産業観光

産業観光が地域再生の「切り札」として注目を集めています。産業観光とは、歴史的文化的に価値のある産業文化財(工場遺跡や古い機械器具など)、稼働中の生産現場(工場や工房など)、そこでの生産物(工業製品や工芸品、民芸品など)などを通して、モノづくりの心や地域の歴史にふれる観光活動をいいます。産業には、製造業の第二次産業だけでなく、農業や漁業などの第一次産業、情報・流通や交通などの第三次産業も含まれます。経済産業省では近代産業の発展に寄与した工場施設などを「近代産業遺産」と定義し、来年度からモデル地域を選定のうえ、事業性の調査研究に入ります。国をあげて産業観光をバックアップしようとしています。
地域の動きも活発になってきました。栃木県日光市足尾町では地元の有志が集まり「足尾銅山の世界遺産登録を推進する会」(神山勝次会長)を発足。公害問題の原点といわれる足尾の歴史を後世に伝えるとともに、銅山跡を観光の目玉にしようと、精力的に世界文化遺産登録に向けて準備を進めてきました。これを受けて栃木県と日光市では2007年9月、登録の第一関門となる世界文化遺産暫定リスト登載のための提案書を文化庁に提出しました。
下流の渡良瀬川流域を鉱毒で汚染し、製錬課程で排出される亜硫酸ガスが山々の緑を枯らし…。映画や教科書で紹介される足尾銅山は近代化の負のイメージが強烈です。他方、日本で初めて無公害の製錬設備を導入するなど、環境対策の先駆けとなった歴史はあまり知られていません。亜硫酸を再利用する技術の開発は、大正時代から産学協同で取り組んでいます。「足尾銅山の世界遺産登録を推進する会」では、こうした埋もれた歴史をつまびらかにし、観光資源として活用することで、高齢化と人口減少が進む足尾を、若者が集まる町に再生しようとしています。
高度成長期に大気汚染の発生源となった神奈川県川崎市でも、京浜工業地帯の工場群を観光に活用する試みを始めています。2007年は旅行代理店とタイアップしてクルージングと工場見学を組み合わせたプランを企画しました。キャッチフレーズは「先人達が培い、現代に洗練された川崎の技術を楽しめ!!」。工場稼働日の平日に開催したにもかかわらず、中高年女性を中心に多数が参加しました。来年度は産業観光に対する地元の関心を高めるため、市民参加によるモニターツアーも計画。都市型産業観光のビジネスモデルをつくろうとしています。
産業観光を定着させるには1.ビジネスモデルの構築(成功事例の検証による)、2.人づくり(義務教育で郷土愛を育む、指導案内にあたる人を育成するなど)、3.ネットワークの形成(産業観光地が連携し「広域圏」で国内外から観光客を呼び込む)−などの条件整備が欠かせません。地域振興の観点からは、繰り返し訪れる観光客をどう確保し、長期滞在に結びつけるかがカギといえます。
(掲載日:2008/01/16)
産業観光
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/22 02:06 UTC 版)
産業観光(さんぎょうかんこう)とは、歴史的・文化的に価値ある工場や機械などの産業文化財や産業製品を通じて、ものづくりの心にふれることを目的とした観光をいう。英語では「Industrial tourism」になり、対訳日本語としての「産業観光」は東海旅客鉄道初代会長の須田寬が初めて提唱した。
概要
産業観光の嚆矢は1980年代に産業遺産の保護を初めて制度化した産業革命発祥の地イギリスで、保護と同時に活用も模索し観光資源として利用する遺産の商品化をヘリテージツーリズムとして具体化した。ドイツでは社会科見学として工場を訪ねることが定着しており、フランスではワイナリー見学が産業観光の主流となった。
一方で工場見学には危険を伴う場所や企業秘密の部分もあり、必ずしも積極的に開放されるものではなく、見学コースの整備などにかかる費用の調達に苦心することもある。
日本での概要
2004年に作成された『観光立国推進戦略会議報告書』の中で「近代の街並み・産業遺産・産業施設を観光資源として活用する」との方針が示され[1]、2008年に観光庁が発足し産業観光の推進が国策として位置付けられた。
国土交通省も産業観光を推進し、経済産業省も「産業遺産を用いた地域振興」を提示。石見銀山遺跡とその文化的景観、富岡製糸場と絹産業遺産群、明治日本の産業革命遺産_製鉄・製鋼、造船、石炭産業といった産業遺産が世界遺産となったことが産業観光を後押しする。
