ジオツーリズム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/09/28 13:41 UTC 版)
ジオツーリズム(英語: Geotourism)は、地質学的に魅力のあるものと関係づけた観光のこと[1]。単なる美的な鑑賞眼のレベルを超えて、ある場所の地球科学的な現象に対して興味や関心を持ち、知識と理解の獲得を目指す観光である。
概要
ジオと(geo-)は「土地」「地球」「地理」を表す言葉であり、従ってジオツーリズムは地質学と地形学、景観、地形、化石床、岩石と鉱物などの自然資源を対象として行われる観光である。しかし、地質を基軸にしてジオツーリズムを整理しているものもある。また、ナショナルジオグラフィックは、「ジオツーリズムとは、ある土地の環境、文化、審美性、遺産、住民の福利といった地理的特徴を維持し、向上させる観光である[2]」と定義し、対象を広く捉えている。ジオツーリズムの対象は、地域における地質・地形学的景観であり、その目的地としてはこのような景観が存在するジオサイト、ゲオトープ、ジオパークが挙げられる。ジオサイトとは、ひとつの景観、地形グループ、単独の地形、岩石の露頭、化石床あるいは化石が存在する場のことである。興味の対象となる景観は、例えば火山地形、氷河地形、沖積地形、風食地形、海岸地形、岩石露頭、鉱山などがあげられ、景観には特徴的な地形が内在すること、あるいは岩石・堆積物・化石のような地質によって特徴づけられた景観であることが重要である。
ジオツーリズムは単に現象を見学するだけでなく、このような特徴を造ったかあるいは造りつつあるプロセスを正しく理解することに主眼が置かれている。すなわち、岩石だけではなくプロセスを持つ総合的な大地の歴史、長い過去の時代からの遺産、そしてこれらによって具現化された景観(景観を改変した人間の作用を含めることもある)が重要なポイントとなる。
ジオツーリズムは、貴重なあるいは重要な地質・地形学的景観を保全している地域における、その景観や環境を損なうことのない持続可能な観光であり、子どもの教育や大人の生涯学習に資する観光でもある。さらにその観光を通じて地域経済の発展につなげていくことも目的としている。
ジオツーリズムの歴史
ジオツーリズム発生以前
1990年初期まではジオツーリズムという言葉は公には使われておらず、オーストラリアでは、化石採集を意味する‘fossicking’が、マレーシアでは化石や鉱物等の産地や特異な浸食形態を示す岩石が存在する場を訪れることを‘Tourism Geology’が使用されていた[3]。 ドイツでは、昔から地質や地形あるいは地形発達等に関する解説板を設置した「地学の小道Geopfad」を通じて、地質学の情報が訪問者に提示されていた[3]。また、無生物の自然からなる地史的形態であると定義されるゲオトープ保護の活動が各地で起こった[3]。1990年代前半には、「地生態学の教育小道」や「地理学の教育小道」などを設置する地域が見られるようになり、これらはジオツーリズムへと通じるものであるとも考えられる[3]。
ジオツーリズムの発生以降
1994年にはオーストリアの地質学者Hoffmann & SchonlaubがGeowissenschftenという雑誌にジオツーリズムを紹介した[3]。さらに1995年にHoseがイギリスの専門雑誌Environmental Interpretationにジオツーリズムを提案し、1998年にベルファーストで開催された初めての専門的なジオツーリズムの国際会議において、イギリスでの認識を得ることになったという[3]。
1990年代にはジオパークの開設で見られるような地質・地形を対象とした観光地化とそれらの資源や景観を持続的に保全していこうという地域の動きがあり、観光の多様化や教養・知的好奇心の向上と相まってジオツーリズムが発展していったと考えられる。また、2004年よりナショナルジオグラフィックは、各国政府だけでなく様々な団体がジオツーリズムを推進することを宣言するジオツーリズム憲章を策定しており、現在では14の国や地域に対して発行され、世界的にジオツーリズムが受け入れられつつある。
ジオツーリズムとエコツーリズム
