RNA
「RNA」とは・「RNA」の意味
RNA(ribonucleic acid)とは、糖成分にリボースをもつ核酸のことである。DNAとは異なり、一本鎖で、アデニン(A)ウラシル(U)グアニン(G)シトシン(C)の4種類の塩基から成っている。RNAにはmRNAやtRNA、rRNAなどの種類があり、それぞれ働きが異なる。生物の遺伝情報はDNAの塩基配列に含まれており、この遺伝情報をもとに、タンパク質が合成されるが、この一連の流れを「遺伝子の発現」と呼び、その中にRNAも関わってくる。DNAからタンパク質を合成する中で転写、翻訳といった過程があり、この過程に関わってくるのがRNAである。
遺伝子が発現する過程では、DNAが転写されてRNAとなり、翻訳することによってタンパク質が合成される。転写の過程では、DNAの二重らせんがほどけ、一方の鎖となったDNAをもとに、RNAに情報を転写し、mRNAをつくる。ここまでが転写であり、この後、合成されたmRNAの端から3塩基ずつ解読していき、対応するアミノ酸が結合していく過程を翻訳と呼ぶ。ここで解読された3塩基の組み合わせをコドンと言い、tRNAというRNAの一つが、それぞれのコドンに対応するアミノ酸を、タンパク質を合成する装置であるリボソームへと運ぶ。
人間は、遺伝情報としてDNAが用いられているが、ウイルスは、DNAウイルスとRNAウイルスの両方が存在している。主なDNAウイルスはヘルペスウイルス、アデノウイルス、HBVやHPVなどであり、RNAウイルスはコロナウイルス、ロタウイルス、インフルエンザウイルス、麻疹ウイルスなどが挙げられる。基本的に、RNAウイルスはDNAウイルスに比べて変異を起こしやすいとされている。
特定の配列をもつRNAを検出する方法として、ノーザンブロッティングという手法がある。遺伝子のパターンや機能について調べる時、設計図であるDNAを調べるほかに、転写や翻訳といった、遺伝情報の重要な部分で、様々な制御が起こっているとされており、この部分に深く関わっているRNAの挙動を調べることは重要であるうえ、RNAを検出することにより、その遺伝子がどのような挙動を示すのか、知ることができる。核酸を抽出した後、RNAが分解しないよう、デオキシリボヌクレアーゼを用いて、DNA部分を消し、展開する。検出したいRNAの配列に相補的な配列をもつプローブを結合させることで、RNAの量やサイズを検出することができる。
転写によって細胞の分化が調整されている以上、遺伝子の発現の流れの中で起こるミスは人体にとって好ましくないことが多い。正常な細胞であれば、遺伝子の発現が制御され、適切な機能を果たすことができるが、がん細胞などによる遺伝子異常は、様々な方法で遺伝子の発現に異常をきたす恐れがある。遺伝情報を持っているmRNAはもとより、情報を持っていないノンコーディングRNAも、遺伝子の発現抑制やその他のプロセスに関与しているため、がんの発生や進展において、RNAレベルでの異常が重要であると言われている。そのため、RNAの部分に重点をおいたバイオマーカーや、治療薬の探索が行われている。
創薬の分野においてもRNAは重要なポイントとされている。RNAを標的とする医薬品の開発は色々と行われており、特に抗菌薬の分野においては、既に実用化されているものも少なくない。従来のRNAをターゲットとした抗菌薬では、限られた代謝経路がターゲットとなっているため、耐性菌の出現などが問題になっている。そこで、mRNAへの結合によって、遺伝子発現を制御するリボスイッチと呼ばれる部分が、新たな標的の一つとして注目されている。リボスイッチは原核生物のmRNAに存在しており、人間には存在しないため、ここをターゲットとした医薬品は、人体に好ましくない作用を引き起こす恐れが少ないと考えられている。また、これまでの抗菌薬とは作用機序が異なるため、従来の抗菌薬で耐性を持っていた菌に対しても効果が期待できるとされている。
「RNA」の熟語・言い回し
RNAにはいくつか種類があり、それぞれ働きが異なる。大きく分類すると、mRNAとそれ以外に分類することができ、mRNAは、タンパク質を翻訳するための配列を転写しているRNAで、それ以外の翻訳を受けないRNAをノンコーディングRNAと呼ぶ。代表的なRNAとして、mRNAやtRNA、rRNAが挙げられるが、他にもいくつか種類がある。tRNAとは
tRNAとは、トランスファーRNAを略したものであり、転移RNAとも呼ばれる。翻訳時にタンパク質合成装置であるリボソームにアミノ酸を運ぶ役目を持つ。tRNAは1種類のアミノ酸にしか結合できないため、体内には多くのtRNAが存在している。RNAの中でもtRNAは特に修飾を受けやすく、翻訳の効率化や安定性に関係している。