その他の地域では例えば愛知県を中心とした東海地方が昔から製造業を中心として栄えてきた地域であり、さまざまな分野の「ものづくり」の現場に直接触れ合うことができることもあって産業観光が非常に盛んである。
主な産業観光施設
事前の申し込みや入場料が必要な場合があるので、詳細は各施設に問い合わせること。Category:日本の企業博物館も参照。
北海道
- サッポロビール博物館(サッポロビール、札幌市東区・サッポロガーデンパーク内)※北海道遺産選定
- 北海道鉄道技術館(JR北海道、札幌市東区・JR苗穂工場内)※北海道遺産選定
- 雪印乳業資料館(雪印乳業、札幌市東区)※北海道遺産選定
- ニッカウヰスキー余市蒸溜所(ニッカウヰスキー、余市町)※北海道遺産選定
東北
- 史跡 尾去沢鉱山(旧称・マインランド尾去沢。尾去沢鉱山。秋田県鹿角市)
- 小坂鉱山事務所(小坂鉱山、秋田県小坂町)
- ニッカウヰスキー宮城峡蒸溜所(ニッカウヰスキー、宮城県仙台市青葉区)
- リカちゃんキャッスル(タカラトミー、福島県田村郡小野町)
関東
- NHKスタジオパーク(日本放送協会、東京都渋谷区)
- NHK放送博物館(日本放送協会、東京都港区)
- ニコンミュージアム(ニコン、東京都港区・品川インターシティ内)
- ヤマトグループ歴史館(ヤマト運輸、東京都港区)
- 恵比寿麦酒記念館(サッポロビール、東京都渋谷区・恵比寿ガーデンプレイス内)
- 印刷博物館(凸版印刷、東京都文京区)
- 石川島資料館(IHI、東京都中央区・大川端リバーシティ21内)
- IHIものづくり館「アイミューズ」(IHI、東京都江東区・豊洲IHIビル)
- オカムラいすの博物館(岡村製作所、東京都千代田区)
- たばこと塩の博物館(日本たばこ産業、東京都墨田区)※渋谷区から移転
- 郵政博物館(通信文化協会、東京都墨田区・東京スカイツリータウン)※旧「逓信総合博物館」
- NTT技術史料館(東日本電信電話、東京都武蔵野市)
- サントリー武蔵野ビール工場(サントリー、東京都府中市)
- 日野オートプラザ(日野自動車、東京都八王子市・日野自動車21世紀センター内)
- オリンパス技術歴史館「瑞古洞」(オリンパス、東京都八王子市・技術開発センター石川内)
- キリン横浜ビアビレッジ(キリンビール、神奈川県横浜市鶴見区)
- 電気の史料館(東京電力、神奈川県横浜市鶴見区)※2011年から休館
- 三菱みなとみらい技術館(三菱重工業、神奈川県横浜市西区・三菱重工横浜ビル内)
- 日産エンジン博物館(日産自動車、神奈川県横浜市神奈川区・横浜工場内)
- 東芝未来科学館(東芝、神奈川県川崎市幸区、ラゾーナ川崎)※旧「東芝科学館」
- いすゞプラザ(いすゞ自動車、神奈川県藤沢市、藤沢工場近隣)
- もの知りしょうゆ館(キッコーマン、千葉県野田市、野田工場内)
- ホンダコレクションホール(本田技研工業、栃木県茂木町・モビリティリゾートもてぎ内)
- おもちゃのまちバンダイミュージアム(バンダイ、栃木県壬生町)
- 月夜野びーどろパーク(上越クリスタル硝子、群馬県みなかみ町)
- 製粉ミュージアム(日清製粉、群馬県館林市)
中部
- あいち航空ミュージアム(愛知県豊山町)
- MRJミュージアム(三菱重工、愛知県豊山町)
- 碍子博物館(日本碍子、愛知県小牧市)
- あま市七宝焼アートヴィレッジ(愛知県あま市)
- 博物館明治村(公益財団法人明治村、愛知県犬山市)
- 瀬戸蔵ミュージアム(瀬戸蔵、愛知県瀬戸市)
- マスプロ美術館(マスプロ電工、愛知県日進市)
- トヨタ博物館(トヨタ自動車、愛知県長久手市)
- トヨタ会館(トヨタ自動車、愛知県豊田市)
- トヨタ産業技術記念館(トヨタグループ、愛知県名古屋市)
- ノリタケの森(ノリタケカンパニーリミテド、愛知県名古屋市)
- リニア・鉄道館(東海旅客鉄道、愛知県名古屋市)
- ネックス・プラザ(名古屋高速道路公社、愛知県名古屋市)
- ブラザーミュージアム(ブラザー工業、愛知県名古屋市)
- 貨幣・浮世絵ミュージアム(三菱UFJ銀行、愛知県名古屋市)
- でんきの科学館(中部電力、愛知県名古屋市)
- エルモ社歴史館(エルモ社、愛知県名古屋市)
- 正村竹一資料館(正村商会、愛知県名古屋市)