ジオツーリズムは、その定義が近いことからしばしばエコツーリズム(Ecotourism)と混同されることがある。しかし両者には明確な違いがあり、ジオツーリズムが地質多様性(Geodiversity)を中心に据えるのに対し、エコツーリズムは生物多様性(Biodiversity)を中心としていることである。ジオツーリズムの活動は、訪問者に対して、地質学的な背景や文脈を理解しながら楽しめるレクリエーションの機会を提供することに重点を置いている。
ジオツーリズムをエコツーリズムと区別する要素として、主に次の3点が挙げられている。
- 非生物的自然(Abiotic nature)を主要な観光資源とすること
- 地質遺産について解説・意味づけを行うこと
- 自然環境および地域住民に対して、ポジティブな成果をもたらすこと
この意味で、ジオツーリズムはエコツーリズムの姉妹的なカテゴリーと位置づけることができる。両者の違いをより具体的に言えば、ジオツーリズムは、地質学や地形学に関わる非生物的な自然や人工的・建造環境に焦点を当てる一方、エコツーリズムは、生態学や生物などの「生きた自然」を中心としている[4][5]。
ジオパーク
ジオパーク(Geopark)は、地質学的遺産を持続可能な形で保全・活用するとともに、その地域に暮らす人々の経済的な豊かさの向上を目指す、まとまりのある地域のことである。ジオツーリズムはもともとはあまり知られていないニッチな観光の潮流だったが、21世紀に入ってユネスコが世界的なジオパーク運動を支援するようになったことを背景に、2004年頃から観光産業における一つのアプローチとして発展してきた。ジオパークの中で想定される活動は幅広く、文化遺産の訪問から自然景観・自然資源の体験、農業体験、さらにはダークツーリズムに至るまで、多様な観光活動が含まれる。
山岳、火山、海岸など地形や地質が売りものの多くの自然公園では、これまでもジオツーリズムに類似した観光が行われていたが、地学・地球科学的な情報発信が全く不足している[6]とも言われる。
脚注
- ↑ Dowling, R. & Newsome, D. (Eds.)(2006) Geotourism; Elsevier, Butterworth-Heinemann, Oxford
- ↑ National Geographic - Center for Sustainable Destinations - ナショナルジオグラフィックによる解説。
- 1 2 3 4 5 6 横山秀司(2008)「ジオツーリズムとは何か―わが国におけるその可能性」.日本観光研究学会第23回全国大会論文集.pp.345-348.
- ↑ Sadry, B.N. (Ed.) (2021) The Geotourism Industry in the 21st Century: The Origin, Principles, and Futuristic Approach;Palm Bay, Florida: Apple Academic Press
- ↑ Sadry, B.N. & Fehrest, F. (2022) 'Geotourism Marketing'. In: D. Buhalis (ed.), Encyclopedia of Tourism Management and Marketing,(Volume 2) Cheltenham, UK and Northampton, MA, USA: Edward Elgar Publishing(pp. 415–418).
- ↑ 岩田修二(2008)「ジオパークでの情報発信」.地理53-9.pp.32-38.
参考文献
- 岩田修二(2008)「ジオパークでの情報発信」.地理53-9.pp.32-38.
- 小泉武栄(2008)「地域振興・人材育成とジオパーク・世界遺産」.地理53-9.pp.39-46.
- 平野勇(2008)「ジオパーク―地質遺産の活用・オンサイトツーリズムによる地域づくり」
- 横山秀司(2008)「ジオツーリズムとは何か―わが国におけるその可能性」.日本観光研究学会第23回全国大会論文集.pp.345-348.
- 渡辺真人(2008)「動き始めた日本のジオパーク活動」.地理53-9.pp.26-31.
関連書籍
- 高木秀雄『三陸にジオパークを ― 未来のいのちを守るために』 早稲田大学出版部〈早稲田大学ブックレット<「震災後」に考える>〉、2012年。ISBN 9784657123039
関連項目
ジオツーリズムと同じ種類の言葉
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