mRNAとは
mRNAとは、DNAから遺伝情報を転写されたRNAのことであり、メッセンジャーRNAと呼ばれる。遺伝情報を転写されたmRNAは、タンパク質を設計するエキソンと呼ばれる部分と、設計に不要なイントロンと呼ばれる部分を持っており、イントロンを取り除き、エキソンを繋ぐことを、スプライシングと呼ぶ。mRNAの末端に修飾が入ることによって、リボソームに結合しやすくなり、分解酵素による分解を防ぐことができる。mRNAの末端はそれぞれ3’と5’と表記されるが、これは、DNAやRNAの糖部分と塩基が結合している部分を1’とし、そこから順に番号をふることが表記上の慣例となっており、それに従って番号を振った結果、5’と3’が連結に関与しているため、このような表記となっている。基本的にタンパク質の翻訳は、5’から3’方向に向かって行われる。それぞれの末端にはキャップ構造と呼ばれる結合や、ポリA化と呼ばれる合成付加がされており、それぞれ、タンパク質合成の開始の促進や、安定化に寄与している。
設計図そのものであるDNAは非常に安定しており、壊れにくいが、mRNAは、コピーした情報の内容によって、分解されやすいものから分解されにくいものまで様々である。コロナウイルスのワクチンの一つであるmRNAワクチンは、mRNAの特徴を活かしたワクチンである。ウイルスの設計図であるmRNAを接種することにより、情報をもとに、細胞内でスパイクタンパク質が産生され、コロナウイルスに対抗するための中和抗体の産生や、細胞性免疫の応答が誘導されるという仕組みである。体内に入ったmRNAは、人体に取り込まれたのち、速やかに分解されることも特徴の一つである。
rRNAとは
rRNAとは、リボソームRNAのことであり、リボソームを構成する因子である。rRNAはリボソームの中で触媒作用を有し、翻訳の際にアミノ酸が結合していく際のペプチド結合に関わっている。リボソームとは、巨大なRNAタンパク質の複合体であり、大小二つサブユニットから出来ている。真核生物のリボソームは80Sであり、40Sの小サブユニットと、60Sの大サブユニットから構成されている。40Sや60SのSは沈降速度を指しており、Sの値が大きいほど沈降速度が速い。
snRNAとは
snRNAとは、small nuclear RNAのことであり、核内に存在する核内低分子RNAのことである。スプライシングなどに関与している。
snoRNAとは
snoRNAとは、small nucleolar RNAのことであり、核小体低分子RNAのことである。核小体に存在しており、ノンコーディングRNAの一種である。RNA遺伝子の化学修飾に関与している。
miRNAとは
miRNAとは、転写後の遺伝子発現に関わるRNAのことである。主にmRNAの分解や、翻訳の抑制を行っている。
siRNAとは
short interfering RNAのことであり、主にmRNAの制御や感染防御に関わっている。
piRNAとは
PIWI-interacting RNAのことであり、ゲノムの安定性制御に関わっている。
RNAポリメラーゼとは
RNAポリメラーゼとは、RNAを合成する酵素のことである。真核生物において、RNAポリメラーゼは3種類存在しており、それぞれ転写するRNAが異なる。
アール‐エヌ‐エー【RNA】
読み方:あーるえぬえー
リボ核酸
リボヌクレオチドの重合体で、塩基部分にアデニン、ウラシル、グアニン、シトシンの他、多くの化学修飾を受けた塩基を持つ。生体内では、mRNA, rRNA, tRNAとして遺伝情報発現の中心となるほか、タンパク質複合体、リボザイム、プライマーRNAなどの機能を果たしたり、直接的に遺伝子発現の調節を行うRNA分子の存在も知られる。RNAをゲノムとして持つウイルスも存在する。
遺伝子名DNARNAの配列や構造など: | リボソーマルRNA リボソームDNA リボソームRNA遺伝子 リボ核酸 リポーター遺伝子 レポーター遺伝子 一塩基多型 |
RNA
RNA → リボ核酸, Ribonucleic acid

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リボ核酸
RNAはD-リボースを糖成分、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、ウラシル(U)の4種類を主な塩基成分とする核酸。他にチミン(T)をはじめいろいろな塩基のメチル誘導体を含むものもある。
