ワルキューレ 考古学的記録

ワルキューレ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/12/16 03:08 UTC 版)

考古学的記録

ルーン石碑

レーク石碑

ヴァルキュリャの語はルーン石碑の碑文中にも確認できる。スウェーデンエステルイェートランド地方にある9世紀初頭のレーク石碑と、エーランド島にある10世紀のカルレヴィ石碑が代表である。後者にはスルーズの名前がある[49]。レーク石碑では、「ヴァルキュリャの馬」というケニングが狼を指して用いられている。

That we tell the twelfth, where the horse of the Valkyrie [literally "the horse of Gunnr"] sees food on the battlefield, where twenty kings are lying.[50]

ノルウェーベルゲンで見つかったブリッゲン碑文の中に、14世紀ごろのものと思われる「ヴァルキュリャの棒」と呼ばれるものがある。この棒にはルーン文字で呪文が刻まれている。呪文では、「癒やしのルーン」と「助力のルーン」を、エルフに対しては1回、トロルに対しては2回、霜の巨人に対しては3回刻む、と書かれており、その後にヴァルキュリャの語が登場する。

Against the harmful skag-valkyrie,
so that she never shall, though she never would –
evil woman! – injure (?) your life.[51]

この文は、「汝に横暴な堕落と耐えられぬ欲望を送らん、汝に苦痛が降らんことを。汝座ることなかれ、眠ることなかれ。……そして我が事の如く我を愛せよ」と続く。ミンディ・マクラウドとバーナード・ミーズによれば、「優しげな表現から突然に打って変わって、苦痛と不運を与えよという。これはおそらく、ヴァルキュリャに対してではなく、呪文の受け手に対してのもの」であり、最後の行は「愛する人を守るように意図されたひねくれた呪文」であるとしている[52]

マクラウドとミーズは、この呪文の最初の行が『シグルドリーヴァの言葉』でシグルドリーヴァが授けるルーンの教えと一致していると述べている。skagの語の意味ははっきりしないが、『フンディングル殺しのヘルギの歌 その一』でシンフィヨトリがグズムンドをけなす "skass-valkyrie" という言葉との関連があると考えられる。マクラウドとミーズは、この語を「超自然的に送り出されるもの」といった意味であろうと考え、ラグンヒルド・トレガガースの呪文においてヴァルキュリャが「放たれる」と表現されていることとのつながりを指摘している[52]

その他の考古学的記録

長羽織を纏ってポニーテールにまとめた髪を背に流し、角杯を持った女性を描いた、ヴァイキング時代の様式で作られた装飾品がスカンディナヴィア中から発見されている。これらの人物は一般にヴァルキュリャないしディースを描いたものと考えられている。ミンディ・マクラウドとバーナード・ミーズによれば、ヴァイキング時代にはこういった装飾品に「守りの力があると考えられていた」ため、魔除けとして墓に置かれたと想定されるという[53]

絵画石碑にもヴァルキュリャと思われる図像が残されている。スウェーデンゴトランド島にあるシェングヴィーデ石碑には、8本足の馬に跨る人物に女性が挨拶している場面が描かれている。この馬はオージンの8本足の馬スレイプニル、女性はヴァルホルにはべるヴァルキュリャと思われる[54]。11世紀のシグルズ石碑の一つには、角杯を持つ女性ともう一人の人物が描かれており、これはシグルズに角杯を手渡すシグルドリーヴァであると解釈されている[55]

2013年、デンマークのホービューで、アマチュアの考古学者3人が800年頃の小さな像を発掘した。この小像は、ベストに似た袖のない長い服に刺繍の入った前掛けを着た、ポニーテールの女性を象っている。腕が自由であることは、手に持つ剣と盾で戦えることを示しているようである。考古学者モーゲンス・ボー・ヘンリクセンは、「間違いなくこの像は、700年頃にスウェーデンの石碑に描かれたものと同じく、サガに登場するオージンのヴァルキュリャを象っている」と述べている[56]