- 有松・鳴海絞会館(有松絞商工協同組合、愛知県名古屋市)
- ガスエネルギー館(東邦ガス、愛知県東海市)
- カゴメ記念館(カゴメ、愛知県東海市)
- 鍛造技術の館(愛知製鋼、愛知県東海市)
- MIZKAN MUSEUM(ミツカン、愛知県半田市)
- 國盛酒の文化館(中埜酒造、愛知県半田市)
- 半田赤レンガ建物(愛知県半田市)
- 醸造「伝承館」(中定商店、愛知県知多郡武豊町)
- INAXライブミュージアム(INAX、愛知県常滑市)
- FLIGHT OF DREAMS(愛知県常滑市)
- 盛田味の館(盛田、愛知県常滑市)
- 高浜市やきものの里かわら美術館・図書館(愛知県高浜市)
- 九重みりん時代館(九重味醂、愛知県碧南市)
- 八丁味噌の郷(カクキュー、愛知県岡崎市)
- 三菱オートギャラリー(三菱自動車工業、愛知県岡崎市)
- 内藤記念くすり博物館(エーザイ、岐阜県各務原市)
- 名鉄資料館(名古屋鉄道、岐阜県可児市)
- ちこり村(サラダコスモ、岐阜県中津川市)
- タミヤ歴史館(タミヤ、静岡県静岡市駿河区)
- キリン富士御殿場蒸留所(キリンディスティラリー、静岡県御殿場市)
- ヤマハ来客会館(ヤマハ、静岡県浜松市中央区)
- スズキ歴史館(スズキ、静岡県浜松市中央区)
- ミキモト真珠島(ミキモト、三重県鳥羽市)
関西
- 安藤百福発明記念館 大阪池田(日清食品、大阪府大阪市淀川区)
- サントリー山崎蒸溜所(サントリー、大阪府島本町)
- パナソニックミュージアム 松下幸之助歴史館(パナソニック、大阪府門真市)
- カワサキワールド(川崎重工業、兵庫県神戸市中央区・神戸海洋博物館内)
- UCCコーヒー博物館(UCC上島珈琲、兵庫県神戸市中央区・ポートアイランド)
- アシックススポーツミュージアム(アシックス、兵庫県神戸市中央区・ポートアイランド)
- 竹中大工道具館(竹中工務店、兵庫県神戸市中央区)
- ブルワリーミュージアム(小西酒造、兵庫県伊丹市・白雪ブルワリービレッジ長寿蔵内)
- 京都鉄道博物館(西日本旅客鉄道、京都府京都市下京区)※2015年まで「梅小路蒸気機関車館」
- ヤンマーミュージアム(ヤンマー、滋賀県長浜市)
中国・四国
九州・沖縄
- 北九州イノベーションギャラリー(福岡県北九州市八幡東区)
- 北九州次世代エネルギーパーク(北九州エコタウンセンター内、福岡県北九州市若松区向洋町、資源エネルギー庁認定施設)
- 白島国家石油備蓄基地広報展示館(白島石油備蓄、福岡県北九州市若松区響町)
- わかちく史料館(若築建設、福岡県北九州市若松区)
- 門司電気通信レトロ館(NTT西日本、福岡県北九州市門司区)
- 門司赤煉瓦プレイス(旧サッポロビール九州工場)福岡県北九州市門司区
- 玄海エネルギーパーク(九州電力、佐賀県玄海町・玄海原子力発電所内)
- 三菱重工業長崎造船所史料館(三菱重工業、長崎県佐世保市、長崎造船所内)
過去に存在した施設
出典
参考文献
- 須田寛『観光の新分野 産業観光』(交通新聞社)1999年 ISBN 9784875130802
- 須田寛『実務から見た新・観光資源論』(交通新聞社)2003年5月
- 須田寛『産業観光読本』(交通新聞社)2005年3月
- 須田寛『新しい観光』(交通新聞社)2006年4月
- 須田寛『産業観光100選』(交通新聞社)2008年2月
関連項目
外部リンク
産業観光
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/13 10:36 UTC 版)
UBEの宇部地区工場群は石炭化学や窯業といった幅広い産業の巨大装置だけでなく、国内最大の石炭貯蔵基地や大型タンカーが寄港する企業専用岸壁、企業専用道路、大規模な露天掘りが行われている石灰石鉱山(宇部伊佐鉱山)等も擁しており、以下記述するUBE i-Plaza等とともに産業観光の対象となっている。 2007年(平成19年)11月27日には宇部本社1号館の1階にUBEグループの歴史や事業内容、先端技術の紹介を行う総合案内施設として「UBE i-Plaza」を開設した。主に地元学校の社会科見学や産業観光ツアー等で活用され、見学には事前の予約が必要である。 宇部興産専用道路 興産大橋 宇部伊佐鉱山
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