RNAには、メッセンジャーRNA(mRNA)のほかに、トランスファーRNA(tRNA)、リボソームRNA(rRNA)の3種類あり、これらのすべてがタンパク質生合成において機能している。mRNAはDNAのアミノ酸を決める部分DNAから塩基情報を写し取り、tRNAは、アミノ酸と結合して、このmRNAの情報に従いアミノ酸をリボソームに運び、リボソーム上でタンパク質を合成する。rRNAは、タンパク質と結合してリボソームを構成しており、タンパク質合成に関与していると考えられる。このように、3種類のリボ核酸は、DNAの遺伝情報をタンパク質に変える役割をもっている。
また、最近、ノンコーディングRNA(非翻訳RNA)など、RNAの多様な機能が判明しつつある。
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アデニン
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グアニン
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シトシン
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ウラシル
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塩基
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核酸
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チミン
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メッセンジャーRNA
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トランスファーRNA(tRNA)
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タンパク質
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DNA
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アミノ酸
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タンパク質合成
・
遺伝
HCV・RNA ( hepatitis C virus RNA qualitative by PCR )
RNA
【概要】リボ核酸。遺伝子の物質。RNAの中にはDNAの一部をコピイしたメッセンジャーRNA、アミノ酸を運ぶトランスファーRNAなどがある。ウイルスの中には、RNAを遺伝子としているものがあり、RNAウイルスという仲間と総称している。HIVもそうである。

rna
リボ核酸
遺伝学 |
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リボ核酸(RNA: Ribonucleic acid)は、リボースを糖成分とする核酸である。リボヌクレオチドが多数重合したもので、一本鎖をなし、アデニン、グアニン、シトシン、ウラシルの四種の塩基を含む。 一般にDNA(デオキシリボ核酸)を鋳型として合成され、その遺伝情報の伝達やタンパク質の合成を行う。
歴史
核酸は1868年(一説によると1869年)にフリードリッヒ・ミーシャーにより発見された。細胞核内から発見されたため、核酸と命名された。その後、核を持たない原核生物からも核酸が発見されたが、名称が変わることはなかった。1939年、Torbjörn Caspersson、Jean Brachet、Jack Schultz らによりRNAがタンパク質合成に関与しているという説が提唱された。その後 Hubert Chantrenne はRNAがリボソームに対してタンパク質情報を伝達するという役割があることを解明した。1964年にはロバート・W・ホリーが出芽酵母の tRNA の配列と構造を解明し、1968年にノーベル生理学賞を受賞した。1976年にはバクテリオファージMS2のレプリカーゼ遺伝子のRNA配列が決定された[1]。
構造
核酸塩基