注釈

  1. ^ ドイツ語のWalküre(ワルキューレ、ヴァルキューレ)は、古ノルド語valkyrja(ワルキュリャ、ワルキュルヤ)からの借用である。英語ではvalkyrie(ヴァルキリー)という。日本では、アイスランド語での発音を反映したヴァルキュリャ、ヴァルキュリヤや、ノルウェー語ブークモールに基づくヴァルキューリといった転写も見られる。
  2. ^ 「勝利の樹」は戦士のケニングで、「賢明なる勝利の樹」はオーディンを指す。「神聖な死体」は死んだバルドルのこと[31]
  3. ^ 「余」はオーディンのこと[32]

出典

  1. ^ Byock (2005:142–143).
  2. ^ Orel (2003:442).
  3. ^ Simek (2007:254 and 349).
  4. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.12.
    ヴァルキュリャの名前については Orchard (1995:193–195).
  5. ^ Larrington (1999:57).
    ヴァルキュリャの名前については Orchard (1995:193–195).
  6. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.93.
  7. ^ Orchard (1997:83).
  8. ^ Simek (2007:251).
  9. ^ Larrington (1999:102).
  10. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.104.
  11. ^ Orchard (1997:194).
  12. ^ Larrington (1999:116–117).
  13. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.106.
  14. ^ Larrington (1999:120).
  15. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.108.
  16. ^ Larrington (1999:122).
  17. ^ Orchard (1997:81).
  18. ^ Larrington (1999:125).
  19. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.114.
  20. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.115.
  21. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.116.
  22. ^ Larrington (1999:132).
  23. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.119.
  24. ^ Larrington (1999:133 and 281).
  25. ^ Larrington (1999:135).
  26. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.125.
  27. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.143.
  28. ^ Larrington (1999:166–167).
  29. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.144.
  30. ^ a b 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.253.
  31. ^ スノリ『エッダ』「詩語法」訳注」、pp.10-11
  32. ^ スノリ『エッダ』「詩語法」訳注」、pp.10-12
  33. ^ Faulkes (1995:94).
  34. ^ Faulkes (1995:102).
  35. ^ Faulkes (1995:117–119).
  36. ^ Faulkes (1995:157).
  37. ^ Jónsson (1973:678).
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  39. ^ Hollander (1980:54–57).
  40. ^ Hollander (1980:66).
  41. ^ Hollander (1980:68).
  42. ^ Hollander (1980:66).
  43. ^ Finlay (2004:58).
  44. ^ Finlay (2004:59).
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  46. ^ Hollander (2007:125).
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  48. ^ Hollander (2007:126–127).
  49. ^ a b MacLeod (2006:37).
  50. ^ Andrén (2006:11).
  51. ^ MacLeod (2006:34–35).
  52. ^ a b MacLeod (2006:34–37).
  53. ^ Orchard (1997:172) and Lindow (2001:96).
  54. ^ Lindow (2001:276).
  55. ^ Wessén & Jansson (1953–58:621).
  56. ^ Kennedy (2013).
  57. ^ a b Simek (2007:349).
  58. ^ MacLeod (2006:39).
  59. ^ Davidson (1990:61).
  60. ^ Davidson (1990:61–62).
  61. ^ Davidson (1988:96).
  62. ^ Davidson (1988:96–97) やSimek (2007:349)など。
  63. ^ Simek (2007:143). For Hariasa, Simek (2007:131).
  64. ^ Simek (2007:142).
  65. ^ Simek (2007:308).
  66. ^ Näsström (1999:61).
  67. ^ Dobat (2006:186).
  68. ^ F.マルティーニ著『ドイツ文学史』高木実、尾崎盛景、棗田光幸、山田広明 共訳、p.22。
  69. ^ Simek (2007:61–62).
  70. ^ Grimm (1882:421).
  71. ^ North (1997:106).
  72. ^ North (1997:106).
  73. ^ Simek (2007:349–350).
  74. ^ Gentry et al. 2011, pp. 222.
  75. ^ 三省堂『クラウン独和辞典』1480頁。1991年3月1日発行。






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