential (GWP), global temperature-change potential (GTP). Methane (fossil) GWP20: 82.5 ± 25.8, GWP100: 29.8 ± 11.”. 2025年1月21日閲覧。
- ^ “Methane and climate change – Methane Tracker 2021 – Analysis” (英語). IEA. 2025年1月21日閲覧。
- ^ “Methane | Climate & Clean Air Coalition”. www.ccacoalition.org. 2025年1月21日閲覧。
- ^ Myhre, G., D. Shindell, F.-M. Bréon, W. Collins, J. Fuglestvedt, J. Huang, D. Koch, J.-F. Lamarque, D. Lee, B. Mendoza, T. Nakajima, A. Robock, G. Stephens, T. Takemura and H. Zhang (2013) "Anthropogenic and Natural Radiative Forcing". Table 8.7 on page 714. In: Climate Change 2013: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change. Stocker, T.F., D. Qin, G.-K. Plattner, M. Tignor, S.K. Allen, J. Boschung, A. Nauels, Y. Xia, V. Bex and P.M. Midgley (eds.). Cambridge University Press, Cambridge, United Kingdom and New York, NY, USA. Anthropogenic and Natural Radiative Forcing
- ^ “地球温暖化対策の推進に関する法律施行令の一部を改正する政令(案)に対する意見の募集(パブリックコメント)の実施結果について”. 環境省 (2015年3月27日). 2023年11月13日閲覧。
- ^ Warwick, Nicola; Griffiths, Paul; Keeble, James; Archibald, Alexander; John, Pile (8 April 2022). Atmospheric implications of increased hydrogen use (Report). UK Department for Business, Energy & Industrial Strategy (BEIS).
- ^ “水素が地球温暖化を加速する可能性”. 国際環境経済研究所 (2022年7月4日). 2022年10月17日閲覧。
- ^ “UK government study estimates global warming potential of hydrogen”. dieselnet (2022年4月29日). 2022年10月17日閲覧。
- ^ “Climate Watch”. Climate Watch. 2022年11月13日閲覧。
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- ^ 我が国の温室効果ガス排出量 (環境省)
- ^ 東日本大震災による電力危機
- ^ “環境省_温室効果ガス排出・吸収量算定結果”. www.env.go.jp. 2022年6月2日閲覧。
- ^ “日本のメタンの発生源はなにか。世界との違いは?”. すぐ活かせる環境情報. 2022年6月2日閲覧。
参考文献
- 小倉義光『一般気象学』(第2版補訂版)東京大学出版会、2016年。ISBN 978-4-13-062725-2。
関連項目
外部リンク
温室効果気体
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/18 08:54 UTC 版)
大気中に含まれる温室効果を促す原因物質を温室効果気体(温室効果ガス)と呼ぶ。主として水蒸気 (H2O)が挙げられるが、ほかにも二酸化炭素 (CO2) 、六フッ化硫黄(SF6)、対流圏オゾン、オゾン層破壊で知られるフロン類 (CFCs)、それらの代わりとして一時期用いられた代替フロン類、一酸化二窒素 (N2O)、メタン (CH4)、一酸化炭素 (CO) など、大気に微量に含まれ、分子の伸縮や折れ曲がりによって非対称な電荷分布を取りうる分子にも、同様の効果をもたらす性質がある。これらの気体の中で、現在の気候を維持している温室効果への寄与度がもっとも大きいのは水蒸気であり、また、同体積あたりの温室効果に寄与する度合い(温室効果係数)が二酸化炭素に比べて非常に大きいものも多い。牛のげっぷに含まれるメタンの増加による温室効果が話題となったこともある。 大気による放射の吸収効率は、紫外域、赤外域ではほぼ100%の効率で吸収され、可視域では0%(透明)に近い。しかし、地球放射が最大となる波長8 - 13µmの付近に吸収効率が低い窓領域(大気の窓)がある。ここでは、オゾン (O3) の9.6µmの吸収以外の効果は少ないため、この付近に吸収構造を持つ温室効果気体の増加は、気温の上昇に大きく寄与する。逆に、2.8µm,4.3µm,15µm付近の二酸化炭素、6µm付近および18µm以長の水蒸気などは、多くが吸収されており、二酸化炭素や水蒸気が増加したとしてもこれ以上吸収されにくい。ただし、何らかの原因で気温が上昇すれば、放射量が増えて余裕ができ、さらに吸収できるようになると考えられる。 現在の気候を維持している温室効果への寄与度を気体別に見ると、水(水蒸気・雲)が66 - 85%、二酸化炭素が9 - 26%、そのほかオゾンなどが7 - 8%とする計算結果がある。 単位量あたりの電磁波吸収率(温室効果係数)で考えたとき、水蒸気は二酸化炭素やメタンに比べても高く、大気中の濃度を考えれば非常に大きな温室効果があり、一見二酸化炭素の影響は取るに足らないものだとされがちだが、水蒸気は二酸化炭素やメタンに比べ非常に短い周期で循環しているため、大気中に存在する平均期間(寿命)が10日と短いうえに、温室効果により得た熱を状態変化によって蓄え込んだり、対流によって宇宙への廃熱を促進したりといった冷却の効果が強く、総合的に見た水蒸気の温室効果の強さは小さなものとなる。それでも、現気候の温室効果における水蒸気の寄与度は6割 - 9割と高い。 水蒸気については、仮に大量に増やしたり減らしたりしても、蒸発や降水といった自然の働きによってすぐに元に戻るため、人為的にかつ大量に直接増加させることは不可能である。それに加えて、他の温室効果ガスの増減で気温が上下すると水蒸気の量はほぼそれに合わせて増減する(ただし、あまりに気温の上下が大きい場合には、逆に気温の変化を抑制する働きをする場合もあるが、基本的には前述のとおりである)。こういった科学的事実から、「放射強制力に対するフィードバック機構としてのみ働く」という考え方がなされ、人為的な温室効果ガス排出や、「地球温暖化対策の推進に関する法律施行令」などで規定される温室効果ガスからは除かれている。また、IPCCの報告書中の将来予想においても、水蒸気の増加の影響は人為的なものとしては取り扱われていない。人為的に増減させることができる温室効果気体のみを考えると、温室効果は、二酸化炭素が最も大きく、次いでメタン、一酸化二窒素の順となっている。
※この「温室効果気体」の解説は、「温室効果」の解説の一部です。
「温室効果気体」を含む「温室効果」の記事については、「温室効果」の概要を参照ください。
温室効果気体と同じ種類の言葉
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