RNAの核酸塩基はアデニン (A)、グアニン (G)、シトシン (C)、ウラシル (U) の4種で構成されている。アデニン、グアニン、シトシンは DNA にも同じ構造が見られるが、DNAにおけるチミン (T) がRNAではウラシルに置き換わっており、相補的な塩基はアデニンとなる。チミンとウラシルは共にピリミジン環を持つ非常に似た塩基である。
シトシンが化学分解されるとウラシルが生成されてしまうため、DNAではウラシルの代わりにチミンが用いられるようになった。これによりシトシンの分解により誤って生成してしまったウラシルを検出し、修復することが可能になるなどの利点が生じた。
修飾RNA
主に生化学において、生体高分子の特定の官能基をメチル化やアセチル化などで変化させ、機能を活性や反応性を変化させることを「化学修飾」(あるいは単に「修飾」)という[2]。RNAには修飾がなされた様々な修飾RNAが存在し、それぞれが異なる役割を持つ。シュードウリジン(プソイドウリジン, en:Pseudouridine, Ψ)や2'-O-メチル化修飾は比較的多く見られる修飾である。リボチミジン(T, rT)、シュードウリジン(Ψ)はtRNAのTΨCループによく見られる。アデノシンが脱アミノ化されたイノシン (I) は、RNAエディティングにより生ずるものとtRNAの部位特異的に生ずるものが知られ、グアノシンに似た性質を持つ。他にも約100種の修飾塩基が存在しているが、全容は解明されていない。
プラス鎖RNAとマイナス鎖RNA
RNAは通常一本の鎖状に連なるポリヌクレオチドであり[3]、RNA鎖上に遺伝子コードがあるものをプラス鎖RNA、相補的なRNA鎖にコードが現れるものをマイナス鎖RNAと呼ぶ。
一本鎖のRNAは自由度が高く高次構造を形成する。
官能基
RNAの構造的特徴として、DNAには存在しない 2'位のヒドロキシ基が存在するというものがある。
DNAとの比較
DNAとRNAはともにヌクレオチドの重合体である核酸であるが、両者の生体内の役割は明確に異なっている。DNAは主に核の中で情報の蓄積・保存、RNAはその情報の一時的な処理を担い、DNAと比べて、必要に応じて合成・分解される頻度は顕著である。DNAとRNAの化学構造の違いの意味することの第一は「RNAはDNAに比べて不安定である」。両者の安定の度合いの違いが、DNAは静的でRNAは動的な印象を与える。
化学構造の相違
DNAとRNAの化学構造の違いの第一は、ヌクレオチド中の糖は、RNAはリボースで、DNAは2'位の水酸基が水素で置換された2'-デオキシリボースである点にある。このため、DNAではリボースがC2'-エンド型構造を取るが、RNAでは2'位のヒドロキシ基の存在により立体障害が生じ、リボースがC3'-エンド型構造を取る。これに伴って、DNAはB型らせん構造を取りやすく、RNAはA型らせん構造を取りやすくなるという違いが生じる。この結果RNAのらせん構造はメジャーグルーブが深く狭くなり、マイナーグルーブが浅く広くなる。らせん構造についての詳細は、記事二重らせんに詳しいものが載っている。
DNAと比較すると、RNAは一般に不安定である。RNAに存在する2'位水酸基の酸素には孤立電子対が2つあるため、例えば、塩基性条件下、隣接したリン酸は水酸基から求核攻撃を受け、ホスホジエステル結合が切れ、主鎖が開裂するなどDNAと比べて不安定である。この特性から、翻訳の役割を終えたmRNAを直ちに分解することが可能になる(バクテリアでは数分、動物細胞でも数時間後には分解される)。安定RNAでは1本鎖に水素結合を形成し、らせん構造となるなど、多様な二次構造、三次構造を取り、安定性を増している。
構成する塩基にも違いがある。RNAを構成する塩基はA、C、G、Uの4種だが、大多数の生物のDNAではUの代わりにTが用いられる。これは配列情報の同一性を保持するためと考えられる。
というのも、塩基Cは脱アミノ化という反応によってUに変化することがある。最初からUだったものとCから変異したUは(1本鎖のRNAであれば)区別不可能で、元の配列が分からなくなってしまう。これに対しDNAで用いられる塩基Tは、分子の構造的にUに自然に変わることは容易には起こらないので、Uを本来含んでいないDNAであればCが脱アミノ化を起こしても容易に認識できる。以上のことから、Uの代わりにTを用いる方が有利なのでDNAではそれが一般的になったと考えられる。
物理化学的性質の相違
