耐性菌の出現
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 06:05 UTC 版)
「抗生物質#耐性と乱用」も参照 ペニシリンが用いられるようになると、ペニシリンに対する薬剤耐性を新たに獲得したペニシリン耐性菌が出現した。ペニシリン耐性菌はペニシリンが実用化された数年後には臨床現場から分離されたが、抗生物質の無秩序な濫用が引き金となって拡大し、1960年代にはペニシリン耐性菌の問題が顕現化して医療上の大きな問題になった。 当時出現した初期のペニシリン耐性菌は、ペニシリナーゼ(β-ラクタマーゼ(β-lactamase, EC 3.5.2.6, 反応))というβ-ラクタム環を加水分解し、開環する酵素を産生する。これは薬剤分解酵素の遺伝子を突然変異、あるいはファージやプラスミドを介して獲得したものであった。そこで、これらの分解酵素による分解を受けないペニシリン系抗生物質であるメチシリンが開発された。また、ペニシリンとクラブラン酸などのβ-ラクタマーゼ阻害剤を合剤とすることで、耐性菌の問題を解決してきた。 しかし、メチシリンが実用化された数年後には、メチシリンに耐性を持つメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が出現した。MRSAは、PBPの変異型であるPBP2'を獲得した黄色ブドウ球菌である。MRSAのPBP2'はβ-ラクタム系抗生物質との結合能が弱く阻害を受けなくなっているため、メチシリンをはじめとする全てのβ-ラクタム系抗生物質に対する多剤耐性を獲得している。 ペニシリンは、細菌が細胞壁を作るのに必要な酵素であるペニシリン結合タンパク質(PBP)に結合して作用する。PBPにはPBP1、PBP2と多くの種類があることが知られている。多くの耐性菌はβ-ラクタマーゼを産出することでペニシリンを分解して耐性を得ている。β-ラクタマーゼは遊離しているがPBPの1種であり、たまたまペニシリンを分解する活性があったものと考えられる。 もともと染色体上に持っていたPBP遺伝子を発現できる菌株が、人間がペニシリンを乱用したことで淘汰に生き残り、β-ラクタマーゼ産出菌の割合が増えてきたのだと考えられている。なお、MRSAなどはまったく別の機構で耐性を得ている。これはPBPの変異でペニシリンが変異PBPに結合できなくなるからである。
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