ペニシリン系抗生物質
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 06:05 UTC 版)
ペニシリンは、狭義にはフレミングが見つけたアオカビ培養液から精製したもの(天然ペニシリン)と、培地に原料を人為的に添加してアオカビに合成させた後に精製したもの(生合成ペニシリン)を指し、これらにはペニシリンG、ペニシリンVなどの名称が付けられている。一方、これらを原料に化学修飾を施したもの(半合成ペニシリン)や、すべて化学的に合成したもの(合成ペニシリン)も開発されている。これらはいずれも、その活性中心であるβ-ラクタム環を含んだ、ペナム骨格を有する抗生物質であり、ペニシリン系抗生物質、あるいはペナム系抗生物質と総称される。広義には、これらのペニシリン系抗生物質のことをすべてペニシリンと呼ぶことがある。 天然ペニシリン アレクサンダー・フレミングが発見した、Penicillium noctumの培養液に含まれていたペニシリン。フローリーとチェインがその精製に成功した際、これらは複数のペニシリン系化合物の混合物であることが判明した。いずれもペナム環の3位にカルボン酸基がついた、ペニシラン酸化合物である。6位側鎖の違いから、ペニシリン G、X、F、Kなどが発見されたが、そのうち収量、活性、安定性の面でペニシリン G(ベンジルペニシリン)が最も抗菌剤として優れていた。P. noctumのペニシリン産生能はそれほど高くなかったが、その後より生産量の高いP. chrysogenumが発見され、さらに品種改良と発酵培養技術の改良によって収量が改善された。 生合成ペニシリン 天然ペニシリンを産生するアオカビの培養液に別の原料を人為的に添加し、生合成的特性を利用して誘導体化した一群のペニシリンを生合成ペニシリンと呼ぶ。すなわち、培地中に目的のカルボン酸を大量に存在させ、他の栄養素や培養条件を調整することで積極的に同カルボン酸を取り込ませて目的のペニシリン誘導体を醗酵させるのである。この方法で開発されたペニシリンとしてはフェノキシメチルペニシリン(ペニシリン V)、ペニシリン N、ペニシリン Oなどが挙げられる。 半合成ペニシリン 天然ペニシリンや生合成ペニシリンを原料にして、化学的な修飾を施して開発されたもの。その多くは、醗酵で得られたペニシリンを酵素的に6位側鎖を切断し、6-アミノペニシラン酸とし、続いて化学的に新しい6位側鎖を導入する方法で誘導体化された。この方法は生合成ペニシリンに比べ誘導体化する際の制約が少ない為、多種多様のペニシリン誘導体を合成することが可能になった。 合成ペニシリン ペニシリン系化合物が相次いで開発されていた1940年代から1950年代前半には、その構造の複雑さからペニシリンを化学的に全合成することは不可能だと考えられていたが、1957年、ジョン・シーハンがペニシリンVの全合成に成功した。これによって化学合成法が確立されると、それまで培養を必須としていたペニシリンの生産技術が変革し、従来の天然、生合成ペニシリンが化学合成されるようになると共に、新たに化学合成による新しいペニシリン系化合物が開発された。 ベンジルペニシリン ペニシリン N ペニシリン O ペニシリン V メチシリン アンピシリン オキサシリン クロキサシリン ジクロキサシリン カルベニシリン タランピシリン バカンピシリン チカルシリン アゾシリン メズロシリン ピペラシリン アモキシシリン スルタミシリン
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