DNAとRNAの物理化学的性質について。DNAとRNAはともに紫外線である波長260nm付近に吸収極大を持ち、230nm付近に吸収極小を持つ。この吸光度はタンパク質の280nmよりもずっと大きいが、これはDNAとRNAがプリンまたはピリミジンを塩基として有するためである。ただし、二重らせんを形成しているDNAの場合、溶液を加熱するとその吸光度は増す(濃色効果)。これは、DNAは規則正しい2重らせん構造を有しているため、全体の吸光度が個々の塩基の吸光度の総和より小さい(淡色効果)が、加熱により2重らせん構造が解け(核酸の変性)、個々の塩基が自由になり、独自に光を吸収するためである。また、DNAとRNAはアルカリ溶液中で挙動が異なる。RNAは弱塩基でも容易に加水分解するが、DNAは安定して存在する。
生合成
RNAは転写という作用によって合成される。転写は専らDNAを鋳型として行われ、そこには複数の酵素が関与する。
DNAを基に転写が行われる場合、DNAヘリカーゼという酵素が2本鎖を一時的に1本鎖に分割し、その1本鎖にRNAポリメラーゼという別の酵素が結合することでDNAに相補的なRNAが合成される。
RNAを鋳型とするRNAポリメラーゼも存在する。例えば、ある種のRNAウイルス(ポリオウイルスなど)はこのようなタイプのRNAポリメラーゼを用いて、自らの持つRNAを増幅させる。また多くの生命体では、この種のRNAポリメラーゼがRNA干渉に必要だということが知られている。
鋳型となる塩基配列には、RNAの合成をどこから始めてどこで終えるかの目印が存在する(プロモーター・ターミネーター)。
生化学的な活性
伝令RNA (mRNA)
伝令RNAは、メッセンジャーRNA、mRNAとも呼ばれ、細胞中でタンパク質合成部位であるリボソームにDNAの情報を伝える役割をするRNAである。遺伝情報をもとにタンパク質が合成される場合には、RNAポリメラーゼの働きにより、DNAに対して相補的な配列を持つmRNAが転写され、次にリボソームにより、mRNAの配列に基づいたタンパク質の合成が行われる(翻訳)。このように、DNAがいったんRNAへと転写され、RNAを鋳型としてタンパク質への翻訳が行われるという、一連の遺伝情報の流れをセントラルドグマと呼ぶ。セントラルドグマはタンパク質が遺伝子産物であることを前提としているため、ノンコーディングRNA遺伝子の場合には当てはまらないと解釈されている。一定の時間が経過すると、mRNAはRNA分解酵素の働きによりヌクレオチドへと分解される。多くの場合、mRNAは短命であるが(大腸菌では約5分ともいわれている)、哺乳類の精子中に見られるように、極端に安定なmRNAも知られている。
運搬RNA (tRNA)
運搬RNAは、トランスファーRNA、tRNAとも呼ばれ、タンパク質を合成する翻訳の際に、特定のアミノ酸をリボソーム内部へと導入するRNAである。74-93塩基からなる短いRNA鎖である。アミノ酸結合部位と、mRNAのコドンと水素結合を作るためのアンチコドン部位を持つ。非コードRNA(下記参照)の一種である。
リボソームRNA (rRNA)
リボソームRNA (rRNA) は、細胞内でタンパク質合成を行うリボソームを構成しているRNAである。真核生物のリボソームのrRNAは4本のRNA鎖 (18S, 5.8S, 28S, 5S) から構成されている。このうちの3つは核小体で合成され、残りの1つは他の部位で合成される。rRNAは非常に大量に存在する種のRNAであり、典型的な真核細胞に存在するRNAの少なくとも80%がrRNAとして存在している(tRNA: 10数%、mRNA: 数%)。
ノンコーディングRNA (ncRNA)
ノンコーディングRNA (ncRNA) は、タンパク質に翻訳されないRNAの総称である。最も有名なものとしては、前述の運搬RNAとリボソームRNAが挙げられる。この2つはどちらも翻訳に関連しているが、1990年代後半からは新しいタイプのノンコーディングRNAの発見が相次ぎ、ノンコーディングRNAは以前に考えられていたよりも重要な役割を果たしている可能性があると考えられるようになった。
1990年代後半から2000年代前半にかけて、ヒトをはじめとする高等生物の細胞では複雑な転写が行われている証拠が得られてきた。これは生物学においてRNAがより広い領域で、特に遺伝子発現の調節に用いられているという可能性を指摘するものであった。特にノンコーディングRNAの一種であるマイクロRNA (miRNA) は、線虫からヒトに至るまでの多くの後生動物で見られ、他の遺伝子の制御といった重要な役割を果たしていることが明らかにされた。
