生態模倣技術

有名な例は日本の新幹線です。500系新幹線の先頭車両はカワセミのくちばしからヒントを得ました。カワセミはエサの捕獲で水中に飛び込む際、水しぶきをあまり立てません。新幹線の先頭車両の先端形状をカワセミのくちばしのように長くとがらせることで空気抵抗を減らし、課題だったトンネルに入る際の衝撃音を和らげることに成功しました。
カタツムリの殻は表面に広がる微細な溝が水の膜をつくり、油汚れを弾く仕組みとなっています。これをまねしてキッチンや外壁材の汚れ防止技術が生まれました。
ミズノが2008年の北京五輪用に開発した競泳水着は、時速100キロメートルで泳ぐと言われるカジキをヒントにしました。カジキは体の表面から体液を分泌し、水と一緒に少しずつ流すことで摩擦抵抗を少なくして速さを実現しています。ミズノはセラミックスに親水性のポリマーを閉じ込めたものを水着の生地に張り付ける方法を開発。水を含んだポリマーがジェル化し水の抵抗を軽減、スピード向上につなげました。帝人ファイバーが1982年に開発した織物素材「レクタス」はハスの葉が水を弾く原理を参考にしました。はっ水性が必要なスポーツ衣料やレインコートなどに用いられています。
壁に張り付くヤモリを見たことがある人も多いと思います。ヤモリは接着剤を使って壁に張り付いているのではなく、足の裏に密集して生えている微細な毛の構造が粘着力を生み出しています。光和インターナショナル(東京都港区)はヤモリと同じ原理で接着剤を使わずに壁や窓、床に張れる装飾用シート素材「シェルシート」を販売しています。はがした後の、のり跡が残らないため、はく離液を使わずに済み、環境にも優しいのが特徴です。シート表面に絵柄や文字を印刷し、レジャー施設や店舗の装飾、広告看板などに採用されています。
積水化学工業は木陰をまねた日よけの製品化を目指しています。木の葉でできた木陰に入ると、建物の陰よりも涼しさを感じます。この木陰の効果を樹脂製の日よけで再現しようとしています。これまでに日本科学未来館(東京都江東区)や、ららぽーと豊洲(同)に試験設置。評価も上々で、同社は2011年度に商品化したいとしています。
ダイキン工業はルームエアコン室内機と室外機のファンで生態模倣技術を採用しています。室内機のファンは静かな音のままで省エネルギー性能を上げるためコウモリの羽根を参考にしました。室外機のファンは気流を抑えるためにエイのヒレをヒントにしました。
これら以外にも、自然界には人間が知らない機能を持つ生き物は多く存在するはずです。将来そうした生き物が見つかり、新しい技術や製品を開発する機会を逃さないためにも、今から多様な生き物を守っていくことが大切です。
(掲載日:2010/10/28)
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