2004年にRassoulzadeganのグループは、RNAが生殖細胞系に何らかの影響を及ぼしているという説をNature誌に投稿した。これが実際に確認されれば、従来の遺伝学に大きな影響を与え、DNA-RNAの役割や相互作用に関する多くの謎が解明されると考えられている。2015年、ペンシルバニア大学のTracy L. Baleらは、精子中のマイクロRNAの発現量が子に伝わり、父の獲得形質が子に受け継がれることを明らかにした[4]。彼女らは、オスのマウスに過度なストレスを与えて、そのマウスをメスのマウスと交配させた。生まれたマウスに過度なストレスを与えたところ、ストレスに対する耐性が父のマウスよりも高くなっていた。彼女らは、その原因としてマイクロRNAを挙げた。彼女らは父のマウスの精子中のマイクロRNAの発現量が増加していることを発見し、このマイクロRNAが受精卵内のmRNAを破壊している事実を明らかにした。これらのことは、父が獲得した形質がマイクロRNAを通して子に伝わることを示唆している。
触媒作用を持つRNA
タンパク質によく用いられる20種のアミノ酸と比較すると、RNAは4つの核酸塩基しか持たないにもかかわらず、ある種のRNAは酵素活性を持っており、それらはリボザイム (ribozyme = ribose + enzyme) と呼ばれている。RNA鎖の切断や結合を行うRNA触媒も存在しており、ペプチド鎖の合成を行うリボソーム中でもRNAが触媒活性中心となっている。
二重鎖RNA (dsRNA)
二重鎖RNA (dsRNA) は、2本の相補的な配列を持つRNA鎖がDNAに見られるような二重鎖を組んだものである。dsRNAはある種のRNAウイルスの持つ遺伝情報部位やミトコンドリアDNA内のrRNA、tRNAなどに見られる。真核生物ではRNA干渉の引き金となったり、siRNA生成の中間体となっている(siRNAはmiRNAとしばしば混同される。siRNAは二重鎖であるが、miRNAは1本鎖である)。未成熟miRNAなどでは、1本鎖であっても分子内でヘアピン構造を取る部分が存在している。
RNAワールド仮説
RNAワールド仮説は、生命が発生した頃にはRNAが遺伝情報の維持(現在のDNAの役割)と、酵素のような生化学的触媒の両方の役割を担っていたとする仮説である。これは無生物的な環境下に於いてRNAがDNAと比較して容易に合成されることなどを根拠としている。
この仮説では生物は遺伝情報(ゲノム)の貯蔵媒体としてRNAを使用し、その後の変異と進化によりDNAとタンパク質が徐々に台頭してきたと考えられている。ただしRNAはDNAと違って相補性が確保されておらず、修飾を受けやすい不安定な分子であり、生物においてゲノムを安定に保持する機能は主にDNAが担っている。一方で、非生物の特性を併せ持つウイルスでは、ゲノムを持つRNAウイルスとしては、プラス鎖のもの(コロナウイルスなど)とマイナス鎖のもの(インフルエンザウイルスなど)の両方が見つかっている。現時点(2006年)では、ゲノムの保持にDNAではなくてRNAを用いているのはウイルスだけであると考えられている(ウイルスにはゲノムの保持媒体にRNAを用いているものとDNAを用いているものの2種類がある)。
RNAの高次構造
機能性の1本鎖RNAは、タンパク質と同じように特別な三次構造を取ることが要求される。三次構造の形成では、水素結合が駆動力となっている。二次構造で表現可能な「部位」として、ヘアピンループやバルジ、インターナルループなどが存在する。RNAの二次構造は水素結合部位やドメインなどの組み合わせを自由エネルギーについて計算し、コンピューターである程度予測することができる。
RNA干渉
RNAi(RNA interfernce、RNA干渉)とはsiRNA(small interfering RNA)または二本鎖RNA(double stranded RNA、dsRNA)によって配列特異的に遺伝子の発現が抑制される現象である。
哺乳類のRNAiのメカニズム
二本鎖RNA(double stranded RNA、dsRNA)はDicerと呼ばれるRNase III酵素によって約21〜25塩基長の短鎖二本鎖RNAに切断される。この短鎖二本鎖RNA断片をsiRNA(small interfering RNA)とよぶ。そのsiRNA二量体はRISC (RNA-induced silencing complex)と呼ばれるArgonaute(Ago)タンパク質を含む複合体に取り込まれる。その後、ターゲットとなるmRNAと塩基対合するsiRNA(ガイド鎖)を残し、その反対鎖であるパッセンジャー鎖はAgoタンパク質によって切断され分解される。残ったガイド鎖の5’末端と3’末端の1塩基はAgoタンパク質のポケット構造にはまり込んで固定される。特に5’末端がアデニンまたはウラシルである場合にはAgoタンパク質と高い親和性固定される。さらに、5’末端から2〜8塩基目の塩基はAgoタンパク質の構造と電荷をうまく利用して表面に載ることができる。この2〜8塩基目の塩基の部分はシード配列と呼ばれ、塩基配列の相補性をもつmRNAを識別し、最初に塩基対合する場所である。その後、siRNAは残りの9〜20塩基目もターゲットとなるmRNAと塩基対合する。塩基対合したmRNAはAgoタンパク質によって切断される。この過程を遺伝子ノックダウンという。
- Dicer
DicerはdsRNAをsiRNAへと、またはpre-miRNAをmiRNAへと切断するRNase III酵素である。
- RISC
RISC(RNA-induced silencing complex)はショウジョウバエにおいてdsRNAを導入することによって誘導される配列特異的に標的RNAを分解する活性をもった複合体としてHannonらによって提唱された。RISCの中核となるのはArgonaute(Ago)タンパク質である。その他の構成要素としてRNA結合タンパク質、RNAヘリカーゼ、ヌクレアーゼなど様々なタンパク質が同定されている。
siRNAとmiRNA
短鎖RNAは由来によって名称が異なる。人工的に作られたものやin vivoでdsRNA前駆体から生じたものはsiRNAという。miRNAは遺伝子から作られる前駆体RNAに由来する。この遺伝子が発現する細胞内で特定の遺伝子調節機能を発揮する。miRNAはmiRNA遺伝子から長い一次転写産物であるpri-miRNAとして転写される。pri-miRNAの中には将来miRNAとなる配列が含まれておりその部分はヘアピン状の高次構造をとっている。DroshaというRNase III酵素がヘアピン構造を切断しpre-miRNAにする。核内のpre-miRNAはExportin-5によって細胞質に運ばれ細胞質でDicerによってpre-miRNAは切断されmiRNAとなる。miRNAはRISCを形成し、標的RNAを認識するガイド分子として働く。このようにsiRNAもmiRNAも21塩基前後の長さの機能性ncRNAであり、RISCの中のsiRNAとmiRNAを化学組成や機能で見分けることはできず、あくまで由来で分類する。
RNAiの問題点
- オフターゲット効果
ターゲット遺伝子に対する抑制効果に加えてシード領域のみが対合した遺伝子群もオフターゲット効果と呼ばれる機構によって抑制される場合が多い。オフターゲット効果ではmRNAは切断されるのではなく、翻訳が抑制されることによって遺伝子機能が抑制されると考えられている。
- インターフェロン応答
哺乳動物細胞に30bp以上の長いdsRNAを導入すると一部の細胞集団を除いてほとんどの細胞で細胞死が起こる。これはインターフェロン応答または抗ウイルス反応とよばれるディフェンス機構と考えられている。
存在
リボヌクレオチドおよびその結合体であるポリヌクレオチド、DNA・RNAなどのリボ核酸は、生物を原料とするほとんどの食品に微量含まれている。重量比では、酵母(Baker's yeast/Saccharomyces cerevisiae)や海苔(Purple laver)などでリボ核酸の検出値が比較的高い。[5]
経口摂取と産業利用
リボ核酸を摂取すると、体内でいったんヌクレオチドに分解されて、DNA・RNAを合成する材料となる。核酸摂取と核酸合成との関係は未解明な点が多く今後の研究が待たれる。
RNAを多量に含む食品が商業的に生産されている。RNAを効率的に分離するためのRNA源としてビール酵母などの酵母が利用されている[6]。
利用例
- 健康食品
- 健康食品として錠剤や粉末のものが市販されている。
- 食品添加物
- 母乳にはウリジル酸などの各種ヌクレオチドとDNA・RNAが含まれ、乳児の免疫調節や記憶力の向上に役立っていると考えられており、市販の乳児用粉ミルクの多くにヌクレオチドの形で添加されている[7][8]。最近ではRNAの形で添加する例もあり、総称して核酸関連物質と表示されている場合がある。
脚注
出典
- ^ Fiers W et al., Complete nucleotide-sequence of bacteriophage MS2-RNA - primary and secondary structure of replicase gene, Nature, 1976, 260, 500-507.
- ^ "化学修飾". 化学辞典 第2版. コトバンクより2020年7月9日閲覧。
- ^ “RNAの特徴”. 医学生物学研究所. 2020年3月18日閲覧。
- ^ Ali B. Rodgers, Christopher P. Morgan, N. Adrian Leu, and Tracy L. Bale. Transgenerational epigenetic programming via sperm microRNA recapitulates effects of paternal stress. Proceedings of the National Academy of Sciences 112.44 (2015): 13699-13704.
- ^ “Nucleic Acid Contents of Japanese Foods”. NIPPON SHOKUHIN KOGYO GAKKAISHI 36 (11): Table 2. (1989). doi:10.3136/nskkk1962.36.11_934.
- ^ リボ核酸|エル・エスコーポレーション
- ^ Schaller, Joseph P.; Kuchan, Matthew J.; Thomas, Debra L.; Cordle, Christopher T.; Winship, Timothy R.; Buck, Rachael H.; Baggs, Geraldine E.; Wheeler, J. Gary (2004-12). “Effect of Dietary Ribonucleotides on Infant Immune Status. Part 1: Humoral Responses” (英語). Pediatric Research 56 (6): 883–890. doi:10.1203/01.PDR.0000145576.42115.5C. ISSN 1530-0447 .
- ^ Buck, Rachael H.; Thomas, Debra L.; Winship, Timothy R.; Cordle, Christopher T.; Kuchan, Matthew J.; Baggs, Geraldine E.; Schaller, Joseph P.; Wheeler, J. Gary (2004-12). “Effect of Dietary Ribonucleotides on Infant Immune Status. Part 2: Immune Cell Development” (英語). Pediatric Research 56 (6): 891–900. doi:10.1203/01.PDR.0000145577.03287.FA. ISSN 1530-0447 .
関連項目
外部リンク
- 核酸 (DNA, RNA) - 素材情報データベース<有効性情報>(国立健康・栄養研究所)
- 生命起源の鍵?自己複製できる最小のRNAを早稲田大/東大が発見 (PC Watch, 2023年7月5日)
RNA
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/12 22:29 UTC 版)
「リ・ジェネシス バイオ犯罪捜査班」の記事における「RNA」の解説
リボ核酸のこと。DNAからタンパク質を作る際の仲介的な役割を果たす核酸。DNAの必要な部分(つまり遺伝情報)を元にタンパク質を合成する。 mRNAやtRNAなどがある。DNAとの違いは(G)グアニンが(U)ウラシルになっていること、一重鎖構造のものが多い。
※この「RNA」の解説は、「リ・ジェネシス バイオ犯罪捜査班」の解説の一部です。
「RNA」を含む「リ・ジェネシス バイオ犯罪捜査班」の記事については、「リ・ジェネシス バイオ犯罪捜査班」の概要を参照ください。
「RNA」の例文・使い方・用例・文例
- rn aのページへのリンク